「ケミカルサージェリー」は薬剤と医療機器を使って、がんをピンポイントで攻撃出来る画期的な治療として注目を浴びてきています。
手術せずに根治的な治療が出来、かつ体に優しいので、今後中心的な治療になっていくことが期待されています。
代表的なものとして「PDT(光線力学的療法)」や「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」、小林先生が開発したオバマ大統領の演説で有名になった「光免疫療法」などがあります。
どういった治療か簡単に説明すると薬をがん細胞に届け、その薬と反応するレーザーを当てればがん細胞が死滅するという治療方法です。
理論的には薬ががん細胞すべてに届き、正常細胞に全く届かない状態で、レーザーを体全体に届かせることが出来たら、ステージに関わらずすべてのがんが完全完治する夢のような治療方法ということになります。
ただ、現実はまだまだ課題もたくさんある治療方法になっています。
問題点は大きく分けて2つで「DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)」と使うレーザーの種類です。
目次
DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)の問題
まずは、すべての薬がすべてのがん細胞に届くかどうかという話になります。
「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」では、ホウ素製剤をがん細胞に送ります。
薬とレーザーが反応してがんを死滅させる訳ですから、普通細胞に薬が如何に入らないようにするかというのも大きな問題です。
ホウ素製剤をナノミセル(すごく小さくしてミセル化)にしてがん細胞だけにホウ素製剤が取り込まれやすい様にしています。後述する「光免疫療法」で使う抗体を使った方法と違い、幅広い患者様に使うことが出来、正常細胞に与えるダメージも少ないことが考えられるので優れていると思います。
「PDT(光線力学的療法)」や「光免疫治療」は、光増感剤の薬を使います。
「PDT(光線力学的療法)」は「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」と同様にナノミセルにしてがん細胞に薬を効果的に届ける仕組みです。
「光免疫治療」は、たんぱく質をターゲットとして、目的とするたんぱく質に届く薬を使っています。
よって、遺伝子検査でターゲットとするたんぱく質の突然変異がないと治療そのものが出来ないということになります。
現状は、肺がんのイレッサやタグリッソやタルセバなどでターゲットにしているEGFRというたんぱく質をターゲットにしているので、EGFR陽性だと使えるけど、EGFR陰性だとそもそも薬ががんに届かないという話になります。
仮にEGFRが陽性だったとした場合においても、ご自身のがん細胞すべてがEGFR陽性である可能性は低いのでがんが小さくなったとしてもがんが残るという懸念もあります。
その上、EGFRというたんぱく質ががん細胞だけにあるのであれば大丈夫ですが、通常は普通細胞にも含まれています。正常細胞がダメージを受ける可能性も否定出来ません。
それでも優れた治療方法には変わりないですが、同じ光増感剤を使うPDTがすべてのがん細胞に届ける薬剤を使っているのに比べて、「光免疫治療」はたんぱく質をターゲットにしている分、少し劣るように感じますが、今後の展開に期待したいと思います。
レーザーの種類
薬が患者様のがんすべてに届いたと仮定したとして、その薬にレーザーが当たらないとがんが死滅しません。
ポイントは2つです。レーザーが薬に当たるかどうかとレーザーが届くかどうかです。
「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」は熱中性子線というレーザー(放射線)を使います。
体表から7センチ近くまでレーザーが届くとのことなので、体の両側から照射することを考えると14センチなので、ほとんどの臓器に使えると思います。
しかし、がんは細胞なので中性子というレーザーから見たら、すごく大きな物質です。
がん細胞という箱の中をホウ素製剤でなるべく高い濃度で満たして、そこにすごく細い中性子という糸みたいなレーザーを束にして「どれか当たれ!」と照射します。ホウ素製剤と中性子が当たれば核反応でがん細胞を破壊します。核反応で発生するα粒子は10㎛と細胞1個分程度なので、正常細胞に与えるダメージは極めて少ない優れた治療になります。
