肝臓がんとはどんな病気でしょうか?肝臓がんにならないためにはどのようなことに気をつければいいのでしょうか?
日本における肝臓がんの最も多い原因はB型・C型肝炎ウイルス感染です。ではこれらの肝炎ウイルスに感染しないためにはどのようなことに気をつけたらいいのでしょうか?
ここでは、肝臓がんの基礎知識やB型・C型肝炎について、肝臓がんになりやすい人の特徴、お酒を飲む人はどのくらいの量までにすればよいのかといった情報を提供しています。
目次
肝臓がんとは
肝臓はお腹の右上にあり、約1㎏もある体内最大の臓器です。主な役割としては血液をろ過して有害物質を取り除いたり、腸で吸収された栄養を貯めておく、食べ物に含まれる脂肪の分解を助ける胆汁を作る、といった役割を果たしています。
広い意味での肝臓がんは、肝臓から発生したもの(原発性)と他の臓器にできたがんが肝臓に転移したもの(転移性)があります。また、原発性の10%は肝臓内にある胆管という管から発生した胆管細胞がんです。ここでは残り90%を占める肝細胞癌について主に説明します。
肝臓がんの進行度(ステージ)
進行度とは肝臓がんの病気のひろがり具合を表します。ステージは1から4までがあり、一般的に数字が大きくなるにつれ病気のひろがり具合が広いことを表しています。さらにステージ4はAとBに分けられています。
●肝臓とリンパ節以外の臓器に転移が見られる場合はもっともひろがっている状態と判断されステージ4Bと表現されます。
●他の臓器に転移はないものの、リンパ節に転移がある場合はステージ4Aと表現されます。
●リンパ節や他の臓器に転移がない場合は以下の項目にいくつ該当するかによってステージ1~4Aに分類します。
- 腫瘍が1個である
- 腫瘍の大きさは2㎝以下である
- 肝臓の中にある脈管(動脈・門脈・胆管)にひろがっていない
- すべてに該当しない
- ステージ4A
- 1つだけ該当
- ステージ3
- 2つに該当
- ステージ2
- 3つとも該当
- ステージ1
肝臓がんの頻度
2014年にがんと診断された人の中で肝臓がんは男性の第5位(10万人あたり44.1人)、女性の第8位(10万人あたり20.6人)、全体では第4位(10万人あたり32.0人)でした。
また2017年がんで死亡した人の中で肝臓がんは男性の第4位(10万人あたり29.4人)、女性の第7位(10万人あたり14.5人)であり、全体では6番目(10万人あたり21.8人)に多い疾患でした。
小児の肝臓がん
小児の肝腫瘍は小児がん全体の1%と稀な病気であり、日本では年間50例程度の発症です。小児の肝腫瘍の8割は肝細胞芽腫で、肝細胞になるはずだった未熟な細胞から発生したものです。肝芽腫の危険性が高くなる要因としてはBeCkwith-WiedemAnn症候群、家族性腺腫性ポリポーシス、出生体重が1500g未満があります。多くの肝細胞芽腫は3歳までに発症しますが、生存率は70%と比較的予後の良い疾患です。
大人の肝細胞がんと同じものが子供にできることもあります。小児肝細胞がんの危険性が高くなる要因としてはB型肝炎ウイルス陽性や胆汁性肝硬変、チロシン血症などがあります。多くは14歳以上で発症し、生存率は25%程度です。そのほかに未分化胎児性肉腫という非常にまれな疾患もあります。
肝臓がんの主な原因とリスクファクター
肝炎ウイルス
肝炎ウイルスにはA~H型まで8つの種類がありますが、がんの発生に関連しているのはB型とC型です。
日本では肝細胞がんの約65%はC型肝炎ウイルスの持続感染、15%がB型肝炎ウイルスの持続感染と推測されています。肝炎ウイルスに感染することにより、肝臓内で炎症と再生を繰り返す結果、遺伝子の突然変異が起こり肝がんが発生すると考えられます。
B型・C型肝炎ウイルスに感染し、治療しないままでいると、一部の人(B型の場合約10%、C型の場合約70%)は10年ほどで慢性的に炎症を起こす慢性肝炎という状態になります。さらにその状態が20年ほど続くと肝臓が固くなり肝硬変という状態になります。軽度の慢性肝炎では1年に肝臓がんを発症する割合は0.5%(1000人のうち5人)ですが、肝硬変になると7.0%(1000人のうち70人)と増えます。一旦肝細胞がんを発症すると、その病変に対して治療をしても、肝臓のほかの部位にがんができる頻度は30%(10人に3人)と非常に高率になります。
通常は慢性肝炎、肝硬変と変化したのちに肝細胞がんを発症しますが、B型肝炎ウイルス感染の場合は慢性肝炎や肝硬変になる前に肝細胞がんを発症することがまれにあります。
主なB型・C型肝炎ウイルスの感染経路
妊娠・分娩に関するもの
今では妊娠中に母親の血液検査が行われ、母親がB型肝炎ウイルスの保菌者と判明すると、新生児は出産後すぐにワクチン治療が行われます。C型肝炎ウイルスの場合は治療法がないため、基本赤ちゃんに感染したかどうかは経過を見る形になりますが、母親から子供への感染率は5-10%と低めです。また、一度赤ちゃんに感染しても3割は3歳までにウイルスが自然に消えます。
血液製剤を介した感染
血液製剤とは献血で提供された血液を材料として作られた薬のことで、輸血も含まれます。現在C型肝炎ウイルスに感染している人の一部は昔投与された血液製剤による感染と考えられています。現在では献血で提供された血液はB型およびC型肝炎ウイルスの検査が行われており、血液製剤からの感染は限りなくゼロに近い状態ですが、完全に感染を予防できるものではありません。
性行為による感染
B型肝炎ウイルスもC型肝炎ウイルスも性行為による感染率は低いですが、B型肝炎ウイルスでHBe抗原が陽性の場合は、感染力が高くパートナーへの感染のリスクがあります。
針刺しによる感染
