卵巣がんは早期発見がむずかしい病気です。初期から症状が出ることはほとんどなく、症状が出てから検査を受けた場合、多くは病気が進行した状態になっています。加えて卵巣がんには安価で手軽な住民健診として使用できる検査がなく、自ら積極的に検査を受けない限り早期発見は難しいのです。
卵巣がんの検査は内診や経膣エコーなどが標準で、人によっては恥ずかしくて検査を避けがちですが、早期発見には重要な検査です。ここでは、卵巣がんに関連した検査にはどのようなものがあるのか、そして検診で卵巣がんが疑われたとき、その後どのように診断を進めていくのかについて紹介します。
目次
卵巣がんの主な初期症状
症状が現れてから検査をした場合、多くの卵巣がんは進行した状態で発見されます。もともと卵巣は広い骨盤の中にある小さな臓器であり、尚且、あまり周りの臓器に固定されていないため位置が変わり、大きくなってもしこりとして触れることが難しいためです。
中にはチョコレート嚢胞の経過観察中にがん化する場合もありますが、そのほかに小さな卵巣嚢腫が大きくなって発症するタイプ、そして全く異常がない卵巣から突然発症するタイプがあります。
病気が進行してくると下記の症状が現れます。
- 下腹部の痛み・違和感
- 腹部膨満感
- 頻尿
- 便秘
卵巣がんの自己診断チェック
症状に頼らず、卵巣がんの早期発見には無症状の段階から検査を受けることが重要です。その他にどのような場合に卵巣がんになりやすいかどうかということにも注意しましょう。以下に記載した多くの項目に当てはまる場合は、早期の検診や病院受診をお勧めします。
- 下腹部の痛みが続いている
- お腹が張ることが多い
- トイレが近い(頻尿で1回の尿の量が少ない)
- 便秘がちになってきた
- 血縁者に卵巣がんになった人がいる
- 11歳以前に初潮を迎えた
- 閉経が55歳以降だった
- 出産経験がない
- 女性ホルモンを補う治療を行っている
- 動物性脂肪(肉や乳製品)を多く摂取している
検診と検査項目
卵巣がんには住民を対象とした検診がありません。卵巣がんになる人の割合が他のがんと比較して少ないことや、卵巣がんの可能性がある人を安価で簡単に見つけ出す検査がないこと、そして、がん検診を行うことで卵巣がんの死亡率を減らすことが証明できていないからです。
病院で行われる人間ドックでは内診、経膣エコー、腫瘍マーカーを主軸としてそのほかに腹部エコー、腹部CTや腹部MRIといった検査があります。内診や経膣エコーは医師が行うので、女性医師による検査を希望する場合は、あらかじめ要望を伝えておきましょう。
内診
膣から医師が指を挿入して行う内診は卵巣周囲の状態を詳細に調べることができます。具体的には卵巣の大きさや硬さ、可動性や周りの臓器との関係性(くっついているかどうか)といった情報が得られます。その他に肛門から指を挿入して直腸周辺の状態を診る、直腸診もおこなうことがあります。
経膣エコー
細長い超音波の機械を膣に挿入して卵巣や子宮の状態を見ます。基本的に痛みを伴わない検査です。腹壁の上から行う腹部エコーでも条件が良い場合は卵巣を観察することができますが、経膣エコーのほうがより鮮明です。
腫瘍マーカー
卵巣がんに関連した腫瘍マーカーは、がんの時だけでなくほかの良性疾患でも増加することがあるため、がんかどうかという診断に用いられるというよりは、その数値の増減をみて治療効果を判断したり、再発のチェックに用いられることが多いです。
CA125
卵巣がんで最も陽性になりやすい(感度〔卵巣がんの人が異常値になる割合〕80-90%)
子宮内膜症や子宮筋腫、卵管炎などでも増加することがある
HE4
感度は低いものの特異度(卵巣がんでない人が正常値である割合)が100%であり、他の疾患の影響を受けにくい。
その他にCA602、SLX、CA72-4などの腫瘍マーカーが用いられることもあります。
卵巣がんの疑いから確定診断まで
ファーストステップ
ファーストステップは卵巣がんの可能性があるかどうかを見る検査です。
- 内診
- 経膣エコー
- 腫瘍マーカー
セカンドステップ
セカンドステップは卵巣がんかどうか確定診断する検査です。
細胞診・組織診
卵巣がんの細胞検査は、一部だけを切除するとがん細胞が一気にひろがる可能性があるので、基本的にはがんが疑われる部分はすべて切除します。病院によっては手術中に取り出した卵巣にがん細胞があるかどうかを顕微鏡でチェックする術中迅速病理診断を行い、がん細胞があると判明したら手術する範囲を変更する場合があります。
サードステップ
サードステップは卵巣がんのひろがり具合を見る検査です。
転移の可能性がある場合は、各種の画像検査を行って、病変のひろがりをチェックします。この検査は手術前に行う場合と、手術後に行う場合があります。
腹部エコー検査
腹壁の上から機械を当てておなかの中の状態を見ます。経膣エコーができない場合はこの腹部エコーで代用することがあります。
単純/造影CT検査
放射線を用いた検査です。転移の疑われる部位を撮影します。血管や病変を見やすくするために血管から造影剤を注入する造影CTが行われることもあります。
単純/造影MRI
磁気を用いた検査です。検査部位は状況により頭部、胸部、腹部などに対して行います。場合によっては血管を見やすくするために造影剤を用いた造影MRIが行われることもあります。
超音波・CT・MRIは見やすい臓器が異なるので、同じ部位に複数の検査を行うこともあります。
PET検査
がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。全身を一度に調べることができます。糖尿病で血糖値のコントロールが不安定な人はこの検査で正しい結果が出ないことがあります。
骨シンチグラフィ
骨は卵巣がんの転移先として多い臓器です。放射性物質を注射し、骨への取り込み具合を撮影して、骨への転移の有無を調べます。
検診にかかる平均費用
セカンドステップ以降の検査は通常保険診療で受けることができます。
健康診断・人間ドックで受ける検査(相場)
経膣エコー 2500~4000円
保険適応で受ける検査(目安)
- 経膣エコー検査 3割負担 1600円、1割負担 530円
- 腹部エコー検査 3割負担 1600円、1割負担 530円
- 単純CT検査(1部位) 3割負担 4000円、1割負担 1500円
- 造影CT検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 単純MRI検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 造影MRI検査(1部位) 3割負担 16000円、1割負担 5000円
- PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円
- 骨シンチグラフィ 3割負担 17000円、1割負担 6000円
Buys SS, et al; PLCO Project Team. Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung,Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA. 2011 Jun 8;305(22):2295-303. Pubmed PMID: 21642681.
信州医誌 | 卵巣癌発生の自然史と早期診断
茶屋町レディースクリニック分院 | 卵巣がん検診
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参照日:2021年4月