甲状腺がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

放射線被爆により、甲状腺がんや白血病のリスクが上がるといったニュースも同時に取り上げられるようになり、甲状腺がんについてのニュースが多く報道されるようになっていく一方で、甲状腺がんに対する誤った内容のニュースが多いのも事実です。

そこで、甲状腺がんの基本的な説明を通して、甲状腺がんを多くの方々に正しく理解していただければと思っています。

目次

甲状腺がんとは

甲状腺は俗に言う「のどぼとけ」のすぐ下にある、重さ約10〜20g程度の小さな臓器です。羽を広げたチョウのような形をしており、甲状腺から出るホルモンが我々の新陳代謝などを活発にしています。そんな甲状腺にできた悪性の腫瘍を甲状腺がんといいます。そして、この甲状腺がんはその構造(組織)によって乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫などに細かく分類されています。それでは一つずつ細かく見ていきましょう。

乳頭がん

乳頭がんは甲状腺がんの中で最も多く、甲状腺がんのうち約90%が乳頭がんとされています。乳頭がんは女性に多く、10歳代から80歳代まで幅広い世代にみられます。また、乳頭がんはリンパ節への転移が多くみられますが、とてもゆっくり進行するため、予後はよいとされており、生命に関わることはまれです。しかし、乳頭がんの中には再発を繰り返したり、より悪性な未分化がんに変化することもあります。

濾胞がん

濾胞(ろほう)がんは甲状腺がんの中で約5%を占めており、乳頭がんに続いて2番目に多いがんです。乳頭がんに比べて、リンパ節への転移は少ないとされていますが、血液の流れに乗って肺や骨など遠くの臓器に転移しやすいとされています。肺や背骨などに転移し、その大きさや数が増加することで呼吸困難感や背中の痛みを訴えることも少なくありません。

髄様がん

髄様(ずいよう)がんと呼ばれるタイプの甲状腺がんは、甲状腺にある傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう)ががん化したもので、甲状腺がんの中の約1〜2%を占めています。乳頭がんや濾胞がんよりも症状の進行が速く、リンパ節、肺、肝臓への転移を起こしやすい性質があります。髄様がんは遺伝しやすいため、家族に髄様がんがいるようであれば早い段階で検査等を進めることができます。治療成績は乳頭がん、濾胞がんより悪く、未分化がんより良いとされており、治療の観点から見た悪性度は中程度くらいとなっています。

未分化がん

未分化がんは、甲状腺がんの中の約1〜2%を占めており、甲状腺周囲の臓器への浸潤や肺、骨など遠くの臓器への転移を起こしやすい悪性度の高いがんとされています。未分化がんは、化学療法や放射線療法などの治療が効くことも多いとされています。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫という病気は脳や血液内など様々な臓器に起こりますが、甲状腺にできる悪性リンパ腫は、甲状腺がんの中の約1〜5%を占めています。甲状腺に悪性リンパ腫が生じると甲状腺全体が急速に腫れたり、声が枯れたりや呼吸しづらくなるといった症状が出たりすることがあります。悪性リンパ腫は未分化がんと同様、化学療法や放射線療法などの治療が効くことも多いとされています。

甲状腺がんの主な原因とリスクファクター

甲状腺がんの原因として確実とされているのが放射線の被爆です。特に小児期に放射線の被爆にあうと甲状腺がんになるリスクは上がります。実際に、放射線影響研究所の発表によれば放射線被爆量が多ければ多いほど、甲状腺がんの発症リスクは増加しているという報告があります。その他にも、乳頭がんは海藻類などをよく食べる国々(ヨード摂取充足地域といいます)で割合がさらに多くなります。

また、髄様がんは血縁のある家族内に甲状腺がんになった人がいれば、髄様がんが発生しやすくなるとされています。このように放射線、海藻類、遺伝が甲状腺がんの主な原因とリスクとして挙げることができます。

甲状腺がんになりやすい人の特徴

甲状腺がんになりやすい人は統計学的なデータで明らかになっています。甲状腺がんと新たに診断される人数は年間に10万人あたり12.3人であり、女性は約3倍も甲状腺がんになりやすいとわかっています。

さらに年齢別に甲状腺がんの罹患率を見ていくと、30歳頃から徐々に増えていき70歳代で最も高い罹患率となっています。また甲状腺がんの主な原因とリスクファクター(ページ内リンク)でも少し触れましたが、髄様がんという甲状腺がんは遺伝する恐れがありますので、家族内に甲状腺がんの方がいれば甲状腺がんになりやすいと言えます。

このように“女性”、“70歳代”、“家族内に甲状腺がんの方がいる”、といった人が甲状腺がんになりやすいということが言えます。

被爆と甲状腺がんの関連性

原子爆弾による被爆と甲状腺がんの関係を調べた環境省による報告がありますので以下にご紹介します。

・原爆被害者における甲状腺がんの発症(環境省)

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-07-12.html

放射線影響研究所の発表によれば放射線被爆量が多ければ多いほど、甲状腺がんの発症リスクは増加しているという報告があると結論付けられました。つまり、放射線被爆は甲状腺がんのリスクであることが分かります。

予防と早期発見のコツ

これまで甲状腺がんの分類から放射線被爆のリスクについて説明してきました。では、甲状腺がんを予防する方法は何か。そして、早期発見のコツは何かを説明します。

まず初めに、甲状腺がんを予防する方法は「放射線の被爆を避け、血縁のある家族内に甲状腺がんの方がいないかどうかを確認し、もし甲状腺がん、特に髄様がんの方がいるようであれば早期にがん検診を受けること。」です。放射線技師など放射線を扱う職業であれば、放射線から身を守るために喉に被爆を防ぐ保護具を付けています。

次に早期発見のコツですが、それは「甲状腺がんを疑うこと」です。甲状腺がんはほとんど症状がないことで知られており、甲状腺がんのほとんどは偶然発見されています。ですから、甲状腺がんが心配であるならば若いうちから健康診断などを受けることが早期発見のコツといえます。

このように放射線をなるべく被爆しないように心掛け、遺伝的なリスクがあるようであれば早期に病院を受診することが甲状腺がんの早期発見につながります。

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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