咽頭がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて  

咽頭は鼻の奥からのどまでの管状の臓器で、がんの発生数としては頻度は少ないですが、タバコやアルコールによって発症しやすくなる部位です。咽頭がんは検診や人間ドックで見つけることは難しい病気であり、病気の発見のためには自ら病院を受診して検査を受けることが必要です。

ここでは咽頭がんがどんな病気なのか、咽頭がんになりやすいのはどんな人なのか、そして咽頭がんの予防について紹介します。

目次

咽頭がんとは

咽頭とは

咽頭は鼻の奥から食道の手前までの管状の臓器で、空気や食べ物が通り、呼吸や食事に関係しています。

咽頭は上から上咽頭・中咽頭・下咽頭の3部位に分類されます。上咽頭と中咽頭の境目は口蓋垂根部、中咽頭と下咽頭の境目は喉頭蓋谷です。イメージとしては上咽頭は鼻の奥、口を開けたときに奥に見えているのはおおよそ中咽頭で、下咽頭はそれよりも下ということになります。

鼻から入った空気は上咽頭→中咽頭→喉頭→気管→肺へと流れ、口から入った食べ物は中咽頭→下咽頭→食道→胃へと通っていきます。

咽頭の前面には喉頭があり、喉頭には声を出すための声帯があります。咽頭がんのひろがり具合によっては喉頭や声を出す機能にも影響が出てきます。

咽頭がんの種類

咽頭がんは病気の発生した位置によって分類をするのが一般的で、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんのつに分類されます。日本人では下咽頭がんが最も多くみられますが、中咽頭がんも増加傾向にあります。

細胞の種類としては多くが扁平上皮がんで、その他にまれに腺がんや未分化がん、悪性リンパ腫や黒色腫も見られます。

咽頭がんの主な原因とリスクファクター

咽頭がんは部位によってリスクファクターが異なります。

  • 上咽頭がん:EBウイルス
  • 中咽頭がん:ヒトパピローマウイルス(特にHPV-16型)、タバコ、アルコール
  • 下咽頭がん:タバコ、アルコール、Plummer-Vinson症候群

EBウイルス

95%以上の人が成人になるまでに一度はこのEBウイルスに感染しますが、ほとんどの人は無症状、もしくは風邪症状程度で終わります。その後ウイルスは体内に残り続けますが、EBウイルスが原因で病気を発症することはほとんどありません。しかし稀に体内でEBウイルスが活動を続けることがあり、この状態を慢性活動性EBウイルス感染症と言います。

EBウイルスは発がん性をもつウイルスで、その機序は明らかになっていない部分もありますが、リンパ腫や胃がんなどとともに上咽頭がんの原因にもなります。EBウイルスが原因で発症する上咽頭がんは若い人でも発症する可能性があります。

HPV(ヒトパピローマウイルス:ヒト乳頭腫ウイルス)

HPVはヒト乳頭腫ウイルスとも言われ、その種類は200種類以上があります。種類によって感染しやすい部位があり、例えば皮膚に感染してイボを作るHPV-2型、27型、57型、子宮頸がんの原因になるHPV-16型、18型などがあります。

咽頭がんと関連しているのはHPV-16型です。HPV-16型は子宮頸がんの原因にもなるウイルスですが、キスやオーラルセックスで喉に感染すると中咽頭がんを発症する原因になります。一般的にHPV感染が原因で発症した中咽頭がんは若年者が多く、その他の原因で発症した高齢者と比較して治療の効果が高いという報告もあります。

Plummer-Vinson(プランマ―・ビンソン)症候群

鉄欠乏性貧血に舌炎と嚥下障害の症状を伴う疾患です。口や喉の粘膜が萎縮することがわかっており、口腔がんや喉のがんとの関連が報告されています。

タバコ

喫煙は咽頭がんの発症の可能性を増やします。
日本における男性の喫煙者ではタバコを吸わない人と過去の喫煙者、現在の喫煙者、喫煙指数が60以上の人と比較した場合の発症リスクは以下の通りです。
*累積喫煙指数:1日に吸うタバコのパックと喫煙年数を掛けたもの(例:1日2箱を30年喫煙している場合=2×30=60)

