白血病になりやすい人の特徴や原因リスクについて 

白血病とは、血液のがんを指します。過去には夏目雅子さん、本田美奈子さん、アンディ・フグ選手などの有名人が白血病によって命を奪われており、不治の病の代名詞として認識されることもある病気です。

俳優やスポーツ選手、ニュースキャスターなど、現役世代として活発に活動されている方でも発症することがありますし、さらには生まれて間もない赤ちゃんであっても、白血病によって命を落とすことがあります。白血病は年齢や性別を問わず発症するリスクがある病気であり、社会的に多大なるインパクトをもたらすことがある疾患です。

白血病は同じ病名であっても患者さんによって病気の特徴が大きく異なることも知られています。そんな白血病の多様性をもたらす原因とは何なのかを詳しくご紹介しますので、どういった点に注意しながら病気の予防、早期発見につなげるか、参考にして下さい。

目次

白血病とは

白血病は、九州に多いとされるHTLV-1と呼ばれるウイルス(※1)への感染、喫煙との関係性、遺伝学的な要因、放射線や抗がん剤などが原因となりうることが知られています。しかし、特定の原因を同定できる状況は少なく、むしろ偶発的な要因で病気の発症に至ることが多いです。そのため、白血病そのものはがんの中では決して頻度が高いものではありませんが、誰でもなりうる疾患であると言えます。

※1参考:国立感染症研究所|HTLV−1感染症とは

白血病のタイプ

「白血病」と一言に表しても、その中には数多くの種類が存在することが知られていますが、大きく以下の4つに分類することが出来ます。

急性リンパ性白血病

急性リンパ性白血病は、血液を構成する細胞の中でも、「リンパ球」と呼ばれるタイプの細胞ががんになることで引き起こされる疾患です。成人でも見られることがありますが、特に小児期での発症頻度が高いことが知られています。急速な経過から症状が増悪することがあるため、診断が付き次第早期に治療を行うことが求められます。

急性骨髄性白血病

急性骨髄性白血病は、急性リンパ性白血病と同様に症状の進行スピードは早く、迅速に治療につなげることが求められる疾患です。成人における白血病として最も頻度が高く、白血病全体で見た際にも半数以上を占めるタイプの白血病です。

慢性リンパ性白血病

慢性リンパ性白血病は、年余の経過を経て経過することがあるタイプの白血病であり、成人での発症頻度が高いものです。白血病の中では5%未満と、全体の中での頻度は多くはありません。病気を抱えながらも大きな障害を呈することなく、日常生活を送ることが出来る場合もありますが、急激な病状増悪を見ることもあります。

慢性骨髄性白血病

慢性骨髄性白血病は、小児期から成人にかけて見られる可能性があるタイプの白血病です。白血病全体では、20%ほどを占めることが知られています。

白血病は、実践的にはさらに細かく分類されます。病気によって発症年齢や治療経過に大きな差があるため、白血病のタイプを正確に把握することは、最適な治療方針を決定するためにも必要不可欠です。

白血病の主な原因とリスクファクター

白血病には、いくつかの原因やリスクファクターが知られています。ここでは、こうしたものを中心として詳しく記載します。

HTLV-Ⅰへの感染

HTLV-Ⅰとはウイルスの一種類であり、このウイルスに感染することを原因として白血病、特に「成人T細胞白血病・リンパ腫」と呼ばれるタイプの白血病を発症することがあります。

喫煙習慣

白血病の中でも、急性骨髄性白血病においては、習慣的な喫煙習慣との関連性も知られています。具体的には、1日に30本以上のタバコを吸うヘビースモーカーの方は、急性骨髄性白血病の発症リスクが2倍程度まで高まることが報告されています。

遺伝学的な要因

生まれつき患者さんが抱える遺伝子における変化を原因として、白血病が引き起こされると想定されることもあります。例えば、ダウン症候群やLi-Fraumeni症候群などの患者さんは、様々なタイプの白血病を発症する可能性が高いことが知られています。
また、近年では、単一の遺伝子における変化と、白血病との因果関係が指摘されることもあります。

放射線や抗がん剤、化学物質への暴露

がんの治療の一環で、放射線や抗がん剤が使用されることがあります。過去のがん治療を原因として、年余を経てから、後遺症として白血病の発症に至ることもあります。また、ベンゼンやトルエンなどの化学物質も、白血病の原因物質として挙げることが出来ます。

白血病になりやすい人の特徴

ここでは先に記載したように、白血病にはいくつかのリスクファクターが知られています。ここでは、疫学的な情報を交えながら、白血病になりやすい人の特徴について詳しく記載します。

年齢

白血病は、赤ちゃんから高齢者に至るまで、幅広い年齢層で発症することが知られています。全体的には人口10万人当たり6〜10人ほどであることが報告されていますが、特に50歳代に入るとその発症率が高まることも知られています。
白血病は、高齢者のみならず小児期のお子さんにも見られることがあります。白血病を発症するお子さんの数そのものは、全国全体を合わせても1000人に満たないです。しかし、白血病によって命を落とすお子さんは、事故によってこの世を去るお子さんに次いで多いことも知られています。

