自覚症状はないから食道がんは大丈夫、と考えている人も多いかもしれませんが、初期の食道がんは自覚症状のないことがほとんどです。さらに食道は壁が薄く、近くに重要な臓器が多いことから早い段階で転移や周りの臓器に浸潤します。そのため、食道がんは他のがんと同様に早期発見が重要です。
ここでは食道がんを見つけるための検診や、食道がんが疑われたときにどのような検査を行うのかについて紹介します。
目次
食道がんの主な初期症状
食道の主な役割は食べ物の通り道であり、がんの初期の段階ではほとんど症状が出ません。
食道の表面にがんによってきずができれば食事のときに胸にしみる感じがすることもあります。しかしこの症状はがんがさらに進行して食道の神経を破壊すると消失してしまうので、症状が消えたから大丈夫、と判断するのは危険です。
また、がんが食道の壁に沿ってひろがると食道が食べ物を送り込む能力が低下したり、内側にがんが盛り上がってくると食べ物の通り道が狭くなり胸で食事がつかえる感覚が現れます。この症状はさらに病気が進行すれば水分を飲んだだけでも感じるようになります。病気の部位によっては胸のつかえ感ではなく、のどの違和感を訴える人もいます。
がんが食道の壁を突き抜けて外側にひろがれば周囲の神経を巻き込んで声がかすれたり、気管を巻き込んで咳が出たりすることもあります。
食道がんの自己診断チェック
自己診断のみで食道がんかどうかを判断することはできませんが、下の項目に多く当てはまる場合は食道がんを疑って早めに病院受診することをお勧めします。
- 男性である
- 1日のタバコの本数と喫煙年数をかけると600を超える
- お酒の量が多く、飲酒ですぐに顔が赤くなる
- 熱い飲み物や食べ物が好き
- 血のつながった人で食道がんになった人がいる
- のどや胸に違和感がある
- 逆流性食道炎と言われたことがある
- 食べ物がつかえる感じがする
- 声がかすれる
- 1年以内にバリウムや胃カメラの検査を受けていない
検診と検査項目
市町村の検診
市町村の検診で食道がんに関連した検査はバリウム検査(胃透視)と胃カメラ(内視鏡検査)です(地域によってはバリウム検査しか選択できない場合もあります)。この2つの検査の主な目的は食道がんの発見ではなく胃がんの発見であり、胃がん検診と表記されていますが、どちらも検査範囲には食道も含まれています。
バリウム検査
レントゲンで撮影しながらバリウムを飲み、様々な体位をとって胃の形を見る検査です。食道は検査の初期にバリウムを数回に分けて飲む際に食道を通り抜けるバリウムの動きや食道の壁に付着したバリウムの形を見て異常の有無を判定します。後述する胃カメラと異なり、形だけを見る検査のため、平らながんは見落とす可能性があります。また撮影の条件によっては食道がんではない変形を食道がんの疑いと判断してしまう可能性もあります。
バリウム検査は指示に従って自分で体の向きを変える必要があるため、自分で動けない人は検査することができません。また服用したバリウムが長い間便として排出されないと、腸の中でかたまり、検査後の腹痛の原因になることもあるため、普段から便秘がちな人は注意が必要です。
胃カメラ
鼻、もしくは口からカメラを入れ、食道を通って胃まで挿入します。食道の壁を直接見ることができるので、バリウム検査では見逃されやすい平らながんや色の変化だけといった病変も見つけることができます。
以前は口から挿入する経口胃カメラが主流でした。経口胃カメラは直径が9mm程度と太く、挿入時に舌の根元を押さえるため、人によっては検査中頻回に嘔吐反射が出ることもあります。その後開発されたのが直径6mm程度の細径胃カメラです。カメラが細くなったことにより、鼻からも挿入できるようになり、舌もほとんど押さえないことから嘔吐反射が強い人でも楽に検査ができるようになりました。また、口から挿入しないことで検査中に会話をすることもできるようになりました。
住民健診ではカメラの種類を選ぶことはできない場合もありますが、人間ドックや病院の精密検査では口から、もしくは鼻からのカメラを選択することができる場合もあります。口からの胃カメラでは苦痛が強く検査を避けていた人にはこの経鼻胃カメラは画期的ですが、経鼻胃カメラにもデメリットはあります。
1つはカメラが細くなった分、付随した器具もすべて小型になっており、後に説明する生検を行う場合に病変の細胞が少ししか取れないこと、また鼻から挿入する際、鼻を刺激することで鼻出血を起こすことがある点です。精密検査や内視鏡治療では基本的に十分な検査・処置ができる経口胃カメラを使用します。経口もしくは経鼻が選べる場合はこれらの特徴を理解したうえで選択しましょう。
人間ドックや任意検診における食道がん検査
人間ドックや任意検診ではバリウム検査、経口胃カメラ、経鼻胃カメラの中から1つ検査を選択できることが多いです。
腫瘍マーカー
