骨・軟部腫瘍といわれるとあまりイメージが湧かないかもしれません。その名の通りですが、骨腫瘍と軟部腫瘍のことを示します。他の肺がんや胃がんなどと比較すると馴染みがないと思いますが、悪性のものでは切断が必要になることもあります。
骨腫瘍=骨肉腫と思われている方もいますが、骨肉腫は骨腫瘍の中の一つです。また、一方でよく聞くガングリオンなど良性の軟部腫瘍も含まれており、腫瘍=悪性というわけではありません。軟部腫瘍の分類で最も一般的なWHO分類(2002)では、軟部腫瘍は良性と悪性あわせて100種類以上あり、そのうち悪性腫瘍は40種類程度と多種多様で、診断が難しいとされています。また、WHO分類(2013)では、骨腫瘍にも良性と悪性の間に中間性の概念が導入され、ますます細分化されてきています。
ここでは、骨・軟部腫瘍に関して詳しく紹介させていただきますので、これを読んで不安に思うことがあれば医療機関、主には整形外科を受診してください。
目次
骨・軟部腫瘍とは
ここからは骨腫瘍と軟部腫瘍に分けて見ていきましょう。
骨腫瘍は大きく原発性骨腫瘍、骨腫瘍類似疾患、続発性骨腫瘍の3つに分けられます。続発性骨腫瘍のほとんどは転移性骨腫瘍であり、全骨腫瘍の中では転移性骨腫瘍が最も多いです。
- 原発性骨腫瘍
- 骨から発生した腫瘍
- 骨腫瘍類似疾患
- 骨に発生し骨腫瘍と似ているが、性質が真の腫瘍とは異なるもの
- 続発性骨腫瘍
- 肺がんなど原疾患に引き続いて発生する骨腫瘍
頻度としては、原発性骨腫瘍の良性腫瘍としては骨軟骨腫、内軟骨腫、骨巨細胞腫、類骨肉腫の順に多く、悪性腫瘍としては骨肉腫、軟骨肉腫、Ewing肉腫の順に多いです。骨腫瘍類似疾患の中では、単発性骨嚢腫、線維性骨異形成症、動脈瘤様骨嚢腫、好酸球性肉芽腫の順に多いとされています。悪性の頻度は骨原発性腫瘍では約0.5人/10万人であり、他のがんと比較すると極めて頻度が少ないです。
軟部腫瘍とは軟部組織から発生する腫瘍の総称です。部位を問わず、全身のどこにでも発生し、皮下や腱・靱帯、脂肪組織、筋組織、神経・血管やリンパ管組織などから発生します。また、骨腫瘍と異なり、悪性軟部腫瘍は軟部肉腫とも呼ばれます。
軟部腫瘍でよくある相談内容
整形外科で診療していると、患者さんからは”しこり”として相談されることが多いです。
悪性軟部腫瘍の特徴としては
- 大きい(5cm以上)
- 深在性(表在筋膜より深いところ、筋肉内や筋間などに局在するもの)
- 増大速度が速い
- 無痛性が多い
などの特徴があるとされていますが、これは絶対ではなく特徴とは異なることも多々あります。
全国骨・軟部腫瘍登録(2013年)では、良性軟部腫瘍では、脂肪腫、神経鞘腫、血管腫の順に多く、悪性軟部腫瘍では、脂肪肉腫、未分化高悪性多形肉腫が主です。悪性の頻度は軟部肉腫としては約2人/10万人であり、軟部悪性腫瘍も他のがんと比較すると極めて頻度が少ないです。
良性軟部腫瘍として日常診療で診る機会が比較的多い代表的なものとしては、ガングリオン、神経鞘腫、グロムス腫瘍、脂肪腫などがあります。
骨・軟部腫瘍になりやすい人の特徴
原発性骨腫瘍の多くは良悪性とも10~20代の小児期から思春期に発症し、好発部位は長管骨(上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨)の中でも細胞増殖が活発な骨幹端部です
まる整骨院
転移性骨腫瘍は50歳以上に好発します。良性軟部腫瘍に関しては、あらゆる年齢層に発生し、軟部肉腫は横紋筋肉腫や滑膜肉腫などを除くと中高年での発生頻度が高いとされています。
良性腫瘍は、骨・軟部ともに長期間経過しても進行しない、または緩徐な経過で進行するものが多く、悪性腫瘍は組織型により化学療法の感受性が高いもの、低いもの、浸潤性、非浸潤性など病態が異なるので、治療に際しては病理組織診断が重要となります。しかし、骨・軟部腫瘍の種類は多種多様であり、組織診断に関して病理医も非常に困ることが多くあります。
