がんは転移する可能性のある病気だということは、多くの方が知っていることではないでしょうか。がんは体中のさまざまな臓器や器官に転移する可能性があり、骨に転移する場合もあります。
「がんの骨転移」という言葉を知っている、あるいは身近な人が「骨にがんが転移した」という方もいる思います。がんが骨に転移するとどのような症状が出現し、どのような治療が行われるのでしょうか。
この記事では、がんの骨移転についてその症状から治療方法、検査方法まで幅広く解説します。
目次
がんの骨転移とは?
胃や肺、大腸などといった、他の臓器や器官でできたがんが、血液の流れに沿って骨まで到達し、そこで細胞が増殖することを「がんの骨転移」と言います。
まずは、骨転移が起こるまでのメカニズムや全身への影響、骨転移が余命にどのように影響するかといったところを詳しく見ていきましょう。
骨転移による全身への影響
後にも紹介しますが、骨転移の主な症状としてよく知られているものに、痛みや骨折、しびれなどがあります。その他にも、がんが骨に転移することにより、全身にさまざまな影響を及ぼします。
例えば、高カルシウム血症は、がんが骨に転移することによって骨が破壊されると、骨のカルシウムが血液中に流れ出し、血液中のカルシウム濃度が高くなるという病気です。高カルシウム血症になると、めまい、便秘、吐き気、食欲不振などの症状が出現します。
また、骨に蓄積されていた栄養をがんが吸収し、がんが活性化してしまうことがあるのも大きな問題です。さらに、特に高齢者は、肺炎や膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎、認知症などの合併症を発症しやすくなります。
骨転移のメカニズム
健康な骨は、新しい骨を作る「骨芽細胞(こつがさいぼう)」と古くなった骨を吸収し骨芽細胞に新しい骨の造成を促す「破骨細胞(はこつさいぼう)」が、うまくバランスを取ることによって維持されています。
がん細胞の刺激は破骨細胞を活性化させる作用があり、その結果、骨芽細胞と破骨細胞のバランスが崩れ、活性化した破骨細胞は骨を徐々に溶かしていくのです。
そして、がん細胞は骨の溶かした部位に住み着きます。溶かされた骨の栄養を吸収してがん細胞はさらに増殖していくというメカニズムとなります。
骨転移の余命
「がんの転移」と聞くと、「余命いくばくもない末期状態」とイメージする方も少なくないでしょう。しかし、骨の骨移転胃は直接余命には影響しません。とはいえ、放置しておいていいものでもありません。
先述の通り、骨の骨転移は全身にさまざまな悪影響を及ぼすため、早期に治療を開始し生活の質(QOL)を保つことが重要です。
がんの骨転移が発生しやすい場所
がんは全身のどの骨にも転移する可能性がありますが、骨転移が特に起こりやすい場所はがんの種類によって異なります。がんが発生した場所の近くの骨や、体の中心に近い骨に移転が起こりやすいことがわかっています。
また、痛みや骨折、下半身麻痺などQOLを著しく低下させる症状を起こしやすい部位は、脊髄、上腕骨、大腿骨、骨盤です。
骨転移の主な症状
がんが骨に転移するとどのような症状が出現するのでしょうか。ここでは、がんの骨移転胃の代表的な症状を見ていきましょう。
痛み
骨転移の症状の代表例は痛みです。がん細胞が周囲の神経を刺激することによって痛みが発生するのです。痛みの有無や強弱には個人差があります。
また、最初は違和感が少しある程度であっても症状が進行するにつれ、徐々に強い痛みに変わっていくこともあります。
骨折
がん細胞が骨を溶かすことによって骨が弱くなるため、ささいな動作でも骨折しやすくなります。
また、痛みを我慢しているうちに、ふとした動作で骨折を起こしてしまうことも少なくありません。骨折を防止するためには、痛みを我慢しないことが大切です。
麻痺
背骨の内側にある神経の束である脊髄ががんや骨折などで圧迫されることで、手足の麻痺やしびれが出現することもあります。脊髄は一度損傷すると回復は期待できず、そのまま寝たきりになってしまう可能性もあるでしょう。
麻痺の程度によっては便や尿など排せつのコントロールを失うなど、QOLを大きく低下させてしまうおそれもあるでしょう。
骨転移の治療法
骨転移の治療の目的は、痛みや骨折、麻痺などの症状を予防や改善をして、患者さんのQOLを維持あるいは向上させることです。
治療方法は、放射線治療、薬物療法、手術があり、がんの種類や進行度、患者さんの全身状態や症状などを考慮したうえで治療方法が選択されます。
いずれにしても、QOLを維持・向上させるためには早期発見・早期治療が重要です。
放射線療法
骨転移の治療方法のメインとなるのが放射線治療です。放射線を照射した範囲のがん細胞の量を減らすことで、痛みの緩和、骨折の予防、脊髄圧迫の予防が期待されるでしょう。
がんの種類によっては、放射線を照射した範囲のがん細胞が完全に消失することもあります。手術と比べると患者さんの体の負担が少ないため、骨転移の診断がついた場合の第一選択肢となることが多い治療方法です。
ただし、だるさや吐き気、放射線を照射した部分の赤みやかゆみなどの副作用が出現することもあります。
薬物療法
薬を使った治療方法は大きく2種類にわかれます。
一つは、鎮痛剤を使用して痛みを緩和させる治療方法です。どの薬を使うかは痛みの程度によって異なり、複数の鎮痛剤を併用する場合もあります。
もう一つは骨修飾薬を用いた治療です。がん細胞は破骨細胞の古くなった骨を溶かす働きを利用して骨に転移します。ビスホスホネート系薬剤などの骨修飾薬は、破骨細胞の働きを抑えて骨転移を抑制させるための薬です。なお、骨修飾薬には腎障害、あごの骨の壊死、あごの骨の炎症などの副作用があります。こうした副作用が現れた際にはすぐに担当医に相談しましょう。
手術
手術は骨折や脊髄圧迫が起こった際に行われる治療方法です。また、骨を補強して骨折を予防するために行われることもあります。ただし、手術は患者さんの体に大きな負担をかける治療方法のため、どんな状態の患者さんでも行えるものではありません。
手術を行うかどうかは、患者さんの病状や全身状態、放射線治療の有効性、薬物治療の有効性、骨移転の数、痛み・麻痺の程度などで総合的に判断されます。
骨転移の検査法
痛みなどの症状があり、がんの骨転移が疑われる場合、まずはX線検査、CT検査、MRI検査といった検査で転移の有無や場所、数を調べます。
X線検査は、病状を大まかに知るための基本的な画像検査です。X線検査で骨折や麻痺などの症状を起こす可能性があると判断された場合、CT検査やMRI検査でより詳しくリスクを探っていきます。
MRI検査では脊髄などの神経組織も映し出すことが可能です。そのため、X線検査では発見できないようなごく小さな骨転移も発見できる場合があります。
骨転移は早期発見が何より重要!早めに検査を受けよう
がんは、転移する可能性がある病気です。そして、がんは臓器や器官だけではなく、骨にも転移します。
がんが骨に転移することによって、命には直接的には影響しません。しかし、痛みや麻痺など患者さんの生活の質(QOL)を大きく低下させてしまう症状が現れるので、できるだけ早期の治療が重要です。
がんの骨転移の初期の症状はごく軽いものが多くなります。そのため、違和感など少しでも気になる症状があった場合には、骨転移を疑い、早めに検査を受けましょう。