HPV(子宮頸がん予防)ワクチンとは?メリットや副反応を解説

HPV(子宮頸がん予防)ワクチンとは?メリットや副反応を解説

子宮頸がんを起こしやすいタイプのウイルスであるHPV16型・18型の感染を予防できるHPVワクチン。

ワクチンを接種することによって、子宮頸がんの原因の60~70%を予防できます。

海外では当たり前のように接種されているワクチンですが、日本は海外と比べると接種率は低いのが実情です。なぜ、日本ではHPVワクチンの接種率が低いのでしょうか。HPVワクチンのメリットと気になる副反応を併せてお伝えします。

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目次

HPVワクチンとは

まずは、HPVワクチンとはどういったワクチンなのかについて見ていきましょう。加えて、日本でのHPVワクチンの過去の接種状況と、直近の接種状況もお伝えします。

HPVワクチンと子宮頸がんの関係

子宮頸がんとは、子宮下部の管上になっている腟につながる「子宮頸」にできるがんのことです。ほかのがんと異なり、子宮頸がんの原因は明らかになっています。子宮頸がんの原因の大半は、ヒトパピローマウイルス(HPV)であることが分かっています。このウイルスは性的接触により感染すると言われています。

ヒトパピローマウイルスは、男性にも女性にも感染するもので、女性の過半数は性的接触により一生に一度は感染機会があると言われるほど、ごくありふれたウイルスです。ただ、大半の女性は感染機会があったとしても、自然に体外に排出されます。しかし、10%ほどの確率で感染が持続し、そのうちの一部の人が子宮頸がんに罹患してしまいます。

その子宮頸がんの原因の60~70%を予防できるのが、HPVワクチンです。WHOはHPVワクチンの安全性と有効性を確認し、性交渉を経験する前の10代前半の女性に接種することを推奨しています。

日本での接種状況は?

結論から言えば、日本のHPVワクチンの接種率は、世界各国と比べて非常に低いのが現状です。

接種率の高い国として、コロンビア(87%)、マレーシア(87%)、イギリス(86%)、デンマーク(82%)、スウェーデン(80%)などが挙げられます。接種率が70%を超える国々も少なくない中、日本はわずか1.9%にしかすぎません。世界最低レベルの接種率と言っても良いでしょう。

この原因の一つとして考えられるのが、一部のマスコミの報道です。HPVワクチンの定期接種化がスタートした2013年に、副反応が疑われる例がセンセーショナルに報じられたため、強い副反応が起きやすいワクチンというイメージが国民の中に定着してしまいました。

厚生労働省は「積極的勧奨」を再開

マスコミのバッシングは、HPVワクチンの定期接種化を進めた厚生労働省に向かっていました。その影響もあり、厚生労働省はHPVワクチンと接種後の副反応の詳細な因果関係を調べる前に、HPVワクチンの「積極的勧奨」を取り下げてしまいました。

なお、HPVワクチンの有効性や安全性についてはその後、「名古屋スタディ」と呼ばれる名古屋市立大学医学部の鈴木貞夫教授が監修した研究によって立証されています。

この研究結果や接種を望む世論の高まりを受けて、厚生労働省は2022年4月から、HPVワクチンの「積極的勧奨」を9年ぶりに再開しています。厚生労働省は、小学校6年~高校1年(12~16歳)の女性に対して、HPVワクチンの接種を呼びかけているほか、接種機会を逃した人への「キャッチアップ接種」も実施しています。

HPVワクチンを受けるメリット

HPVワクチンは、子宮頸がんの原因の60%~70%を予防できるとお伝えしましたが、ここでHPVワクチンを接種するメリットを改めて詳しく見ていきましょう。

子宮頸がんの原因ウイルスの感染を防ぐ

HPVワクチンを接種することの最も大きなメリットは、子宮頸がんの原因ウイルスの感染を防げるという点でしょう。

ほかのがんの原因を完全に特定することは困難ですが、子宮頸がんは原因の95%がヒトパピローマウイルス(HPV)であることが分かっています。

子宮頸がんはHPVの感染が続くことによって、細胞が突然変異して、がん化するものです。ワクチン接種によって誘導された免疫で、ウイルスに感染すること自体を予防できます。結果的に、子宮頸がんのリスクを大きく低減できます。

