皮膚がん治療と副作用について

皮膚がんは切除を基本として様々な治療方法があります。病変の部位やひろがり具合、がんの細胞の種類などにより治療方針を決定します。

病院で治療方針の説明を受けるときには、自分の病気はどのような状態で、なぜその治療法がよいのか、その治療のメリットとデメリット、その治療以外の選択肢があるのかないのかを聞くことが重要です。

目次

皮膚がんの主な治療法

皮膚がんの基本的な治療は手術です。手術とはいえ多くの皮膚がんは皮膚にとどまった状態で発見されるのでほとんどが局所麻酔で切除可能です。
一部の進行した皮膚がんでは全身麻酔を必要とする手術を行ったり、薬物療法や放射線治療を検討します。

手術のメリットとデメリット

転移のない皮膚がんの基本的な治療は手術です。切除範囲は再発予防のために病変からしっかり余白をとって切除します。

切り取った部分が小さければ傷を縫い合わせる「縫縮(ほうしゅく)」で皮膚を修復しますが、切除範囲が広い場合は近くの皮膚を血管を切り離さないように移動させる「皮弁(ひべん)」という方法や、切除部位から離れた他の場所の皮膚を切り取って移植する「植皮(しょくひ)」を行います。

がんの部位によっては手術後も人目に触れる場所になるので、がんの治療の説明を受ける際には切除ばかりに注目しがちですが、皮膚をどのように回復させていくのか、手術後の傷はどのようになるのかといったことについてもきちんと説明を聞きましょう。

皮膚がんがリンパ節に転移している場合には合わせてリンパ節も切除します。切除できない部位の場合は放射線を当てることもありますが、放射線治療ではがん細胞が完全に消えないこともあります。

センチネルリンパ節生検

がんが一番最初に転移するリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。皮膚がんがリンパ節転移しているかどうかわからない時には、このセンチネルリンパ節を取り出してがん細胞があるかどうかを顕微鏡で調べます。理論上センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、それ以上にはひろがっていないと言えます。

皮膚がんのできた位置によってはセンチネルリンパ節は2つ以上存在することもあります。
センチネルリンパ節の見つけ方はラジオアイソトープ(RI)法や色素法があります。どちらもがんの周囲に検査薬を注入し、その薬がセンチネルリンパ節にたどり着いたところでRI法では画像検査で、色素法ではそのまま手術をして色に染まったリンパ節を探して切除します。

手術のメリット

皮膚がん治療の手術の一番のメリットは病変を取り出すことにより、より細かい病気の評価と治療の効果の判定が可能であるということです。

後で述べる抗がん剤や放射線療法の場合、治療が効いているかどうかはCTやPETなどの画像検査で評価を行いますが、言い換えれば画像で見えない大きさの病気については評価できません。しかし手術の場合は、病気がひろがっていると思われる範囲をすべて取り除き、その後取り出した病変に対し顕微鏡による検査(病理検査)を行って、十分に取り切れているかを評価することができます。細胞レベルで評価するため、CTやMRI、PET検査よりも精密な診断になります。

皮膚がんでは病変ギリギリを切り取るのではなく、がん細胞が1つでも残らないように十分に余白をとって切除しますが、顕微鏡検査ではその切除範囲が問題なかったかについても評価します。

手術のデメリット

皮膚がんでは皮膚を切除するため、どうしても傷跡が残ります。皮膚がんの治療は根治を目指すことが重要ですが、その上で傷跡ができるだけ目立たないように、違和感がないように修復を心がけます。しかし病変が大きかったり、皮膚の修復能力が落ちている人ではどうしても傷跡が残りやすくなります。美容面で心配がある場合はきちんと手術前にどのような修復方法があるのか確認しておきましょう。

全身麻酔の手術ではどんなに検査や準備をしても、手術や全身麻酔による合併症の危険性はゼロにはなりません。そのため、病院はあらゆる想定をもとに予防や術後の診察を行い、合併症を早期に発見し迅速に対応するようにしています。しかし、自分の体のことですからすべて病院任せにせず、自分でも合併症が起きた場合にすぐ気づけるように、自分の手術ではどんな合併症が起こりうるのかをきちんと聞いておきましょう。
比較的頻度の高い合併症は以下の通りです。

