がん治療後に起こる「リンパ浮腫」とは?対策や治療法を詳しく解説

がん治療後に起こる「リンパ浮腫」とは?対策や治療法を詳しく解説

「リンパ浮腫」とは、がんの手術後や放射線治療後などによくみられる症状のひとつです。

リンパ管の流れが悪くなることが原因で引き起こされ、腕や脚のむくみを引き起こします。軽い症状と思われがちですが、リンパ浮腫は進行すると非常に強いむくみを引き起こすだけでなく、皮膚のバリア機能を低下させることで蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの重篤な感染症の原因となることも少なくありません。

そこで今回は、がんの治療後に起こりうるリンパ浮腫について、注意すべき症状や対策方法などについて詳しく解説します。

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目次

リンパ浮腫ってどんな症状?

「リンパ浮腫」は、がんの手術や放射線治療後に起こりえます。まずは、どのような症状が出るのか、リンパ浮腫の発症原因も合わせて詳しくみてみましょう。

どうしてリンパ浮腫を発症するの?

リンパ浮腫は、本来であればリンパ管に回収されるはずのリンパ液が組織のなかに留まる状態となることで生じる症状です。

私たちの身体は、全身に血液が巡っています。血液は、心臓から大動脈を経て全身に送り出されていますが、全身を巡った血液は静脈を通って再び心臓に戻るという循環を繰り返しています。

動脈と静脈のつなぎ目には毛細血管と呼ばれる細い血管がありますが、血液の一部のタンパク質や水分は毛細血管を通るときに、血管の外の組織にしみ出す仕組みがあります。このような液体を「リンパ液」と呼び、リンパ管に回収されて心臓に戻るのが通常です。

しかし、リンパ管の流れが悪くなったり、詰まったりするとリンパ液が正常に回収されなくなり、血管外の組織に溜まるようになります。こうして引き起こされるのがリンパ浮腫です。

リンパ浮腫は、様々な原因によって引き起こされますが、日本では9割以上ががんの手術でリンパ節を切除したり、放射線治療によってリンパ管にダメージが及んだりすることが原因であると考えられています。

どんな症状が出るの?

リンパ浮腫は、リンパ管へ回収されるはずのリンパ液が組織に溜まることによって引き起こされるものです。そのため、主な症状は「むくみ」であり、手術でリンパ節を切除した部分や放射線照射をした部分に近い腕や脚に生じます。むくみの影響で、腕や脚が太くなると重苦しさやだるさを感じることも多いとされています。

リンパ浮腫は放っておくとリンパ管のダメージが進行していき、症状が悪化していくのも特徴のひとつです。早期段階では、むくみがある腕や脚を心臓よりも高い位置に挙げた状態を続けると症状は改善しますが、進行するとこのような対処法では改善しなくなります。

また、むくみが慢性化することで組織が変化して硬くなり、脂肪が沈着しやすくなるなど皮膚にも様々な変化が生じます。さらに皮膚が乾燥しやすくなることでバリア機能が低下し、細菌感染を起こしやすくなることも。なかには蜂窩織炎など重度な感染症を引き起こすケースもあります。

どんな治療をした人がリンパ浮腫になりやすい?

リンパ浮腫の原因は多岐にわたりますが、日本では9割以上ががん治療後に発症するとされています。上述したように、手術でリンパ節を摘出した方や放射線治療をした方は、リンパ浮腫を発症するリスクがあります。なお、リンパ浮腫が現れる時期には個人差があり、治療が終了して10年以上経過してから発症することもあるため、注意が必要です。

リンパ浮腫を予防するには?

がんの手術でリンパ節の摘出をした方や放射線治療をした方は、誰でもリンパ浮腫を起こす可能性があります。リンパ浮腫は治療が難しく、日常生活に支障を来すことも少なくありません。発症のリスクがある方は、日常生活のなかで次のようなことに注意しましょう。

適度な運動を!でも身体の負担になることは避けよう

リンパ液の流れを促すには、運動によって筋肉や関節を動かすことが大切です。がん治療後は体力が落ちている方も多いですが、無理のない範囲で身体を動かすようにしましょう。ウォーキングや水泳、サイクリングなど軽度な有酸素運動がおすすめです。

ただし、無理な運動は禁物です。負荷がかかりすぎる運動は、かえってリンパ浮腫のリスクを高める可能性があるので注意してください。

締め付けが強いアクセサリーや衣類はNG!

サイズが合っていない指輪などのアクセサリーや、身体の一部を過度に締め付けるような衣類はリンパ液の流れを滞らせ、リンパ管に負担をかける原因になります。リンパ浮腫の引き金となりますので控えるようにしましょう。

また、普段つけているアクセサリーや衣類が急にきつくなったと感じる場合は、リンパ浮腫を発症している可能性があります。軽く考えず、早めに医師の診察を受けることが大切です。

体重管理を徹底しよう!

