血液の検査の結果を見ると、様々な項目が書かれていますが、どの項目が何を示しているのかまで把握するのは難しいですよね。
また、検査結果を見て「医師はどのように結果を解釈しているのだろう?」と疑問に思うこともあるでしょう。
そこで今回は、血液検査の主な項目について、何を表しているのかそれぞれ解説します。自分で結果を見るときの参考にしてみてください。
目次
血液検査項目と数値
血液の検査は針を刺されるので、患者さんにとっては憂鬱な検査ですよね。しかし、血液の中には体の様々な情報が詰まっています。
がんがあるかどうかを調べるのはもちろんですが、がんの治療によって他の臓器にダメージが及ぶ場合もあります。そのため、患者さんの体のことを知ろうとすると、どうしても医師は「血液の検査をしたい」と思うわけです。
具体的に、どのようなことがわかるのか見ていきましょう。
全身の状態の状態を知る検査
総タンパク質
タンパク質は血液中に非常に多く含まれており、次のような働きをしています。
・血液の水分量を調整し、体の状態を一定に保つ
・体にとって必要なものや不要なものを適切な場所へ運ぶ
・感染しないようにする
・出血時に血を止める
・酵素に対して反応する
基準値は6.6~8.1g/dlで、少なくなっているときには水分の過剰摂取や低栄養状態、ネフローゼ症候群(腎臓の病気)など、多い時には脱水や慢性の感染症、多発性骨髄腫(血液の病気)などの可能性があります。
アルブミン
アルブミンはタンパク質の一種で、基準値は4.1~5.1g/dlです。
肝臓で合成されるため、肝臓に障害があるときに減少します。他に栄養が足りないとき、ネフローゼ症候群の時にも減少します。
CRP
体のなかで炎症が起きていることを示す項目です。
基準値は0.00~0.14mg/dlで、これ以上に数値が上がっているときにはどのような炎症が起きているか確かめる必要があります。がんがあるときをはじめ、感染症に罹った時にも上昇します。
LDH(LD)
体の様々な部位の細胞に含まれる酵素で、体の中で炎症が起きた場合などに上昇します。
体の中にがんがあるときはもちろん、他に肝臓、心臓、血液、筋肉に障害が起こった時には顕著で、次のような病気の可能性があります。
・肝炎
・心筋梗塞
・溶血性貧血
・進行性筋ジストロフィー
基準値は124~222U/Lです。
肝臓・胆のうの状態を知る検査
AST(GST)
心臓の筋肉、肝臓、筋肉、腎臓、脾臓に多く含まれる酵素です。特に肝臓の障害の指標として用いられることが多く、ALTと併せて検査されることが多い項目です。
肝臓の障害(肝炎、肝硬変、肝臓がん)、胆道の疾患(胆道閉塞、胆石症、胆のう胆管炎)、心筋梗塞、筋ジストロフィーなどで上昇します。
基準値は13~30U/Lです。
ALT(GLT)
肝臓、腎臓、心筋、筋肉に多く含まれる酵素です。肝臓の障害の度合いを知るためにASTと一緒に検査されることが多い項目です。
ASTとALTの量のバランスを継続的に見ることで、肝臓の障害が現在どのような状態になっているかを知る目安にもなります。
・肝臓の障害の初期:ASTはALTより多い
・肝臓の障害の回復期:ASTはALTより少ない
・肝臓の障害が治癒したとき:ASTはALTより多い
基準値は男女差があり、男性は10~42U/L、女性は7~23U/Lです。
T-Bil(ビリルビン、トータルビリルビン)
ビリルビンは赤血球の成分であるヘモグロビンが寿命を迎えた時に作られる物質で、基準値は0.4~1.5mg/dlです。
合成されたビリルビンは肝臓へ移動して処理され、そこからさらに胆のうへ移動します。
私たちが食事をすると胆のうから胆汁が分泌され、ビリルビンも一緒に消化管へ分泌されます。この一連の流れのどこかでトラブルがあると、ビリルビンは上昇します。具体的には肝炎や肝硬変、肝臓がん、胆石症、胆のうがん、溶血性貧血などです、
ALP
肝臓や胆道、骨、腎臓などに多く含まれる酵素です。基準値は106~322U/Lですが、成長期の子供では骨の代謝が盛んなため、健康であってもこの基準値よりも大幅に上昇します。(成人の約3倍)
肝臓や胆のう、すい臓のがんをはじめ、骨のがんやがんが骨に転移した場合(骨転移)などに上昇します。
ChE(コリンエステラーゼ)
ChEは肝臓で作られる酵素です。他の肝臓の項目は肝臓に障害があると上昇しますが、ChEは肝臓に障害があると合成できなくなるため減少していきます。また、がんなどで栄養が少なくなると合成する力が弱まるため、その際にも減少します。
