女性がかかるがんの中で、最も多い乳がん。乳がんの初期症状として有名なものに、胸のしこりがあります。
胸のしこりを見つけた方の多くは、「がんではないか」と心配するのではないでしょうか。とはいえ、胸のしこりと乳がんの関連性についてよくわからないという方も多いと思います。胸にしこりが出現した場合、必ずがんを疑うべきなのでしょうか。
この記事では胸のしこりと乳がんの関係や、乳がんの早期発見のために大切なことなどをお伝えします。
目次
乳がんは女性が最もかかりやすいがん
乳がんは女性が最もかかりやすいがんとして有名で、年間で約9万7,000人の女性が乳がんと診断されています(2019年)(※1)。そして、約1万6,000人が乳がんで命を落としています(2022年)(※1)。
乳がんの発症リスクは30代後半から高くなっていき、ピークは40代後半と60代後半です(※2)。 加えて、乳がんの患者数は年々増加傾向にあり(※3) 、生涯のうち乳がんに罹患する女性は9人に1人と言われています(※1) 。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンが乳がんの発生と深く関連していることがわかっており、エストロゲンが過剰に多い状態が長く続くことが乳がんの発生原因の一つと考えられています。
エストロゲンが多くなる時期は、月経の終わりごろから排卵前にかけての時期です。そのため初めての月経が早かったり、閉経が遅かったりなど、生涯に経験する月経の回数が多い方は、エストロゲンが多い期間が長くなり、乳がんの発症リスクも高くなるとも言われています。また、飲酒や運動不足などの生活習慣も乳がんのリスクを高める要因の一つとされています。
胸のしこりと乳がんの関係性
自分の乳房にしこりがあると「がんかもしれない」と多くの方が不安になってしまうでしょう。しかし、必ずしも「胸のしこり=乳がん」ではありません。
むしろ、胸のしこりが乳がんであることは比較的少なく、80~90%は良性 と言われています。しこりが悪性の場合が乳がんです。それでは、しこりがどのような状態のとき、がんが疑われるのでしょうか。
しこりによる痛み
胸のしこりの中で乳がん(初期)の可能性が高いのは、触っても痛みのないしこりです。
乳がんでも痛みを伴うケースもなくはありませんが、初期段階の乳がんで痛みを伴うのは極めてまれです。痛みを伴う場合、乳腺症や乳腺炎の可能性が高くなります。
しこりの感触
良性のしこりは比較的弾力があり、触るとコロコロと動く傾向です。一方、悪性の場合、炎症により周囲の組織と絡みつくため、触っても動きづらいのが特徴です。
乳がんは良性のしこりと比べてかなり硬くなります。
しこりの場所
乳がんは乳腺がある場所であればどこでも発生しますが、特に多いのが乳頭を中心とした上部の外側です。乳がん全体の半数がこの部位にできます。
この部位に硬く、動きづらい、痛みを伴わないしこりを発見した場合、できるだけ早く専門医を受診しましょう。
乳がんとは違う病気の懸念
前述のように、胸にできるしこりの80~90%は良性です。胸にしこりができた場合、「乳がんではないか」と心配になる気持ちもわかりますが、ほかの病気が原因の可能性があることも頭に入れておきましょう。
線維腺腫
乳腺線維腺腫とは、乳腺にできる良性のしこりです。10代後半~40代によく見られる病気で、しこりは境界がはっきりしていて、よく動くのが特徴です(※4) 。通常は2~3cm程度の大きさとなっています(※5)。
きちんと細胞診を行った結果、乳腺線維腺腫と診断され、しこりが3cm以下の場合は治療の必要はありません。年齢とともにしこりが自然に消失することも少なくありません。
ただし、しこりが3cm以上と大きい場合や、40歳以上の場合は、線維腺腫とよく似た葉状腫瘍 の可能性があります。
葉状腫瘍は再発率が高く、再発を繰り返すと悪性化するリスクがあるため、病変は完全切除が基本的に必要です。葉状腫瘍の可能性がある場合は専門医を受診しましょう。
