骨・軟部腫瘍の治療について

ここでは骨・軟部腫瘍に対する治療についてみていきたいと思います。骨・軟部腫瘍には、たくさんの種類があり、その種類によって適切な治療は異なってきます。手術療法に加え、放射線治療が効果的な腫瘍、化学療法が効果的な腫瘍など、腫瘍の種類によって様々です。基本的には、症状のある良性腫瘍と症状の有無にかかわらず悪性腫瘍は手術療法が選択され、腫瘍の種類・大きさによって追加で化学療法や放射線療法が追加されます。

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目次

骨・軟部腫瘍の主な治療法

ここからは、骨腫瘍と軟部腫瘍を分けて見ていきましょう。

骨腫瘍

骨腫瘍の診断がつき、検査にて良性かつ症状がなければ経過観察となることが多いです。その場合は、数ヶ月に1回や年に1回など定期的に腫瘍が大きくなってきていないか、症状が出ていないかの外来でのフォローとなります。症状のない良性腫瘍であっても、増大傾向や病的骨折の危険性がみられる場合には手術適応となります。良性かつ症状があるようであれば、手術療法として掻爬、切除、再建などが選択されます。良性骨腫瘍や軟骨肉腫・傍骨性骨肉腫などの腫瘍では術前の化学療法を行わないため、画像検査や針生検で組織が診断できれば切開生検を行わずに一期的に手術を行います。

検査で悪性である、となると基本的には外科的切除に加え、化学療法・放射線療法が追加されます。悪性骨腫瘍の中でも、骨肉腫やユーイング肉腫など術前から化学療法を行う腫瘍に関しては、手術療法の前に切開生検術を行い腫瘍の一部を採取し、腫瘍組織や遺伝子を調べます。これらの腫瘍は化学療法を行なった後では組織型や遺伝子に変化が起こるためです。

軟部腫瘍

軟部腫瘍の診断がつき、良性かつ症状がない場合には、基本的に手術を行わず経過観察で保存療法となります。疼痛や機能障害をきたす場合、外見上・美容上の問題がある場合には摘出術などの手術療法が選択されます。良性や術前の化学療法・放射線療法を行わない大部分の軟部肉腫では針生検だけで診断してから、手術療法を行います。

悪性の場合には、手術療法が基本となります。さらに悪性の場合には腫瘍周囲も切除する広汎切除術が行われ、必要に応じて化学療法や放射線療法が追加されます。円形細胞肉腫グループ(横紋筋肉腫、軟部ユーイング肉腫など)や腫瘍が巨大な場合・血管や神経に接しており切除までに腫瘍を縮小させたい場合など、術前に化学療法や放射線療法を行う時には切開生検を行い腫瘍の一部を採取し、組織や遺伝子を調べてから手術療法を行います。

手術療法について

骨・軟部腫瘍の治療法は手術療法が基本となります。良性かつ症状がなく、また外見上・機能上にも障害がなければ経過観察となることもありますが、悪性の可能性が少しでもあるならば手術にて確定診断を行うほうが安心です。また、軟骨肉腫や脊索腫に有効な化学療法はなく、軟部の非円形細胞肉腫も化学療法の感受性の問題から、治療は手術的治療が中心となります。

良性腫瘍の手術療法

骨腫瘍

切除
肉眼的に見える病巣部を残さないように正常骨から切除。
(対象腫瘍:外骨腫、類軟骨腫)
掻爬
病巣が肉眼的に見えなくなるまで掻き出す。
骨欠損した部分には、腸骨や人工骨を移植。
(対象腫瘍:骨巨細胞腫、骨嚢腫、内軟骨腫)
ラジオ波焼灼術
ラジオ波を用いて高熱で病巣部を焼く。
(類骨骨腫、一部の転移性骨腫瘍)

軟部腫瘍

切除、摘出
腫瘍を周囲の組織から剥離して取り除く(辺縁切除)
病巣を完全に切除すると機能障害が生じる場合には、主な部分のみを切除し機能温存(病巣内切除)
(対象腫瘍:脂肪腫、神経鞘腫、腱鞘巨細胞腫)

