現在、日本人の2人に1人はがんになると言われています。
身近な病気でありながら、なぜがんになるのか、がんは防げるのか、ということを知っている人は少ないように思います。それはがんの発症理由がまだすべて解明しきれていないことが理由の一つでしょう。
がんは長い期間の生活習慣の乱れが発症原因の一つだと言われています。一朝一夕でなるものではないのです。ですから、がんを避ける毎日の習慣の連続が数年後、数十年後のがんになる確率を下げているのです。
さらに、がんの発症原因はいまだ研究の段階のものが多いですから、これだけしておけば安心、これは絶対にしてはいけないという二者択一で考えず、取り組みやすいところからがんを予防する生活をしていけばよいと思います。この記事では日常の中で取り入れやすいがんを避ける生活習慣についてご説明します。
目次
がんとは
がんは身内
がんは英語でキャンサーと言います。これは古代ギリシャ語の「カニ」が語源と言われていて、がんがカニのようにギザギザでいびつな形をしていることからこのような名前になったとされています。実際、画像で写したがんは、栄養を摂取するために周囲に血管を張り巡らせ異様な形をしています。
宿主である患者が栄養失調に陥るほど、栄養を搾取してしまうことからもわかるように、がんは体内でしぶとく生き延びようとします。このようにずる賢いがんは、実はウイルスなどのように体外から入ってきたのではなく、体内で正常な働きをしていた細胞が突然悪い細胞に変化したことにより発症します。
これまで味方だった自分の細胞が急に敵に代わってしまったようなものです。
ミクロのレベルで起こる細胞の変化は徐々に蓄積され、やがて目に見えるがんとして私たちの体に悪影響を及ぼすようになります。がんは正常な細胞より成長が早く、発生した場所から移動する力もあります。さらには、正常な細胞は寿命が決まっているのに比べてがん細胞はいつまでも分裂を繰り返すことができるので無限に増殖します。では、なぜこのようながんが体内から発生してしまうのでしょう。
なぜがんになるのか
細胞の中にある遺伝子が傷つくことが、がん発症のきっかけだと言われています。
人の細胞は60兆個あります。分裂する能力のある細胞ならこれらのどの遺伝子が傷つきがん化してもおかしくありません。
このように遺伝子を傷つける物質を「発がん物質」とよんでいます。よく知られているのはたばこやお酒です。後述しますが、これらには遺伝子を傷つけるような物質が含まれていて、吸いすぎたり飲みすぎたりするとがんの危険度が高まります。
がん研究振興財団のホームページではがんを避けるための方法として以下を挙げています。
「がんを防ぐための12か条」
1条 たばこは吸わない
2条 他人のたばこの煙を避ける
3条 お酒はほどほどに
4条 バランスのとれた食生活を
5条 塩辛い食品は控えめに
6条 野菜や果物は不足にならないように
7条 適度に運動
8条 適切な体重維持
9条 ウイルスや細菌の感染予防と治療
10条 定期的ながん検診を
11条 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
12条 正しいがん情報でがんを知ることから
参考:https://www.fpcr.or.jp/pamphlet.html
こうして見てみると、たばことお酒を筆頭に日常生活の中でコントロールできるものばかりです。それゆえがんは生活習慣病の側面を持っていると言えるでしょう。がんになりたくなければ、日々の生活習慣に注意することが大切だとわかります。
また、がんは高齢者の病気というイメージもあるでしょう。若くしてがんになる方もいらっしゃいますが、男女ともに50代あたりからがん罹患率がグンと上昇します。この理由としては先ほど述べた遺伝子変異が長く生きるほど蓄積されていくこと、また、その変異をがん化する前に退治する役目のある免疫力が高齢者の場合は低いということがあげられます。高齢は避けることはできませんから、なんとか生活を改善することでがんを防ぎたいものです。
がん家系って本当にあるの?
アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんと卵巣がんを回避するため乳房と卵巣を切除しました。ジョリーさんは「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」ということで、家系的に乳がんや卵巣がんを発症するリスクが高いことから切除に踏み切ったということですが、日本でもがん体質、あるいはがん家系の話はよく聞きます。
実際、遺伝が原因となるがんがあります。それには大腸がんの一部、乳がん、卵巣がん、甲状腺がんなどが挙げられます。遺伝的な要因には、体質的に発がん物質を無害化する能力が低い人、また親族にがんを発症した人が複数人いる場合などがあります。
ただし、こうしたがんはがん全体に占めるおよそ5パーセントにとどまります。遺伝性、あるいは体質的にがんになりやすい人ということを含めても「遺伝」よりはるかに「生活習慣」のほうが影響を与えるのです。「がん家系」といわれるものは家族に喫煙者がいたり、長期間同じ食事をしていたりした結果にすぎません。したがって遺伝的にがんになりやすい人というのは限られた人と言えるでしょう。うちはがん家系だからがんになりやすい、とか親族にがんの人はいないから安心ということは言えないのです。
がんになりやすい生活習慣
たばことがん(肺がんだけではない喫煙の影響)
遺伝子を傷つける物質を発がん物質といいましたが、たばこには4000種類以上の化学物質が含まれています。その中のタール、ベンツピレン、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどは、発がん物質としてリストアップされています。たばこによる発症の可能性があるがんは、肺がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、口唇がん、腎臓がん、すい臓がんなどです。
実は先ほど挙げた「がんにならない12か条」は2011年に発表されたものですが、これは、30年以上前に発表された旧バージョンが久しぶりに改訂されたものです。「他人のたばこの煙をできるだけ避ける」という項目が新たに追加され、さらに「たばこは吸わない」という項目とともにトップに挙げられたという点で変化がありました。喫煙と副流煙による悪影響が強調されています。このことからも、たばこがいかにがんのリスクを高めるかがわかります。たばこは吸わないに越したことはありませんが、さらに吸わない人への配慮も必要でしょう。
お酒とがん
お酒の主成分であるアルコールは適量であれば脳梗塞の発症を抑えたり、食欲を増進させたりストレス解消という健康に良い影響を与えます。がんのリスクという点からみても、お酒は全くNGというわけではありません。しかし、過度な飲酒はやはりNGです。
アルコールが分解される過程で出されるアセトアルデヒドには発がん性があるとされています。現在飲酒によって発症のリスクが高くなるがんとして、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんが挙げられています。基本的にお酒が通過する内臓が影響を受けるのです。
国立がんセンターが行った研究では男性では1日46グラムまで、女性では23グラムまでがアルコール摂取量の目安ということです。それ以上の飲酒はがん発症リスクを高めます。
ビール大瓶で1本、日本酒1合、焼酎120ミリリットル、ワイングラス2杯、ウイスキーダブル1杯を目安にお酒を楽しんでいただきたいと思います。
参考:国立がんセンター https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2604.html
魚や肉の焦げとがん
再度、「がんにならない12か条」の話になりますが、新12か条では「焦げ」に関する項目が削除されました。
これは焦げを食べてもがんにならないというわけではありません。魚、肉、お米の焦げた部分には発がん物質が含まれるとされています。しかし、毎日山盛りの焦げを摂取しない限りがん発症のリスクが焦げにより高まることはないとされ、新12か条では削除されました。
しかし一方で2015年、農林水産省が食品を焼いたり揚げたりしたときに発生する「アクリルアミド」という物質が発がんの可能性があると発表しています。こちらはまだ動物実験の段階であり人間への影響は明確になっていません。しかし、食事は毎日のことですから、多少意識し、今後の新しい情報を待ったほうが良さそうです。
農林水産省が公表している消費者を対象としたアクリルアミドに関するレポートがあります。料理法の工夫など紹介されていますのでご興味のある方は参考にしてください。
農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/
食品添加物とがん
私たちは化学物質に囲まれた生活をしています。食品添加物も化学物質の一つで、体内に取り込まれると遺伝子を変形させたり、細胞分裂の際にミスを誘発する、いわゆる発がん性のものがあります。しかし、本来このような物質を取り込んでも免疫による体の修復機能が働いてがんを攻撃し退治してくれるはずなのですが、あまりにも有害な化学物質が多いために遺伝子の修復が間に合わず、その結果がんを発症してしまいます。
現在使われている食品添加物の中には動物実験で発がん性が認められたものやその疑いがあるものが数多くありますが、それらが使われた食品はスーパーやコンビニなどでたくさん売られています。
厚生労働省のホームページでは「食品添加物は保存料、甘味料、着色料、香料など、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用されるものです。厚生労働省は、食品添加物の安全性について食品安全委員会による評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限って、成分の規格や、使用の基準を定めたうえで、使用を認めています。」とあります。
安全性については、健康を損なうおそれのない範囲に限って、厚生労働省が食品添加物を使用できる食品や使用基準を設定し、使用を認めています。これらの基準は、国産品であれ輸入品であれ、全ての食品に共通です。しかし、一度は認められながらも数十年後に禁止された添加物の例もあるので、現在安全だと言われているものでも、添加物をなるべく摂取しないように生活するのが無難でしょう。
食品添加物を全て排除することは難しくても、なるべく避ける生活ならできると思います。他の化学物質である、残留農薬や排気ガスや合成洗剤などを避けることはなかなか難しいですが、食品を買うときに表示を確認し添加物をできるだけとらないようにするという小さな判断が、がんを防ぐためにできる現実的な方法と言えるでしょう。以下に発がん性が認められている、またはその疑いがある食品添加物を紹介します。食品購入の際に参考にしてみてください。
着色料 タール色素・カラメルⅢ・カラメルⅣ・二酸化チタン
防カビ剤 OPP・OPPナトリウム・イマザリル・ジフェニル・チアベンダゾール
保存料 安息香酸ナトリウム
漂白剤 過酸化水素
甘味料 サッカリンナトリウム・ネオテーム・アスパルテーム
酸化防止剤 BHA・BHT
小麦粉改良剤 臭素酸カリウム
参考『がんになる29の添加物』渡辺雄二著 宝島社出版
終わりに
がんを予防するためにいろいろな研究がすすめられ、明らかになってきたことが増えました。しかし、本記事でもご紹介した「がんになる12か条」を見て、目新しいことはないと思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。昔から人間が心身の健康を保つうえで基本的な方法は変わらないのかもしれません。
がんは慢性疾患であり、長い時間をかけて発症することを考えるとなおさらです。がんを予防する劇的に良い方法が突然明らかになるわけではなく、たばこなどの刺激物を避け、運動や食事の面でバランスの良い生活を日々地道に繰り返すことが最善策なのだと思います。
その毎日の生活の中で、本記事が参考にしていただけましたら幸いです。