性別

喫煙習慣をする方は男性において多く、このことと関連して白血病は女性よりも男性に多いと考えられています。

遺伝子との関連

白血病は、ダウン症候群を抱える方において発症リスクが高まります。ダウン症候群の方は、ダウン症候群ではない方に比べて、10〜20倍ほど白血病の発症率が高いことが知られています。CRLF2と呼ばれる遺伝子に異常が生じることが、白血病発症リスクの増加に関わっていることが想定されています。

また、Li-Fraumeni症候群では、TP53と呼ばれる遺伝子に異常を抱えており、このことと関連して白血病を始めとして、様々な腫瘍を発症するリスクが高まると考えられています。
さらに、近年ではこうした症候群を抱えない方であっても、生まれつきに抱える遺伝子の変化に関連して、白血病の発症リスクが高まりうることも報告されています。代表的には、PAX5やETV6といった遺伝子を例に挙げることが出来ます。

こうしたことと関連して、兄弟間で発症した場合において、共通する遺伝子変化が背景に存在することが推定されることもあります。ただし、こうした場面は稀な状況であることには留意が必要であり、今後さらに新たな研究が進められることが期待されています。

ウイルスと白血病の関連性

HTLV-Ⅰと呼ばれるウイルスを原因として、白血病の中でも成人T細胞白血病・リンパ腫が生じることが知られています。ただし、その発症頻度は必ずしも高くはなく、5%ほどであると報告されています。

HTLV-Ⅰは特別な症状を引き起こすことなく、感染者の体内に長期間潜んでいます。HTLV-Ⅰを抱える患者さんの母乳、体液、血液などを介して感染が広がる可能性があります。具体的には、お母さんの母乳中にウイルスが混入し、それを赤ちゃんが飲むことでお子さんが感染することがあります。また、HTLV-Ⅰの感染者と性交渉をすることで、HTLV-Ⅰへの感染が成立することもあります。

HTLV-Ⅰの分布状況は、日本においては地域性があることも知られています。特に、九州や沖縄地域において、本ウイルスを抱える患者さんが多いことが報告されています

予防と早期発見のコツ

白血病は、特定の原因を同定出来ないまま発症することも多く、予防策を講じることが出来る状況は限られます。そうした中でも、成人T細胞白血病・リンパ腫を予防するために、HTLV-Ⅰへの感染予防策を講じることは有効です。具体的には、母乳栄養を避ける、性交渉時にコンドームを使用するなどを例に挙げることが出来ます。

また、禁煙をすることで、急性骨髄性白血病の発症リスクを避けることも大切です。さらに、職業柄ベンゼンやトルエンに接する機会がある際には、暴露のリスクを下げるためにも適切な防護策を講じることが重要です。

白血病は、発熱が続く、少しの運動をするだけで以前よりも疲れやすくなった、顔色が悪い、骨が痛むなどが初発症状として生じる可能性がある疾患です。その他にも、鼻血が止まりにくい、歯磨きで出血をしやすい、ぶつけた覚えがないのにアザがよく出来る、なども症状となりえます。こうした症状が見られる方は、早めに医療機関を受診することが重要です。

さらに、白血病リスクを高めるような放射線や抗がん剤の治療を受けたことがある方、職業柄発がん性物質を使用する方は、定期的に医療機関を受診し、白血病の兆候がないかどうかを確認することも大切です。また、こうしたリスクを抱えない方であっても、特別な症状を自覚することなく、慢性的に病気が進行することもあります。症状がなくても病気の診断につなげるためにも、健康診断を定期的に受けることも重要な点であると言えます。

国立がん研究センター がん統計 | 年次推移
Leukemia – Symptoms and causes – Mayo Clinic
Leukemia | Leukemia and Lymphoma Society
がんを学ぶ【ファイザー】 | 急性骨髄性白血病(AML)を学ぶ
Adult T-Cell Leukemia/Lymphoma – Lymphoma Research Foundation
国立がん研究センター がん情報サービス | 成人T細胞白血病リンパ腫
国立感染症研究所 | HTLV−1感染症とは
Germline Mutations in Predisposition Genes in Pediatric Cancer
国立がん研究センター がん対策研究所 | 日本人における喫煙と急性骨髄性白血病罹患リスク
JALSG | 白血病の発生率
国立がん研究センター がん統計 | 全国実測値:がん罹患データ
厚生労働省 | 死因順位(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合
A recurrent germline PAX5 mutation confers susceptibility to pre-B cell acute lymphoblastic leukemia – PubMed
Germline mutations in ETV6 are associated with thrombocytopenia, red cell macrocytosis and predisposition to lymphoblastic leukemia – PubMed
参照日:2019年12月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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