子宮体がんとは

子宮体がん

子宮体部は妊娠したときに胎児を育てるための臓器です。子宮体がんは子宮内膜から発生します。子宮内膜は月経と関連している細胞・組織で構成されています。

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2019年予測値では、16000人の方が子宮体がんにかかり、2800人が亡くなったと推定されています。この数は年々増加傾向です。そのため、子宮体がんを予防したり、早期に治療したりすることは重要です。

子宮体がんは、多くの場合、初期症状として不正性器出血があるため、自分自身で気づきやすいがんの1つです「不正性器出血があったら、必ず子宮体がんがある」という訳ではありませんが、不正性器出血があった場合には、放置せずに専門医を受診し、原因を確認することが必要です。

このように子宮体がんは、早期発見可能ですし、病期が進んでいなければ生存率も高いがんです。ここでは、子宮体がんがどのような病気で、どのような検査や治療が行われているのかについて紹介します。ぜひ予防や早期発見、より良い治療選択のための参考にしてください。

目次

子宮とは

子宮は、よく知られているように妊娠時に胎児を育てる臓器です。妊娠していない時の大きさは、縦6cmから8cmで、幅は4cmから5cmほどです。子宮の構造は大きく2つに分かれています。1つは、上部にある子宮体部で、左右が卵管につながっています。もう一つは、下部にある子宮頸部で、下で膣につながっています。

子宮体部は多くの部分が筋肉組織で出来ていますが、内側は子宮内膜という粘膜で出来ています。子宮内膜は月経周期に合わせて、増殖と剥離を繰り返します。剥離した粘膜は月経血として腟から排出されます。

子宮体がんの初期症状と診断方法

子宮体がんで最初に気づく症状として最も多いものは、不正性器出血です。不正性器出血とは、月経・分娩・産褥期での性器出血とは異なり、異常なタイミングで見られる性器出血です。不正性器出血はさまざまな原因で見られますので、「不正性器出血があれば、必ず子宮体がんがある」という訳ではありません。しかし、どのような原因で不正性器出血しているのであれ、放置すると良くありませんので、早めに婦人科を受診しましょう。

子宮体がんが疑われるような場合の検査には、「細胞診」という検査があります。細胞診では、子宮の内部に細いチューブやブラシのような器具を直接挿入して、細胞を採取して、その細胞を顕微鏡で観察します。細胞を採取する際には、軽い痛みを感じる場合があります。また、検査後に出血などの合併症が出ることもあります。このような合併症がありますが、下で紹介する組織診と比較すると検査費用面でも安く、また検査時の痛みも少なくてすむため、広く行なわれています。

細胞診の結果、子宮体がんの疑いがある場合には、さらに組織診という検査も行ないます。組織診では、検査用の器具を使って、子宮体がんがあるのでは無いかと疑われる子宮内膜の組織を採取し、顕微鏡で観察します。組織を観察することによって、子宮体がんが確かに発生しているのかどうか、もし発生しているとしたら悪性度はどの程度なのか、等を詳しく調べます。検査の際には、細胞診とは異なって採取するのが「細胞」ではなく「組織」なので、採取量が多くなります。そのため、多くの場合で痛みを伴いますので、通常は麻酔をかけて行います。

がんであることが判明した場合には、他にも画像検査を行なって、がんの進展範囲を明らかにして、どのような治療が適切かを判断するための材料を収集します。

初期症状から診断までの流れ、検査にかかる費用については「子宮体がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは」で紹介しています。

子宮体がんの主な原因と特徴について

子宮体がんの主な原因

子宮体がんの原因には、大きく分けて、ホルモン関連、ライフスタイル関連、遺伝性の3種類に分けることができます。

ホルモン関連のリスクファクターとしては、エストロゲンというホルモンが関係していることが分かっています。エストロゲンは月経周期をコントロールするホルモンの1つですので、初経が早く閉経が遅い場合にはこのリスクが高くなります。また、乳がんの治療に用いられるタモキシフェンという薬があります。この薬は抗エストロゲンという働きがあり、乳がんへの治療効果があるのですが、この働きは子宮体がんにはリスクになっています。

ライフスタイル関連のリスクファクターとしては、メタボリックシンドロームに関連した状態(肥満・糖尿病・高血圧など)が挙げられます。また、食生活に関連して植物性のエストロゲン様物質(大豆イソフラボンなど)の影響も研究されていますが、明確に子宮体がんを発生させやすい(あるいは、発生させにくい)という関係は明らかになっていません。

遺伝的要因として、リンチ症候群という遺伝性の病気があります。一般女性では生涯に子宮体がんになる方は約2.7%ですが、リンチ症候群の女性では約60%ととても高率になっています。

子宮体がんの特徴

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出典:医療法人社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院|子宮体がん(子宮内膜がん)とは