肥満は沈着した脂肪によってリンパ管を圧迫してリンパ液の流れを滞らせます。そのため、リンパ浮腫のリスクを上昇させる原因のひとつであると考えられています。リンパ浮腫を予防するには、日頃から食事や運動などの生活習慣に注意しながら適正体重をキープすることを目指してください。

リンパ浮腫はどうやって治療する?

最後に、リンパ浮腫を発症した場合はどのような治療が必要になるのかみてみましょう。

マッサージ

リンパ液の流れを促すには、リンパドレナージなどのマッサージがよいとされています。マッサージはセラピストでなくてもご自身で行うことができますので、指導を受けたうえで実施してみるのもよいでしょう。

ただしリンパ浮腫は、進行すると皮膚のバリア機能が低下して感染症になりやすくなります。マッサージを行う場合は、皮膚に傷をつけないよう注意が必要です。

圧迫療法

むくみがある部位に弾性スリーブや弾性ストッキングを着用して圧迫する治療が行われることがあります。圧迫することで滞ったリンパの流れを促す効果とリンパ液が溜まるのを防ぐ効果が期待できます。

また、適度な圧迫をした状態で運動を行うとリンパ液の流れがさらに改善することがあります。過度な負担はよくありませんが、医師や理学療法士などの指導がある場合は注意をよく聞いたうえで行ってみましょう。

スキンケア

リンパ浮腫を発症すると、皮膚が乾燥しやすくなることなどが原因でバリア機能の低下が引き起こされます。感染症を起こしやすくなり、それが原因でさらにリンパ管へダメージが加わり、症状が悪化することも少なくありません。リンパ浮腫と診断された場合は、皮膚を清潔に保ち、保湿を徹底したスキンケアを行いましょう。

また、虫刺されややけどなどがなかなか治らないときは、医師の診察を受けて適切な治療を行うことも大切です。

手術

保存的な治療を行っても症状が改善しない場合は、手術が必要になることがあります。具体的には、詰まって流れが悪くなったリンパ管よりも上流の部位で静脈とつなぎ合わせることで新たなリンパ液の流れをつくる「リンパ管静脈吻合術」が多く行われています。

また、さらに重症なケースではほかの部位からダメージがないリンパ管やリンパ節を摘出して患部に移植する手術を行うこともあります。

手術を行うと、理論的にはリンパ液の流れが改善することになりますが、重症なリンパ浮腫は手術を行っても十分な効果が得られないこともあり、引き続きマッサージや圧迫療法などを行っていくことが必要です。

【まとめ】リンパ浮腫について

リンパ浮腫は、がんの手術や放射線治療後に発症しやすい症状のひとつです。手術によるリンパ節の切除や放射線によるリンパ管へのダメージによってリンパ液の流れが滞ることが原因で発症します。

がん治療によるリンパ浮腫の主な症状は、治療をした箇所に近い腕や脚のむくみ、重苦しさ、だるさなどです。軽く思われがちな症状ではありますが、リンパ浮腫は進行すると皮膚のバリア機能が低下して感染症になりやすくなり、蜂窩織炎などの重篤な合併症を引き起こすことも少なくありません。

また、腕や脚の組織が硬くなり、運動機能に影響が出るなど日常生活に支障を来すこともあります。

がんの手術でリンパ節を摘出した方や放射線治療をした方は、今回ご紹介したような予防対策を行いましょう。リンパ浮腫は、がんの治療後10年以上経過してから発症することもあります。万が一リンパ浮腫が疑われる症状が現れたときは、速やかに医師に相談してください。

がん情報サービス「リンパ浮腫」
https://ganjoho.jp/public/support/condition/lymphedema/index.html#:~:text=リンパ浮腫とは、が,影響することがあります。
国立がん研究センター中央病院「リンパ浮腫についての基礎知識」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/power/010/030/index.html
日本形成外科学会「リンパ浮腫」
https://jsprs.or.jp/general/disease/sonota/rinpafushu/
日本癌治療学会「リンパ浮腫 診療ガイドライン」
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/31.html
日本リンパ浮腫学会「リンパ浮腫の出来かた」
https://www.js-lymphedema.org/?page_id=679
参照日:2022年6月

成田 亜希子

医師|内科医・日本内科学会・日本感染症学会・日本公衆衛生学会・日本健康教育学会

2011年医師免許取得。一般内科医として幅広い疾患の患者様の診療を行っている。行政機関に勤務経験もあり、がん対策にも携わってきた。

プロフィール詳細

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