子宮体がん治療と副作用について

子宮体がんには、いくつもの治療方法があります。それらの治療法から、どのように治療方針を決めれば良いのでしょうか。治療法の選択は体の状態や妊孕性の温存(治療後にも妊娠できるかどうか)の希望、治療後の副作用など、いくつもの条件を考えながら決めていくことが必要です。

本当に良い治療を受けるためには、これらに加えて自分自身の生活の質という観点も含めて、治療方針を考える必要があります。そのため、治療後に発生するトラブルなどについても、前もって検討しておくことが重要です。

これらの情報や判断は、主治医の先生からの説明を十分に受けて、治療前に疑問が残らないようにして下さい。ここで紹介する内容もその助けになると思いますので、是非役立てて下さい。

目次

子宮体がんの主な治療法

がんの治療は、がんの状態や患者さんの年齢やその他の病気の有無、患者さん本人の希望なども含め検討し、主治医の先生とともに決めていきます。

子宮体がんの治療方法には、大きく分けて、手術・抗がん剤による治療(化学療法)・放射線治療などがあります。これらの中から、がんの進行状況や妊孕性を温存するかどうか等を考慮して治療が選択されます。また、単独で治療することばかりではなく、治療後の再発リスクを下げるために、多くの場合では複数の治療方法を組み合わせます。

では、それぞれの治療のメリット・デメリットについて、より詳しく紹介していきます。

手術のメリットとデメリット

子宮体がんの手術治療では、手術により子宮と付属する臓器(卵巣や卵管)を取り除きます。手術による治療は、いずれの病期(ステージ)のがんに対しても検討されます。ただし、切除する範囲については、がんの広がり具合や年齢・病状などを考慮して決めていきます。

手術のメリットとしては、がんを全て取り除くことが期待できますし、切り取ったがん組織を詳しく顕微鏡で観察することによって、がんの性状・悪性度をより詳しく知ることができます。これにより、他の治療(放射線、抗がん剤を用いた治療)を追加で行なうべきか、行なうとしたらどの位行なうのかを判断する事もできます。

一方で、手術は基本的に開腹手術(お腹を切って臓器を切除する手術方法)ですので、それに伴い、合併症というデメリットがあります。特に、がんの広がり具合が多い場合には、広範囲を切除しなければなりません。そのため、手術による合併症が起る可能性が高くなります。このようなデメリットが最小限になるように、手術範囲や手術方法が決められます。

早期の子宮体がんであれば、お腹に小さい穴を空けるだけで実施できる腹腔鏡下手術などが可能です。このような場合であれば、合併症のデメリットは少なくてすみますが、全ての子宮体がんで実施できるわけではありません。

妊孕性の温存

手術治療において子宮や卵巣を切除せずに残すことで、妊孕性を温存することが可能ですが、複数の条件が揃っていなくてはなりません。妊孕性温存が可能になるのは、年齢が若く、がんの悪性度が低い、筋肉の層への浸潤が少ないこと、黄体ホルモンによってがんの増殖が阻害されること等です。

妊孕性の温存をするためには、子宮体がんの状況が良い(悪性度が低い)ことが条件ですが、それでも子宮や付属する臓器を取り切らないことは再発のリスクを残すことになります。このようなデメリットについてよく確認してください。治療の際には、主治医の先生の説明を十分に受け、妊孕性を温存することのリスクについて理解しておくことが必要です。

子宮体がん手術後の生活について

子宮体がんの手術後には、さまざまな合併症が起る可能性があります。どのような合併症が起りやすいかは、手術を行なった範囲によって異なります。近年は、手術方法や術後ケアの検討や工夫により確率は下がっていますが、ゼロにはなっていません。子宮体がんの手術に伴って生じうる合併症に対処しながら、生活する必要があります。

よくある合併症としては、「リンパ浮腫」「排尿障害・便秘」「卵巣欠落症状」があります。これらについて、症状や対処法について説明します。

まず、リンパ浮腫は、手術でリンパ節を切除した場合、リンパ液の通り道が少なくなることによって、足がむくみやすくなります。確実に予防する方法はありませんが、足を高くして休んだり、弾性ストッキングをはいて足を圧迫したりして、ある程度は予防することができます。

排尿障害も生じやすいトラブルの1つです。特に子宮の周りの組織も含めて広範囲に切除する手術を行なうと、起りやすいと言われています。これは、尿の排泄を調節するための神経が傷ついたりすることが原因と考えられています。

術後すぐには排尿しにくい、排尿しきれない、尿漏れが起きるなどのトラブルが発生しやすいですが、徐々に回復していきます。ただし、手術前と同じ状態までは回復しないことも多くありますので、日常生活で注意する必要があります。場合によっては、泌尿器科の専門医に相談する必要があります。便秘も同様で、排便を調節するための神経が傷ついたりすることが原因で起ります。

卵巣欠落症状は、手術で卵巣を切除することによって、卵巣の働きがなくなってしまうと生じる症状です。卵巣からは女性ホルモンが分泌されていますが、その女性ホルモンが減少することによって、更年期障害のような症状が発生します。この症状には、ほてり・食欲低下・イライラ感・頭痛・骨粗鬆症などです。症状は個人差がありますが、年齢が若いと症状が強くなる傾向があるようです。症状がつらいときには、我慢をせずに主治医の先生とよく相談し、ホルモン治療などを行なってください。