医療者などが肝炎ウイルスを持つ患者に使用した針を誤って自分の指などに刺した場合や、昔行われていた予防接種での針の回し打ち、再利用などにより起きる感染です。とくにB型肝炎ウイルスは昭和63年ころまでに行われていた集団予防接種が原因で感染したと考えられる症例も多く出ています。今は使い捨ての針が使用されているため、集団予防接種での新たな感染は起きません。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)
アルコールを飲まない脂肪肝の人でも、一部は肝炎ウイルスに感染したときのように慢性肝炎、肝硬変と病状が進むことが判明しました。このうち、慢性肝炎の状態を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)と呼びます。肝炎ウイルス感染よりは確率が低いと推測されていますが、NASHから肝硬変になると肝細胞がんを発症する人がいます。
アフラトキシン
アフラトキシンはカビが作り出す毒物です。豆や木の実、トウモロコシなどに付着することが多く、いったん付着すると加熱しても壊れません。アフラトキシンは大量に摂取すると肝臓の障害を起こし、少量を長期に摂取すると肝臓がんになる確率が上がります。特にB型肝炎ウイルスに感染している人がアフラトキシンを慢性的に摂取すると肝臓がんになる危険性が高くなると報告されています。
現在日本では食品のアフラトキシン量に基準値を設け、規制を行っています。
糖尿病
糖尿病の人は、糖尿病ではない人と比較して約2-4倍肝がんになりやすいという報告があります。高血糖による酸化ストレスが増えたり、血糖を下げようと過剰に分泌されるインスリンの影響が考えられています。
喫煙
いくつかの調査ではタバコは肝臓がんになる危険性を増やすと報告されています。ただし、これらの報告は肝炎ウイルスに感染している人かどうかについて検討されていません。タバコは肝炎ウイルスに感染した人にとって肝がんになる危険性を増やすと推測されていますが、肝炎ウイルス感染もなく、アルコールも摂取していない人でも喫煙だけで肝臓がんになる可能性が高くなるかについては、否定的と考えられています。
そのほかにアルコール摂取(詳細は後述)や肥満も肝臓がんになりやすい要素と考えられています。
肝臓がんになりやすい人の特徴
肝臓がんの発生は男性では45歳から、女性は55歳から急激に増えていきます。この頃に肝臓がんが増える理由としては、多くの患者が幼少期にB型・C型肝炎ウイルスに感染し、この年齢以降に肝臓が慢性肝炎や肝硬変になるためと考えられます。
肝臓がんの危険因子である肝炎ウイルスの感染者数はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス共に日本で約130万人程度と推測されています。死亡率については男女比で見ると男性が女性の3倍と報告されています。この理由としては一般的に男性は女性よりもアルコール摂取の機会が多いことが関連しているかもしれません。
アルコールの摂取量と肝臓がんの関連性
常習的に大量のアルコールを摂取するとアルコール性肝炎になり、肝硬変へと進行します。しかし日本における多くの肝臓がんは肝炎ウイルスが関係したものが多く、肝炎ウイルス抜きで純粋にアルコールだけが原因の肝臓がんは少ないと推測されています。
ちなみにC型肝炎ウイルスの患者がアルコールを摂取すると肝臓がんの発症リスクが上がることは、これまでの調査により証明されています。その機序としてはアルコールがウイルスの増殖を促しウイルス遺伝子の突然変異の機会が増えることやアルコールにより肝細胞が減少する、免疫反応を抑える、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが発がん性を持っているといったことが考えられています。
具体的な飲酒量としては1日の飲酒量で男性は69g、女性では23g以上になると肝臓がんになる危険性が増えるという報告があります。
男性 | 女性 | |
アルコール摂取量の目安 | 69g | 23g |
ビール(アルコール度数5度) | 大びん2.5本 | 大びん1本 |
日本酒(アルコール度数15度) | 3.5合 | 1合 |
焼酎(アルコール度数25度) | 2合 | 2/3合 |
予防と早期発見のコツ
肝臓がんの予防につながる食べ物
肝臓がん発症の危険性を下げるといわれているのはコーヒーです。肝炎ウイルスに感染している人がコーヒーを飲むと肝臓がんの発生率が下がったという調査があります。他のカフェインを含む飲み物では同じ傾向が見られなかったことから、コーヒーの中のカフェイン以外の成分が肝臓の炎症を抑えて肝臓がんの発生を防いでいると推測されています。
早期発見のためには肝炎ウイルス感染のチェックを
これまでに一度も肝炎ウイルス感染の検査を受けたことがない人は、まず一度検査を受けましょう。
肝炎ウイルスの検査は血液検査で行います。これまで肝炎ウイルス感染の原因の多くは輸血や血液製剤、集団予防接種によるものでしたが、現在のシステムではこれらによる感染の危険性はほぼゼロに近い形になっているので、現在肝炎ウイルスにかかっていないことが判明すれば、多くの場合その後も陰性が続きます。現在日本での肝臓がんの8割以上が肝炎ウイルス感染に関与しているので、この肝炎ウイルスの有無をチェックすることは今後の肝臓がんの危険性を明らかにするために重要です。
もし肝炎ウイルスが陽性であったとしても、過去に感染しただけで現在はウイルスが残っていない場合もあるので、その場合は精密検査を受けて、その後の指示に従いましょう。
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参照日:2020年4月