肺がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは

がんの中でもっとも死亡者数の多い肺がん。しかし、肺がん検診の受診率は男性で約50%、女性で約40%とまだまだ低い現状です。
肺がんの検査としては胸部レントゲンが浮かぶと思いますが、胸部レントゲンでは見つけにくいタイプもあります。そのような場合には喀痰細胞診や胸部CTなどを追加しなければ病気は発見できません。

どんな肺がんが胸部レントゲンで見つけにくいのか、もしレントゲンで異常が見つかったら精密検査はどんなことをするのか、そして検査の費用はどのくらいかかるのかについて見ていきましょう。

目次

肺がんの主な初期症状

肺がんを疑う症状は以下のようなものがあります。ただしこれらの症状は人によって初期から見られることもあれば、進行するまで現れないものもあり、症状だけで初期かどうかを判断することはできません。

  • 血痰
  • 胸痛
  • 声のかすれ
  • 息切れ
  • 体重減少

肺がんと診断された人で、最初に現れた症状を集計した調査では、最も多い症状が咳で74%でした。体重減少や呼吸困難は半数以上の患者に現れた症状とも報告されています。

肺がんの自己診断チェック

肺がんには早期に症状の出る人もいれば、進行するまで症状の出ない人もいます。症状だけで肺がんかどうかを診断することはできませんし、肺がんになりやすい喫煙者では普段から咳や痰が出ていて症状の変化に気づきにくいということもあります。
特に以下の項目に該当するものが多い場合は早期の検診や病院受診をお勧めします。

  • 50歳以上である
  • 喫煙指数(1日のタバコの本数に喫煙年数をかけたもの)が600以上である
  • 家族で肺がんになった人がいる
  • 同居の家族でタバコを吸う人がいる
  • 咳が1カ月以上続く
  • 血痰がある
  • 息切れがある
  • 胸もしくは背中の痛みがある
  • 自然に体重が減ってきた
  • 1年以上胸のレントゲンを撮っていない

検診と検査項目

肺がん検診の流れ

問診

50歳以上で、喫煙指数(1日のタバコの本数にこれまでの喫煙年数をかけたもの)が600以上の人をハイリスク軍とする。ハイリスク軍に該当する場合は胸部レントゲンと喀痰細胞診を、ハイリスク軍に該当しない人は胸部レントゲンだけを行う。

胸部レントゲン(胸部X線検査)

胸いっぱいに空気を吸い込んで、息を止めて撮影します。
撮影枚数は検診により異なりますが、多くは正面1枚、もしくは正面と側面の2枚です。撮影したレントゲンは2人以上の人でチェックされ(二重読影)、異常が疑われる場合には、あれば以前のレントゲンと比較して(比較読影)、判断されます。
胸部レントゲンは主に末梢にできやすい腺がんを見つけるための検査です。胸部レントゲン検査の感度(肺がんがある人がこの検査で異常となる割合)は63-88%と報告されており、レントゲンで異常がないからといって肺がんを完全に否定できる検査ではないことに注意してください。

喀痰細胞診

痰の中にがん細胞が混じっていないかを顕微鏡で調べる検査です。一般的には3日間、起床時の痰を採取します。
喀痰細胞診で見つけやすいのは気管支に多い扁平上皮がんです。
判定はAからEの5段階で報告されます。

A:痰が採取されていない(唾液のみなど)→要再検査
B:異常なし(陰性)
C:がん細胞は見られないが、異形細胞を認める(陰性)→半年以内に再検査が必要
D:がん細胞が混じっている可能性あり(疑陽性)→要精密検査
E:がん細胞を認める(陽性)→要精密検査

喀痰細胞診の感度は25-78%とかなり幅がありますが、胸部レントゲンで異常がなく、喀痰細胞診で肺がんを発見された人の長期生存率は高く、検査として身体への負担が少ない検査であることから、特に扁平上皮がんになりやすいハイリスク群の喫煙者を対象に喀痰細胞診を行うことは有用であると日本肺癌学会でも推奨されています。

胸部CT

人間ドックなどで行われる胸部CTは「低線量CT」で行われます。低線量とは使用する放射線の量をできる限り少なくしている、という意味で、実際通常の検査で使用するCTの放射線量の約1/10で検査を行うことができます。

レントゲンでは心臓や縦隔(左右の肺の間にある食道や大動脈などが通る場所)と重なる、約1/3の肺は見えにくく、その部分にできたがんは診断しにくいという特徴があります。CTでは輪切りの写真になるのでこのような範囲の病変も見つけやすくなります。また、CTはレントゲンよりも小さな病変や色の薄い病変を見つけることができます。

低線量CTはレントゲンと比較して特に早期がんの発見に優れており、発見率も10倍程度高い、そして喫煙者を対象に行った調査ではレントゲンよりも低線量CTによる検診は肺がんの死亡率を約20%減少させたという報告もあります。

このように低線量CTによる肺がん検診はレントゲンと比較して優れた検査ではありますが、細かい変化までも見つけてしまうために、実際は肺がんではない病変までも見つけて、体に負担のかかる精密検査を行ったり、不要な「がんかもしれない」といった精神的負担を感じることもあります。また、低線量CTは少ない放射線で検査ができるとはいえ、胸部レントゲンと比較すると約10倍の放射線を使用するため、低リスクで無症状の人も含めた全員を対象にした住民健診には採用されていません。