抗がん剤のメリットとデメリット

抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)は、体内のがん細胞の増殖を抑えるための薬です。抗がん剤による治療は、局所的な治療に止まらず全身的な効果があるというメリットがあります。一方で細胞の増殖を抑える効果が正常細胞にも影響しますので、副作用として症状が出現します。

子宮体がんの広がり具合が大きいなどの理由で手術が難しい場合には、抗がん剤による治療が選択されます。抗がん剤の使用によって、がん細胞がある範囲が狭くなるなどして、手術可能と考えられる状態になれば、手術が行なわれます。

また、手術を行なった後も子宮体がんの再発リスクがあります。再発リスクを低くするために、多くの場合で手術後にも抗がん剤による追加治療を行ないます。

子宮体がんに使用される抗がん剤の種類と主な副作用

再発リスクが高い場合には、アドリアマイシンとシスプラチンを併用する治療法(AP療法)やパクリタキセルとカルボプラチンを併用する治療法(TC療法)が行なわれます。

これらの治療には副作用がありますので、抗がん剤投与前には血液検査結果を見て、抗がん剤投与が可能かどうかの確認をします。強い副作用があり、体の状態が良くないときには治療が中止されることもあります。

副作用としては、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)、脱毛、吐き気・嘔吐などです。骨髄抑制とは、血液中の細胞を造る機能が落ちてしまい、細胞数が減ってしまうことです。この中でも免疫の役割がある白血球が減少すると、感染症にかかりやすくなってしまいます。また、パクリタキセルでは手足の先が痺れる(末梢神経障害)という副作用が出現しやすくなっています。

放射線のメリットとデメリット

放射線治療は、X線やガンマ線の他に、最近では陽子線、重粒子線を当てることでがん細胞を傷つけ、がんの部位や範囲を小さくします。抗がん剤による治療と同様で、手術が難しい場合の治療方法として選択されたり、手術後の再発リスクを下げるための治療方法として選択されたりします。

放射線治療のメリットとしては、高齢や合併症などの理由によって手術不能例に対して局所的な治療として実施できる点です。一方でデメリットとして、他のがんに比べて子宮体がんは比較的放射線治療が効きにくい(放射線感受性が低い)と考えられています。そのため、子宮体がんでは手術による治療が第一と考えられています。また、副作用としても消化器の症状(直腸炎、小腸の閉塞や下痢など)や放射線性膀胱炎が起ることがあります。

子宮体がんの放射線治療と妊娠について

子宮体がんでは、がんのある子宮体部に放射線を照射します。そのため、その近くにある卵巣への影響が強くなります。この影響は、照射される放射線の量が増えるほど大きくなり、妊娠しにくくなってしまいます。また、放射線治療のみを行ない、子宮を温存したとしても、放射線治療の影響は子宮にもありますので、子宮の側で妊娠に必要な条件・環境が整えられなくなることがあります。

なお、放射線治療後も妊孕性が保たれ、妊娠に至った場合には、放射線治療による胎児への影響はないと考えられています。そのため、子宮体がんの状態や抗がん剤療法の必要性を考慮の上であれば、放射線治療後の避妊は必要ありません。

その他の治療法

その他の治療として、ホルモン療法があります。ホルモン剤(プロゲステロン)を用いて、治療することもあります。この治療は初期の子宮体がんで、妊娠を強く希望されている場合には選択されることがあります。ただし、再発リスクが高いため、治療後の経過観察を慎重に行ない、再発を出来るだけ早い段階で見つける必要があります。

子宮体がんの再発や転移について

子宮体がんでは、再発リスクが高いため、初回治療から再発リスクを見積もり、それに合わせた治療を行なっています。例えば、手術治療を行なっていても、がんの性状などから再発が高リスクと評価されれば、予め手術後の治療として化学療法、放射線治療、ホルモン療法が選択されます。

子宮体がんの再発や転移が見つかった場合には、それらに対する治療方針を再度考えて行かなければなりません。主治医の先生との説明を十分に受け、相談していくことが重要です。

子宮体がんの再発・転移の治療は、再発や転移した場所によって異なります。つまり、骨盤内の再発なのか、肺や肝臓などの離れた臓器やリンパ節に転移したのかを確認します。

出来る場合には、再発の子宮体がんであっても手術治療を行ないます。手術後には抗がん剤治療を行ない、再々発がないようにがん細胞の増殖を抑制します。手術が難しいと判断されれば、抗がん剤治療、放射線治療を実施することが検討されます。

どのような場合であれ、子宮体がんが再発した場合の治療は、がんの状態、再発した場所、初回治療ででた副作用などの状態を総合的に判断する必要があります。再発の状態をよく確認し、主治医の先生から説明を受け、理解した上で、治療法を選択するようにして下さい。

公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん治療ガイドライン2018年版
国立がん研究センター がん情報サービス | 子宮体がん(子宮内膜がん)
Evidence-Based Clinical Decision Support System| UpToDate | Wolters Kluwer
公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん
公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 進行・再発癌の治療
がんプラス | 子宮体がん、初回治療の進行期別治療選択と再発したときの治療
徳島大学病院産婦人科 | 子宮体癌
国立がん研究センター がん情報サービス | 妊よう性
国立がん研究センター がん情報サービス | 妊よう性 女性患者とその関係者の方へ
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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