膵臓がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは

膵臓がんになるとどんな症状が現れるのでしょうか?どんな時に病院を受診したらいいのでしょうか?実は早期の膵臓がんは症状が出にくく、また特有の症状がほとんどありません。

では、早期発見のためにはどのようなことに注意して、人間ドックなどで膵臓がんを見つけるためにはどんな検査を受けたらいいのでしょうか。また、膵臓がんが疑われた場合、どのように検査が進んでいくのかについて紹介します。

目次

膵臓がんの主な初期症状

膵臓がんの早期発見が難しい理由の1つは初期には自覚症状がないことが多いからです。20mm以下の大きさの膵臓がんの患者さんの80%はいずれ症状が現れるという報告もありますが、その症状の多くは膵臓がん以外でも見られる症状であり、症状だけで膵臓がんと判断することはやはり難しいのが現状です。

部位により出やすい症状が異なる

膵臓は細長い臓器で、中を主膵管という管が通り、そこに膵液が流れています。主膵管は十二指腸に開口しており、どの部分にがんができるかで、出やすい症状は異なります。頻度としては膵頭部がんの発生は膵体部がんと膵尾部がんを足した数のおよそ3倍と報告されています。

膵頭部がんで出やすい症状

主膵管と肝臓からの消化液を分泌する総胆管は十二指腸にある乳頭部という場所から分泌されるので、この位置でがんが大きくなると膵臓だけでなく、肝臓の症状が現れることがあります。特にみられるのは黄疸で、これは胆管の出口を病変が圧迫し、胆汁の流れが妨げられることにより起きる症状で、膵頭部がんに多く見られます。

膵体部・膵尾部がんで出やすい症状

膵管が病変によって狭くなり、膵液の流れが悪くなると膵液がたまって腹痛を引き起こします。症状は上腹部痛であったり、膵臓は胃の後ろ側にあるため、背中や腰の痛みとして症状が出ることもあります。一般にこれらの痛みは食事に関係なく現れます。

部位に関係なく現れることがある症状

膵臓はインスリンを作って、血糖が上がりすぎないように調節をしていますが、がんができて正常な膵臓の組織が減ると十分な量のインスリンを作ることができなくなり、糖尿病である人では血糖値が急に悪化したり、糖尿病でない人は糖尿病を発症したりします。

消化液が適切に分泌されなくなったり、摂取した栄養をがんが消費してしまうことで、体重減少がみられることもあります。

膵臓がんの自己診断チェック

自己診断のみで膵臓がんかどうかを判断することはできませんが、膵臓がんを疑う症状は以下の通りです。当てはまる項目が多い場合は、病院受診をお勧めします。

40歳以上である
タバコを吸う
心窩部痛がある
背部痛がある
糖尿病がある
慢性膵炎と診断されている
体重が減ってきた
白目の部分が黄色い
家族に膵臓がんの人がいる
(男性の場合)BMIが30以上ある

検診と検査項目

膵臓と関係した検診項目

AMY(アミラーゼ):膵臓から分泌されている消化液の1つで、蛋白質を分解する酵素です。膵臓だけでなく、唾液腺からも分泌されています。膵臓が壊れたり、主膵管の通りが悪くなると増加するので、急性膵炎や慢性膵炎でも増加することがあります。逆に膵臓がんでも主膵管を圧迫しない場合はアミラーゼは増加することは少なく、膵臓がんであってもアミラーゼが増加する割合は20-30%と報告されています。

リパーゼ:膵臓から分泌されている消化液の1つで、脂肪を分解する酵素です。膵臓の細胞が壊れると血液中のリパーゼが増加するため、膵臓がんでも増加しますが、そのほかに急性膵炎や慢性膵炎でも増加します。また体内のリパーゼは腎臓から尿として排出されるため、腎機能が低下して排出量が増えるとリパーゼが上がります。

腫瘍マーカー

膵臓がんに関連した腫瘍マーカーにはCA19-9、CEA、Dupan-2などがあります。ただし、膵臓がんでそれぞれの腫瘍マーカーの陽性率を見た場合、CA19-9は70-80%、CEAで55-62%、Dupan-2で48%と報告されており、膵臓がんだからといってかならずしも腫瘍マーカーが上がるわけではありません。

膵臓がんにおける腫瘍マーカーの意味はがんを発見するために検査するのではなく、時間の経過とともに数字が上がってくるのか、下がってくるのかという流れを見て、治療後の膵臓がんの再発を推測したり、抗がん剤などの治療の効果を判定するために用いられるものです。

