グリベックが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

グリベックは、血液のがんである慢性骨髄性白血病に適応を持つ薬剤として開発され、米国において申請から約2.5ヶ月という異例のスピードで発売された薬剤です。

グリベックが誕生するまでは、慢性骨髄性白血病の患者さんの生存期間は平均5年とされていました。しかし、臨床試験の結果よりグリベックの治療を受けた90%を超える患者さんにおいて5年以上の生存が確認されたため、承認までの時間が特例として短縮されたのです。

近年、新しい抗がん剤の開発は目覚ましいものがあり治療成績も大きく向上していますが、抗がん剤の治療は手術療法や放射線療法などとは異なり、基本的にがんの根治は難しいとされています。その中で、グリベックは飲み続ける必要はありますが、服用している間はがんの進行をストップさせるとして、慢性骨髄性白血病の患者さんの生活を劇的に変えた抗がん剤なのです。

しかし、高い効果を有するグリベックですが、耐性の発現が確認されていますので100%の患者さんにおいてがんの進行を食い止めることは難しく、また抗がん剤ですので副作用も報告されています。

このページでは、抗がん剤「グリベック」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

グリベック(一般名:イマチニブメシル酸塩)とは

グリベックは、スイスに本社を構えるノバルティスファーマ社において、1992年より開発が開始されました。ノバルティスファーマ社は、慢性骨髄性白血病の原因がフィラデルフィア染色体の異常であることに注目し、これを標的として誕生したのがグリベックなのです。2001年に米国で承認され、日本でも同年に承認され販売が開始されています。

グリベックが適応となるがんの種類

グリベックが適応を持つがんは、「慢性骨髄性白血病」、「KIT陽性の消化管間質腫瘍(※1)」、「フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病」、「FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病」です。

※1 KIT陽性の消化管間質腫瘍:略称名GISTと言い、胃や腸の消化管壁の粘膜下にある間葉系細胞に由来する肉腫の一種とされています。病理医が行う免疫組織染色でKIT陽性が確認されればGISTと診断されます。

各がんの服用方法は以下となります。

慢性骨髄性白血病

慢性期の場合は、1日1回400mg(最大600mg)、急性期・移行期の場合は1日1回600mg(最大800mg)を毎日服用します。

KIT(CD117)陽性の消化管間質腫瘍

1日1回400mgを毎日服用します。

フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病

1日1回600mgを毎日服用します。

FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病

1日1回100mg(最大400mg)を毎日服用します。

グリベックは、消化管の刺激作用を最小限に抑えるため食後に多めの水で服用する必要があります。

グリベックに期待される治療効果

グリベックは、「分子標的薬」というグループに属する抗がん剤です。がん細胞は特定の遺伝子やたんぱく質が発現しており、これらががん細胞の更なる増殖や転移に関係しているとされていますが、分子標的薬とはこのがん細胞が持っている遺伝子やたんぱく質など特定の因子を標的とした薬剤です。

グリベックは、慢性骨髄性白血病の原因となるフィラデルフィア染色体の異常から産生される「Bcr-Abl」というたんぱく質を標的にしています。さらに、グリベックは「KIT」や「PDGFR」というたんぱく質も標的にしていますので、KITの異常活性が原因とされる消化管間質腫瘍などにも適応を持っています。

グリベックが適応を持つ各がんの効果について国内で実施された臨床試験の結果から解説していきますが、血液がんの場合は「血液学的完全寛解(※2)」、KIT(CD117)陽性の消化管間質腫瘍は「奏効率(※3)」を指標としています。

慢性期の慢性骨髄性白血病
92.3%
KIT(CD117)陽性の消化管間質腫瘍
46.4%
フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病
100%(4週以上効果持続例は62.5%)
FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病
公知申請(※)による承認のため該当なし

※血液学的完全寛解率:血液がんで用いられている指標となります。例えば白血病の場合、白血病細胞の存在がある程度抑えられている状態を「寛解」したといい、血液学的完全寛解率とは顕微鏡検査と血液検査で正常値を得られた患者さんの割合を示しています。ただし、体内には白血病細胞が残っている可能性があるため、基本的に治療は継続して行われます。

※2 奏効率:治療開始前からがんが小さくなった患者さんの割合で、その効果を判断する指標です。

※3 公知申請:欧米で承認されている薬剤が、日本で未承認のため使用できないいわゆる「ドラッグ・ラグ」を解消する事を目的として保険適応となるシステムです。適応外使用の是正を目的としており、薬剤が正しく患者さんに使用されるために行われています。

主な副作用と発現時期

グリベックなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。

特にグリベックが標的とする「KIT」は皮膚にも存在しているため、「発疹」の副作用が多く報告されています。

主な副作用(国内で実施された慢性骨髄性白血病の患者さん70例を対象とした臨床試験)

  • 嘔気:45.7%(32/70例)
  • 好中球減少症:42.9%(30/70例)
  • 血小板減少症:40.0%(28/70例)
  • 白血球減少症:40.0%(28/70例)
  • 発疹:40.0%(28/70例)
  • 貧血:27.1%(19/70例)
  • 嘔吐25.7%(18/70例)
  • 眼瞼浮腫:24.3%(17/70例)
  • 筋痙攣:14.3%(10/70例)

これら副作用の発現時期は、投与当日から投与初期にかけて多く報告されていますが、患者さんによっては半年以上経過してから現れる方も確認されています。患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながらご自身の変化を見逃さないように生活することをおすすめします。

グリベックの安全性と使用上の注意

グリベックを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

重要な基本的注意

  • 消化管間質腫瘍の患者さんにおいては、グリベックの投与により腫瘍の急激な縮小による出血などが現れる事がありますので、定期的に血液検査を行い、出血(下血、吐血など)の観察が必要となります。
  • グリベックの投与により、胸水や腹水など体液貯留の副作用が現れる事がありますので、体重測定を定期的に行う必要があります。
  • 肝機能の異常が見られることがありますので、定期的に肝機能検査が行われます。
  • めまいやねむけなどが現れる事がありますので、自動車の運転など危険を伴う機械操作や、高所での作業は避ける必要があります。
  • B型肝炎ウィルスをお持ちの患者さんにおいて、グリベックを投与したことによりウィルスの再活性化が現れる事がありますので、投与前にウィルスの有無を確認し適切な処置を行う必要があります。

使用上の注意

  • 肝機能障害をお持ちの患者さん:肝機能検査の数値が上がることが確認されています。
  • 高齢の患者さん:浮腫が現れやすいとされています。
  • 心疾患やその既往歴がある患者さん:症状がさらに悪化する可能性があります。

抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。

グリベックは様々ながんに適応を持っていますが、特に慢性骨髄性白血病の患者さんにとって非常に高い治療効果が確認されており、他の抗がん剤とは一線を画す奇跡の薬といっても過言ではありません。グリベックの誕生をきっかけに、現在では同じ分類に属する薬剤や後発医薬品も発売されており、患者さんにとっては選択肢が増えている環境にあります。

これからグリベックの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

グリベック添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4291011F1028_1_25/
グリベックインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

ma2

薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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