甲状腺がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは

放射線被爆により、甲状腺がんや白血病のリスクが上がるといったニュースも同時に取り上げられるようになり、甲状腺がんについてのニュースが多く報道されるようになっていく一方で、甲状腺がんに対する誤った内容のニュースが多いのも事実です。

そこで、このページを通して、皆さんには甲状腺がんの症状について知っていただくとともに、具体的な検査や診断までの詳しい内容を知っていただこうと思っています。ぜひ、この記事を読んでいただき、甲状腺がんについて正しい知識を得ていただければ幸いです。

目次

甲状腺がんの主な症状

甲状腺がんはほとんど症状が出ないがんとして知られ、検診で行われる超音波検査やPET検査で偶然見つかることがしばしばです。甲状腺がんは症状が現れにくいがんですが、甲状腺がんを疑う症状というのはいくつかあるので順に説明します。

喉仏の下のしこり

甲状腺は喉仏のすぐ下方に存在しています。甲状腺がんが成長すると甲状腺部にしこり(結節)が生じ、触ると硬い塊があることがあります。このしこりがあれば甲状腺がんを疑うことがあります。

嗄声(声が枯れる)

甲状腺がんのできる甲状腺の近くには、反回神経という神経が走行しています。反回神経は声帯の動きを調整をしている神経で、反回神経を介して私たちは声の高さなどを調整しています。この反回神経が甲状腺がんなどによって圧迫されると声が枯れる、医学用語で“嗄声”という状態になることがあります。

この声が枯れる症状、つまり嗄声の症状が現れると、前述したしこりと同じように甲状腺がんを疑うことがあります。

このように「喉仏の近くのしこり」ができたり、「声が枯れてしまう」という症状は甲状腺がんの症状として非常に重要な症状です。これらの症状が出たら甲状腺がんを疑い、早いうちに病院を受診してもよいかもしれません。

甲状腺がん自己診断チェック

前の章でも述べたように、甲状腺がんは自覚症状が非常に少ないがんの一つであるため、なかなか早期発見することは非常に難しいとされています。実際に、甲状腺がんは症状を訴えることなく、検診で見つかることが多いと言われています。

そこで、この章では甲状腺がんを疑う簡単な自己診断チェック項目を7つ紹介します。ぜひ、皆さんもこの自己診断チェックして、当てはまるものがあるかを確認してみてください。

  • 喉仏のすぐ下に硬いしこりのようなものがある。
  • 声がかすれる
  • 血縁者に甲状腺がん患者がいる
  • 首の痛みがある
  • 痰に血が混じる
  • 呼吸が苦しくなる
  • 食事を飲み込みにくくなる

この7つ全て当てはまる人は早急に病院を受診し、症状を伝えて診察を受けてください。特に、⑤から⑦の症状が現れている人は甲状腺がんでも危険度が高いがん、あるいは甲状腺がんがかなり進行している可能性があります。

自己診断チェックの項目が1つしか当てはまらない人でも注意は必要です。たとえ自己診断チェックの項目が1つしか当てはまっていなくても甲状腺がんが潜んでいる可能性はゼロではありません。甲状腺がんが気になるようであれば、一つも当てはまっていなくても病院の健康診断を受診してみるとよいでしょう。

検診と検査項目

症状などから甲状腺がんが疑わしいと判断されると、甲状腺がん検診として様々な検査が行われます。施設によって行うことのできる検査は限られますが、検診で主に行われる検査は簡便な触診と超音波検査、採血検査でしょう。本章ではこの3つの検査について、順を追って説明していきます。

触診

触診では甲状腺と甲状腺近くにある頸部リンパ節に触れ、しこりがないか、その硬さを確認していきます。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は他の画像検査と異なり被爆がなく、非常に簡便な検査として知られています。甲状腺がんの多くを占める、乳頭がんのほとんどが特徴的なエコー所見を示すことが多く、優れた検査者によれば、9割以上の確率で正しく診断できるとも言われています。さらに、最近の技術進歩に伴い、超音波検査の性能も優れたものが増え、より診断力が向上しています。

採血検査

採血検査には様々な項目がありますが、甲状腺がんで調べる項目は甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺自己抗体、サイログロブリン、カルシトニン、CEAなどです。

細かい説明は省きますが、これら採血項目に異常な値があれば甲状腺がんを疑うことになります。しかし、他の甲状腺の疾患や他の部位にできたがんで異常な値になることもあるため、触診や超音波検査結果と合わせて診断することになります。

甲状腺がんの疑いから確定診断まで

前述した症状や超音波検査など簡便な検査で甲状腺がんが疑われば、次に甲状腺がんの種類やその広がりを確認するため追加で様々な検査が行われます。本章ではCTなどの画像検査をはじめ、確定診断に必要な検査について順を追って説明していきます。

穿刺吸引細胞診

甲状腺がんと思われる部位を注射針で刺し、細胞を吸い出して診断する検査です。吸い出した細胞の形を見て甲状腺がんの中でもどんながんかを判別します。

病理検査

病理検査は局所麻酔を行い、甲状腺の一部を切り取って顕微鏡で調べる検査で、いかなるがんに対しても行われる検査です。病理検査をしなくても、どんながんかを予想することは可能です。しかし、最終的にどのタイプの甲状腺がんであるかは病理検査をして初めて明らかになります。

画像検査

画像検査として、CTやMRI、そしてPET検査を行うことになります。これら画像検査の目的は甲状腺がんが甲状腺内に留まっているのか、あるいは他の臓器に転移しているのかなどを調べるために必要な検査となります。画像検査の結果によって、甲状腺のみの治療でよいのかどうかなどを判断することになります。

本章では様々な検査方法を紹介しましたが、施設によって行える検査は異なります。また、ここに挙げた検査をすべて行わなければ確定診断を付けることができないわけでもありません。どの検査を行うかは担当する医師と患者さんの意思とで決定していくことになります。

検診に掛かる平均費用

前述のとおり、甲状腺がんの検査は多岐にわたりますが、通常甲状腺がんの検診で行われるのは触診と超音波検査、採血検査が一般的です。

「症状的には甲状腺がんの可能性があるけれど、がんの検診は高いイメージがある。」

そんなイメージをお持ちの方は少なくないでしょう。しかし、甲状腺がんの検診で行われる基本的な検査の費用は決して高くありません。

もちろん初診料はかかりますが、触診は無料ですし、採血検査も3000円、超音波検査も5000円程度で行われています。これら以外の検査を希望されたり、他の検査を追加するようなことがあれば検査費用は増えていきます。とはいえ、約1万円程度の金額で、甲状腺がんを早期発見できるのであれば、この額はさほど高くないでしょう。

がん研有明病院 | 甲状腺がん
国立がん研究センター がん情報サービス | 甲状腺がん
日本赤十字社 伊勢赤十字病院 | 各種がんの解説:甲状腺がん
参照日:2019年8月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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