乳腺症
しこりが見つかって精密検査をした結果、診断として最も多いのが乳腺症です。
乳腺症とは、乳腺にできる良性の疾患の総称で、女性ホルモンのバランスが崩れることによって起きます。しこりができるケースもあれば、乳頭から分泌物が見られる場合もあります。月経前に症状が強くなり、月経が終わると症状が治まるのが特徴です。
治療の必要はありませんが、痛みが強い場合は医療機関で鎮痛剤などを処方してもらいましょう。
乳腺炎
乳腺炎とは出産後、母乳が乳腺に滞留することによって生じる乳腺の炎症です。乳首の赤い腫れ、高熱や痛みを伴うこともあります。
抗菌薬を投与することで炎症を抑えるほか、母乳の滞りを除去するマッサージ、乳腺にたまった膿の排出などの治療が行われます。
乳がんの早期発見のために
乳がんを含む、全てのがんを100%防止することはできません。しかし、がんから命を守ることは可能です。
乳がんから命を守るために最も大切なことは、早期発見・早期治療です。初期段階で発見し、速やかに治療を進められれば予後は良くなり、治療も容易になります。
ここでは、乳がんの早期発見するための方法を紹介します。
セルフチェック
乳がんはほかのがんと異なり、体の表層にできるがんのため、セルフチェックで見つけることができる数少ないがんです。乳がんは初期症状がほとんどないことが多いため、症状だけでの早期発見は難しいでしょう。そのため、セルフチェックの重要性がより高まります。
セルフチェックの方法は、大きく視診と触診の2つあります。
視診によるセルフチェック
視診する場合は、鏡に向かって両手を高く上げ、乳房をあらゆる角度から観察してください。
乳房にくぼみやひきつった場所がないか、乳首がへこんでいないか、湿疹やかぶれのようなただれはないかなどがチェックポイントです。
触診によるセルフチェック
触診する場合は、3~4本の指をそろえ、指の腹で乳房全体をゆっくり触ってください。
乳房にしこりがないか、脇の下にしこりはないか、乳首をつまんだときに異常な分泌物が出ないかなどを確認していきます。
日本対がん協会 では月に一度のセルフチェックを推奨しています。
乳がん検診
乳がんを早期発見するには、定期的にセルフチェックを行うのと合わせて乳がん検診を受けることも重要です。乳がん検診は国が受診を推奨するがん検診の一つで、ほとんどの自治体では検診費用の大部分を公費で負担しています。
乳がんの罹患リスクが上昇する40歳以降は2年に1回は乳がん検診を受けることをおすすめします。
遺伝子検査
乳がんの中には、遺伝性のものもあります。遺伝性の乳がんの早期発見に有効なのが遺伝子検査です。現在、乳がんにかかっているかはもちろん、将来的に乳がんにかかりやすいかどうかも検査でわかる可能性があります。
定期的なセルフチェックと検診で乳がんの早期発見を
乳がんは女性が最もかかりやすいがんです。年間では約9万7,000人もの女性が乳がんと診断され、そのうち約1万6,000人の人が乳がんによって命を落としています。乳がんに限ったことではありませんが、がんから命を守るために一番重要なのは早期発見です。多くのがんは、早期に発見しすぐに治療を開始すれば治ります。また乳がんはほかのがんと異なり、セルフチェックでも発見できるがんです。定期的にセルフチェックを行うのと同時に、40歳以上の方は2年に1回は検診 を受けて、乳がんの早期発見につなげましょう。
(※1)国立がん研究センター|がん統計
(※2)国立がん研究センター|グラフデータベース(※罹患全国、年齢別階級 率、乳房、乳房(上皮内がん含む)を選択)
(※3)国立がん研究センター|グラフデータベース(※国立がん研究センター|グラフデータベース(※罹患全国、年次推移、乳房、乳房(上皮内がん含む)を選択)
(※4)国立がん研究センター|乳がんについて
(※5)横須賀市立市民病院|線維腺腫
参照日:2024年3月