出血
切除した部位から出血が続くこと。

縫合不全
縫い合わせた部分がしっかりくっつかないこと。

創部感染
切った部分に細菌が感染すること。

肺炎
全身麻酔で人工呼吸器を使用すると、気道に管が入る影響などで痰が増えます。胸に痰が溜まると肺炎になることがあります。

下肢深部静脈血栓・肺血栓塞栓症
足の動きが減ることで、足の血管に血栓(血の塊)ができること。もしくはその血栓が肺に飛んで、肺の血管が詰まること。

せん妄
手術や入院のストレスなどが原因でおきる意識障害。意味不明な言動や幻覚・幻聴、暴れるといった異常行動がみられる。

抗がん剤のメリットとデメリット

皮膚がんが手術できる範囲を超えていたり、手術後再発の可能性がある場合は抗がん剤による治療を行います。

転移が多い悪性黒色腫では細胞障害性抗がん剤、特にダカルバジンが多く使用されていましたが、十分な効果は得られていませんでした。悪性黒色腫の薬物治療は後述する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療に移りつつあります。

有棘細胞癌ではシスプラチンを中心とした抗がん剤が使用されます。

免疫チェックポイント阻害薬

がん細胞が免疫から逃れようと免疫細胞にかけたブレーキを解除して、体内にもともとある免疫細胞を活用する作用のある薬です。

悪性黒色腫に対してはニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブなどがあり、がんの縮小は10-40%の症例に期待されます。

有棘細胞がんに対してはセミプリマブが使用されています。

分子標的薬

正常細胞を傷つけないように、がん細胞の増殖に関わる分子を攻撃する薬です。

約半数の悪性黒色腫ではBRAF(ビーラフ)と呼ばれる遺伝子の変異ががんの進行に関わっていることが判明し、腫瘍組織にBRAF遺伝子変異があると確認された場合には変異BRAFの働きを阻害するダブラフェニブ、トラメチニブ、ベムラフェニブ、エンコラフェニブなどが用いられています。これらの薬は免疫に関わるT細胞の増殖と活性化によってがんを抑制する効果があると考えられています。

約半数に縮小効果が期待できますが、長く続けているとだんだんと薬が効きにくくなる耐性がつくことや、治療途中でほかの皮膚がんができてしまうことがあります。

BRAF遺伝子に変異があるとマイトジェン活性化細胞外シグナル関連キナーゼ(MEK:メック)が活性化されてがん細胞が増殖します。そこで開発されたのがMEK阻害薬です。MEK阻害薬はBRAF阻害薬と併用するとさらに効果が期待できます。悪性黒色腫に使用されるMEK阻害薬にはトラメチニブやビニメチニブなどがあります。

有棘細胞がんではがん細胞の増殖に関わるEGFRというたんぱく質の機能を抑制するセツキシマブという分子標的薬が使用されます。

抗がん剤のメリット

抗がん剤を含む薬物療法は全身に効果を発揮するため、画像検査で見つけることができないごく小さながんに対しても効果を発揮します。

抗がん剤のデメリット

抗がん剤は正常な細胞まで効果をおよぶため、吐き気、下痢、口内炎、脱毛といった副作用の症状が現れることがあります。

免疫チェックポイント阻害薬では免疫を活発化させますが、過剰な免疫反応により皮疹や間質性肺炎、肝炎、血栓症などを起こすことがあります。

分子標的薬ではどの部分に作用するかによって副作用が異なりますが、BRAF阻害薬では皮疹や筋肉痛、胃腸症状、MEK阻害薬では発熱や目の障害、心機能障害や肝機能障害などの副作用が報告されています。

自覚症状がなくても血液検査や画像検査を行わないとわからない副作用もあるため、定期的に検査を行って経過を見ていく必要があります。使用する薬によって出現しやすい副作用はわかっているため、あらかじめ副作用が出にくいように予防薬を使用することもあります。

放射線治療のメリットとデメリット

皮膚がんに対する放射線治療は年齢やその患者の状態により、手術や薬物療法ができない場合に選択されることがあります。特に有棘細胞がんや基底細胞がんでは放射線治療の効果が期待しやすいタイプです。その他に外科手術後にがん細胞が残っている可能性がある場合や、がん細胞が神経に及んでいる場合、そして再発した症例に対しても放射線治療を行うことがあります。

悪性黒色腫に対しては通常の放射線療法の効果は低く、主に症状を和らげる緩和としておこなわれていましたが、速中性子線、陽子線や重粒子線といった特殊な放射線治療は悪性黒色腫の治療にも有効という報告があります。

