ハーセプチンが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

ハーセプチンがどのような薬かご存知でしょうか
ハーセプチンとは遺伝子組み換えで作られた分子標的薬の一つです。

乳がんに使えるというのはニュースで見たけど、普通の抗がん剤とは何か違いがあるの?
遺伝子組み換えって何か怖いイメージがあるけど・・・と疑問に感じる方も少なくありません。

このページではハーセプチンの作用や治療効果などを説明していきたいと思いますので、参考にしていただければと思います。

目次

ハーセプチンとは

ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ[遺伝子組み換え])とは分子標的薬の一つで、モノクローナル抗体とよばれます。モノクローナル抗体とは、がん細胞などの体内に存在する標的を探し当ててそれに結合するタンパク質薬品の一種です。通常の化学薬品と比べると分子が大きいため経口投与できなく注射にて投与され、また大量生産されないために費用は高いですが効き目が高く、副作用も少ない薬といわれています。

またハーセプチンの成分であるトラスツズマブは遺伝子組み換えにより作られた物質です。体内に入った異物や病原体から身を守るための仕組みを免疫といい、免疫グロブリン(免疫の働きをするタンパク)はたった一つの異物のみを認識し、結合するという性質があります。その仕組みを利用し、人工的にがん細胞を攻撃する物質を遺伝子工学を利用して作られたものを遺伝子組み換えとよびます。

遺伝子組み換えで作られた薬品はもともと人間の体内にあるタンパク質を使って薬を作るためからだに優しく、人の持つ免疫機能を応用して悪い部分のみに反応するため副作用も少ないといわれています。

ハーセプチンは1992年、米国で臨床試験が開始され、1998年に乳がん治療薬として世界初のヒト化モノクローナル抗体治療薬としてFDA(アメリカ食品医薬品局)で認可されました。

ハーセプチンが適応となるがんの種類

ハーセプチンは静脈注射にて使用されます。
ハーセプチンが適応となるがんの種類としては、「乳がん」「治癒切除不能な進行・再発の胃がん」があり、いずれもHER2過剰発現が確認された症例が対象となります。

ハーセプチンに期待される治療効果

がん細胞の表面にHER2とよばれるタンパク質が過剰に存在すると、悪性度が高くなるといわれています。

HER2タンパクとは、正常な細胞ですと細胞の増殖や分化などの調整に関与していますが、がん化するなど何らかの理由でHER2遺伝子(ヒト上皮細胞増殖因子受容体[EGFR]遺伝子と似たような構造を持つがん遺伝子で、HER2タンパクを作り出す)の過剰増殖(細胞の表面に多くあること)や遺伝子変異が起こると、細胞の増殖や分化が制御できなくなり細胞が悪性化します。

乳がんの20~30%、胃がんの20%にHER2が陽性(検査値が2+または3+で、HER2が過剰発現している状態)であり、過剰でないがんに比べてがんの増殖、再発の可能性が高いといわれています。

分子標的薬でもあるハーセプチンはHER2タンパクのみに作用します。HER2タンパクをたくさんもっているがん細胞のみに効果を発揮し、細胞の増殖を遅らせたり止めたりします。また、直接がん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞(リンパ球の1種でがん細胞やウイルス感染細胞などを抑える)やマクロファージ(白血球の1種で、侵入した異物を飲み込んで消化したり排除する)をより強く作用するように働きます。

そのため治療の際には必ずHER2タンパクの量を調べ、ハーセプチンの使用に適しているかどうかを判定する必要があります。

主な副作用と発現時期

ハーセプチンは週に1回90分間かけて点滴をします。

主な副作用として、発熱、嘔吐、寒気、倦怠感、無力症、悪心、疼痛、頭痛、疲労、爪の障害、下痢、手足症候群(手のひらや指先・足底の皮膚が硬くなり、炎症や痛み、皮膚の剥がれなどがみられる)、口内炎、しゃっくり、便秘などがありますが一時的な症状でおさまると予想されています。

重大な副作用として、心障害、ショック・アナフィラキシー、間質性肺炎・肺障害、白血球・好中球・血小板減少、貧血、肝不全・肝障害、腎障害、脳血管障害、敗血症などがあります。いずれも10%未満と頻度は低いですが、重症化する可能性もあるため定期的に検査を行い適切な処置をする必要があります。

また、投与後24時間以内にアナフィラキシーショックなどアレルギー反応を起こすことがあります。症状として血圧低下、息切れ、発疹などが起こります。

また他の抗がん剤と併用する場合、感染症や貧血、軽度の上気道感染(かぜ症候群)がハーセプチン単体の場合よりも現れやすいです。

ハーセプチンの安全性と使用上の注意

安全性

ハーセプチンを含むがん化学療法は、緊急時に十分対応できる医療施設においてガン化学療法に十分な知識・経験をもつ医師のもとで、適切と判断される症例についてのみ使用されることとなっています。

使用上の注意

ハーセプチンの成分(トラスツズマブ)に対し過敏症の既往歴がある場合は投与しないこととなっています。

アントラサイクリン系薬剤を投与中の人、胸部へ放射線を照射中の人、心不全の症状がある人またはなったことのある人、左室駆出率(LVEF)が低下している人、コントロール不能な不整脈のある人、重大な心臓弁膜症のある人、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の症状がある人またはなったことのある人、高血圧症の人、肺転移・循環器疾患等よる安静時呼吸困難のある人、高齢の方へは、罹患中の症状が悪化したり重度の心障害があらわれる可能性がありますので、慎重に投与することとなっています。また、心機能検査(心エコーなど)が行われることがあります。

  1. 1回目の点滴の時に副作用が出やすいといわれています。ハーセプチンを投与してから24時間以内に40%の方に発熱と寒気が起こりやすいですが、ほとんど初回のみで2回目以降は起こりにくいです。比較的症状は軽いですが、場合によっては解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬が処方されることもあります。
  2. 心不全などの重篤な心障害があらわれることがあるので、ハーセプチンを投与する前に必ず心機能を確認します。
  3. 乳汁中へ移行する可能性がありますので、投与中は授乳を避け、投与後から最低7か月間は授乳を中止してください。

まとめ

今まで予後不良だったHER2陽性のがんも、ハーセプチンといった分子標的薬の開発によって生存期間は大きく改善しました。分子標的薬ががんの治療に使われるようになり、より新しい薬の開発も進んでいます。副作用が絶対に起こらないとは言えませんが、適正な使用をすればハーセプチンは安全で有益な治療法です。

薬についても様々な情報を目にすると思いますが、正しい作用・薬・症状の知識を得て治療と向き合うことが需要です。

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参照日:2019年8月

保田 菜々子