肛門がんはどんながん?治療法と再発・転移の可能性も解説

肛門がんはどんながん?治療法と再発・転移の可能性も解説

肛門(こうもん)がんとは、お尻の出口から直腸につながる肛門管や肛門周辺にできるがんの総称です。日本では年間で約1,100人の方が肛門がんに罹患(りかん)しています(2017年の調査)(※1)。悪性腫瘍全体の0.1%と極めてまれながんであるため(※2)、肛門がんはどのような症状でどのような治療をしているかなどのイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では肛門がんがどのような種類のがんで、どのような症状が出現するかなどを詳しく解説します。肛門がんの治療法や再発・転移の可能性もお伝えしますので、肛門がんと診断された方や気になる症状が見られた方はぜひ参考にしてください。

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目次

肛門がんってどんな病気?

胃がんや大腸がんと比べると、肛門がんはよく耳にするがんではありません。

そのため、そもそも肛門がんがどのような病気なのかわからない方も多いのではないでしょうか。

そこでまずは肛門がんという病気がどのような病気なのかを見ていきましょう。

肛門がんの特徴的な症状

肛門がんの特徴的な症状として挙げられるのは、肛門の痛み・かゆみ、肛門からの出血、血便、排便時の違和感、肛門部の腫れなどです。ただし、約20%の方が無症状です(※2)

肛門がんの進行ステージ

肛門がんは、他のがんと同じように、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、他臓器転移の有無によって、0期から4期までの5つのステージに分かれます(※2)。進行状態の詳細については以下の通りです。

0期

肛門の粘膜に異常が見られる状態であり、扁平(へんぺい)上皮内病変(HSIL)とも呼ばれている(※3)

1期

腫瘍の大きさが2センチ以下の肛門がんを指す(※2)

2期

2A期と2B期に分けられ、2A期は腫瘍が2センチより大きく、5センチ以下の肛門がんであり、腫瘍の大きさが5センチを超えると2B期に分類される(※2)

3期

3A期、3B期、3C期の3つの段階がある。3A期は腫瘍の大きさが5センチ以下、肛門あるいは鼠径(そけい)部付近のリンパ節に転移、3B期は腫瘍の大きさを問わず、膣(ちつ)、尿道、膀胱(ぼうこう)などの臓器に広がっている状態(※2)、3C期は腫瘍が5センチを超え、もしくは、鼠径部、直腸周り、骨盤内のリンパ節などといった肛門の近くのリンパ節にも転移(※3)

4期

がんがリンパ節あるいは、肺や肝臓といった別の臓器に広がっている状態(※2)

肛門がんの生存率

肛門がん全体での5年生存率は49.8%という報告があります(※4)

大腸がん全体の5年生存率は71.4%であるため、大腸がんと比較すると肛門がんの予後は悪いと言えるでしょう(※5)。なお、肛門がんと一口に言っても、がんの組織型(種類)によって5年生存率は大きく異なります。5年生存率が高い順に並べると、粘液がん(67%)、腺がん(52%)、扁平上皮がん(42%)という結果でした(※6)

肛門がんの治療法

がんの治療方法は、手術療法、放射線療法、化学療法療法の3種類がありますが、肛門がんでも3種類のいずれか、あるいは組み合わせによる治療が行われます。

中でも、ステージ1から3期の肛門がんに対しては、化学療法と放射線療法を組み合わせが世界的な標準治療です(※2)

ここでは、肛門がんにおける手術療法、放射線療法、化学療法の詳細を見ていきましょう。

手術療法

がんを外科的手術によって切除する治療方法です。

がん細胞を取り切れる点がメリットとして挙げられます。ただし、肛門を切り取るため、進行してしまった肛門がんや肛門がんができた場所によっては、人工肛門にせざるを得なくなる可能性があります。

