甲状腺がん治療と副作用について

甲状腺がんは自覚症状が乏しく検診等で発見されることがしばしばです。検診後の精密検査で甲状腺がんと分かった場合は治療の話になってきますが、医師に色々な治療方法を説明されてもなかなか煩雑であり一度で理解することは非常に難しいでしょう。

そこで、この記事では治療法のメリットとデメリットに焦点を当て、数多くある甲状腺がんの治療方法について解説していきます。

目次

甲状腺がんの主な治療法

甲状腺がんの治療の中心は手術であり、甲状腺を切除する手術を行います。さらに甲状腺切除には2種類の考え方があります。1つは欧米で主流の考え方で、甲状腺の全摘手術を行い、術後補助療法として放射性ヨウ素内用療法を行った上、生涯にわたり甲状腺ホルモン剤によるホルモン療法を行うものです。もう一方は、主に日本で発展してきた考え方で、手術前の超音波検査により、がんの広がりをよく調べ、できるだけ甲状腺を温存した手術を行い、術後補助療法はなるべく行わないとするものに分けられます。では、それぞれのメリット・デメリットについてみていきましょう。

手術

甲状腺を全摘する場合のメリット

・甲状腺にがんが残ることがない。

・手術後、放射性ヨウ素による転移の検索・治療が容易にできる。

・再発のチェックが血液検査によって、サイログロブリン値を測定することで容易にできる。

甲状腺を全摘する場合のデメリット

・手術による合併症(副甲状腺[上皮小体]機能低下、反回神経麻痺)が起こる確率が高い。

・生涯、甲状腺ホルモンを薬として飲まなければならない。

甲状腺を温存する場合のメリット

・手術によって、副甲状腺(上皮小体)機能低下、反回神経麻痺などの合併症が起こる確率が低い。

・手術後、甲状腺ホルモンを飲む必要がないことが多い。

甲状腺を温存する場合のデメリット

・温存した甲状腺に小さながんが残る可能性がある。

・放射性ヨウ素による検査・治療を行う場合、温存した甲状腺を、もう一度手術して切除することが必要となることがある。

・血中サイログロブリン値は、がん再発のマーカーにならない。

抗がん剤治療

抗がん剤治療は、薬物を用いた化学療法に分類されます。化学療法とは、薬剤を用いてがん細胞を殺すかまたは細胞分裂を停止されることでがん細胞の増殖を停止させるがん治療のことです。口から服用したり、筋肉や静脈内に注入する薬剤が血流を通って全身のがん細胞に影響することができるため全身療法と呼ばれます。主な抗がん剤の種類として、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗がん性抗生物質、微小管作用薬などがあげられます。また、がん細胞だけが持つ特徴を分子レベルでとらえ、それを標的にした薬である分子標的薬も広い意味で抗がん剤と呼ばれることがあります。それでは、抗がん剤治療のメリット・デメリットを見ていきましょう。

抗がん剤治療のメリット

・抗がん剤は投与後に血液中に入り全身をめぐって体内のがん細胞を攻撃し、破壊するため、どこにがん細胞があってもそれを壊滅させる力を持っているので、全身的な効果がある。

抗がん剤治療のデメリット

・がん細胞を死滅させるとともに、正常な細胞も傷害させてしまうという作用(薬物有害反応)がある。

・理想的な抗がん剤は、がん細胞だけに作用して正常な組織には作用しないという薬だが、残念ながらそのような薬は現在のところ存在しない。

・主な症状として、血液毒性ー骨髄抑制、白血球の減少と発熱、血小板の減少と出血傾向、血色素の減少と貧血、吐き気や嘔吐、しびれ感などがあげられる。

放射線治療

放射線治療は2種類に分けられます。1つは、体の外から放射線をあてる外部照射になります。もう一方は、体の内側から、がんやその周辺に放射線をあてる内部照射になります。この2つを組み合わせて行うこともあります。また、放射線治療は、先述している甲状腺がんの手術後の補助療法として活用されることもあります。その代表例が、放射性ヨウ素内用療法と呼ばれ、放射性物質を体内に取り入れることで、手術後の再発予防や遠隔転移の治療として行われています。それでは、放射線治療のメリット・デメリットを見ていきましょう。

放射線のメリット

・手術と同様、患部の局所に対する治療だが、手術のように臓器を取り除いたりせずに治療ができる。

放射線のデメリット

・放射線治療中または終了直後といった急性期に起こるものと、治療後時間が経過した晩期に起こるもの2種類の副作用が発生する可能性がある。

・急性期の副作用の具体的な症状としては、全身的なものでは、疲労感やだるさ、食欲不振、貧血などのほか、感染や出血しやすくなるなどがあり、局所的なものでは、照射された部位の皮膚の変化のほか、部位によってさまざまな副作用が起こる可能性がある。

・晩期の副作用の具体的な症状としては、二次がんの発生、妊娠や出産への影響などがあげられる。

その他の治療法

免疫療法

免疫療法とは、免疫本来の力を回復させることによってがんを治療する方法です。近年注目されており、研究が進められています。現在、臨床での研究で効果が明らかにされている免疫療法は、「がん細胞が免疫にブレーキをかける」仕組みに働きかける免疫チェックポイント阻害剤などの一部の薬に限られ、治療効果が認められるがんの種類もまだ限られていますが、どんどんその適応が拡大しています。

造血幹細胞移植

造血幹細胞は骨髄の中で血球をつくり出すもとになっている細胞のことです。造血幹細胞移植とは、通常の化学療法や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫不全症などに対して、完治させることを目的として行う治療です。通常の治療法に比べて、非常に強い副作用や合併症を生じることもあります。

がんゲノム医療

がんゲノム医療とは、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う医療であり、近年がん治療の先進医療として注目されています。検査の結果、遺伝子変異が見つからない場合もあります。現段階では治療選択に役立つ可能性がある遺伝子変異は、約半数の患者さんで見つかりますが、遺伝子変異があっても、使用できる薬がない場合もあります。自分のがんに合う薬の使用(臨床試験を含む)に結びつく人は、全体の10%程度といわれています。

甲状腺がんの再発や転移について

甲状腺がんが再発した場合の治療法には、手術のほか、乳頭がんや濾胞がんには放射性ヨウ素内用療法、甲状腺ホルモン(TSH抑制)療法があります。場合によっては、放射線外照射を行います。髄様がんや未分化がんには放射性ヨウ素内用療法、甲状腺ホルモン(TSH抑制)療法は無効ですが、放射線外照射や抗がん剤治療の有効性もあまり高くありません。

がん研有明病院 | 甲状腺がん
国立がん研究センター がん情報サービス
IMICライブラリ|一般財団法人 国際医学情報センター(IMIC) | 甲状腺がん
駒込病院 | 東京都立病院機構
参照日:2019年8月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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