特に脳に転移した悪性黒色腫に対する定位放射線治療(ガンマナイフやサイバーナイフ)はこれまでの放射線治療と比べて予後を半年以上伸ばす効果がみられています。

放射線のメリット

治療そのものはじっと寝ているだけで行うことができるので、体力低下や肝機能障害・腎機能障害などがあっても行うことができます。美容的な観点から患者の希望によっては外科手術ではなく放射線治療が望ましいこともあります。

放射線のデメリット

放射線治療にも副作用はあります。放射線を当てる位置によっては皮膚に日焼けの症状が現れたり、血液を作る骨髄の機能が低下し白血球が減って免疫力が低下することもあります。放射線性の肺炎や、胸や心臓に水が溜まるといった副作用が放射線治療が終わった後に現れることもあります。

その他の治療法

凍結療法

液体窒素を直接がんの部分に塗り、がん細胞を凍らせて壊死させる治療です。

光線力学療法

がん細胞に集まる性質があり、かつ光に反応して変化する薬剤を投与し、がん細胞に集まったタイミングで病変部にレーザーを当てます。すると注入した薬剤が病変で活性酸素を発生させてがん細胞を死滅させることで効果を発揮する治療です。

インターフェロン

インターフェロンは体内で作り出される生理活性物質で、がんの増殖を抑制する効果を持っています。これを注射で投与します。

外用薬

表皮内癌に対しては外用薬(塗り薬)による治療も検討されます。

イミキモド

インターフェロンαの産生促進を介して細胞性免疫を活性化させます。表皮内にとどまる表在型の基底細胞がんでは80%近い効果を発揮しています。何らかの理由で手術が難しい症例ではガイドラインにも掲載されている治療法です。

抗がん剤の外用薬

ブレオマイシン硫酸塩、フルオロウラシル軟膏といった抗がん剤の塗り薬があります。

臨床試験

標準的な治療として確立されてはいませんが、理論上皮膚がんに効果が期待できる治療を受けることができます。限られた病院で実施されています。

緩和ケア

一昔前、緩和ケアは治療法のないがん患者に対して行われるといったイメージでしたが、最近ではすべてのがん患者において肉体的・精神的サポートを行うために緩和ケアが重要と考えられています。そのため、「あなたには緩和ケアが必要です」と言われても、早とちりして「私はもう治療できないんだ」と思わないでください。治療が順調に進んでいても、がん患者さんの多くはがんと宣告されたときから様々な不安を持っています。そしてがんによる症状、治療による副作用、治療後の後遺症に悩む方もいます。そのような肉体的・精神的ケアを行うのが現代の緩和ケアです。

「がんと言われて不安だ」「抗がん剤の治療をしているから吐き気くらいは我慢しなければならない」「治療費がどのくらいか心配だ」といったがんにまつわる様々な不安・症状を取り除くのが緩和ケアです。

皮膚がんの再発や転移について

皮膚がんの再発

皮膚がんが再発した場合、可能であれば再度外科的手術を行いますが、難しい場合には薬物療法や放射線治療を検討します。
治療が困難な場合、皮膚がんが進行すると病変から出血や浸出液が出てきたり、悪臭がすることがあります。そのような場合には下記のような外用薬を使用することもあります。

Mohs(モーズ)ペースト

組織固定に使用される薬剤で、腫瘍を変性・硬化させることによって浸出液や出血、悪臭の対策をする薬です。

メトロニダゾールゲル

臭いのもととなる菌を殺菌することにより臭気を軽減させます。

皮膚がんの転移

皮膚がんが転移した場合には転移先の臓器に合わせた治療方法を選択します。体の一部にとどまっている場合は手術や放射線治療を、あちこちにひろがっている場合は薬物療法を検討します。

がん情報サイト「オンコロ」 | メラノーマ(悪性黒色腫)の化学療法/抗がん剤治療
一般社団法人日本皮膚悪性腫瘍学会 | 悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引き
がん情報サービス
日本皮膚科学会ガイドライン | 皮膚悪性腫瘍ガイドライン第 3 版 有棘細胞癌診療ガイドライン 2020
希少がんセンター | 皮膚腫瘍
九州大学病院のがん診療|九州大学病院 がんセンター | |皮膚がん
Mindsガイドラインライブラリ | (旧版)科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン(第2版) 第1部 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第2版
参照日:2021年4月

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医