ただ、1センチのがん細胞でも細胞が10億個ぐらい存在します。すべてのがん細胞にすべての熱中性子線が当たるかどうかは分からないので、がんが残る可能性がある程度あると思います。
「PDT(光線力学的療法)」は光増感剤に反応するレーザーであれば何でも良いのですが、現状は630nmのエキシマダイレーザーという光源を使っています。
体表から1センチの部分は100%近く届くみたいですが、2センチぐらいになってくると半分近くしか届いていません。
なので、保険適用も食道がん(放射線後の局所再発のみ)や肺がんの気管支近くの小さながんなど限られた場所にしか使えていません。ただ、レーザーが届く部分については100%近くがんを死滅させられるので使い方次第ではすごく優れた治療だと思います。
「光免疫治療」は、近赤外線を使います。
赤外線は体内に入るとすぐに熱に変わるので、ほとんど深部には届きません。
だいたい7ミリとのことです。
7ミリしか届かないとなるとほとんどの臓器には使えません。
超初期のがんで、かつ胃や大腸などの粘膜や皮膚がんなどには使えるかもしれませんが、それ以外だとなかなか使うのが難しいと思います。ただ、赤外線という安価な光源を使うというのはメリットで、内視鏡の先につけたり、針の先につけて体に刺したりと使える可能性もあるので、今後の展開に期待したいところです。
「全身に転移したがんにも使える」と「全身治療」の違い
「光免疫治療」のニュースなどを見ていると「全身に転移しているがんにも使える」と伝えています。
「光免疫治療」も「PDT」も「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」も局所治療です。
光を当てた一部分にしか効かない治療になります。
手術や放射線などと同様に一部分にしか使えません。
薬が普通細胞に入らず、がん細胞のみに入っていることが確定しているのであれば、全身にレーザーを当てれば全身治療と言えるかもしれませんが(それでも深部には届きません)、現状そんなことはないので画像などで確認出来るがん細胞とその周囲が対象です。
抗がん剤のように全身に作用するという意味ではなく、転移した先にも使うことが出来るという意味になります。
局所治療は優れた治療方法が多いです。
だいたいどの治療方法を選んだとしても、見えているがんは画像から消えます。
見えているがんを消す方法はいくらでもあります。
全身に治療が必要との意味は、見えていないがんを対象にして治療が必要という意味です。
局所治療は抗がん剤などの全身治療の代用にはなり得ないということも理解が必要です。
必ずしも見えているがんを消すことが良い訳ではない
乳がんなどでは他臓器に転移があると手術の対象にはなりません。
乳房から肝臓に転移があった場合、患者様は「肝臓にあるがんと乳房のがんを両方手術でとれば良いのに」と思います。
でも、転移がある場合、手術で乳房を取るとかえって寿命が短くなる可能性があることがガイドラインでも報告されています。なので、見えているがんを局所治療で安易に治療することが良くない場合もあります。
逆に大腸がんのように転移先のがんを積極的に取り除くことでステージ4でも完治に向かう可能性のあるがんも存在します。
「ケミカルサージェリー」の治療を受けるには
「PDT(光線力学的療法)」は、肺がんの一部や脳腫瘍、放射線治療後の局所再発食道がんなどで保険認可されています。
よって導入している医療機関に行けば保険で受けることが出来るので、主治医の先生に受けたい旨を伝え、紹介状を書いてもらえば受けることが出来ます。
保険で認可されていない部位の場合は、自由診療となるので主治医の先生の理解を得るのは難しいと思います。
PDTを取り入れている病院でも、肺がんのみ出来るとか食道がんのみという医療機関がほとんどなので、連絡して聞いてもらえればと思います。
「BNCT(ホウ素中性子補足療法)」は頭頚部では保険認可されています。保険認可されていない部分については、今のところ治験などの臨床研究が中心になるので、主治医の理解が得られる可能性が高くありません。そういったことを行っている病院に転院することも視野にいれつつ主治医に相談してみて下さい。
自由診療についてはおこなっている医療機関はまだないかもしれません。
「光免疫治療」については、まだ保険認可していませんので治験に参加するということになります。自由診療についてはおこなっている医療機関はまだないと思います。
民間のクリニックなどでおこなっている「光免疫治療」は、有名な「光免疫治療」とはまったく別のものになるので、どういったものかはおこなっているクリニックなどで確認してみて下さい。