イブランスが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

イブランスは、乳がんの患者さんに対してホルモン治療薬と併用して投与される抗がん剤です。

乳がんには「女性ホルモンの感受性のあるがん細胞」か「女性ホルモンの感受性のないがん細胞」の2つの種類があり、ホルモン治療薬が効果を示すのは女性ホルモンの感受性のあるがん細胞となりますが、イブランスはホルモン治療薬と併用することでより高い治療効果を示すことが証明されています。

また、イブランスは、「CDK4/6」という酵素を標的としており、CDK4/6阻害薬として世界で初めて有用性が認められた抗がん剤なのです。

このページでは、このような抗がん剤「イブランス」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

イブランス(一般名:パルボシクリブ)とは

イブランスはファイザー社が開発した薬剤で、2015年に米国で承認されてから世界70か国以上で承認され使用されており、日本においては2017年に承認されています。

イブランスが適応となるがんの種類

イブランスは「進行・再発乳がん」に適応を持つ抗がん剤で、経口投与で治療を行うカプセル剤となっています。

イブランスはフェソロデックスやフェマーラなどのホルモン治療薬と併用して治療を行いますが、投与方法は1日1回125㎎を3週間連続して食後に服用し、その後1週間の休薬期間が設けられます。これを1サイクルとして投与が繰り返されます。

効能効果、及び用法用量に関連する使用上の注意

・イブランスは手術補助療法としての有効性と安全性は確立していません。

手術補助療法には「術後補助化学療法」と「術前補助化学療法」があります。術後補助化学療法とは、手術によるがん細胞摘出後に体内に残っているかもしれない微小ながん細胞を完全に排除することを目的として、また、再発のリスクを下げるために術後一定期間抗がん剤が投与される治療法です。術前補助化学療法とは、乳房温存手術を目的として手術前に抗がん剤を投与する治療方法です。

・イブランスの使用については、ホルモン受容体が陽性でHER2陰性の患者さんが対象となります。

HER2とはがん遺伝子であり、乳がんの予後予測や抗がん剤の効果予測に用いられます。

イブランスに期待される治療効果

イブランスは、がん細胞に特異的に発現している因子を標的とし、効率の良い治療が期待できる「分子標的薬」というグループに属する抗がん剤です。

イブランスが標的とする「CDK4/6」は1つの細胞が2つに分裂して増殖していく細胞周期に関わっており、細胞周期の制御を不能に陥らせるためがん細胞が無制限に増殖してしまうという特徴を持っています。

イブランスはこのCDK4/6を阻害しますので、がん細胞の増殖を抑制し乳がんの治療成績向上に寄与する薬剤なのです。

イブランスの効果は、ホルモン治療薬との併用で治療成績が向上することが証明されています。日本人を含む国際共同臨床試験においてイブランスとフェマーラ(一般名:レトロゾール)の併用が検証されており、治療開始よりがんの増悪がなく生存した期間を示す「無増悪生存期間」は24.8か月という結果が示されています。比較対照群に設定されたプラセボ群(疑似薬で有効性が含まれていないもの)は14.5か月であり、イブランスの群が優位であったことが証明されています。

主な副作用と発現時期

通常分子標的薬は標的とされる因子に作用するため、化学療法でみられるような重い副作用の発現頻度が低いとされています。

しかし、イブランスは細胞周期に作用する薬剤ですので、化学療法で用いられる殺細胞性抗がん剤と同じような副作用が現れる事が報告されています。副作用の発現頻度も低くないため、事前に主な副作用の内容をしっかり確認しておきましょう。

主な副作用

進行・再発乳がんの患者さん444例を対象とした、日本人を含む国際共同治験で報告された主な副作用は以下の通りとなります。

  • 好中球減少症:78.4%(348/444例)
  • 白血球減少症:38.5%(171/444例)
  • 脱毛症:31.5%(140/444例)
  • 疲労:30.2%(134/444例)
  • 口内炎:23.2%(103/444例)
  • 悪心:21.6%(96/444例)
  • 関節痛:19.6%(87/444例)
  • 貧血:19.1%(85/444例)
  • 感染症:19.1%(85/444例)
  • ほてり:17.8%(79/444例)
  • 下痢:14.9%(66/444例)
  • 血小板減少症:14.6%(65/444例)
  • 無力症:12.4%(55/444例)
  • 発疹:10.8%(48/444例)

イブランスの安全性と使用上の注意

イブランスを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

治療出来ない患者さん

  • イブランスの成分に対して過敏症の既往をお持ちの患者さん:再度使用することで、重い過敏症を発症する可能性がありますので使用することができません。
  • 妊婦の方、または妊娠している可能性のある方:動物実験において、催奇形性が認められていますので使用することができません。

重要な基本的注意

  • 骨髄抑制が現れる事がありますので、イブランスの投与開始前と投与中は定期的に血液検査を行い、臨床検査値の変動に注意しなければなりません。
  • 間質性肺疾患が現れる事がありますので、呼吸困難や咳嗽(がいそう)、発熱などの初期症状が現れたら速やかに医療機関を受診しなければなりません。

使用上の注意

  • 重度の肝機能障害をお持ちの患者さん:イブランスの代謝が遅れ、血中濃度が上昇する可能性があります。血中濃度の上昇により副作用の発現や、副作用が重症化する場合もありますので注意が必要です。
  • 間質性肺疾患のある患者さん、またはその既往をお持ちの患者さん:間質性肺疾患が増悪する可能性があります。
  • 高齢の患者さん:一般に高齢の方では生理機能が低下していますので、慎重に投与されます。
  • 小児の患者さん:低出生体重児や新生児、乳児、幼児、小児に対する使用経験がありませんので、安全性は確立されていません。

早期乳がんとは違い、進行・再発乳がんの治療は切除可能な局所での再発を除き根治が難しいとされていますので、医療現場では長らく新たな治療選択肢が望まれていました。

イブランスは直近で発売が開始された新しい機序の新薬となりますので、患者さんの予後を改善する治療手段が増えたと同時に、まだ報告されていない未知の副作用などのリスクが潜んでいる可能性があります。

抗がん剤は発売されてから様々な患者さんの治療に用いられることで重要なデータが蓄積され、より使いやすい薬剤へと成長していくことができますので、イブランスの治療をされる方は身体の異変を感じたらすぐに主治医の先生に報告するようにしましょう。

最後に、これからイブランスの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

イブランス添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/671450_4291051M1021_1_04
イブランスインタビューフォーム
http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/671450_4291051M1021_1_1F.pdf
イブランス患者向医薬品ガイド
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/671450_4291051M1021_1_00G.pdf
乳がんNCCNガイドライン
https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/breast/japanese/breast.pdf

ma2

薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

プロフィール詳細