肺がんに関連した腫瘍マーカー

肺がんには腺がん、扁平上皮癌、大細胞がん、小細胞がんといった複数の種類があります。細胞の種類により上がりやすい腫瘍マーカーは異なります。また、初期では腫瘍マーカーが正常であることも多く、一般的に肺がんの腫瘍マーカーは病気を見つけるためではなく、治療効果の判定や再発のチェックのために用いられるものです。日本肺癌学会では肺がんを見つける目的で腫瘍マーカーの測定をすることは「行なわないように提案する」と結論づけています。

CEA
肺がんでは腺がんで増加しやすい腫瘍マーカー。胃がんや大腸がんなどでも上昇するため、無症状の人を対象にした人間ドックではよく使用される。肺がん全体におけるCEAの陽性率は約50%だが、タバコを吸っているだけでもCEAの軽度上昇がみられるため、喫煙者の軽度上昇では判断が難しくなる。
SLX
腺がんで増加しやすい。
SCC
扁平上皮がんで増加しやすい。
proGRP
小細胞がんで増加しやすい。小細胞がんが増殖するときに分泌されるGRPの前駆体です。
NSE
小細胞がんで増加しやすい。
Cyfra21-1
扁平上皮がんで増加しやすい。肺がんだけではなく、鼻咽腔や食道の扁平上皮がんでも増加する。

さまざまな種類の肺がんをカバーするためにはCEA、Cyfra21-1、ProGRPの3つを測定する、といった組み合わせで用いられます。

肺がんの疑いから確定診断まで

ファーストステップ(肺がんの可能性があるかどうかを見る検査)40歳以上を対象

胸部レントゲン

(ハイリスク群のみ)喀痰細胞診

胸部レントゲンで要精密検査と判断されるのは100人のうち2人です。さらに要精密検査と判断された中で実際に肺がんがみつかるのは100人に2人です。

セカンドステップ(肺がんかどうか確定診断する検査)

胸部CT

気管支鏡検査

口や鼻からカメラを挿入し、気管支まで挿入して気管支を直接観察します。病変を見ることができる場合には組織を採取して顕微鏡で検査をし、がん細胞の有無を確認します。

細胞診

がんの確定診断は、病変から採取した細胞や組織に、がん細胞を確認することです。

そのため、ファーストステップの検査や喀痰細胞診でがんと確定診断できない場合は、病変の細胞(組織)を採取して細胞診を行います。
細胞を採取する方法は主に気管支鏡を用いる場合と、胸壁(皮膚)から針を刺して採取する場合があります。これらの検査でも病変の細胞がうまく採取できなかった場合には胸にカメラを入れる胸腔鏡や、治療を兼ねて肺がんに準じた肺切除を行って肺がんかどうかを判断することもあります。
どの方法でどのようにして病変の検査を行うかは、病気の位置や大きさ、病院の設備などによっても異なります。

サードステップ(肺がんのひろがり具合を見る検査)

肺がんと診断された場合には、病気のひろがり具合を確認するための検査を行います。

単純/造影CT検査

放射線を用いた検査です。転移の疑われる部位を撮影します。血管や病変を見やすくするために血管から造影剤を注入する造影CTが行われることもあります。

単純/造影MRI

磁気を用いた検査です。検査部位は状況により頭部、胸部、腹部などに対して行います。場合によっては血管を見やすくするために造影剤を用いた造影MRIが行われることもあります。

腹部超音波検査

お腹にゼリーを塗って、機械を当てて腹部の臓器を観察します。

CTとMRI、超音波は見やすい臓器が異なるので、同じ部位に複数の検査を行うこともあります。

PET検査

がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。全身を一度に調べることができます。糖尿病で血糖値のコントロールが不安定な人はこの検査で正しい結果が出ないことがあります。

骨シンチグラフィ

骨は肺がんの転移先として多い臓器です。放射性物質を注射し、骨への取り込み具合を撮影して、骨への転移の有無を調べます。

検診にかかる平均費用

セカンドステップ以降の検査は通常保険診療で受けることができます。

健康診断・人間ドックで受ける検査(相場)

  • 胸部レントゲン 市町村検診0~840円、人間ドック 2500~3500円
  • 喀痰細胞診 市町村検診 0~1000円、人間ドック 1500~3000円
  • 胸部CT 市町村検診 2000~5000円、人間ドック8000~10000円

保険適応で受ける検査(目安)

  • 単純CT検査(1部位) 3割負担 4000円、1割負担 1500円
  • 造影CT検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
  • 単純MRI検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
  • 造影MRI検査(1部位) 3割負担 16000円、1割負担 5000円
  • 腹部超音波検査(エコー検査)3割負担 4000円、1割負担 1500円
  • 気管支鏡検査 3割負担 10000円、1割負担 3000円
  • 細胞の採取 3割負担 20000円、1割負担 6500円
  • (入院して気管支鏡検査で生検を行う場合 3割負担 60000円、1割負担 20000円)
  • 胸腔鏡検査 3割負担 21000円、1割負担 7000円
  • PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円
  • 骨シンチグラフィ 3割負担 17000円、1割負担 6000円

日本のがん検診データ|知っておきたいがん検診
肺がん検診の検査方法|知っておきたいがん検診
結核研究所研修部 | 胸部直接・間接撮影の違いと特徴
国立がん研究センター | 肺がん検診
肺癌診療ガイドライン2018年版
シー・アール・シー|肺癌の腫瘍マーカーはどれがいいですか?使い分けを教えて下さい。
独立行政法人 国立病院機構 埼玉病院 | 呼吸器外科(呼吸器外科診療Q&A(肺がん検診篇))
参照日:2020年9月

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医