また、腫瘍マーカーはがんでのみ増加するものではありません。CA19-9は胆石や総胆管結石などで肝臓からの消化液の排出が滞った場合にも増加しますし、CEAもタバコを吸っている人で上がることがあります。

検診の種類によってはアミラーゼやリパーゼ、腫瘍マーカーといった膵臓に関連した検査項目が全くない検診もあります。

人間ドックで行われる膵臓がん検診

腹部超音波検査(エコー検査)

お腹にゼリーを塗り、機械を当てて検査を行います。放射線を使用しない検査です。

腹部単純CT

放射線を用いた検査です。超音波で観察しにくい、膵臓の尾部も見ることができます。

腹部MRI/MRCP

磁気を用いた検査です。MRIは膵臓実質の形を見る検査で、MRCPは主膵管の形を見る検査です。消化液である膵液や胆汁がたまった状態で検査を行うため、検査前は絶飲食が必要です。また、MRCPの場合は胃や腸の液体が邪魔しないように直前に検査薬を服用して検査を行います。

膵臓がんの疑いから確定診断まで

ファーストステップ(膵臓がんの可能性があるかどうかを見る検査)

腹部超音波検査

腹部単純CT

セカンドステップ(膵臓がんかどうか確定診断する検査)

腹部造影CT

放射線を用いた検査です。血管や病変を見やすくするために血管から造影剤を注入してCTを行います。

腹部MRI/MRCP

ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)

胃カメラのような器具を口から胃を経由して十二指腸まで挿入し、膵液の出口である乳頭から細い管を入れて造影剤を注入し、レントゲンを撮影する検査です。膵管に直接管を入れることができるため、膵液を採取したり、膵管をブラシのようなものでこすってがん細胞の有無まで検査することができます。

ERCPは検査のみならず、主膵管に細いところがあればストローのような管を入れて膵液の流れを改善したり、治療としても行われることがあります。

EUS(超音波内視鏡)/EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引生検)

胃カメラの先に超音波がついており、胃に挿入して胃の壁越しに膵臓を観察します。膵臓はお腹の壁から深く離れているので、通常の腹部超音波検査では膵臓がきれいに見えないことがありますが、EUSでは膵臓に接近して検査ができます。

さらにEUSを使いながら胃の内側から膵臓に針を刺して、細胞を吸い取る検査があります。これをEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引生検)と呼びます。この膵臓から吸い取った細胞にがん細胞が認められれば膵臓がんと診断できますが、検査の際にがん細胞が散らばったりする可能性もあるので、すべての膵臓がんの人に行われる検査ではありません。

サードステップ(膵臓がんのひろがり具合を見る検査)

遠隔転移の有無を判断する目的で行われる検査です。

単純/造影CT検査

放射線を用いた検査です。転移の疑われる部位を撮影します。血管や病変を見やすくするために血管から造影剤を注入する造影CTが行われることもあります。

単純/造影MRI

磁気を用いた検査です。検査部位は状況により頭部、胸部、腹部などに対して行います。場合によっては血管を見やすくするために造影剤を用いた造影MRIが行われることもあります。

CTとMRIは見やすい臓器が異なるので、同じ部位にCTとMRI両方の検査を行うこともあります。

PET検査

がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。全身を一度に調べることができます。糖尿病で血糖値のコントロールが不安定な人はこの検査で正しい結果が出ないことがあります。

検診にかかる平均費用

通常の市町村の検診で膵臓がんを発見する目的での検査はありません。会社の健康診断や人間ドックでは時に腹部超音波検査や腹部単純CTを行うことがあります。セカンドステップ以降の検査は通常保険診療で受けることができます。

健康診断・人間ドックで受ける検査(相場)

・腹部超音波検査(エコー検査) 6000円
・腹部単純CT検査 12000円
・膵臓MRI/MRCP 22000-38000円

保険適応で受ける検査(目安)

・腹部超音波検査(エコー検査)3割負担 4000円、1割負担 1500円
・単純CT検査(1部位) 3割負担 4000円、1割負担 1500円
・造影CT検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
・単純MRI検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
・造影MRI検査(1部位) 3割負担 16000円、1割負担 5000円
・MRCP 3割負担 7000円、1割負担 2500円
・ERCP 3割負担 6000円、1割負担 2000円
*ERCPは通常入院が必要な検査です。別途点滴や入院費用がかかります。
・PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円

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東京大学医学部附属病院消化器内科 胆膵グループ | ERCP
参照日:2020年6月

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医