がんのリハビリとは何か?目的と効果を解説

がんのリハビリとは何か?目的と効果を解説

「がんリハビリ」という言葉を知っていますか?過去にがんにかかったことのある方や、家族ががん患者という方以外、あまり耳にしたことがないかもしれません。リハビリとは、病気やけがによって失われた身体機能の回復という意味合いがあります。

がんリハビリは、がんの治療などで失われた身体機能や筋力を取り戻すための訓練のことです。本稿では、がんリハビリについての基本的なことから、がんリハビリの目的や具体的にどういったことを行うのかなどをお伝えします。

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目次

がんリハビリとは

まずは、がんリハビリは何かといった基本的なことから確認していきましょう。なぜ、がんリハビリを行う必要があるのでしょうか。

がんリハビリテーションの定義

「がんリハビリ」と聞いても、どのようなものなのかイメージが湧かない方が多いのではないでしょうか。実は、がんのリハビリテーションには定義があります。

公益社団法人「日本リハビリテーション医学会」と、「がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会」が編集にあたった「がんのリハビリテーションガイドライン」に定義について、次のように記載されています。

「がん患者の生活機能と生活の質(quality of life:QOL)の改善を目的とする医療ケアであり、がんとその治療による制限を受けた中で、患者に最大限の身体的、社会的、心理的、職業的活動を実現させること」

がんリハビリの目的

がんリハビリの定義でも明らかなように、がんリハビリの目的は治療によって失われた筋力などの身体的機能の回復だけにとどまりません。定義にある「最大限の身体的、社会的、心理的、職業的活動を実現させること」とは、でき得る限り患者さんががんに罹患する前の生活を取り戻してもらうということです。

そのため、がんリハビリは運動訓練だけではなく、個々の患者さんやがんの種類によって、さまざまな訓練が組み合わされているのが特徴的です。例えば、咽頭がんや喉頭がんで声を失った患者さんに対して代用音声の訓練が行われますが、これもがんリハビリの一つです。

なぜ運動が必要?

どのような種類のがんであっても行われるのが、運動訓練です。なぜ運動訓練が必要なのでしょうか。

がんになると、がんそのものの症状や後遺症、さらに手術や抗がん剤の身体的負担に伴って、活動量が大きく低下します。がんの治療中の活動量は診断前の10%程度低下し、治療後も普段の活動量から30%程度低下すると言われています。

活動量が減ると体力が低下し、日常生活で疲れやすくなり、できることがだんだんと少なくなるという負のスパイラルに陥ってしまいます。それを防止するために行うのが、運動訓練です。

がんのリハビリはどういうことをするの?

がんのリハビリを初めて受ける方の多くが、「がんのリハビリはどういうことをするの?」と不安に思うのではないでしょうか。そこで、実際にがんのリハビリはどのようなことを行うのかを見ていきましょう。

予防的リハビリテーション

一般的なリハビリテーションが行われるのは、病気やけがによって体に何らかの障害が起こった後です。しかし、がんの場合はがんと診断された時からリハビリが行われます。それが予防的リハビリテーションです。

手術や抗がん剤治療などの合併症の予防、治療後の機能障害を最低限に抑えるためのリハビリです。具体的には、腹式呼吸の練習や痰の出し方の練習、ベッドからの起き上がり方の練習などが行われます。

回復的リハビリテーション

回復的リハビリテーションとは、治療開始以降に行われるリハビリのことです。手術や抗がん剤治療による機能障害や、治療中に失った体力をできる限り回復するために行われます。体力を元に戻すため、できるだけ早くベッドから起き上がれるように運動訓練が行われます。

維持的リハビリテーション

がんの再発や転移が見つかった時に行われるのが、維持的リハビリテーションです。がんが進行し、体に機能障害が起こっている段階の患者さんに行われます。運動能力の維持や改善が目的ですが、個々の患者さんの体力やがんの種類、進行具合によって、どのような内容のリハビリが行われるかは大きく異なります。

緩和的リハビリテーション

緩和的リハビリテーションとは、積極的治療を行わずに症状緩和を中心とした治療がメインの末期がんの患者さんなどに行われるリハビリです。患者さん本人の意向を最優先しながら、QOLをできるだけ高く保つことを目的として、身体的、精神的、社会的なケアが行われます。

がんのリハビリはどこでできるの?

がんリハビリは、手術による後遺症や合併症の予防を目的としたものでもあります。患者さんがスムーズに回復し、いち早く社会復帰を果たすために欠かせないものですが、実際にどのような医療機関で行われているのでしょうか。

リハビリができる医療機関は増えている

がんのリハビリができる医療機関は年々増えており、国立がん研究センターの調査によると、入院中にがんリハビリができる医療機関の割合は、97.4%に上りました。実施していないと回答した医療機関はわずか0.4%に過ぎません。日本では、ほぼ全ての医療機関で入院中にがんリハビリが行われていると言っても過言ではありません。心配であれば、入院前にがんリハビリを実施しているかどうかを医師に確認してください。

入院中は保険適用

入院中にがんリハビリが多くの医療機関で行われるようになった背景に、制度面での後押しもあります。入院中のがんリハビリにかかる費用は、2020年度診療報酬改定時に保険適用となりました。

外来は保険適用外

前述のように、入院中のがんリハビリは保険適用ですが、その一方で、退院した後の外来時のがんリハビリは未だに保険適用外です。そのため、入院中に比べて外来のがんリハビリが広まっていないのが実情です。ここ最近ではがんの治療自体が、外来に移行しつつあります。そのため、外来のがんリハビリについても、医療現場を中心に保険適用を求める声が高まっています。近い将来、外来のがんリハビリも保険適用になる可能性もあるでしょう。

【まとめ】がんのリハビリについて

がんリハビリは、手術や抗がん剤治療による後遺症や合併症の予防のみならず、がんの治療後の患者さんができるだけ早く回復し、社会復帰を果たすためになくてはならないものです。一般的なリハビリと異なり、がんリハビリはまだ体に障害が起こる前の、がんと診断された時点から行われます。

早期からリハビリを行うことで、治療がスムーズに進み、治療による体力の低下や身体機能の低下も最低限に抑えられるでしょう。なお、日本ではほぼ全ての医療機関ががんリハビリを実施しており、入院中のがんリハビリは保険適用です。がんと診断されたら、早期から積極的にリハビリに参加して、できるだけ早い社会復帰を目指しましょう。

1.社団医療法人 愛仁会 千船病院「がんの運動療法(がんリハビリ)|リハビリテーション科
2.京都府「リハビリテーションとは」
3.国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院「がんのリハビリテーションとは」
4.社会福祉法人 函館厚生院 函館五稜郭病院「がんリハビリテーションとは?」
5.公益社団法人 日本リハビリテーション医学会「がんのリハビリテーションガイドライン」
6.国立研究開発法人 国立がん研究センター|がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
7.国立研究開発法人 国立がん研究センター|がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
8.日本経済新聞|NIKKEI STYLE「どんな「がん」でもリハビリ大事 体の機能低下を防ぐ」
参照日:2022年08月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

プロフィール詳細

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