基準値は男女差があり、男性240~486U/L、女性201~421U/Lです。
腎臓の状態を知る検査
BUN(UN、尿素窒素)
タンパク質を代謝した後にできる物質で、尿と一緒に排泄されます。尿を作る臓器の腎臓の働きが悪くなっていないかを示します。
・高値:腎臓の病気
・低値:重症の肝機能障害(タンパク質を代謝できなくなるため)、ネフローゼ症候群
タンパク質がもとになるため、タンパク質の多い食事をしている人では高めの測定結果に、タンパク質が少ない食事や経静脈栄養の人では低い測定結果になります。また、脱水の時にも数値が高くなります。
このように、腎臓の病気以外のものが原因でBUNは変動するため、この項目だけでは腎臓の機能の評価は難しいです。
基準値は8~20ng/dLです。
Cre(クレアチニン)
Creは、筋肉に蓄えられていたクレアチンを代謝して作られる物質です。そのため筋肉の多い男性の方が血液中に多くのCreを含んでおり、基準値は男性0.65~1.07mg/dL、女性0.46~0.79mg/dLとなっています。
合成されたCreは腎臓を通って尿から排泄されるため、腎臓の機能の指標として用いられます。腎臓の働きが悪くなると高値になりますが、寝たきりなどあまり筋肉を動かさないでいると数値が低くなります。
eGFR(推定糸球体ろ過量)
腎臓では血液をろ過して、必要なものを体の中に残し、不要なものを尿と一緒に排泄するという働きをしています。このろ過を行う場所を糸球体と言います。つまり糸球体ろ過量が分かれば、腎臓の働きの良し悪しが分かります。
BUNやCreも腎機能の指標になりますが、腎臓以外の原因でも変動してしまうため、純粋な腎臓の指標として扱いにくいのが現実です。
正確な糸球体ろ過量を知るためには尿を24時間専用の容器にためる必要がありますが、Cre、年齢、性別が分かれば計算で糸球体ろ過量を推測することができます。健康な人ではeGFRは90以上ですが、腎臓の機能が悪くなるとこの数値が低くなっていきます。
膵臓の状態を知る検査
AMY(アミラーゼ)
AMYは糖を分解する酵素の一種です。唾液にも含まれるので知っている方もいるかもしれませんが、実は膵臓でも分泌されていて、食べ物の消化をサポートしています。
基準値は44~132U/Lで、膵臓で炎症が起きたり、膵臓や唾液腺の出口が詰まってアミラーゼが血液中に逆流したりすると、検査結果が高くなります。
血液中の細胞の状態を知る検査
赤血球
赤血球は全身に酸素を運ぶ働きのある細胞です。腎臓が産生するエリスロポエチンという物質の指示によって赤血球の産生量が増減するため、腎臓の状態も反映する指標になります。
基準値は男女で異なり、男性は435万~555万/μl、女性は386万~492万/μlです。
赤血球が減少した状態を貧血といい、めまいや動機、息切れの症状を感じるようになります。鉄分不足による鉄欠乏性貧血が有名ですが、他の栄養不足による貧血や血液の病気によるもの、腎臓の働きが悪くなって起こるもの、出血によるものもあります。
赤血球が増えすぎるものを多血症と言い、脱水や血液の病気、腎臓の病気などで起こります。
白血球
白血球は免疫を司り、体の中に入った異物を排除してくれる働きのある細胞です。基準値は3300~8600/μlです。
血液のなかにある白血球の数や、白血球の種類を調べることで、次のようなことが考えられます。
・増加:感染症、炎症、白血病など
・減少:白血病をはじめとした血液の病気、抗がん剤の投与や放射線の照射の影響など
白血病は白血球ががんになった病気なので、白血病が見つかった場合には抗がん剤による治療が必要になります。
他のがんでも抗がん剤を投与したり、放射線を照射したりした場合には、副作用で白血球が少なくなってしまうことがあり、感染症に罹りやすくなるため、このような場合には治療を中止することもあります。
血小板
血小板は血液を止めるのに必要な細胞です。血小板は肝臓で作られるトロンボポエチンという物質の指示で産生量が増減するため、血液の状態だけでなく肝臓の状態も間接的に示す指標になります。
基準値は15万8000~34万8000/μlです。
血液の病気の種類によって増加したり減少したりします。また、抗がん剤の投与後や肝臓が弱っているときには減少します。
