「○○を食べるとがんになる」「○○をすると免疫が上がってがんになりにくい」などと日常生活でよく聞きますね。
今回はその、がんの原因となるリスクについてご説明したいと思います。
がんを引き起こすとされる原因は全てのがんに共通しているわけではありません。あるがんにおいては、大きなリスクとなりうるものが、その他のがんでは無関係と考えられているなど、がんの種類によって原因は異なります。
しかし、今現在、ある程度がんのリスクと考えられているものは限定されています。これまでの研究によって一定以上、がんの原因となることが確実視されているものをご紹介します。
目次
がんを防ぐための12か条
まず初めに、ご紹介したいのがこちらです。
2011年に日本対がん協会が「がんを防ぐための新12か条※」というものを発表しました。
- たばこは吸わない
- 他人のたばこの煙をできるだけ避ける
- お酒はほどほどに
- バランスのとれた食生活を
- 塩辛い食品は控えめに
- 野菜や果物は不足にならないように
- 適度に運動
- 適切な体重維持
- ウイルスや細菌の感染予防と治療
- 定期的ながん検診を
- 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
- 正しいがん情報でがんを知ることから
これは、がんを予防するために私たちが日常生活でできることをまとめたものです。逆に言えば、これらの要素ががんの原因になるとも言えます。
このうち、主に「たばこ・お酒・食生活・運動・体重維持」の5つに注目してご説明してゆきたいと思います。これらはどんながんの原因となるのでしょうか。
※参考:日本対がん協会
どんながんになりやすいか
喫煙
なりやすくなるがんの種類(肺・肝臓・胃・食道・子宮頸・頭頸・膀胱・血液(急性骨髄性白血病において))
喫煙ががんの原因になることは誰もが知っていることですが、実際に様々ながんになりやすくなることが明らかになっています。
タバコを吸う人は吸わない人に比べてがんになるリスクが1.5倍にもなると言われています。また、がんになった人のうちタバコが原因と考えられる人は男性では30%、女性では5%とも言われています。喫煙はがんの原因トップクラスと言ってよいでしょう。
また、受動喫煙もがんの原因となります。受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんのリスクが1.3倍に上がるとされています。まだ「可能性あり」の段階ですが、乳がんにもなりやすくなると推測されています。
自分がタバコを吸わなくても、家族や職場に喫煙者がいる場合注意すべきでしょう。
飲酒
なりやすくなるがんの種類(肝臓・大腸各部・食道)
お酒に含まれているエタノールが分解されて作られる「アセトアルデヒド」ががんの発生に関わるとされています。
毎日飲酒する場合の適量はビールなら大びん1本までです。
さらに、タバコとお酒が重なると発生率は急増します。タバコを吸う人で毎日1合から2合の飲酒をする人は時々飲む人に比べ1.9倍にも増えるというデータもあります。
まったく飲んではダメということはありませんので、適量以上飲んでいる人は徐々に量を減らす心がけが必要でしょう。
肥満
なりやすくなるがん(乳・肝臓・大腸各部)
肥満もがんのリスクとなります。特に閉経後の女性の乳がんのリスク上昇は確実とされていて、肝臓がん・大腸がんもほぼ確実とされています。
肥満かどうかは数字で確認することができます。それがよく言われるBMIです。
BMIは体重(kg)/身長(m)2で計算することができます。男性の適正なBMI値は21~27、女性は21~25です。これをオーバーする人は要注意です。
BMIが1増加するごとに大腸がんのリスクは男性で1.03倍、女性で1.02 倍、閉経前・閉経後乳がんはそれぞれ1.03倍、1.05倍上倍上がることが分かりました。
他の要因と比べそこまで強いリスクとなりません。また、日本人は痩せすぎに注意した方が良いでしょう。痩せすぎは免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、脳出血を起こしやすくしたりすることがわかっています。
いずれにしても、適正体重を維持することが大切です。
運動不足
なりやすくなるがん(大腸(主に結腸))
体を動かすこともがんの抑制には大切です。運動によって免疫力が高まることが理由とされています。さらに、運動が肥満防止に直結することは明らかですね。