上咽頭がん

過去:データなし 
現在:3.8倍
喫煙指数60以上(データなし)

中咽頭がん

過去:1.5倍
現在:3倍
喫煙指数60以上:4倍

下咽頭がん

過去:6.7倍
現在:13.1倍
喫煙指数60以上:20.9倍

咽頭がんになりやすい人の特徴

咽頭がんの頻度は非常に少なく、部位別の発症者数は以下のように報告されています。

上咽頭がんの頻度:10万人あたり約1人
中咽頭がんの頻度:10万人あたり約1人
下咽頭がんの頻度:10万人あたり約2人

咽頭がんの罹患者数のデータは「口腔がん・咽頭がん」でまとめられています。このデータによると「口腔がん・咽頭がん」の発症ピークは男性で70歳代、女性では100歳以上となっています。

男女比では男性に多く、70歳代での発症数を比較すると男性の発症率は女性の3倍以上です。咽頭がんが男性に多く、また男性の方が発症年齢が早い理由として、男性に喫煙者やアルコールを飲む人が多いことが影響している可能性があります。

アルコールと咽頭がんの関連性

アルコールは咽頭がんの発症リスクを増やします。アルコールは咽頭がんに限らず、さまざまながんの発生に関係していますが、その原因としてアルコールを代謝したときに発生するアセトアルデヒドが原因であると考えられています。

アセトアルデヒドはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸に変換されますが、日本人の44%はALDH2遺伝子の欠損があり、アセトアルデヒドが残りやすい体質であることから、外国人と比較してアルコールの影響によりがんを発生しやすい人種と考えられています。

日本における男性の飲酒しない人と比較した日常飲酒者(週1回以上の飲酒)の発症リスクは以下の通りです。

上咽頭がん:0.4倍
中咽頭がん:1.3倍
下咽頭がん:3.3倍

このデータから、アルコールは特に中・下咽頭がんと関連していると考えられます。
タバコとアルコール、両方が合わさると咽頭がん発症の危険性がさらに増すことも報告されています。

予防と早期発見のコツ

咽頭がんの予防

禁煙

咽頭がんの原因と判明しているタバコをやめることは、咽頭がんになる危険性を低下させます。

禁酒

咽頭がんと関連が指摘されているアルコールを控えることは、咽頭がんの予防になります。適正な1日のアルコール摂取量は男性の場合20g、女性で10gまでとされていますが、お酒を飲むとすぐ赤くなる人はアセトアルデヒドが残りやすい体質である可能性もあり、より摂取量を減らしたほうがよいでしょう。

<アルコール10gの目安>
  • 日本酒 0.5合
  • ビール ロング缶や中瓶の半分(250ml)
  • チューハイ(7%) 350ml缶の半分
  • ワイン グラス1杯(100ml)
  • 焼酎(25%) 50ml 

非でんぷん野菜(いも類以外の野菜)・果物

栄養と咽頭がんの発生率を調べた調査では、いも類以外の野菜や果物をよく摂取する人では咽頭がんの発生が少なかったという報告があります。

早期発見のためには

通常の健康診断や人間ドックでは咽頭がんを発見するための検査は含まれていません。そのため、咽頭がんの早期発見には自分が咽頭がんになる危険性が高いかどうかを認識すること(喫煙や大量のアルコール摂取など)、そして咽頭がんが疑われる症状が出たときには、ただちに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。

一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会|口腔・咽頭・味覚
J-STAGE|咽頭の臨床解剖
J-STAGE|Plummer-Vinson症候群に舌癌を伴った1症例
国立がん研究センターがん対策研究所 がん対策研究所予防関連プロジェクト | 喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて
がん情報サービス|集計表
がん情報サービス|がんの発生要因

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医