腫瘍マーカー
NSE
神経細胞から発生したがんや肺小細胞がんの時に上昇します。
CA125
卵巣がんで特に高い陽性率を示しますが、他のがんや婦人科の疾患でも上昇することがあります。
CEA
大腸がん、胃がん、膵がん、肺がんなど様々ながんで上昇します。
SLX
肺がん、卵巣がん、膵臓がんの診断に用いられます。また、血行性転移の指標にも活用されます。
CYFRA
主に肺がんの腫瘍マーカーとして用いられます。
SCC
体の表面を覆う細胞から発生したがんの時に上昇します。子宮頸がん、肺がん、皮膚がんなどです。扁平上皮がんと呼ばれる病理組織のがんの時に上昇します。
AFP
肝臓がんの腫瘍マーカーとして用いられます。
PSA
前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられます。他に、前立腺肥大、前立腺炎などでも上昇します。
CA15-3
主に乳がんの腫瘍マーカーとして用いられます。他に肺がん、すい臓がん、胃がん、腎臓がん、子宮がんなどでも上昇します。
PIVKA-Ⅱ
主に肝細胞がんの腫瘍マーカーとして用いられます。一部の肝臓の良性疾患でも上昇する場合があります。
ProGRP
肺小細胞がんのマーカーとして用いられます。
STN
体内にがんが存在しているときに血液中で増加することのある物質です。
NCC-ST-439
乳がん、肺がん、消化器系のがんの腫瘍マーカーです。
がんの原因になる感染症を知る検査
HBV(B型肝炎ウイルス)
HBVというウイルスに感染すると、B型肝炎を引き起こします。感染していることに気付かず慢性的に炎症が持続すると肝臓が硬くなり、その結果引き起こされるのが肝硬変、肝臓がんです。
B型肝炎に感染しているかどうかは、血液でHBVの一部やHBVに対する抗体があるかを調べることでわかります。HBVのワクチンを接種している人では、HBVに感染していなくても血液中に抗体が検出されます。
HCV(C型肝炎ウイルス)
HCVもHBV同様、肝炎を引き起こすウイルスで、こちらはC型肝炎を引き起こします。そこからさらに炎症が持続すると肝硬変、肝臓がんへと発展していきます。
HBV同様、血液にHCVの一部やHCVに対する抗体があるかを調べることで感染しているかどうかが分かります。
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)
HTLV-1はヒトT細胞白血病・リンパ腫の原因となるウイルスです。日本では元々西日本に患者さんが多い感染症でしたが、現在は日本各地に患者さんがいます。
血液の検査で抗体を持っているかを調べ、場合によってはHTLV-1のウイルスの一部があるかどうかを調べます。
ヘリコバクター・ピロリ菌
ヘリコバクター・ピロリ菌は胃の中に潜伏し、慢性的な胃炎を引き起こす細菌です。胃炎が長年持続すると、がん化するという報告もあるため、感染が分かった場合には除菌を勧められることもあります。
血液中にピロリ菌に対する抗体があるかどうかを調べて、感染しているかどうか確認します。
検査結果を見るときに注意すること
検査の結果を見るときにはついつい自分の測定結果にだけ注目しがちですが、実は基準値を確認することもとても大切です。
というのも、検査の基準値は全国的に統一を進めている最中で、医療機関によって異なる基準値を採用しているケースが多いからです。
今回、基準値については日本臨床検査技師会で採用を呼び掛けているJCCLS共用基準範囲をもとに記載しましたが、受診している医療機関でこの基準値を採用しているかはわかりません。
ですから血液検査の結果を聞くときには、自分の数値だけでなく基準値も一緒に聞き、その基準値に比べて自分の結果がどうなのかを確認してくださいね。
「エビデンスに基づく検査データ活用マニュアル」(編/下正宗)学習研究社 2008
https://www.uptodate.com
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会「JCCLS共用基準範囲」J
http://www.jccls.org/techreport/public_comment_201406.pdf
「HTLV-1母子感染予防対策マニュアル」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/06.pdf