がんと診断され、「抗がん剤治療と放射線治療、どちらが大変なのだろう」と不安を感じる方は少なくありません。特に現役世代にとっては、仕事や日々の生活に及ぼす影響も大きな懸念事項となります。そのためにも、治療法を正しく理解し、ご自身の状況に適切な方法を選択することが重要です。
本記事では、それぞれの治療の特徴や副作用、選び方のポイント、併用治療について解説します。ご自身の治療法を検討する際の参考にしてください。
目次
どっちがつらい?抗がん剤治療と放射線治療を比較抗がん剤治療と放射線治療を比較

がんの代表的な治療法として、「抗がん剤治療(化学療法)」と「放射線治療」があります。このうち、化学療法は全身を対象とする治療で、放射線治療は局所を対象とする治療です。
これらの治療は、がん細胞の増殖抑制や、転移や再発などの予防という共通の目的があります。しかし、身体へのダメージやつらさには個人差があるため、「どちらがつらいか」は一概に断言することはできません。あくまで、患者さんの生活スタイルや体力に合わせて選択することが大切です。
抗がん剤治療のリアル治療のリアル
抗がん剤治療は、がんの薬物療法の一つです。「化学療法」では、細胞障害性抗がん薬が使われます。例えば、乳がんにおいては、アドリアマイシン・エピルビシン・ドセタキセル・パクリタキセルといった薬剤の有効性が確認されています。その他の薬物療法には、分子標的薬を使用する「分子標的療法」、内分泌療法薬(ホルモン療法薬)を使用する「内分泌療法」などがあります。
投与方法は、静脈点滴や注射、内服などです。適切に使用することで、がん治療への効果が期待できます。しかし、吐き気や嘔吐、脱毛、疲労感などの副作用が見られるため、不安やつらさを感じることも少なくありません。
こうした症状には、「支持療法」が適用されることがあります。支持療法とは、治療を継続しながらQOL(生活の質)を維持および向上を支援することを目的とした治療法です。近年、外来通院でも治療を受けられるようになっています。
また、厚生労働省の「令和4年度入院・外来医療等における実態調査」の集計結果によると、調査対象施設においる化学療法実施患者数(平均値)のうち、1サイクル以上外来で実施した患者の割合は72.4%でした(※1)。このように外来での化学療法の普及が進むことで、患者さんは仕事や日常生活を継続しながら、がん治療を受けるという選択肢を得やすくなっています。
放射線治療の痛みや副作用の実態の痛みや副作用の実態
放射線治療は、基本的に局所に対する治療であり、全身的な副作用は抗がん剤治療より少ないとされています。一方で、照射部位に特有の副作用が出るなど、負担の現れ方が異なります。
放射線治療の期間は1週間から7週間程度で、週5日行うのが一般的です(※2)。X線やγ線、陽子線、重粒子線などさまざまな放射線が用いられ、病状に応じて治療の回数と分割方法が決定されます。副作用は、放射線治療中または治療直後に起こる「急性期」の副作用と、治療終了から数カ月から数年経過して起こる「晩期」の副作用に分けられます(※2)。急性期には倦怠感や食欲低下、照射部位の皮膚の変化が見られることが特徴です。
また、将来妊娠・出産を希望される方は、腹部や骨盤部に放射線が照射されると、卵巣にも影響が及ぶ可能性があります。そのため、事前に担当医に相談することが重要です。
近年注目されている高精度放射線治療は、病巣に正確に放射線を照射することで、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることができるという利点があります。具体的には、定位放射線照射(STI:Stereotactic Irradiation)や強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)などがあります。
抗がん剤治療と放射線治療はどっちが向いてる?治療と放射線治療はどっちが向いてる?