子宮体がんは子宮内膜から発生するがんです。子宮内膜は月経と関連している細胞・組織で構成されていますので、子宮内膜に何らかの異常が出ると不正性器出血として現れやすいという特徴があります。このため、初期の自覚症状としては比較的、気づきやすいがんの種類と言えます。子宮体がんを早期発見し、早期治療するためには、不正出血などの症状などがあれば、婦人科を受診し、確認することが重要です。

このような子宮体がんの原因や特徴について「子宮体がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて」で紹介しています。

子宮体がんのステージ別生存率

子宮体がんでは早期に治療を行なうことができれば治療効果が高くなっていますが、末期になればなるほど治療効果が期待できません。子宮体がんのステージ別の治療成績を5年相対生存率という指標で見てみたいと思います。なお、5年相対生存率とは、がんになっていない同年代の人が5年後に生きているという確率に比べて、がんの治療を受けた方がどのくらいなのか?という指標です。

病期 5年相対生存率(%)
ステージⅠ 96.4
ステージⅡ 88.1
ステージⅢ 66.3
ステージⅣ 18.8

子宮体がんの5年相対生存率は、ステージⅠで96.4%、ステージⅡで88.1%、ステージⅢで66.3%、ステージⅣで18.8%となっています。ステージⅣでは、急激に生存率が落ちていることがわかります。子宮体がんでは、患者さんのうち91.9%が手術を受けていますので、手術を受けた患者さんだけでステージ別の5年相対生存率を見てみると、それぞれ96.7%、88.0%、73.6%、32.8%となっています。

このような子宮体がんのステージ別生存率や平均余命、緩和ケアについての説明は、「子宮体がんのステージ別生存率と平均余命」で紹介しています。

治療と副作用

子宮体がんの治療では、2つの観点から治療法を決定する必要があります。まず、子宮体がんのステージです。ステージが進んでいればいるほど、広汎な手術を行なうなどの治療方針をとる必要があります。もう1つの観点は妊孕性の温存です。子宮体がんの治療後に妊娠の希望がある場合には、妊孕性を温存した治療・手術をする必要があります。もちろん、ステージの進み具合によっては、妊孕性温存治療は選択出来ませんし、選択した場合でも再発のリスクが高くなることを十分に理解しておく必要があります。

子宮体がんの治療においては、多くの方が手術を受けています。がんを全て取り切ることで根治を期待できますし、切除した部分を顕微鏡で観察し、悪性度を再評価したり、再発可能性を検討したりすることができます。しかし、手術の合併症としては、「リンパ浮腫」「排尿障害・便秘」「卵巣欠落症状」といった症状が出現することがありますので、主治医の先生によく相談することが必要です。

再発リスクが高い場合には、手術に加えて、抗がん剤治療や放射線治療を行ない、再発リスクを下げたり、手術で切除できない部分のがんの病勢を抑えたりします。抗がん剤治療では、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)、脱毛、吐き気・嘔吐や末梢神経障害という副作用があります。また、放射線治療の副作用としては、消化器の症状(直腸炎、小腸の閉塞や下痢など)や膀胱炎が起ることがあります。さらに放射線治療は他のがんに比べて子宮体がんには効きにくいという欠点があります。

子宮体がんの治療については「子宮体がん治療と副作用について」にて紹介しています。

全国の病院ランキングトップ10

どの病院で治療を行うかは、がんを治療していく上で重要な問題です。通院しやすさや主治医の先生と馬が合うなどの要素も考えなければなりませんが、その病院での子宮体がんの治療成績も重要な要素です。この「治療成績」について説明します。

残念ながら日本では、治療成績を網羅的に調べるためのデータベースは整備されていません。そのため、代わりの指標として「DPCデータ」というデータを用いることがあります。このデータには、どの病院でどのくらい手術や治療を行なっているのかを知ることが出来ます。

ただし、手術数・治療数は人口の多い都市部で多くなりがちです。そのため、病院の治療成績を比較するときには、手術数・治療数だけでなく、他の指標(平均在院日数など)も合わせて確認することが重要です。特に初期や悪性度が低い子宮体がんで妊娠希望がある場合には、妊孕性温存治療が行なわれます。このような治療の後での妊娠は早産などのリスクがあります。そのため、子宮体がん治療後の妊娠についても検討事項にいれることも必要になります。

「手術数で分かる子宮体がんの名医がいる病院ランキングトップ10」では、DPCデータを元に手術数が多い病院をリストアップし、他に注目したい指標についても紹介しています。

がん情報サービス | 子宮体がん(子宮内膜がん)
Wolters Kluwer | UpToDate: Industry-leading clinical decision support
日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん
がん情報サービス | がん統計予測
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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