推奨されている運動量は、歩行程度の運動を毎日60分と息が弾み、汗が出るくらいの運動を毎週60分とされています。これはどちらかではなく「どちらも」です。
普段、運動習慣がない人にはなかなか達成レベルの高い目標ではないでしょうか。
食事
なりやすくなるがんの種類((塩分過多)胃)
日本だけでなく、世界においても過剰な塩分摂取が胃がんのリスクを上げることはほぼ確実だとされています。日々の食生活において、塩分の摂取は最小限にしたいところです。
厚生労働省が推奨する日本人の一日の食塩摂取量の基準は男性8g、女性7gですが、できるだけ塩分を摂らないことが望ましいとされています。
その一方で2014年の調査では、平均して一日に男性が11g、女性9g塩分を摂取していることが明らかになりました。なかなか塩分を下げる食事を続けることは難しそうです。
なりやすくなるがんの種類((熱い飲食物)食道)
熱い飲食物を飲み込んで、食道の粘膜が傷つくことで食道がんのリスクが上がることはほぼ確実とされています。おかゆやお茶漬けを流しこんだり熱い飲み物を冷まさず飲んだりすることは控えましょう。
予備知識として
感染症
なりやすくなるがんの種類(肝臓・胃・子宮頸)
まず、肝臓がんのリスクとして最も重要視されているのは、B型・C型肝炎ウイルスです。
肝臓がんの8割がこのウイルスから発生するとされていることからわかるように、肝炎ウイルスは肝臓がんの最大の原因です。肝炎ウイルスの検査を受け、陽性であれば治療を受けましょう。
子宮頸がんのリスクとして、ヒトパピローマウイルスが挙げられます。
このウイルスは性交渉により感染します。感染自体はよくあることで、性交経験のある女性は一生に一度は感染するものです。子宮頸がんの引き金となりうるのは、ヒトパピローマウイルスの16型と18型というタイプの継続的な感染で、徐々に子宮頸部の細胞をがん化されることがわかっています。
胃がんのリスクを上げることが確実とされているのが、ヘリコバクターピロリ菌です。
ピロリ菌陰性の人と比べ、現在の陽性者、過去も含めた陽性者のリスクはそれぞれ、5倍、10倍であることが報告されています。胃がんになった人の6から10割が感染者である一方、胃がんでない人も4から9割が感染していると言われ、日本人、特に中高年の感染率は非常に高いのが特徴です。
胃の内視鏡検査やピロリ菌の検査を受けることをお勧めします。
その他
糖尿病→肝臓・膵臓
アスベスト→肺
上記でご紹介したがんは『リスクとなることが「確実」または「ほぼ確実」』とみられているものだけです。
「可能性はあるが、まだデータがとぼしい」というレベルのがんは挙げていません。
これらが今後、研究を重ねるにつれてがんの原因とされる可能性は十分あると思います。ですので「長年食事に気を付けているから、自分はがんになるはずはない」などと思いこまずに、長期的な視点で体に気を配り、質の良い生活習慣を保つことが必要といえるでしょう。
5つの生活習慣を守ればがんは減らせる?
今回ご紹介したタバコ・お酒・食事・運動・体重維持は、私たちの生活に密接にかかわっているものです。一つずつご紹介しましたが、私たちは常に複数の要因と関わって日常生活を送っています。
そこで、最後にこれら5つの生活要因を組み合わせて、それがどれほどがんを防ぐ効果があるか実験したデータをご紹介したいと思います。
5つの生活習慣のうち0個もしくは1個の生活習慣を守る人を基準にして、2個以上実践している人のがんのリスクを計算します。すると、1個生活習慣を追加して実践するごとに、男性では14%。女性では9%がんのリスクが低下するという結果になりました。
参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ
この結果、1つでも多く気を付ければ気を付けるほどがんを抑える効果が高まるということがわかりました。
がんの原因はいまだ、全てが明らかになってはいませんが、このように身近な生活習慣を改善することで、がんを抑える効果を期待できるのです。大きく変えるのは難しいかもしれませんが、日常生活において少しずつ取り入れられることから実践してみてください。
国立研究開発法人 国立がん研究センター National Cancer Center 予防研究グループhttps://epi.ncc.go.jp/files/11_publications/Can_prev_pamphlet_4w.pdf
国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/knowledge/301.pdf