治療法の選び方はがんの進行度だけでなく、患者さんの年齢や体力、生活背景によって異なります。
高齢者の治療では、回復に時間を要するため、身体への負担が少ない方法が検討されます。対して、現役世代の方は仕事との両立を考慮する必要があり、日常生活への影響を抑えられる外来治療が望ましいでしょう。
年齢や体力で向いているかは変わる
高齢者と現役世代では、治療の選び方のポイントが異なります。
厚生労働省が公開している「高齢者がん医療Q&A総論」では、「治療可能な全身状態であれば、非高齢者と同様の治療を受けることができ、同様の治療効果が望める。ただし、合併症は増加する。」と示しています。手術や入院生活による体力・筋力が大きく低下するのを防ぐためにも、全身状態や合併症を考慮し、放射線治療など身体への負担が少ない治療が検討されます。
引用:厚生労働省|高齢者がん医療Q&A 総論(2020年3月)
現役世代では、通院頻度や仕事との両立がポイントです。抗がん剤治療も放射線治療も外来での通院が可能ですが、治療内容によって入院が必要なケースもあります。放射線治療の一部には1週間から2週間程度の短期治療が可能なものもあるため、ご自身のライフスタイルに合った治療を選ぶようにしましょう。
また、治療を選ぶ際は、治療費用も考慮する必要があります。抗がん剤治療は高額になることも想定されるため、事前に確認することが必要です。高額療養費制度や医療費控除など、経済的な負担を減らす制度も積極的に利用してください。
治療にかかる期間と費用
がん治療を検討するとき、多くの方が気になるのが治療期間と費用です。抗がん剤治療も放射線治療も、がんの種類や大きさ、進行度によって内容は変わります。
1回あたりの自己負担は数千円から数万円台程度になることが多く、治療が数カ月にわたると、自己負担の合計は数十万円に達するケースもあります。
また、先進医療に位置付けられている陽子線治療と重粒子線治療は、公的の医療保険の適用外です。技術料としての自己負担額は、医療機関によって異なり、陽子線治療で約310万円、重粒子線治療で約350万円が見込み額の目安となります(※変動する可能性あり)。なお、医療機関によっては、自治体の助成金制度が適用される場合があるため、条件を満たしているかどうか確認することも必要です。
一般的な抗がん剤治療と放射線治療の費用目安は以下の通りです。施設やがんの種類、患者さんの状態、薬剤などによって異なるため、詳しくはがん相談支援センターや病院の相談窓口にご確認ください。
| 治療期間 | 自己負担額目安 | |
|---|---|---|
| 抗がん剤治療 | 通常3~4周を1サイクルとし、4~6サイクルを繰り返す (数カ月から半年) | ・30万円前後 ・高額な薬剤を使用すると、50万~100万円程度になることもある |
| 放射線治療 | 週5日、4~8週 | ・30万~60万円前後 ・保険対象とならない治療では、250万~300万円程度になることもある |
抗がん剤と放射線を併用することもある?と放射線を併用することもある?

がんの治療では、薬物療法を手術や放射線療法と組み合わせるケースもあります。特に、抗がん剤治療と放射線治療の同時に行う「化学放射線療法」は、根治を目指す治療法として、有効性が期待されています。
主に対象となるのは、肺がん・食道がん・子宮頸がん・直腸がん・頭頸部がんなどです。がんや患者さんの状態に応じて、併用方法、放射線治療の線量や範囲、抗がん剤の使用量を決めるのが一般的です。
ただし、単独の治療より副作用が現れやすくなる点に注意が必要です。主な副作用としては、白血球・好中球の減少や貧血、放射線による皮膚炎、吐き気などが挙げられます。
食事内容にも配慮しながら、体力や回復力を見極めて実施することが重要です。近年は併用でもQOL(生活の質)を保てるよう、投与スケジュールの工夫が進んでいます。
抗がん剤を使わないという選択はあり?を使わないという選択はあり?
抗がん剤による副作用が強い場合や、体力の低下、併存疾患などで身体への負担が大きいと考えられる場合には、抗がん剤以外の選択肢もあります。この場合、痛みや息苦しさ、不安などを和らげ、QOL(生活の質)を保つことを目的とした「ベストサポーティブケア」が検討されます。
ベストサポーティブケアとは、がんそのものに対する積極的治療は行わず、「自分らしく過ごすための最善の方法を選択する」という考え方です。気になることや不安な気持ちは、一人で抱え込まず、家族や医療スタッフに気持ちを伝え一緒に考えていくことが大切です。ご自身の正直な気持ちを共有することで、納得できる選択肢が見つかるでしょう。
抗がん剤治療と放射線治療に迷ったときは専門家へ相談治療と放射線治療に迷ったときは専門家へ相談

がんと診断されると、「自分に合った治療法がわからない」「家族への説明をどうすべきか悩む」といった問題に直面することも少なくありません。このような不安や疑問を、専門家に相談することで、スムーズに解決することも可能です。
がんメディでは、がん専門の医療コーディネーターが治療法・副作用・生活面まで丁寧に説明し、無料でご相談を受け付けています。個々の状態に合わせたお問い合わせにも対応可能です。納得できる選択をするための第一歩として、ぜひ当サービスをご活用ください。
(※1)厚生労働省|令和4年度入院・外来医療等における実態調査
(※2)公益社団法人日本放射線腫瘍学会|放射線治療を受けられる方へ


















