白血病の種類別生存率と難治性白血病の平均余命について

一般的には、「不治の病」というレッテルを貼られることも少なくない白血病。そうした負のイメージと相まって、病気を診断されることで、死を強く意識される方も少なくありません。

しかし、白血病の種類は多様であり、治療経過や生存率も大きく異なることが知られています。確かに厳しい予後を想定せざるを得ない白血病がある反面、90%近い治癒率が期待できるタイプの白血病もあります。そのため、「白血病」という一言に一括りにするのではなく、どういったタイプの「白血病」であるのかを知ることが、経過を予測するためにはとても大切であると言えます。

この記事では、白血病における予後となりうる因子を紹介し、それらに関連した生存率を記載します。さらに、病気が進行した際に予測される症状並びにケアの方法についても触れます。本記事を参考にご自身の病状を正確に把握し、病気に立ち向かうための参考にして下さい。

目次

白血病の種類と進行度について

ここでは、白血病の進行度や治療成績に関係するような代表的な因子について記述します。しかし、専門的にはさらに複雑な要因を考慮することが求められます。そのため、ご自身の状況を正確に把握するためには、担当の先生に相談することをお勧めします。

急性白血病と慢性白血病の違い

第一部に記載したように、白血病には大きく分けて急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病に分けることができます。すなわち、病気の難治度や予測される進行様式を予測する上で、どのタイプの白血病であるかを知ることは、第一のステップとして必要不可欠です。

一般的には、急性白血病の進行は早く、急速な経過から命を落とすこともあります。その一方、慢性白血病では、病気を抱えながらも日常生活を送ることが可能なこともあります。しかし、それでも年余の経過から急激に病状が悪化することもあるため、注意深い経過観察が必要とされます。

発症時の年齢

白血病の進行度を考慮する上で、発症の年齢を加味することは大切です。急性リンパ性白血病を例にとると、1〜10歳のお子さんに見られる急性リンパ性白血病は、それ以外の年齢の方で見られる場合に比べて、治りやすいことが知られています。これには、小さいお子さんの方がより強い治療に耐えることが出来ること、白血病細胞が治りやすい性質を有する傾向があること、などが関与していると考えられています。近年では、思春期や若年成人に見られる急性リンパ性白血病では、幼少期のお子さんに行う治療を行うことで、治療成績の向上を期待出来ることも期待されています。

小児期に見られる白血病は比較的治りやすい傾向がありますが、1歳未満の乳児白血病は、治療成績が芳しくないことも知られています。そのため、病気の経過を予測する上で、「発症時の年齢」を加味することは、とても重要な視点であると言えます。

なお、年齢的な要因以外にも、日常生活動作が自立している患者さんの方が、そうでない方に比べて治療経過が良好であることも知られています。

白血病細胞の持つ特性について

白血病の進行度を考える上で、白血病細胞の持つ特性について理解することも重要です。

例えば、急性リンパ性白血病は、リンパ球と呼ばれるタイプの細胞を基盤として発症します。リンパ球には更に、Bリンパ球やTリンパ球などに分類され、どのようなリンパ球が白血病細胞に変化したかによって、病気の進行様式が異なることも知られています。一般的には、Bリンパ球に比べてTリンパ球が白血病になった場合の方が、治療成績が劣ることが知られています。

また、白血病細胞は、遺伝子レベルにおける複雑な変化を持つことも知られています。白血病細胞がどのような遺伝子変化を有するかも、病気の治りやすさ・治りにくさを予測する上で欠かすことが出来ない情報です。急性リンパ性白血病であれば、染色体の数が異常に少ない、MLLと呼ばれる遺伝子に特徴的な変化を見る、などは予後不良因子として例に挙げることが出来ます。その他、急性骨髄性白血病であれば、FLT3-ITDと呼ばれる特徴的な遺伝的な変化を示す白血病は、治療経過に難渋する傾向があります。慢性のタイプの白血病においても、どのような遺伝的な変化があるかを理解することは重要です。

また、急性骨髄性白血病では、PML-RARAと呼ばれる遺伝子変異を示すこともあります。この場合には、重篤な出血傾向を示すことがあり、頭蓋内出血や消化管出血など、命の危険性に晒されるような急激な病状変化を見ることもあります。このタイプの白血病は、格闘家として知られるアンディフグ選手が命を落とすきっかけであったことも知られています。

白血病の生存率

白血病の生存率は、先の項目で記載したように、年齢的な要素、白血病細胞の持つ特性などによって大きく異なります。そのため、患者さんの長期的な予後を正確に判定するためには、数多くの要素を加味する必要がある点には留意が必要です。

急性リンパ性白血病

同じ「急性リンパ性白血病」であっても、小児期に見られるそれと比べて成人期に見られる病気の場合、生存率が芳しくないことも知られています。具体的には、お子さんに見られるタイプの急性リンパ性白血病では多くの場合80%以上の生存率が期待できる反面、成人の場合には10%を下回ることもあります。

急性骨髄性白血病

急性骨髄性白血病の場合も、急性リンパ性白血病に類似して「年齢」に応じて生存率が大きく異なります。すなわち、小児に見られる急性骨髄性白血病の生存率は70%ほどですが、成人のそれは50%未満であることが知られています。特に80歳代の方に見られる急性骨髄性白血病では、1年も経たずして9割前後の方が亡くなります。