放射線療法

放射線を病変部に照射して、がん細胞を死滅させる治療方法であり、手術療法と比較したときの最大のメリットは、肛門を温存できる点です。

患者さんの生活の質を落とさず、がんの根治が期待できます。

化学療法

抗がん剤を投与して、がん細胞を死滅させる治療法が化学療法です。

肛門がんでは、他の多くのがんと同様に化学療法と放射線療法を組み合わせることで、それぞれ単体での治療よりも高い効果が出ることがわかっています。

肛門がんにおける再発と転移の危険性

治療によってがんを克服した患者さんが次に気になるのは、再発と転移の可能性があるかどうかでしょう。転移しやすいがんもあれば、転移しづらいがんもありますが、肛門がんはどうなのでしょうか。

再発のリスク

再発とは、手術で取り切れなかったがんが、増殖したり、いったん縮小したがんが再び大きくなったりするなど、別の場所に同じがんが現れることを指します。

肛門がんの再発率を調べた研究『肛門癌の再発』(大見良裕、土屋 周二ほか、日本大腸肛門病学会雑誌/34巻(1981)5号)によると、肛門がんの再発は18例中4例で、再発時期は術後7カ月、11カ月、1年4カ月、2年1カ月でした。肛門管にがんができる肛門部がんの再発は、18例中10例で、再発時期の平均は術後1年4カ月でした(※7)

リンパ節への転移

リンパ節とは、体中に流れているリンパ液の老廃物をろ過するフィルターのような役割を果たす免疫器官の一つです。

がん細胞が血液に侵入するのを防いでいるのがリンパ節ですが、肛門がんが進行すると、リンパ節でがん細胞を全滅させることができなくなり、がん細胞が近くのリンパ節に転移します。リンパ節に転移したがん細胞は、リンパ管の中を流れて、体内のリンパ節で増殖します。この状態がリンパ節転移です。肛門がんのリンパ節転移の確率は47%、鼠径(そけい)部リンパ節の転移率は23%と報告されています。

がん遺伝子パネル検査を受ける

残念ながら、肛門がんの再発や転移をゼロにする方法は現在のところ確立されていません。再発や転移の可能性をなくすことはできませんが、早期発見・早期治療ができれば、再発や転移から命を守れる可能性は高まります。自分の肛門がんが、転移しやすいかどうかを判断するために有効なのはがん遺伝子パネル検査です。

がん遺伝子パネル検査とは、がん細胞の特徴を知ることができる検査です。患者さんにより最適な治療が可能になると期待されています。また、がんは加齢や生活習慣、環境要因などさまざまなことが原因として発生しますが、中には生まれつき持っている遺伝子が原因としたがんがあります。このようながんを「遺伝性腫瘍」と言いますが、がん遺伝子パネル検査を行うことによって、遺伝性腫瘍の可能性が判明することも少なくありません。

現時点、遺伝子専門医がいる病院は全国でも限られていますが、遺伝カウンセリングが必要であれば、まずは病院に相談という形で遺伝子パネル検査について病院に相談してみても良いかもしれません。

肛門がんの症状や治療法、再発転移の可能性について【まとめ】

肛門がんは、肛門管や肛門周辺にできるがんの総称で、日本では年間で約1,100人の方が罹患しています(※1)。患者さんが多くないだけに、「肛門にもがんができるの?」と思う方もいるかもしれませんが、年々増加傾向にあります。また、肛門がんの5年生存率は49.8%と5年生存率が70%を超える大腸がんと比較すると、予後が決していいがんとは言えません(※4)

肛門がんに限ったことではありませんが、がんから命を守るために最も有効なのは、早期発見と早期治療です。万が一、肛門がんに罹患したとしても早期に発見し、すぐに治療につなげられればそれだけ命を守れる可能性は高まります。肛門の痛みや排便時の違和感、血便など気になる症状が出た場合にはできるだけ早く専門医を受診しましょう。

(※1)国立がん研究センター がん情報サービス|肛門がん
(※2)国立がん研究センター中央病院 (東京都 築地)|肛門がん(こうもんがん)/ 肛門管扁平上皮がん(こうもんかんへんぺいじょうひがん)
(※3)Canadian Cancer Society|Stages of anal cancer
(※4)日本消化器外科学会|雑誌第22巻第10号 肛門管癌 の臨床病理学的検討
(※5)国立がん研究センター|大腸がん
(※6)J-STAGE|肛門管癌の臨床病理学的検討
(※7)J-STAGE|肛門癌の再発
参照日:2023年11月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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