前がん病変のリスク低減

HPVワクチンの効果は、子宮頸がんのリスクを低下するだけにとどまりません。

HPVワクチンの接種により、子宮頸がんの手前の「前がん病変」を防止できることも立証されています。さらに、子宮頸がんを起こしやすいタイプのウイルスであるHPV16型・18型は、外陰がんや腟がんの主要な原因にもなっていることが明らかになっています。こういったがんの予防効果が期待できる点もHPVワクチン接種のメリットでしょう。

子宮頸がんによる死亡リスク低減

HPVワクチンの接種により、子宮頸がんのリスクを低減できるということは、将来的に子宮頸がんでの死亡リスクも低減できるということです。「日本は医療先進国」というイメージを持っている方も多いでしょう。そういった方にとっては意外かもしれませんが、日本は世界と比べると、子宮頸がんの死亡数が多いことで知られています。

2021年の発表では、日本の子宮頸がん発生率は87位という結果でした。調査された176カ国の中では中位に位置しますが、G7(日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダ)の中では最下位です。さらに、過去10年の罹患率増は世界ワーストで、日本では年間で1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が亡くなっています。この原因の一つとして考えられるのが、HPVワクチンの接種率の低さです。

HPVワクチンに副反応はある?

ワクチンと聞くと、「副反応が心配」という方も少なくないでしょう。前述したように、HPVワクチンは、過去に副反応がセンセーショナルに報道された経緯もあったため、特に心配な方も多いと思います。ここでは、HPVワクチンの副反応について見ていきましょう。

最も多い副反応は痛みや腫れ

HPVワクチンの副反応は、どの種類のワクチンなのかによって多少変わります。ただ、最も多い副反応は全てのワクチンに共通していて、注射部位の痛みや腫れです。「サーバリックス®」では、注射部位の痛みが現れる確率は60~87%、「ガーダシル®」では67~85%です。注射部位が腫れる確率は、「サーバリックス®」で21~34%、「ガーダシル®」は26~29%です。

人によっては発熱するケースも

1~10%未満と、比較的少ない例ですが、全身に症状が出現するケースもあります。「サーバリックス®」も「ガーダシル®」も、注射後の発熱や蕁麻疹、めまい、頭痛が出現する可能性が、1~10%未満と発表しています。

1%未満の症状は、注射部位の知覚異常、しびれ感、全身の脱力、手足の痛み、腹痛などです。厚生労働省によると、注射による痛みや恐怖、興奮などをきっかけとして失神した例も報告されています。

非常にまれにある重症例

何十万件に1回と非常にまれですが、重症例も報告されています。

厚生労働省によると、呼吸困難や蕁麻疹などの重いアレルギーのアナフィラキシーが起こる確率は約96万件に1回。

末梢神経の病気のギランバレー症候群は約430万件に1回、脳などの神経の病気である急性散在性脳髄膜炎は約430万件に1回、慢性の痛みを生ずる原因不明の病気の複合性局所疼痛症候群は約860万件に1回、それぞれ報告されています。

【まとめ】HPV(子宮頸がん予防)ワクチンについて

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子宮頸がんの原因の60~70%を予防できるHPVワクチン。一時、日本では副反応が大きく報じられたため、厚生労働省が積極的勧奨を控えていた時期もありました。そのこともあり、先進国で唯一、日本は子宮頸がんの罹患者数も死亡者数も増え続けています。

しかし、安全性と有効性が改めて立証されたこともあり、今年4月から厚生労働省はHPVワクチンの積極的勧奨を再開しています。接種機会を逃した人への「キャッチアップ接種」も行っていますので、この機会に、将来のリスクを低減するためにHPVワクチンの接種を考えてみてはいかがでしょうか。

一般社団法人 HPVについての情報を広く発信する会|みんパピ!「HPVワクチンの副反応はどれくらいの確率で起こるのか解説します」
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会|こどもとおとなのワクチンサイト「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」
公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮頸がん予防についての正しい理解のために」
公益社団法人 日本産科婦人科学会「子宮頸がん」
MSD製薬|子宮頸がん情報サイト もっと守ろう.jp「世界のHPVワクチン接種状況」
公益社団法人 愛知県医師会「再び動き出した HPV ワクチンと名古屋スタディ」
自民党「HPVワクチン積極的な勧奨が再開」
公益財団法人 ジョイセフ「WHOが排除を宣言した子宮頸がん 世界の高罹患率10カ国と日本のデータ」
CareNet「日本の子宮頸がん、過去10年の罹患率増は世界ワースト」
厚生労働省「HPVワクチンに関するQ&A」

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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