脳腫瘍と診断されるとその予後は気になるかもしれません。
脳腫瘍にはさまざまな種類があり、脳腫瘍とひとくくりにしてその予後を述べることはできません。脳腫瘍の悪性度はグレード分類で表現しますが、同じグレードであっても治療効果の得やすさによって予後はかなり異なります。
目次
脳腫瘍の種類と進行度について
脳腫瘍の種類
脳腫瘍の数は細かく分類すると130種類以上にもなります。脳腫瘍の分類は何度も変更があり、最近では2021年6月にWHOの分類が改定されています。
脳腫瘍の大きな分類としては、まず脳腫瘍を「原発性脳腫瘍」と「転移性脳腫瘍」に分けます。
原発性脳腫瘍 | 脳や髄膜から発生したもの |
転移性脳腫瘍 | 肺がん、乳がん、大腸がんなど、他の部位で発生した腫瘍が脳に転移したもの |
次いで原発性脳腫瘍は「良性」と「悪性」に分類します。
脳腫瘍には悪性度を示すグレード分類があり、基本的にグレード1を良性、グレード2~4を悪性に分類します。
※詳細はこのページの「脳腫瘍の進行度(ステージ)」をご覧ください。
細胞の種類で分類する方法もあり、その場合は神経膠細胞から発生する「神経膠腫(グリオーマ)」とそれ以外に分類されます。
成人の脳腫瘍で発生頻度の多い順番は以下の通りです。
- 神経膠腫
- 髄膜種
- 下垂体腺腫
- 神経鞘腫
小児においては脳腫瘍は白血病に次いで発生頻度の高い疾患であり、頭蓋咽頭腫・胚細胞腫・髄芽腫が多くみられます。
脳腫瘍の進行度(ステージ)
脳腫瘍はほかのがんと異なり、TMN分類やステージという表現はありません。
かわりに悪性度を表すグレード分類があります。
基本的にグレード1は良性腫瘍、グレード2~4を悪性腫瘍と分類します。
各グレードの代表的な疾患
グレード1 | 髄膜腫 下垂体腺腫 神経鞘腫 頭蓋咽頭腫 |
グレード2 | 星細胞腫(アストロサイト―マ) 乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ) |
グレード3 | 退形成性星細胞腫 退形成性乏突起膠腫 |
グレード4 | 膠芽腫(グリオブラストーマ) 胚細胞腫 中枢神経系悪性リンパ腫 |
※グレード2以上の脳腫瘍は経過中にグレードが進む(数字が上がる)事があります。
※同じ名前の腫瘍でもさまざまなグレードがあります。
たとえば、髄膜腫であればグレード1~3が、星細胞腫であればグレード1~4、乏突起膠腫にはグレード2と3があるといった具合です。
脳腫瘍のグレード別5年生存率
5年生存率とは
5年生存率は正式には5年相対生存率といいます。
病気ごとの治療効果を表現するための数値で、性別や年齢の条件を同じにそろえた上で、交通事故などほかの事故や病気で亡くなる数を取り除き、脳腫瘍のある人とない人の5年後の生存数を比較したものです。
5年生存率が100%に近ければ近いほど治療効果の高い病気、0%に近ければ治療効果が出にくい病気ということになります。
がん全体の5年生存率は男性で62.0%、女性で66.9%、全体では64.1%でした(2009~2011年のデータ)。
脳腫瘍の5年生存率はどのくらいあるか
脳腫瘍全体での5年生存率は脳・中枢神経系でまとめられて報告されており、男性で34.1%、女性で37.4%、全体で35.6%と報告されています。がん全体と比較して低い数値となっています。
基本的にグレード分類は数字が大きくなるほど悪性度が高くなりますが、個々の腫瘍別にみると、必ずしもグレード順に5年生存率が並んでいるわけではありません。
グレード別の5年生存率
グレード1 | 髄膜腫:97.9% 神経鞘腫:98.8% 非機能性下垂体腺腫:98.3% |
