今回は放射線についてご説明します。
福島第一原発の事故などから私たちは放射線や放射能という言葉に恐怖心があります。また、核兵器やがんを連想する方もいらっしゃるかも知れません。
それは、放射線にまつわる言葉が非日常的であり、本当のところを把握できないとからだと思います。これまであまりよく理解できなかった方のために簡単にまとめてみましたので参考にしてください。
目次
放射線の用語解説
放射線・放射能・放射線物質
物質の成り立ちを細かく見ていくと粒子になります。それらの粒子がとても速いスピードでエネルギーを運んでいる状態を想像してみてください。放射線とはそのように「粒子が運ぶエネルギーの流れ」のことです。
また、放射線を出す能力のことを「放射能」と言い、放射能を持った物質のことを「放射線物質」と言います。放射線物質には、自然界に存在し放射線を放出する物質、例えば宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)や、ウランや鉱石などの自然物質のものと、がんなどの治療で使用されるような、放射線発生装置などで作られた放射線や放射性同位元素から出る放射線のように人工的に作られた人工放射線があります。
グレイ
放射線が物質に当たると、その持っているエネルギーを物質に与えます。グレイは物質が放射線から受けるエネルギー量を示す単位です。吸収線量とも呼ばれます。
現在、吸収線量は放射線が物質に及ぼす影響をあらわす、最も基本的な放射線の量だとされています。
グレイを使用する例としてがんの検査と治療が挙げられます。
例えば胸部のレントゲン写真を撮った場合、背中の皮膚は0.1から0.2ミリグレイの線量をあびます。また、がんの放射線治療では1回2グレイを30回くらい繰り返す治療が多く、このことから、数グレイより大きな線量は細胞を殺す量だということがわかります。
シーベルト
一方、シーベルトは放射線が「人間」に当たったときにどのような健康影響があるのかを評価するための単位です。放射線の人間への影響を考える場合、受けた放射線の種類、放射線を受けた部位などを考慮する必要があり、グレイという値だけでは健康影響を評価することが困難です。そこで健康影響の評価を簡単に行えるようシーベルトという単位を使用します。
ベクレル
放射線物質がもつ放射能の大きさを表す単位がベクレルです。
主に食品や水・土壌の中に含まれる放射能の量を表す場合に「1キログラムあたり~ベクレル」のような使い方をします。
放射線が人体に与える影響を考える場合は、ベクレルの大小を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける身体の部位なども考慮に入れる必要があるため、先ほど述べた「シーベルト」で比較する必要があります。
放射線に対する疑問
自然放射線と人工放射線の影響の違いはありますか
放射線の粒子にはそれがどこで発生したかという違いはありません。粒子が運ぶエネルギーが同じであれば放射線源が自然のものだろうと人工的に発生させたものであろうと同じ性質です。したがって人体に与える影響は同じです。放射線を天然と人工で分ける考え方は被ばく問題からくる放射線への不安や不信感からくるのかもしれません。有害かどうかは体に対してどれくらい負荷を与えたかどうかで決まるものです。
放射線でがんになりますか
がんは遺伝子が傷つくことによって発症します。
遺伝子が傷つく原因として、大気汚染、生活習慣(喫煙、大量飲酒、運動不足等)など日常生活のさまざまなものがあり、放射線もその一つだと言われています。
そもそも細胞には傷ついたDNAを修復する能力があるため、もしも、すべてのDNAが完全に修復されれば問題はありません。ところが、上記のようなことが原因で修復ミスしたDNAが生き残り、その誤った情報がコピーされることで正常な細胞ががん細胞になることがあります。
放射線に被ばくしたからといって、必ずしもがんになるわけではありませんが、発がん要因の一つになるということで、被ばくを少なくすることは重要です。
がん治療で放射線を受けるのが怖いです
先ほど、胸部エックス線を受けた際に0.1ミリグレイの放射線を受けると説明しました。患者さんの受ける放射線の量をシーベルトで表さないのは医療行為として受ける放射線を通常の放射線とは異なった枠組みで考える必要があるからです。
放射線による影響を恐れてX線やCT検査や治療を拒否する方もいらっしゃるようですが、X線診断で受ける放射線程度では、がんを起こす可能性が高くなったとしても規則正しい食生活で予防できるがんよりはずっと少ないでしょう。検査や治療をせずに陥る可能性を考えれば、数年後にあるかもしれない悪影響を恐れるよりも放射線を受けたことで受けられる恩恵のほうが大きいのではないでしょうか。
おわりに
私たちは放射線に囲まれて暮らしています。放射線から完全に逃れることが不可能なのです。逃れられない放射線の影響には、当然発病という悪影響を与える場合もありますが、必要以上に恐れたり避けたりする必要のない放射線もあります。今回は簡単に放射線についてご説明しましたが、これを機会に避けるべき放射線と体に影響を与えない、恐れる必要のない放射線について知っていただけましたら幸いです。
農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/pdf/120301_kiso.pdf