手術件数からみる骨・軟部腫瘍の病院ランキングトップ10

ここでは、公表されている手術件数を元に、骨・軟部腫瘍の病院ランキングを見ていきたいと思います。

まず、骨・軟部主要は希少な疾患であり、正しい診断が難しく治療ができる施設が限られています。骨・軟部腫瘍は整形外科医のだれもが手術しているわけではありません。整形外科の中でも、さらにサブスペシャリティーが分かれており、脊椎・股関節・膝・足・肩・肘・手・マイクロサージャリー・スポーツ・外傷・小児などと細分化される中に腫瘍という分野があります。

整形外科といえば、スポーツや外傷といったイメージが強いと思いますが、実際、腫瘍をサブスペシャリティーとして選択する整形外科医は限られているため、それに伴い骨・軟部腫瘍の手術が出来る病院も限られています。また、腫瘍の切除範囲が広いと再建術や皮弁などが必要となり、形成外科医の協力が必要になる手術も少なくないため、大きな手術の出来る病院はさらに限られます。

さらに、骨・軟部腫瘍は転移性の腫瘍も多く、その原発の腫瘍(消化器系や腎・泌尿器、婦人科の腫瘍など)も治療できるところとなると、外科や泌尿器科、婦人科、放射線科なども必要となり、腫瘍を手術できる様々な科を揃えられる病院はごくわずかです。

以下に日本整形外科学会認定骨・軟部腫瘍の専門医・病院のURLを記載しますので、お住まいの地域の近くに病院があるのか、専門医はいるのか調べる際の参考にしてください。
公益社団法人 日本整形外科学会

また、公益社団法人 日本整形外科学会では地域の医療施設からの骨・軟部腫瘍に関する医療相談あるいは紹介の窓口として、各地域で骨・軟部腫瘍の診断や治療に携わっている病院の先生による「骨・軟部腫瘍診断治療相談コーナー」を開設しています。このホームページを見ても分からないことや、日常の骨・軟部腫瘍の診断や治療でお困りのことがあればご利用ください。
公益社団法人 日本整形外科学会 (骨・軟部腫瘍相談コーナー)

もう一つ、知っていて頂きたいことに、“雑誌などに掲載されているようなオススメ病院≠評判・実績のいい病院”ということです。全ての雑誌ではありませんが、一部雑誌では病院、あるいは医師が何十万円、あるいは数百万円払うことで雑誌に掲載されているものもあるので、病院を選べる際には注意してください。基本的には、腫瘍が疑われた際には『紹介状を書くので○○病院を受診してください』と指示されることが多いです。

目次

骨・軟部腫瘍の手術が適応となる症例

手術療法に関しては、骨・軟部腫瘍では手術療法が基本となります。良性かつ症状がなく、また外見上・機能上にも障害がなければ経過観察となることもありますが、悪性の可能性が少しでもあるならば手術にて確定診断を行うほうが安心です。また、軟骨肉腫や脊索腫に有効な化学療法はなく、軟部の非円形細胞肉腫も化学療法の感受性の問題から、治療は手術的治療が中心となります。”

ただし、これらは骨・軟部腫瘍が原発であった場合です。転移性骨・軟部腫瘍、つまり他臓器の悪性腫瘍が骨や軟部に転移したものは、全身状態や他臓器の悪性腫瘍の状態も考慮した上での治療となります。基本的にはまず、原発巣の治療の一貫として転移巣に対する治療が行われます。

転移性骨腫瘍の中では脊椎への転移が最も多く、その中でも腰椎が約7割を占めるといわれています。脊椎の後ろには脊髄という大事な神経が走っており、腫瘍がそれらの神経を圧迫すると麻痺や膀胱直腸障害などの神経症状が起こることがあります。そのような症状が出た場合には緊急で手術が必要になることがあります。

一方、四肢の上腕骨、橈骨・尺骨、大腿骨、脛骨・腓骨のような長管骨への転移は、体幹に近い大腿骨や上腕骨に起こりやすく、骨折のリスクが高い場合には痛みの軽減や機能改善を目的に手術や放射線療法が行われることがあります。しかし、基本的には転移性骨腫瘍に対しては、保存療法や放射線治療、化学療法などが選択され、また生命予後が短い方に対しては手術を行わずに保存的に緩和ケアを行うこともあります。

骨・軟部腫瘍手術件数トップ10

手術件数を比較するにあたって、データは最新の平成29年度厚生労働省の”DPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告について”に基づいて行います。

骨・軟部腫瘍の手術件数に関しては

  1. 骨軟部の良性腫瘍(脊椎脊髄を除く)
  2. 神経の良性腫瘍
  3. 脊椎・脊髄腫瘍
  4. 骨の悪性腫瘍(脊椎を除く)
  5. 軟部の悪性腫瘍(脊髄を除く)