グレード2 | 中枢性神経細胞腫:98.4% びまん性星細胞腫:75.0% |
グレード3 | 髄膜腫:86.6% 退形成性星細胞腫:41.1% |
グレード4 | 胚腫:97.1% 膠芽腫:10.1% |
グレード4の平均余命とは
平均余命とは
平均余命とは同じ病気の人が100人いたとき、半分の50人が亡くなる時期を示します。
100人の患者の生存期間をすべて足して人数で割った「平均」ではないことに注意が必要です。患者や家族にとっては平均余命はとても気になる数字ですが、がんに対する治療効果を判断するのは平均余命ではなく5年生存率です。平均余命はあくまで目安であり、かなり幅がある数字であることを知っておきましょう。
発生頻度の高い神経膠腫の平均余命はグレード2で7~8年、グレード3で3~4年という報告がありますが、悪性度のもっとも高い膠芽腫の平均余命は1~2年、グレード1の下垂体腺腫では適切な治療を受ければほとんどの場合平均寿命まで生きることが可能です。
転移性脳腫瘍では無治療の場合の平均余命は3~6カ月とされています。
罹患数と死亡数の推移(データは脳・中枢神経系として報告されているもの)
罹患数の推移
1975年には10万人あたり1.3人でしたが1990年には3人を突破し、その後増減しつつ、2003年以降は3.5~4.5人の範囲で推移しています。
死亡数の推移
調査開始年の1958年には0.3人でしたが、罹患者数の増加に伴い1990年には1.0人を超え、2019年には2.3人と増加しています。
脳腫瘍の末期症状とケアに関して
脳腫瘍の末期では大きくなった腫瘍が脳の正常な部分を圧迫したり、頭蓋骨内の圧が上がったり、脳がむくんだりすることで、さまざまな症状が現れます。その場合はステロイドや浸透圧利尿剤などを使用すると一時的に脳のむくみが取れて頭蓋内圧が下がり、症状が軽快することはありますが、その後腫瘍が大きくなれば、これらの薬を使っても十分な効果は得られなくなることが多いです。
意識障害
反応が鈍くなったり、寝ている時間が長くなったりします。
てんかん発作
脳に異常な電気が発生することでてんかん発作がおきます。脳全体に異常が出たときは意識を失ったり、手足がつっぱったり、震えたりします。脳の一部に異常が出たときにはその脳の部位に合わせた症状が出ます。たとえば片腕だけのけいれんやしびれ、一時的に言葉が出なくなる、幻聴などのさまざまな症状が出ることがあります。このような症状が頻回に起きる場合は抗てんかん薬を使用して対処します。
食事ができなくなる
飲み込みが悪くなり、口から食べ物を摂取すると誤嚥する可能性が高い場合には、鼻から胃に栄養の管を留置したり(経鼻胃管)、腹壁から胃に胃瘻を造設したり(胃瘻)、栄養の点滴を行なうことがあります。
呼吸状態が不安定になる
痰をうまく出せなくなったり、十分な空気を吸い込めなくなったりすると、体の酸素量が低下したり、食べ物を肺に吸い込んでしまう誤嚥が起きます。そのような危険がある場合、気管切開を行ない、のどに新たな呼吸の通り道を作って対処することがあります。
愛知県がんセンター中央病院|脳腫瘍
国立研究開発法人国立がん研究センター 希少がんセンター|脳腫瘍(のうしゅよう)
国立研究開発法人国立がん研究センター|がん情報サービス|集計表ダウンロード
新宿つるかめクリニック|脳腫瘍ってどんな病気?
マイナビニュース|平均余命1年の疾患も! 脳腫瘍の主要な種類と症状を脳外科医が解説
一般社団法人徳洲会|脳神経外科の病気:転移性脳腫瘍
総合メディカル株式会社|虎ノ門医学セミナー|下垂体腫瘍の診断と治療
J-STAGE|悪性脳腫瘍患者における終末期の症状・評価方法に関する調査:a scoping review