甲状腺がんのステージ別生存率と平均余命

放射線被爆により、甲状腺がんや白血病のリスクが上がるといったニュースも同時に取り上げられるようになり、甲状腺がんの認知度は以前よりも高まりつつあるかと思います。

多くの方が甲状腺がん検診を受けるようになり、中には病院で陽性疑いや確定診断を受けた方もいらっしゃると思います。しかし、甲状腺がんの生存率や死亡率などはあまり知られておらず、多くの方が不安になっているかと思います。

そこで、この記事を通して、皆さんには甲状腺がんの平均余命など今後の生活に関わる数値を知っていただこうと思っています。ぜひ、この記事を読んでいただき、甲状腺がんについて正しい知識を得ていただければ幸いです。

目次

甲状腺がんの種類と進行度について

がんと一口に言っても、その種類によって悪性度や治癒のしやすさは異なります。甲状腺がんでも同様で、甲状腺がんの種類によってその悪性度や治癒しやすさは異なってきます。

甲状腺がんには乳頭がん、濾胞がん、未分化がん、髄様がん、甲状腺悪性リンパ腫などの種類がありますので、本章ではそれらの悪性度や治癒のしやすさを説明しましょう。

悪性度の低い甲状腺がん

甲状腺がんのなかで悪性度が低いとされているのは乳頭がんと濾胞がんです。この2つのがんは分化型の甲状腺がんと呼ばれています。分化型甲状腺がんはがん化した細胞が成熟しているため、がん細胞の増える速度が遅く、予後が良いとされています。

悪性度の高い甲状腺がん

一方で、甲状腺がんのなかで悪性度が高いとされているのは髄様がん、未分化がん、甲状腺悪性リンパ腫です。特に悪性度が高いのは未分化がんで、がんの細胞が未成熟なため、増える速度が速く、病気の進行も速いとされています。

甲状腺がんのステージ別5年生存率

甲状腺がんはその大きさや浸潤度合、そしてリンパ節転移や遠隔転移の有無により病期と呼ばれるステージ分類が決められています。そして、その病期により5年生存率が異なります。

2007年から2009年に手術だけではなく、放射線治療、薬物療法、そのほかの何らかの治療を受けた患者さんを対象にした全国がんセンター協議会の生存率共同調査によると、甲状腺がんの5年生存率はステージⅠで100.0%、ステージⅡで98.6%、ステージⅢで99.0%、ステージⅣで73.2%、全体としては92.1%となっています。

この数字を見て生存率が低いと思われるか、高いと思われるかはわかりませんが、他のがんと比べればその5年生存率は非常に高いと思われます。特に、ステージⅠ~Ⅲまでに見つけられればその生存率はほぼ100%に近いという結果になっています。ですから、甲状腺がん検診を受けて早期に甲状腺がんを見つけることができれば予後は非常に良いということが言えます。

ステージⅣの平均余命とは

前章でも述べたように、甲状腺がんのステージⅣになると5年生存率は73.2%まで低下し、比較的予後が良いとされる甲状腺がんであっても、その生存率は下がってしまいます。

実際に、甲状腺未分化がんのステージⅣの平均余命は平均で4~6か月程度といわれています。仮に手術による治療ができたとしても平均余命は1~2年程度であるといわれています。

このように甲状腺がんはステージⅠ~Ⅲであれば比較的予後は良好ですが、遠隔転移を伴うようなステージⅣの状態になるとその平均余命はかなり短くなってしまいます。このことからも甲状腺がんの早期発見は非常に重要であることが分かります。

罹患数と死亡数の推移

日本の甲状腺がん罹患率は、年々男女とも増加傾向が見られます。特に、その増加傾向は女性でより顕著で、人口10万人あたり1975年では3人程度だった罹患率が2013年には13人超と増加しています。

この背景には甲状腺がんの認知度が高まったことや、甲状腺疾患の検査として医師による触診が広く行われていることなどが挙げられます。また、人間ドックや集団検診の場での頸部超音波検査の実施が近年増えています。さらに、最近の超音波診断装置の進歩により、甲状腺検査の診断能力は上昇しており、特に腫瘤の発見頻度が上昇しているとの報告もあります。

一方で、甲状腺がんの死亡数は1955年だと男性40名、女性116名であり、男性ではがんによる死亡者数41,223名の0.1%弱、女性ではがんよる死亡者数36,498名の0.3%強を占めていました。その後、甲状腺がんによる死亡者数は徐々に増加し、2012年には男性550名、女性1144名にのぼります。

しかし、甲状腺がんの死亡率は大きく変化しておらず、男女ともわずかに減少する傾向が見られている程度となっています。

甲状腺がんの末期症状とケアに関して

甲状腺がんは早期であれば自覚症状は乏しいとされていますが、甲状腺がん末期状態になると様々な症状がでてきます。本章では分化がんと未分化がんの末期症状について説明していきます。

分化がんの症状としては首に固いしこりができるのが特徴です。通常、しこり以外には自覚できる症状がないことがほとんどですが、がんが末期状態になると、食べ物を飲み込む際に痛みが生じたり(嚥下時痛)、声がかれたり(嗄声)、呼吸困難が生じたり、血の混じった痰(血痰)が出たりといった症状が見られるようになります。

一方、未分化がんは分化がんより進行が早く、悪性度が高いがんであることは前章で説明済みです。未分化がんでは、甲状腺の腫脹や痛み、発熱などの症状が出現しますが、がんが末期になるにつれて、分化がんと同様に飲み込みづらさや呼吸困難、血痰などが見られるようになります。

未分化がんは末期の状態になると気管や食道、反回神経への浸潤、リンパ節、骨、肺、肝臓、脳などの臓器への転移を起こします。転移を起こしたがんは、それぞれの臓器で重篤な末期症状を引き起すこともあります。よって甲状腺がんの未分化がんの末期には、体重が減ったり、全身倦怠感などといった、全身症状が出現してくることがあります。

末期状態になると可能な治療は放射線治療や化学療法が中心になりますが、全身症状に対する対症療法も必要になってきます。疼痛や呼吸困難などの様々な症状に対して痛み止めのお薬を使うことはもちろん、気分が落ち込んだり、不安になったりすることもあるかもしれません。

そういったがん末期状態に対しては「緩和ケア」という治療介入が行われます。緩和ケアでは、がん末期の辛い痛みや様々な症状を軽減させるだけでなく、ご本人やご家族の精神的な苦痛に対しても個別に対応することができます。

緩和ケアによって本来の自分らしさを取り戻し、療養生活の質を維持・向上させることは、がん末期のケアとしては非常に重要であると言えるでしょう。

国立がん研究センター がん情報サービス | 甲状腺がん 治療
がん研有明病院 | 甲状腺がん
Web医事新報|日本医事新報社 | 甲状腺未分化癌の治療ストラテジー【手術による根治は困難と考えられ,術後の補助療法が必要】
長崎甲状腺クリニック大阪 | 甲状腺癌の予後
環境省 | 甲状腺がんの罹患率:日本
健康長寿ネット | 甲状腺がん末期
東京都健康安全研究センター | 日本における甲状腺がんによる死亡の歴史的状況(東京都健康安全研究センター:甲状腺がん,推移,世代マップ,標準化死亡比,年齢調整死亡率,人口動態統計,日本,アメリカ,ドイツ,イタリア,フランス,スウェーデン,オランダ)
参照日:2019年8月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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