小児がんの余命はどれくらい?生存率や症状、治療方法を解説

小児がんの余命はどれくらい?生存率や症状、治療方法を解説

日本人の2人に1人は生涯のうちに一度は罹患すると言われているほど、がんは一般的な病気です(※1)。がんの多くは老化の一種と考えられていますが、成人だけでなく、子どももがんに罹患する可能性があります。

この記事では、15歳未満の子どものがんである小児がんに焦点を当て、主な症状、生存率、治療方法などを詳しく解説します。

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目次

小児がんとは

小児がんとは、子どもがかかるがんの総称です。具体的には、0~14歳の子ども、いわゆる小児期に発生するがんの総称であり、「小児がん」という特定の病気があるわけではありません(※2)

小児がんのうち、約3分の1が血液のがんである白血病、残りが固まりを形成する固形がんです。固形がんのうちの半数近くが脳腫瘍で、大人のがんに多い胃がんや大腸がんなどのがんは極めてまれとなっています(※3)

自分の子どもが小児がんと診断されたときにどのような心構えでいるべきか、より詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

小児がんの種類

国立がん研究センターの調査によると、小児がんで最も多いのが白血病で全体の約38%。次いで、脳腫瘍(16%)、リンパ腫(9%)、胚細胞腫瘍・性腺腫瘍(8%)、神経芽腫(7%)の順となっています(※4)

小児がんの罹患率は、15歳未満の小児人口1万人あたり約1.1人というデータ結果となっています(※5)。人口10万人あたり362.2人(男性431.6人、女性313.7人)が罹患する成人のがんと比べて、小児がんの罹患率は極めて低いのが特徴です(※6)

また、小児がんは成人のがんとは原因も異なります。成人のがんの多くは加齢と生活習慣が主な原因と考えられています。一方で、小児がんの原因は成長や発達の過程で発生した異常な細胞の増殖と考えられています。また、中には眼のがんの一種である網膜芽細胞腫のように遺伝性の強いものもあります。

小児がんの主な症状

胃がんであればみぞおち周辺の痛みや不快感、大腸がんであれば血便や便性状の変化、排便習慣の変化などが代表的な症状として挙げられますが、小児がんの症状に特別なものはありません。風邪のような症状や、体の痛みが続くなどの理由で医療機関を受診した結果、小児がんが発見されるケースもあります。

しかし、患者である子ども自身や家族が、がんの症状に気がつかない場合でも、よくよく考えてみると数カ月前から何らかの症状が出ていることもあります。発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、⾻・関節の痛み、筋⾁のしこり、お腹のしこりなどがそれに該当するでしょう。

普段とは異なる様子、いつもの風邪の治りが長引いているなど、気になる症状が出た場合にはできるだけ早く医療機関を受診しましょう。

小児がんの原因や初期症状についてより詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

余命の意味とは

お子さんが小児がんにかかってしまった方が最も気になることのひとつが、余命はどれくらいか、つまり「あとどれだけ生きられるか」ではないでしょうか。

小児がんの余命を知る前に、まず余命とはどういうものなのか、その意味を正しく知る必要があります。

余命とは、「がん」と診断された人があとどれくらい生きられるかといった期待値のことです。これはあくまで推測であり、患者さんが生きられる期間を正確に予測できるものではないということを、まずは頭に入れておきましょう。

余命の算出は、病状の変化のスピードや症状の有無と程度、採血結果、画像検査の結果、5年生存率などの疾患に関するデータなど、さまざまなデータを用いてますが、あくまで推測にすぎません。余命より前に亡くなってしまう人もいれば、余命より長く生きる人もいます。もちろん、余命を告げられた後でがんが完治したというケースも少なくありません。医師から余命宣告をされた場合でも、その数字に振り回されるのではなく、あくまで可能性のひとつとして冷静に受け止める必要があります。

小児がんの生存率

小児がんの生存率は大人のがんと比較してどのような特徴があるのでしょうか。

小児がんは、若いだけにがん細胞も元気でがんの進行スピードも速い傾向です。気がついたら手の施しようのない状態だったということもあります。とはいえ、早期発見できれば多くの小児がんは助かる可能性が高いのも事実です。

