骨・軟部腫瘍のステージ別生存率

一般に「がん」と聞くと、“生命予後”を気にされることと思います。ここまででお話したように、骨・軟部腫瘍は膨大な種類があり、一概に骨・軟部腫瘍の生命予後は〜とお伝えは出来ません。

骨・軟部腫瘍において、生命予後に関わる要素としては

  • 手術で摘出可能か
  • 化学療法が奏功するか
  • 放射線治療が奏功するか
  • 遠隔転移・リンパ節転移はないか
  • 年齢、部位、深さ、悪性度、大きさ
  • 原発性か、転移性か
  • 再発性か

などがあります。

また、手術で骨・軟部腫瘍を完全に取り除けたとしても、日常生活の質(Quality of Life; QOL)が落ちて、歩けなくなるなどの後遺症・合併症があり、寝たきりになってしまうと、長い目で見ると誤嚥性肺炎や尿路感染症などが起きやすくなり、相対的に生命予後は短くなります。

原発性悪性骨腫瘍の一つである『骨肉腫』に関しては、最も多いためデータが多く、さらに近年、生存率と切断や離断をしない温存率が上昇していることが分かっています。『骨肉腫』は10歳代に好発するため、ご家族やご本人が悲観的な気持ちでここのページにたどり着いた方もおられるかもしれません。

ここでは、少しでもそのような人のお役に立てるように、骨腫瘍では『骨肉腫』を中心に生存率、また手足を残せる温存率について紹介させていただきます。正しい治療を受けていれば完治出来たりや余命が長く出来たりしたであろう人が、間違った医療にすがって治療を受けずに悪化して亡くなるということも見受けられます。どうか科学的・医学的に正しい知識を持って、骨・軟部腫瘍と向き合っていただければと強く思います。

目次

骨・軟部腫瘍の中の悪性骨・軟部腫瘍の種類について

ここからは、骨腫瘍と軟部腫瘍を分けて見ていきましょう。

悪性骨腫瘍の中で、播種・転移のリスクのある腫瘍は以下です。

  • 骨肉腫
  • 傍骨性骨肉腫・骨膜性骨肉腫
  • 未分化多形肉腫(悪性線維性組織球腫)
  • 脊索腫
  • ユーイング肉腫/未熟神経外胚葉性腫瘍(PNET)
  • アダマンチノーマ
  • 軟骨肉腫

これらのうち、化学療法が有効なもの、放射線治療が有効なもの、手術が有効なものなど腫瘍によって有効な治療が異なります。

悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の中で、播種・転移のリスクのある腫瘍は以下です。

  • 未分化多形肉腫(悪性線維性組織球腫)・粘液線維肉腫
  • 脂肪肉腫
  • 滑膜肉腫
  • 平滑筋肉腫
  • 横紋筋肉腫
  • 血管肉腫
  • 神経肉腫
  • 未熟神経外胚葉性腫瘍(PNET)・軟部ユーイング肉腫
  • 骨外性軟骨肉腫
  • 骨外性骨肉腫
  • 胞巣状軟部肉腫
  • 類上皮肉腫
  • 明細胞肉腫
  • 隆起性皮膚線維肉腫
  • 孤立性線維性腫瘍

骨と違って、発生する組織・部位によって名称があるので悪性骨腫瘍と比較すると軟部肉腫は種類としては多くなります。軟部腫瘍に関しては、脂肪腫と血管腫、神経鞘腫を除くと、大きさが5cmを超える腫瘍は悪性腫瘍である可能性が高いといわれています。

骨・軟部腫瘍の悪性度分類・病期分類

悪性度分類において、骨・軟部腫瘍は、悪性と良性に分類されますが、明確にふたつのグループに分けられない中間に位置する腫瘍もあります。

良性腫瘍
腫瘍の播種や転移がない腫瘍です。
良悪性中間腫瘍
腫瘍の局所では発育は盛んですが遠隔転移をしない腫瘍や稀に転移する腫瘍です。2013年のWHO分類では、2002年の軟部腫瘍分類に準じて、骨腫瘍にも良性と悪性の間に中間性(局所侵襲性、低頻度転移性)の概念が導入されました。
悪性腫瘍
悪性腫瘍はさらに3つのグループに分けて考えられます。
転移を生じる頻度が低い腫瘍
組織学的に悪性度が高く、転移や再発性の高い腫瘍
組織学的悪性度に関係なくすでに遠隔転移を生じている腫瘍

病期分類に頻用されているのは、American Joint Committee on Cancer system(AJCC system,表1), Union for International Cancer Control system(UICC system,表2), Surgical staging system(表3)の3つがあります。