近年、分子生物学的研究の発展により腫瘍に特異的な融合遺伝子が明らかとなり、診断に応用されてきています。細かい話になってしまいますが、骨・軟部主要における主な融合遺伝子としては、滑膜肉腫のSYT-SSX1, SYT-SSX2, Ewing肉腫・原始神経外胚葉性腫瘍のEWSR1-FLI1、粘液型・円形細胞型脂肪肉腫のFUS-DDIT3、胞巣型横紋筋肉腫のPAX3-FOXO1A,隆起性皮膚線維肉腫のCOL1A1-PDGFB,軟部明細胞肉腫のEWSR1-ATF1などがあります。
脂肪腫と脂肪肉腫の違い
ここでは良性腫軟部瘍と悪性軟部腫瘍で、それぞれ最多の脂肪腫と脂肪肉腫について見ていきましょう。
脂肪腫
- 由来
- 脂肪細胞
- 好発年齢
- 40~60才
- 好発部位
- 頚部、背部、肩甲部
- 症状
- 無痛性
- 特徴
- 弾性軟
- 治療
- 摘出術
- その他
- 軟部腫瘍の中で例外的に巨大化。まれに多発
脂肪肉腫
- 由来
- 脂肪芽細胞など
- 好発年齢
- 40~60才の男性
- 好発部位
- 下肢
- 症状
- 無痛性
- 特徴
- 硬性軟、時に巨大化
- 治療
- 広範切除術、化学療法、放射線療法
- その他
- 高分化型、粘液型、多形型、脱分化型に分類され,高分化型では脂肪腫と鑑別がつきにくい
好発年齢は一緒なので、部位や性状によってある程度、予測を立てながら、検査をすすめて鑑別していきます。高分化型に関しては脂肪腫と脂肪肉腫の鑑別が困難ですが、脂肪腫と思って広範手術の準備をせず、いざ手術をすると脂肪肉腫だったというのは基本的にあってはならないことなので、慎重に精査しますが術前診断は困難なことがあります。
予防と早期発見のコツ
予防できるものではないのですが、骨腫瘍の症状としては疼痛、腫脹などが主です。
良性骨腫瘍では、無症状のまま経過することも多く、発見されていない良性骨腫瘍はたくさん眠っていると思われます。悪性骨腫瘍では、契機なく疼痛や腫脹が持続します。また、若年者では進行も早いため症状が出たときにはすでに転移しているということも少なくありません。
まずはレントゲン検査にて疼痛・腫脹部位に一致した部位に変化がないか確認します。そこで腫瘍性病変が疑われる際には、CT、MRI、骨シンチグラフィー、FDG-PET、血液検査などに進むことになります。つまり、骨腫瘍の診断の入り口はレントゲン検査であることが大半です。打った覚えもないのに痛みや腫れが長く続く場合は一度整形外科を受診しましょう。
軟部腫瘍に関してはレントゲン検査では軟部組織は薄くシルエットでしか見ることが出来ないので、MRIが基本の検査となります。
良性軟部腫瘍では経過観察となることが多いですが、悪性軟部腫瘍では手術による切除が基本となります。『痛みがないから、そのままにしていました』と言って、切除困難なほどに大きなコブになってから病院などへ来られる方もおられます。
悪性のものは特に周りの組織を巻き込みながら成長していくことが多いため、手術での切除範囲が広大になったり、神経や血管を犠牲にしないといけないこともあったりするため、気になるシコリがあれば痛みがなくても、一度整形外科にご相談ください。
日本整形外科学会骨・軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表、国立がん研究センター,東京,2013軟部腫瘍ガイドライン2102病気がみえるvol.11 運動器・整形外科WHO Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. Fourth Edition
参照日:2020年3月