肋骨(あばら骨)の痛みは、日常的に多くの方が経験すると言われています。すぐに痛みが治まる場合や痛みが繰り返さない場合、多くのケースでは様子見で問題ありません。
しかし、痛みが長く続いたり、急に激しくなったりする場合は深刻な病気が潜んでいる可能性があります。肋骨が痛む原因になり得る病気の中でも、特に注意が必要なのはがんです。
この記事では、肋骨の痛みとがんの関係について詳しく解説します。
目次
肋骨を押すと痛いのはがんが関係している?
結論から言えば、肋骨の痛みががんによる可能性はあります。しかし、それは「可能性がないわけではない」というレベルです。肋骨の痛みの多くは、他の病気や要因によるものとされています。
とはいえ、肋骨の痛みとがんが関係しているケースもあることは事実です。例えば、体幹部にできた悪性骨腫瘍が考えられます。悪性骨腫瘍は、転移性骨腫瘍と原発性骨悪性腫瘍に分けられます。
転移性骨腫瘍とは、ほかの臓器でできたがんが骨に転移したものです。肺がん、乳がん、前立腺がんは、骨に転移しやすいと言われています。
原発性悪性骨腫瘍は、骨そのものに発生したがんのことです。骨腫瘍が発生した場合、骨の痛みだけではなく、炎症に伴う腫れも伴うことが多くなります。
次に、肋骨の痛みの原因となり得るがん以外の重大な病気を詳しく見てみましょう。
左の肋骨が痛む場合
左肋骨の下がズキズキと痛む場合、急性膵炎(すいえん)の可能性があるとされています。急性膵炎とは、食べ物の消化を助ける膵臓の急性炎症で、膵臓そのものはもちろん、その周辺の臓器に障害を与える可能性がある病気です。
急性膵炎の原因は、過度な飲酒や脂っこい食事、肥満などです。のたうち回るほどの強い痛みを伴うケースもあります。急性膵炎を放置していると、細菌感染から敗血症性ショックを起こす可能性があり、敗血症性ショックは命にかかわる重大な症状のため、早急に消化器内科を受診しましょう。
右の肋骨が痛む場合
右肋骨が痛む原因となり得る重大な病気のひとつに、左肋骨と同様に急性膵炎が挙げられます。先述したように急性膵炎は非常に恐ろしい病気です。症状が見られたら早急に消化器内科を受診してください。
さらに、胆石症も右肋骨の痛みの原因になり得ます。胆石症とは胆のうや胆管にできた結石が肋骨部分の痛みや発熱、黄疸などの症状を引き起こす病気です。胆石症を放っておくと、胆のう炎、胆管炎、膵炎、胆のうがんの重大な病気になってしまうリスクがあります。右肋骨の痛みのほかに発熱や黄疸などの胆石症を思わせる症状が表れたら、なるべく早く消化器内科を受診しましょう。
また、肋骨(特に背中側)が痛む原因として、尿路感染症も考えられます。尿路感染症とは、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)に細菌やウイルスが感染して炎症を起こす病気のことです。左肋骨下の痛みに加えて、排尿痛や残尿感、頻尿、血尿などの症状が出現します。
尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)で感染した細菌やウイルスが腎盂にまで達して増殖すると腎盂腎炎を発症する可能性があります。腎盂腎炎は重症化すると命を落とす可能性のある怖い病気です。気になる症状があるときには、できるだけ速やかに泌尿器科を受診しましょう。
肋骨の痛みの原因は?