AJCC system とUICC system は腫瘍の大きさ、深さ、そして組織学的悪性度を基準に分類しています。これに対しSurgical staging system は腫瘍の大きさが項目になく、深さの代わりに区画内か外かが基準になっています。

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骨軟部腫瘍診療ガイドライン

骨・軟部腫瘍の疾患別・ステージ別5年生存率

下記は一施設の初診時に遠隔転移のなかった『代表的悪性骨腫瘍』の5年生存率です。

疾患名/症例数(例)/5年累積生存率(%)

  • 軟骨肉腫(98例)92.8%
  • 脊索腫(20例)100%
  • 骨ユーイング肉腫(8例)71.1%
  • 骨肉腫(239例)75.4%

次に、一施設の過去10年間の『骨肉腫』の5年生存率です。

遠隔転移の有無/症例数(例)/5年累積生存率(%)

  • 初診時遠隔転移なし(92例)80.7%
  • 初診時遠隔転移あり(13例)30.8%

遠隔転移の有無で5年生存率が大きく異なることが分かります。

わが国における初診時転移のない骨肉腫の5年生存率は70~80%であり、昔と比べると上昇してきています。1970年代以前は、骨肉腫に対する治療は患肢切断による手術療法のみでしたが、多くの患者は術後1年以内に肺転移をきたし、5年生存率は5~10%であったことを考えると、大きな進歩です。

次の記事にて治療法に関しては述べますが、化学療法の有効性がそれ以降次々に報告され、手術療法と化学療法を組み合わせた治療が行われるようになり、手術の器具の進歩もあり現在に至っています。

悪性軟部腫瘍(=軟部肉腫)の生命予後は、前述した病期分類の項目である腫瘍の広がり(大きさ=T因子,リンパ節転移=N因子,遠隔転移=M因子)と生物学的悪性度(組織学的悪性度=G因子)に大きく影響されます。悪性軟部腫瘍は、悪性腫瘍全体からみると1%に満たない希少がんですが、WHO分類(2013年版)では12に大分類され,さらに100以上の組織型に細分類されるきわめて多彩な腫瘍の総称です。

米国National Cancer Database (NCDB)に登録された26,144例の悪性軟部腫瘍の5年全生存割合

病期ステージ/5年生存率(%)

  • stage IA 85.3%
  • stage IB 83.0%
  • stage II 79.0%
  • stage IIIA 62.4%
  • stage IIIB 50.1%
  • stage IV 13.9%

全国軟部腫瘍登録一覧表に2006~2010年に登録された悪性軟部腫瘍3,685例の生存曲線

全国軟部腫瘍登録一覧表に2006~2010年に登録された悪性軟部腫瘍の5年全生存率は77%であり、TNM staging system(第6版)別の5年全生存割合は以下でした。また、同一覧表における主な組織型の5年全生存率は、脂肪肉腫90%、平滑筋肉腫69%、粘液線維肉腫88%、滑膜肉腫72%でした。

病期ステージ/5年生存率(%)

  • stage I 96%
  • stage II 80%
  • stage III 63%
  • stage IV 22%

予後因子は複数あり、個々の患者の予後を推測するのは困難であるため、複数の予後因子をもとに具体的な予後を予測するノモグラムが作成され報告されています。

骨・軟部腫瘍の末期症状とケアに関して

ここまでの話で、遠隔転移がなければ比較的予後の良い腫瘍というのがお分かりいただけたと思いますが、発見時まで症状なく、気付いたときにはすでに遠隔転移していた、ということもあります。

腫瘍の種類によって効果が期待される化学療法・放射線療法・手術療法などを検討・実施されても改善がない場合、痛みが強い場合は疼痛緩和ケアなどが行われます。

腫瘍によっては痛みがないこともあり、側から見ると、何の病気でもなさそうなのに実は骨・軟部腫瘍が体を蝕んでいる方もいます。肺に多発転移と来たして呼吸機能が落ちてしまった場合は酸素投与などが考慮され、悪性腫瘍があると血栓も出来やすくなるため、弾性ストッキングやフットポンプなどが考慮されます。つまり、出てきた症状、リスクに対して対症療法を行なっていくこととなります。

日本整形外科学会骨・軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表、国立がん研究センター,東京,2013軟部腫瘍診療ガイドライン2012軟部腫瘍診療ガイドライン2020(仮)病気がみえるvol.11 運動器・整形外科
がん研有明病院 | 各骨軟部腫瘍
小児慢性特定疾病情報センター | 骨肉腫
WHO Classification of Tumours of Soft Tissue and Bone. Fourth Edition
参照日:2020年3月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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