放射線治療はがんの三大治療の一つです。これから放射線をする予定の方、あるいは現在治療中の方も多いと思います。
放射線に限ったことではありませんが、治療による後遺症や副作用は気になるところです。
放射線については受けることによって別のがんになる「発がん」や子孫を残すことに影響を与える「遺伝性の影響」が否定できません。また、「被ばく」を心配する声もよく聞かれます。今回はそれらについてご説明したいと思います。
目次
どうして放射線でがんが治るのか
現在、がん治療は手術と放射線と抗がん剤の3つを組み合わせて治療するのが一般的です。では、そのうちの放射線はどうしてがんを改善する効果があるのでしょうか。
がんは、がん細胞という正常細胞が異常な状態に変化した細胞のかたまりです。がん細胞にも正常細胞にも、細胞が増殖する際に重要な役割を果たす染色体という物質があります。この染色体が増殖するときに放射線を受けると分裂ができなくなり細胞は死んでしまいます。放射線治療はこれをがん細胞に行うことによってがんの成長や増殖を抑えて改善を狙います。
放射線は分裂が盛んな細胞をより攻撃しやすいという特性があります。正常な細胞も分裂をしていますので、攻撃する必要のない細胞まで攻撃してしまうということは起こりますが、がん細胞の分裂は正常な細胞よりも盛んなので放射線の影響を大きく受けることになります。放射線治療は、このがん細胞と正常な細胞の性質の違いを利用しているわけです。
また、正常な細胞はたとえ放射線によってダメージを受けても回復する能力を持っていますが、この能力はがん細胞にはほとんどありません。
このように体内のメカニズムをうまく利用してがんと闘うわけですが、うまくいくことばかりではありません。放射線の欠点ともいえるのが副作用や後遺症です。
放射線治療の問題
放射線の問題として副作用が挙げられます。髪の毛が抜けたり皮膚に炎症が起きたり吐き気をもよおしたり…などなど放射線の副作用は数多く挙げられます。
放射線の副作用には急性のものと晩発性のものがあります。これは副作用が起こる時期を表していて急性の副作用は放射線治療中に起こるもの、晩発性障害は治療を終えて半年後以降に起こるものをいいます。皆様が放射線の副作用と聞いて想像するのは圧倒的に急性副作用が多いと思います。
放射線治療による発がん
急性副作用として起こる症状は臓器に一定以上の放射線がかからない限り起こりません。これに対してわずかな放射線でも起こる可能性があるのが「発がん」と「遺伝的影響」だと言われています。
発がんというのは放射線をかけた部分に別のがんができることを言います。これは再発とは異なります。放射線をかけた場所に、もとのがんとは違ったタイプのがんが5年以上経ってからできた場合は、放射線による発がんだと考えられています。
発がんは放射線を多く受ければ受けるほど発症する確率は高くなりますが、ごくわずかな放射線がかかった場合でも絶対に起こらないとは言い切れません。最近では放射線装置の性能が上がり、以前よりもがんだけにピンポイントに当てる技術が進化しましたが、それでも正常細胞に当たる放射線量は0ではなく、発がんや遺伝的影響はそのわずかな放射線でも発症する可能性があるところが非常に厄介です。
このように聞くと、放射線は怖いものだから受けたくないと思う方もいらっしゃるでしょうが、放射線による発がんは稀なことですから、これを恐れて放射線治療を拒否するのは考え物です。
また、放射線は手術に耐える体力のない高齢者が受けることもしばしばありますが、発がんの可能性は5~10年後以降ですから、仮に発症の可能性があったとしてもその影響を受けずご自身の本来の寿命をまっとうされるということもあるでしょう。
遺伝への影響
子孫への遺伝的影響についても全くないとは言い切れませんが、明らかになっていないものの確率としてごくわずかです。そして子どもを作らない世代の方には当然無関係です。問題は若い患者さんが治療中や治療後に子どもを作ってよいのかということです。
女性が妊娠初期に放射線を受けると胎児に奇形が起こりやすくなるというデータがありますが、これもまた妊娠していない女性や男性は別です。卵巣や精巣に放射線がかかると妊娠しづらくなりますが、この場合は事前に主治医と話し合って治療を決める必要があります。
このように治療を始める前に配慮が必要な方もいらっしゃいますが、中には発症の可能性がそれほど高くなかったり、よく知ってみると自分とは無縁の影響に対して無闇に不安になっている方も多いようです。
お子さんが放射線を受けた場合
お子さんががんになり放射線を受ける場合、その悪影響はより一層心配です。
お子さんの場合は成長障害というものがあります。骨の成長を促す部位に放射線があてられると骨の成長が妨げられ身長が伸びなくなったり、放射線をかけた側の足や腕が短くなってしまうことがあります。
こうしたものは放射線の種類や年齢によって起こる場合とそうでない場合があります。現在はこのような成長障害をなるべく防ぐ工夫がされていますが、主治医に相談し、起こりうる後遺症についてよく話を聞いておく必要があります。
また、脳のがんの場合は脳への照射が与える影響についても心配だと思います。
脳に放射線をかける場合はその照射のかけ方によって影響は大きく異なると言われています。脳の一部にだけ放射線をかける場合は脳への影響はほとんどないと言われていますが、脳全体にかける全脳照射は頭全体に大量の放射線をかけたことにより記憶力や集中力が落ちることがあります。
これについては何度も全脳照射を繰り返さない限りこのようなことは起こらないとされていますが、お子さんは治療後の人生が長いということもあり、昨今ではがんが治った後の生活の質を考えて全脳照射をしない傾向にあります。いずれの場合もその影響について医師に確認しておきましょう。
レントゲンの影響はどうなのか?
放射線の悪影響というと、レントゲンやCTの放射線被ばくを心配される方も多くいらっしゃいます。確かにこれらには放射線による被ばくのリスクがあります。さらに一度でなく数回受けることも多々ありますので悪影響が心配になるのも無理はありません。
一般に、人間の体に影響がではじめる放射線被曝量は200mSVと言われています。
治療や検査で受ける放射線被ばくの量は胸部レントゲンで0.1mSV以下、CT検査では0.5~1.5mSV、PET検査で10.0mSV以下といったところです。
レントゲンは複数回受けても体への影響は小さく、CTはレントゲンに比べると線量は高いですが、こちらも健康に影響を及ぼす可能性の線量と比較すると小さいことがわかります。被ばくを避けることはできませんが、命に関わる病気になったことへのバランスで何十年か先の何かしらの放射線の影響を気にするより、今の体の状態を知ることができたり、改善することの方が大事ではないでしょうか。
(参考:放射線医学総合研究所ホームページ)
放射線治療のメリットとデメリットを理解しよう
マイナスの影響が全くない治療というものはありません。それぞれの治療にメリットとデメリットがあります。それらを把握し天秤にかけてメリットの方が大きいと判断したとき、はじめて目の前の治療に積極的に取り組めるのだと思います。
発がんや成長障害といったデメリットは決して小さくありません。しかし、それらがどれくらい影響を及ぼす可能性があり、その反面、放射線による恩恵はどれくらいあるのかよく考えていただきたいと思います。この記事がその一助になれましたら幸いです。