ここまで肋骨の痛みとがんをはじめとした重篤な病気との関係を詳しく見てきました。ここまでで挙げてきたような病気が原因で、肋骨が痛むということも少なくはありません。
しかし、肋骨に痛みの原因のほとんどは肋軟骨炎もしくは肋間神経痛です。ここでは、肋軟骨炎と肋間神経痛の症状や原因について詳しく見ていきましょう。
肋軟骨炎とは
肋軟骨とは、胸骨と肋骨をつなぐ部分にある軟骨のことです。肋骨と胸骨の衝突や摩擦を防ぐ役割を持ちます。その肋軟骨に起きる炎症が肋軟骨炎です。
肋軟骨炎の主な症状は胸骨や肋骨部分の痛みです。上肢の運動や深呼吸を伴う活動時に痛みが出ることが多く、安静時には自覚症状がないことも少なくありません。また、重いものを持ち上げたり、くしゃみや咳をしたりなどで症状が悪化することもあります。
肋軟骨炎の原因と治療法
肋軟骨炎の原因は、十分に解明されていません。しかし、「胸部に何らかの強いダメージが加わる」「同じ動作を繰り返し行うことで、筋肉や関節などに繰り返し負荷がかかる」「重いものを持ち上げる」などのほか、激しい運動、激しい咳が主な原因として考えられています。
一番有効な治療法は、安静にすることです。痛みがあるうちは、重いものを持ったり、激しい運動をしたりということは避けましょう。そして、痛み止めを用いて炎症が治まるのを待つというのが肋軟骨炎の基本的な治療方法です。
肋間神経痛とは
肋骨に沿って走っている神経を肋間神経と呼び、この肋間神経が痛む症状が肋間神経痛です。主な症状は胸部から肋骨、わき腹にかけての痛みです。この部分に症状が集中するのは、背骨から肋骨に沿って肋間神経が通っているためです。
痛み方は原因によって異なりますが、「電気が通ったような、しびれるような痛み」「ジクジクとした痛みが長期間続く」といった症状を訴える方も少なくありません。
肋間神経痛の原因と治療法
肋間神経痛は原因の明らかなものと、不明なものとに分けられます。原因が明らかな肋間神経痛が「症候性肋間神経痛」、特定できない肋間神経痛が「特発性肋間神経痛」です。
「症候性肋間神経痛」の主な原因は、変形性脊椎症・胸椎椎間板ヘルニア・脊椎腫瘍など脊椎に原因があるケースと、肋骨骨折や肋骨腫瘍などの肋骨が原因となるケースの2種類に分かれます。
脊椎や肋骨に問題がなくても肋間神経痛が起こるケースもあります。それは、帯状疱疹を原因とした肋間神経痛です。帯状疱疹は通常、帯状疱疹ウイルスが皮膚に達して皮膚炎などを起こしますが、胸部に発症した場合、肋間神経痛も併発します。
肋間神経痛の治療方法は原因によって異なります。胸部の外傷による肋間神経痛の場合の治療は、消炎鎮痛薬の内服です。
脊椎が原因の場合、MRIやCTなど画像検査をしたうえで、重症度によっては手術が行われることもあります。
帯状疱疹が原因の場合は、発症直後であれば抗ウイルス薬の投与、症状が強い場合は神経障害性疼痛専用の内服薬が有効です。
肋骨を押すと痛いときは何科を受診すればいい?

これまでお伝えしてきたように、一口に「肋骨の痛み」と言っても、原因はさまざまです。肋骨の痛みの原因ががんなどの重大な病気のケースもあれば、骨折などの外傷、あるいは帯状疱疹というケースもあります。そのため、「自分は何科を受診したらいいか分からない」という方もいることでしょう。
転倒したり事故に遭ったりなど、明らかに外傷が原因である場合は、骨折の可能性があるため、整形外科を受診しましょう。外傷がないにもかかわらず、肋骨が痛む場合は、内科をおすすめします。
ただし、我慢できないほどの痛み、じっとしていられないほどの痛みなど、痛みが非常に強い場合は急性膵炎や腎盂腎炎といった重大な病気の恐れがありますので、すぐに総合病院の消化器内科や一般内科を受診しましょう。
肋骨の痛みでがんの可能性は低いが、できるだけ早く専門医を受診しよう

肋骨の内側には、肺や肝臓、脾臓、胆のうなどの臓器があるため、肋骨を押すと痛みが生じると、これらの臓器に異常があるのではと心配する方もいることでしょう。中には、「肋骨を押すと痛い。自分はがんなのでは?」と不安になる方もいると思います。
肋骨の痛みの原因ががんである可能性もありますが、まれと言われています。ただし、原因ががんではなくても、急性膵炎や腎盂腎炎、胆のう炎、胆管炎といった危険な病気の可能性も考えられます。気になる症状が現れたら、できるだけ早く専門医を受診しましょう。