悪性腫瘍の手術療法

広汎切除
腫瘍を正常な組織で包み込むようにして広い範囲で切除。
患肢温存手術
広汎切除を行なった後、機能維持のための手術。
(腫瘍用人工関節置換、血管柄付き骨移植、処理骨移植[液体窒素/温熱処理/パスツールなど]、骨・人工関節のコンポジット移植、形成外科的複合組織移植)
ラジオ波焼灼術
安全な温存術ができないなど他の手術療法が適応とならなかった場合の手術。
義手・義肢にて良好な機能を保てるように回転形成やturn up法なども選択される。

縮小手術などは危険であると理解した上でも、切断や離断をせずに手足を残すことを希望される方もおられます。そのような方には十分にリスクを説明した上で、患肢温存手術を行いますが再発予防のために放射線治療を併用します。

手術療法では、年齢や発生部位など症例ごとに適正な治療計画を設定し、再発しないように慎重に切除範囲を決めながら、機能面は温存するということが大切となってきます。以前は悪性腫瘍に対しては切断・離断だけが選択肢とされることもありましたが、近年では温存手術がスタンダードになってきており、また切断したとしても義手・義足の性能がかなり向上しており、機能面で維持できることが増えてきました。

化学療法について

化学療法は、原則として点滴で行います。抗がん薬としては、アドリアマイシン、イフォスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサートなどがキードラッグであり、さらにエトポシド、ゲムシタビン、ドセタキセル、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド、トラベクテジン、エリブリンなどがあり、いくつかの薬剤を組み合わせて使用することが多いです。軟部肉腫に対する分子標的治療薬としては、パゾパニブがあります。

放射線療法について

放射線療法は単独で行うことは少なく、補助療法として手術と組み合わせて行うことが多いです。放射線をあてることにより腫瘍が縮小することが期待できます。切除縁にも腫瘍が残る場合や切除不能な腫瘍や転移巣に対して単独で行うこともあります。デメリットとしては、線維化、皮膚炎、浮腫、関節拘縮、骨折などの合併症があり、また放射線によって二次がんの発生などのリスクがあることが挙げられます。

その他の治療法

2016年4月より切除不能な骨・軟部肉腫に対して粒子線治療が保険適用となりました。これまで仙骨脊索腫などは比較的高齢者に発症し、手術侵襲や術後の機能障害のことなどを考えると治療できないことがありましたが、このような症例に対しては重粒子線治療のよい適応と考えられます。また、小児の固形癌に対する陽子線治療の有効性も認められ、骨肉腫をはじめとする小児の固形癌に対する陽子線治療も保険適用となりました。

さらに抗RANKL抗体であるデスノスマブ(ランマーク®︎)が骨巨細胞腫に対して有効であり、これも保険適用となっています。

温熱治療、ラジオ波治療、凍結療法などの治療法もあり、保険適用も随時広がっていき、治療の選択肢は年々広まっていきますが、エビデンスもまだ少ないため長期的な合併症など今後も注意が必要です。

骨・軟部腫瘍の再発や転移について

以前は、悪性腫瘍に対して患肢の切除や離断などが多く行われていましたが、現在は広汎切除術が原則行われて、患肢を温存する手術が広く行われています。ただ、局所再発は予後不良因子とされており、病理学的悪性度、MRI初見、化学療法効果などをもとにどの範囲を切除するかは慎重に考えなければいけません。再発や転移をしないように治療を計画していますが、どうしても一定の確率で再発や転移は発生してしまいます。その場合には、年齢や発生部位、悪性度を考慮しながら、症例ごとに治療計画を再度立てることとなります。

日本整形外科学会骨・軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表、国立がん研究センター,東京,2013軟部腫瘍診療ガイドライン2012軟部腫瘍診療ガイドライン2020(仮)病気がみえるvol.11 運動器・整形外科 各骨軟部
がん研有明病院 | 各骨軟部腫瘍
小児慢性特定疾病情報センター | 骨肉腫 概要
WHO Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. Fourth Edition
参照日:2020年3月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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