ほくろと思っていたらがんだった――。
こんな話を聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。
確かに「がんのようなほくろ」あるいは「ほくろのような皮膚がん」は存在します。
それでは、ほくろとがんとは、どのように見分ければよいのでしょうか。そして、どんなほくろに気をつけなければならないのでしょうか。ほくろのような皮膚がんにかかってしまったときの治療方法とともに詳しくお伝えします。
目次
ほくろとがんの違い
まずは、ほくろとがんの違いを見ていきましょう。ほくろとがんは、そもそもどのような関係なのでしょうか。
ほくろとは?
ほくろは医学的には、色素性母斑(しきそせいぼはん)あるいは母斑細胞母斑と呼ばれています。母斑細胞という色素細胞に似た細胞が増殖することで起こります。
色素細胞が増える良性のできもので、生まれつきや子どもの頃にできたものだけでなく、大人になってからできるものも少なくありません。
ほくろはできたばかりの頃は成長しますが、その多くは直径6ミリにとどまります。
大人になってからできるほくろの中には、まれに直径7ミリ以上に成長したり、形状に変化が生じたりすることがあります。その場合は、皮膚がんなど他の病気の可能性があるためできるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
メラノーマはどんながん?
ほくろと間違われやすいのがメラノーマという皮膚がんです。
メラノーマは、いわゆる「ほくろのような皮膚がん」として知られています。
メラノーマの正式名称は悪性黒色腫です。皮膚の色素を作る色素細胞ががん化した腫瘍(しゅよう)で、皮膚がんの中でも悪性度が高いといわれています。
メラノーマが進行してしまうと、がん細胞が内臓に転移して命の危険にさらされてしまう可能性があります。メラノーマは皮膚にできるがんであり、目視で発見が可能です。早期に発見できれば小さな切除で済むがんでもある ため、できるだけ早く完全に摘出すべき疾患と考えられているのです。
日本人の場合、足の裏や手のひら、手足の爪下部に発症するケースが多く なっています。また、胸や腹、背中といった体の中心部に発症するケースも少なくありません。
基底細胞がんはどんながん?
メラノーマと並んで、ほくろと間違われやすいがんの一つが基底細胞がんです。
皮膚は、皮膚の表面に近いところから表皮、真皮、皮下組織に分かれます。表皮のうちで最も下部に位置する基底細胞にできるがんが基底細胞がんです。
体のどこにでもできるがんですが、発症部位として多いのが顔 です。なお、メラノーマと違い、内臓やリンパ節に転移することはあまりありません。
はっきりとした原因は明らかになっていませんが、 紫外線や放射線、やけどの跡などが発生原因として考えられています。
どんなほくろに気をつければいい?
ほくろは良性のできもので、放っておいても心配はありません。
しかし、「ほくろのような皮膚がん」である場合、早期の治療が必要です。
「ほくろだと思って放置していたら皮膚がんで、わかったときには手遅れだった」ということにならないよう、メラノーマや基底細胞がんを疑うポイントを見ていきましょう。
メラノーマを疑うポイント
前述の通り日本人の場合、メラノーマは足の裏や手のひら、手足の爪下部に発症するケースが多くなっています。
そのため、手足などの末端部分にほくろができた場合は要注意です。
大人になってから手足にできるほくろのようなもの全てがメラノーマというわけではありませんが、大きなほくろが突然できた場合は、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
また、次のようなほくろ状のものができた場合にも早期に皮膚科を受診することをおすすめします。
- 形が左右対称ではない
- ほくろの周りがギザギザしている
- ほくろの色が均一ではない
- ほくろの直径が7ミリ以上ある
- ほくろやシミだったものが数カ月で広がる、または盛り上がる
基底細胞がんを疑うポイント
基底細胞がんは、日本人の場合、黒くなることが多いことからほくろと間違われることがあります。
基底細胞がんは、結節・潰瘍型、表在型、斑状強皮症型の3種類に分かれます。
このうち、ほくろと間違われやすいのが結節・潰瘍型です。
結節・潰瘍型の基底細胞がんは直径1~2ミリ程度の黒い点が、皮膚の表面に 現れます。最初のうちは小さなほくろのようですが、徐々に大きく盛り上がっていきます。その後、中心部がへこんで潰瘍になります。ほくろが徐々に大きくなっていく場合は早めに皮膚科を受診してください。
なお、表在型は、色はほくろのように黒くはなく淡い紅色をしていて、正常な皮膚との境界がはっきりしているのが特徴です。斑状強皮症型の色は淡い紅色で、中心部は固く盛り上がっています。
治療方法はどうなっている?