食道がんの腫瘍マーカーは血液検査で行ないます。代表的な腫瘍マーカーは扁平上皮がんを反映するSCCと腺がんを反映するCEAです。この2つの腫瘍マーカーは食道がんに限られたものではなく、ほかのがんでも異常値になることがありますし、逆に食道がんであっても全く正常値の人もいます。この腫瘍マーカーだけでがんであると診断することもできませんし、がんではないと判断することもできないので、食道がんにおける腫瘍マーカー検査は補助的なものと考えてください。
食道がんの疑いから確定診断まで
ファーストステップ(食道がんの可能性があるかどうかを見る検査)
- バリウム検査
- 胃カメラ
- 腫瘍マーカー
セカンドステップ(食道がんかどうか確定診断する検査)
胃カメラ
ファーストステップで胃カメラを行わなかった場合、胃カメラの検査は必須です。精密検査ではカメラから病変に特殊な色素を散布したり、特殊な光をあてて、より病変を詳細に観察することができます。
生検(病理検査)
カメラで病変の一部を切り取って(生検)、顕微鏡でがん細胞の有無を判断する検査(病理検査)を行います。ここでがん細胞が認められれば食道がんと確定します。
サードステップ(食道がんのひろがりをみる検査)
食道癌は他のがんとの合併が多い病気であり、食道がんと診断されたときに全身を検査するとほかの部位のがんが見つかったり、もしくは食道がんが見つかる前後にほかのがんが現れることもあります。食道がんの人が他のがんを発症する確率は約20%と報告されており、多いのは胃がん、咽頭がん、喉頭がんです。
そのためサードステップの検査では食道がんの転移や浸潤の評価だけでなく、ほかのがんが合併していないかもあわせて検査します。
超音波内視鏡検査
胃カメラの先に超音波の機械を装備した特殊なカメラを使用します。胃カメラの要領でそのカメラを口から挿入し、食道のがんの部分にあてて、食道の内側から発生したがんが壁のどの部分まで深く侵入しているかを診断します。この検査は病気の深達度を判断するための検査で、この検査結果により進行度(ステージ)を判定します。
単純/造影CT
放射線を用いて臓器の形を見る検査です。食道がんそのものの診断目的ではなく、リンパ節や他臓器への転移の有無を調べるために行います。
単純/造影MRI
磁気を使用して臓器の形を見る検査です。こちらも周囲の臓器への転移や浸潤を見る目的で行います。
超音波検査(エコー検査)
首や心臓、お腹などの観察部位にゼリーを塗り、機械をあてて観察します。放射線を使用せず行うことができる点が利点ですが、お腹などではガスがたまったりしているとうまく見えないことがあります。そのほかに検査を行う人の技能により検査の正確度が異なる、検査の記録が一部しかできないため客観性に劣る、といった点がデメリットとしてあります。
超音波やCT、MRIは画像検査ですが、病変によってはこれらの検査で転移が見つけられない場合もあります。がんの種類や大きさなどにより、ある画像検査では見つけられなくてもほかの画像検査では発見されることもあるので、いくつかの画像検査を組み合わせるといった工夫が必要なこともあります。
造影検査は、造影剤を血管に入れることでより病変を目立たせて画像検査で見やすくして行う検査です。
PET検査
がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。全身を一度に調べることができます。
検診にかかる平均費用
健康診断・人間ドックで受ける検査
バリウム
検診 500~2000円
人間ドック 4000~13000円
胃カメラ
検診 1000~3600円
人間ドック 4000~15000円
※検診でどの項目が選択できるかは市町村によって異なります。
腫瘍マーカー(1項目)
人間ドック 2000~2500円
保険適応で受ける検査
- 生検(病理検査)3割負担 5000~8000円、1割負担 1500~3000円
- 超音波内視鏡検査 3割負担 5000~12000円、1割負担 1500~4000円
- 腹部超音波検査(エコー検査)3割負担 4000円、1割負担 1500円
- 単純CT検査(1部位) 3割負担 4000円、1割負担 1500円
- 造影CT検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 単純MRI検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 造影MRI検査(1部位) 3割負担 16000円、1割負担 5000円
- PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円
国立がん研究センター がん情報サービス | 食道がん
山口県済生会下関総合病院 | 食道がん
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
参照日:2021年4月