に分類されます。それぞれで、比較していきましょう。

1.骨軟部の良性腫瘍(脊椎脊髄を除く)

  • 公益財団法人 がん研究会 有明病院(145件)
  • 東京都立駒込病院(144件)
  • 山形県立中央病院(144件)
  • 杏林大学医学部付属病院(140件)
  • 埼玉県立がんセンター(131件)
  • 愛知県がんセンター中央病院(119件)
  • 名古屋市立大学病院(113件)
  • 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(112件)
  • 加古川中央市民病院(109件)
  • 順天堂大学医学部附属順天堂医院(108件)

2.神経の良性腫瘍

  • 東京慈恵会医科大学附属病院(59件)
  • 公益財団法人 がん研究会 有明病院(39件)
  • 東京医科大学病院(25件)
  • 慶応義塾大学病院(25件)
  • 熊本大学医学部附属病院(25件)
  • 愛媛大学医学部附属病院(24件)
  • 九州大学病院(24件)
  • 昭和大学病院(23件)
  • 札幌医科大学医学部附属病院(22件)
  • 東北大学病院(20件)

3.脊椎・脊髄腫瘍

  • 慶応義塾大学病院(82件)
  • 名古屋大学医学部付属病院(47件)
  • 大阪市立大学医学部付属病院(34件)
  • 九州大学病院(33件)
  • 鹿児島大学病院(29件)
  • 熊本大学医学部付属病院(29件)
  • 久留米大学病院(28件)
  • 浜松医科大学医学部附属病院(28件)
  • 東京大学医学部付属病院(25件)
  • 東海大学医学部付属病院(24件)
  • 国立大学法人 千葉大学医学部附属病院(24件)
  • 筑波大学附属病院(24件)

4.骨の悪性腫瘍(脊髄を除く)

  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院(64件)
  • 東京都立駒込病院(48件)
  • 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(43件)
  • 愛知県がんセンター中央病院(41件)
  • 公益財団法人 がん研究会 有明病院(38件)
  • 千葉県がんセンター(37件)
  • 神奈川県立がんセンター(36件)
  • 九州大学病院(35件)
  • 静岡県立静岡がんセンター(29件)
  • 神戸大学医科学部附属病院(27件)

5.軟部の悪性腫瘍(脊髄を除く)

  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院(132件)
  • 公益財団法人 がん研究会 有明病院(98件)
  • 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(69件)
  • 神奈川県立がんセンター(59件)
  • 九州大学病院(59件)
  • 国家公務員共済組合連合会 東北公済病院(57件)
  • 埼玉県立がんセンター(52件)
  • 名古屋大学医学部附属病院(51件)
  • 静岡県立静岡がんセンター(48件)
  • 東京都立駒込病院(47件)

このようにランキングにしてみると、骨・軟部の悪性腫瘍は主にがんセンターで多く手術が行われていることが分かります。がんセンター協議会の加盟施設は現在32あり、トップ10に入っているがん研究会 有明病院、都立駒込病院、山形県立中央病院もがんセンターと名称は入っていませんが、がんセンター協議会の加盟施設です。がんセンターは北海道から九州まであり、1都道府県に1病院とまではいきませんが、お住まいの地域の近くにもあると思われます。

脊椎・脊髄腫瘍の手術が大学で多いのは、脊椎・脊髄腫瘍の手術を出来る脊椎外科が市中病院より大学病院に集まっているということが一つ考えられます。また脊椎・脊髄腫瘍は手術の難易度が高いことがあり、一人では出来ないことが大半です。そのため、脊椎外科が複数人いる病院に手術が集まると考えられます。

手術件数以外にも注目したいポイント

上記で述べた厚生労働省のデータの中では手術件数以外にも、手術をしなかった件数、在院日数(=入院日数)が含まれています。

また、各病院HPでは5年生存率や平均生存期間を公表している病院もあるので、それらも参考になるでしょう。さらに日本整形外科学会では全国骨・軟部腫瘍登録を1960年代から継続的に行なっており、国レベルでの骨・軟部腫瘍に関する疫学データベースとしては世界的にも貴重なものとなっています。これらは登録件数のため手術件数ではないですが、骨・軟部腫瘍患者が訪れる病院の指標にもなるでしょう。
https://www.joa.or.jp/public/bone/files/born_consultation_corner.pdf

日本整形外科学会骨・軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表、国立がん研究センター,東京,2013日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍診断治療相談コーナー
公益社団法人 日本整形外科学会 | 認定骨・軟部腫瘍医名簿
がん研有明病院 | 各骨軟部腫瘍
病気がみえるvol.11 運動器・整形外科
厚生労働省 | 平成28年度DPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告について
参照日:2020年3月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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