もし、ほくろだと思っていたものが皮膚がんだとわかったら、どのように治療していくことになるのでしょうか。
メラノーマの治療法
メラノーマは皮膚がんの中でも悪性度が高く、進行してしまうとがん細胞が内臓やリンパ節に転移してしまうことがあります。もしそうなると、命の危険にさらされてしまうことになりかねません。
また、抗がん剤や放射線治療の効果があまり期待できない病気でもあるため、治療の基本はがん細胞を全て切除することになります 。周辺にも見えないがん細胞が広がっている可能性があるため、進行具合や深さを考慮して腫瘍の端からより広範囲に切除 します。
メラノーマは、リンパ節転移や内臓や脳への転移など遠隔転移が生じやすいため、手術後も定期的に検査が必要です。
再発が多いのは、2~3年以内ですが、まれに10~20年後の再発も 見られます。このように長い期間をかけて転移するケースもありますので、経過観察のための通院期間は設けず、病状が安定した後も半年~1年に1回通院を続けるなど定期的な通院 をおすすめします。
基底細胞がんの治療法
基底細胞がんの治療の基本も、メラノーマと同様、がんの切除です。腫瘍の端から3~5ミリ ほど広めに手術により切除します。
基底細胞がんは、顔に発生することが多いため、がんの場所や切除部分の大きさによっては、見た目を損なわないための再建手術が行われるケースもあります。
手術後は経過観察が行われることになりますが、経過観察の期間については明確に決められているわけではありません。一般的には、手術した年は半年に1度、その後、2~3年間は年に1度の検査が行われています。 再発の80%は5年以内であり、再発リスクが高い場合は 5年間の経過観察が推奨されています。
なお、切除が困難な場所にがんが発生した場合や、高齢などで手術が難しい場合は放射線治療が行われますが、根治度は手術に比べると劣ってしまいます。また、まれなケースですが、がん細胞が転移した場合は抗がん剤による治療が行われることもあります。
がんとほくろについて【まとめ】
急にほくろができると「がんになってしまったかも」と不安になる方もいるでしょう。
しかし急にできるほくろの全てががんということではなく、むしろ何の問題もないことも少なくありません。とはいえ、「ほくろに見えるがん」があることも事実です。
「ほくろに見えるがん」には、メラノーマや基底細胞がんがありますが、よく観察するとほくろと違うポイントがあります。病変を見逃さないためには、注意深く観察するとともに、定期的なチェックが有効です。1年に1回は全身のほくろをチェックして、がんと疑われるようなほくろが見つかったら、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
1.公益社団法人日本皮膚科学会|メラノーマ(ほくろのがん)
2.あおよこ皮膚科クリニック|皮膚の悪性腫瘍(皮膚がん)
3.日本医科大学武蔵小杉病院|「ほくろ」「できもの」と『がん』|日本医科大学武蔵小杉病院
4.Novartis Japan|目で見てわかるホクロのがん 「メラノーマ」の早期発見・早期治療のために
5.公益社団法人 日本皮膚科学会|メラノーマ(ほくろのがん) Q2
6.国立がん研究センター がん情報サービス|基底細胞がん
7.国立がん研究センター 希少がんセンター|基底細胞がん
8.巣鴨千石皮ふ科|ほくろの盛り上がりは悪性?危ないほくろの見分け方、除去の方法など
参照日:2023年2月