慢性リンパ性白血病

慢性リンパ性白血病は、病状が安定している場合には必ずしも積極的な治療を要するわけではありませんが、病気が進行した際には生命に危機が生じる可能性があります。すなわち、病状が安定している時期がどれだけ長いかが生存率に大きく影響しますが、診断されてから50〜80%ほどの5年生存率が期待できることもあります。

慢性骨髄性白血病

慢性骨髄性白血病は、Ph染色体と呼ばれる特殊な遺伝子を元にして発症する疾患です。慢性骨髄性白血病では、この遺伝子異常に直接的に働きかける薬剤である「イマチニブ」と呼ばれる薬剤が存在します。この薬剤を使用することで長期的に病状を安定化させることが期待でき、80〜90%ほどの生存率が達成されています。

難治性白血病の平均余命とは

白血病の分類は非常に複雑であり、それを反映して期待される治療成績も大きく異なります。ここでは、特に治療に難渋することが予測される白血病をいくつか例に挙げ、それらの平均余命を記載します。

乳児白血病

一般的に、小児期に見られる白血病の長期生存率は90%近いことが知られていますが、1歳未満に見られる白血病は例外的です。化学療法や骨髄移植といった集学的な治療を行う場合であっても、50%ほどであることが報告されています。

FLT3-ITD変異を持つ急性骨髄性白血病

急性骨髄性白血病の中でもFLT-3-ITDと呼ばれる遺伝子異常を有するタイプのものは、それを有さないものに比べて生存率が大きく下回ることが知られています。具体的には、20%前後の5年生存率であることが報告されています。そのため、現在ではこうした遺伝子異常に関連した急性骨髄性白血病に対しては、ギルテリチニブと呼ばれる薬剤の使用をすることで生存率が延長することが期待されています。

罹患数と死亡数の推移

小児において白血病は悪性腫瘍の中でも最も多い疾患であり、2014年には年間600人ほどのお子さんが白血病の診断が下されています。小児白血病の治療成績の向上は著しいのですが、残念ながら同年度には100名弱のお子さんが白血病のために亡くなっていることが報告されています。罹患率に関しては、大きな変動はありません。

一方、成人においては、年齢を経るにつれて罹患率が上がることが知られています。特に45歳以上において病気の罹患率が上昇する傾向にあり、人口10万人あたり5人を超えるようになります。さらに60歳以上になるとその数字は倍になり、以後年齢を重ねるにつれてさらに罹患率は高くなります。経年的な変化を見た際、40歳以上の方において病気の罹患率は上昇傾向にあります。すなわち、1980年頃には人口8人ほどの罹患率でしたが、近年では14人ほどになっています。

成人の白血病における死亡数は、お子さんのそれに比べて高いことも知られています。特に40歳を超えた辺りから死亡率は、お子さんのそれに比べて倍になります。さらに、60歳以上の方では10倍ほどの死亡率になることも報告されています。2017年には、8000人以上の成人が白血病のために命を落としています。こうしたことから、さらなる治療成績の向上が強く望まれています。

白血病の末期症状とケアに関して

白血病が進行すると、全身に様々な症状が見られるようになります。ここでは、代表的な症状、病態について記載します。

感染症

白血病では、健康な方であれば問題にならないような病原体に対しての免疫力の低下を見るようになります。感染症のために、発熱が持続する、血圧が低下する、息苦しさが生じる、意識状態が悪化する、皮膚にカビが生える、などの状態が見られることがあります。こうした感染症に対して対応するために、抗生物質や抗ウイルス薬、抗真菌薬、免疫グロブリンなどの使用が検討されます。
また、座薬を使用すると肛門周囲に傷が入り、そこから病原体が体内に侵入することも懸念されます。そのため、解熱剤の使用に際して座薬の使用を避けることもあります。

出血傾向

白血病では、口の粘膜や採血の場所から出血をすることがあります。出血傾向を抑制するために、輸血が行われることもあります。出血の状況によっては、止血術が行われることもあります。
白血病の中でも、急性前骨髄性白血病と呼ばれるタイプでは、発症時から著しい出血傾向を見ることがあります。この白血病に対しては、オールトランス型レチノイン酸と呼ばれる薬剤を使用することで、早期に対応することが求められます。

痛みや息苦しさ

白血病の末期には、強い痛みや息苦しさを伴うことがあります。こうした症状を緩和させるために、痛み止めや麻薬などを使用することもあります。食事の摂取がままならなくなることもあるため、点滴による栄養補給が検討されることもあります。

白血病の進行によって、生活の質が著しく低下することも懸念されます。根治的な治療を視野に入れつつも、病状によっては緩和ケアも考慮することが重要です。

JALSG | わかりやすい白血病の話|白血病
Childhood Leukemia Treatment Also Effective for Young Adults – NCI
希少がんセンター | 小児の血液・リンパのがん
http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/1_1.html
JALSG | 成人急性リンパ性白血病|白血病
Acute myeloid leukemia in the real world: why population-based registries are needed
Leukaemia (all subtypes combined) survival statistics | Cancer Research UK
日本小児がん研究グループ 血液腫瘍分科会(JPLSG)
Prevalence and prognostic significance of Flt3 internal tandem duplication in pediatric acute myeloid leukemia
国立がん研究センター がん統計 | 小児・AYA世代のがん罹患
参照日:2019年12月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

プロフィール詳細