また、小児がんは成人のがんと比べると、抗がん剤治療や放射線治療の効果が高いという特徴があります。早期に発見し、きちんと治療を行えば小児がんの5年生存率は平均でも70~80%を超えると言われています(※3)

国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センターが公表している小児がんの5年生存率の集計結果は下記の表の通りです。

実測生存率(%)相対生存率(%)
白血病87.988.0
リンパ腫90.690.7
脳腫瘍74.574.6
神経芽腫78.578.6
網膜芽腫95.295.4
腎腫瘍93.893.8
肝腫瘍87.087.1
骨腫瘍70.470.5
軟部腫瘍79.279.3
胚細胞腫瘍96.596.6
出典:国立がん研究センター|小児がんの患者数(がん統計)

小児がんの治療方法

小児がんの標準治療として大人のがんと同じように薬物療法、放射線治療、手術の3つが挙げられますが、小児がんの場合、これらの治療方法を組み合わせた「集学的治療」が行われることも少なくありません。

それぞれ単独の治療法では十分な効果が得られない場合、より高い効果を期待してそれぞれの治療方法を組み合わせて行われます。ここでは集学的治療の基礎となる、3つの標準治療の概要を見ていきましょう。

薬物療法

薬物療法とは、薬によってがんの進行を抑え、がん細胞を攻撃する治療方法であり、最終的にはがん細胞を死滅させることが目的となります。主な薬の種類として、がん細胞の増殖の仕組みを阻害してがん細胞をたたく「細胞障害性抗がん薬」、がん細胞の増殖に重要な役割を担うタンパク質などを標的にがん細胞を攻撃する「分子標的薬」などがあります。

大人のがんと比べると、小児がんは薬物療法の効果が高く、手術がメインの治療であっても、補助的に薬物療法を行うケースも少なくありません。

放射線治療

放射線治療とは、がん細胞に直接、放射線を照射して細胞を死滅させる治療方法です。薬物治療と同様、大人のがんに比べると放射線治療の治療効果が高いため、少ない放射線量でも高い効果が期待できるでしょう。放射線治療以外にも、手術前にがん細胞を小さくするためや再発を予防するために補助的な治療として行われることもあります。

手術

脳腫瘍や神経芽腫、腎芽腫といった固形小児がんでは、手術で腫瘍や臓器の悪い部分を切除する治療方法が行われることが多い傾向です。小児外科が中心で行われる治療ですが、がんの種類や場所によっては、脳外科、泌尿器科、整形外科などの医師が治療に加わることもあります。

再発時の治療

残念ながら、治療をして治ったように見えても、がんは再発したり、転移したりする病気です。小児がんであっても再発する可能性はあります。再発や転移した小児がんに関しては、これまでの治療内容とその効果、現在の病状、全身状態など複合的に判断したうえで最適な治療方法が選択されます。

辛いときは我慢せずに支援団体や専門家に助けを求めよう

愛するわが子ががんという命にかかわる病気になってしまった場合、親御さんは大きな恐怖感に襲われてしまうでしょう。おそらく「何がいけなかったのだろう」「もう少し早く発見できなかったのか」など、自分を責めてしまう親御さんもいると思います。そんなつらいときは、担当医や看護師などの医療従事者、がん相談⽀援センターなどの支援団体に助けを求めましょう。

また、心理的につらい状況が長続きし、抑うつ状態になってしまうなど、生活に支障をきたしてしまう親御さんも少なくありません。そんな方は、自分ひとり、あるいは家族だけで悩まず、専⾨家による精神的ケアを受けることをおすすめします。

(※1)国立がん研究センター|最新がん統計
(※2)独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター|AYA(思春期・若年成人)世代がんへの取り組みについて
(※3)国立がん研究センター|小児がんの患者数(がん統計)
(※4)国立がん研究センター|小児・AYA世代のがん罹患
(※5)九州大学病院 がんセンター|小児がん
(※6)国立がん研究センター|日本のがん罹患数・率の全国値公表(2015年集計)
参照日:2024年7月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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