白血病治療と副作用について

白血病は、全身に白血病細胞が駆け巡る病気であるため、手術では病気の根治を達成することが出来ません。そのため、抗がん剤や骨髄移植などの治療方法を駆使しながら、全身に存在する白血病細胞を根絶することを目指します。

多彩な治療方法が選択されうる白血病の治療経過においては、副作用に遭遇することも少なくありません。一般的にイメージされる「髪の毛が抜ける」、「吐く」といったものに留まることなく、長期的な視点からは不妊症や心筋障害などの副作用が引き起こされることもあります。

この記事では、白血病で行われることがある治療方法について、最新の知見も取り入れつつ紹介します。最大限の治療効果を得つつ、副作用を可能な限り軽減するためにも、本記事を活用していただけたらと思います。

目次

白血病の主な治療法

白血病の治療については、「標準治療」と呼ばれるものが確立しているものもあります。特に初発の白血病においては、標準治療に沿った形で治療が行われることが多く、抗がん剤を中心とした治療が選択されます。治療経過は白血病の種類によって大きく異なり、半年ほどの入院生活で治療が終了するものがある一方、数年に渡って継続的に抗がん剤による治療が必要とされることもあります。

ここでは白血病の代表的な治療方法である抗がん剤治療、造血幹細胞移植、放射線治療のメリットとデメリットを解説し、他にもいくつか特徴的な治療法をご紹介しますが、ご自身にとって、どの治療がもっとも適切かどうかは、主治医の先生の説明をよく理解した上で検討してください。

抗がん剤のメリットとデメリット

抗がん剤として使用される薬剤には、ステロイドやビンクリスチン、ダウノルビシン、アスパラギナーゼ、シクロフォスファミド、チオプリン、メソトレキセートなど、数多くのものを例に挙げることが出来ます。

白血病細胞によって薬に対しての効きは一定ではなく、かつ、一回の投薬のみでは白血病細胞を根絶することが出来ません。言い換えると、単一の薬剤を単発で使用して白血病が根治することは期待できません。こうした病気の特性上、複数の薬剤を適切なタイミングで繰り返し使用することが、最終的に白血病の根治を達成するためにも必要不可欠であると言えます。

その反面、抗がん剤に対しての副作用を看過することはできません。一般論として、発熱や脱毛、吐き気、食欲の低下などの副作用が抗がん剤では生じやすいです。その他、薬剤によっては特に注意するべき副作用が知られているため、ここではいくつか例を挙げてみたいと思います。

ビンクリスチンの代表的な副作用

ビンクリスチンの使用中には、便秘が生じてお腹が痛い、手足がしびれる、うまく歩くことが出来ない、などの副作用が生じることがあります。一過性の経過で症状が改善することもありますが、重篤な場合には永続的な後遺症が残ることもあります。

アントラサイクリン系の代表的な副作用

ダウノルビシンやイダルビシンなどといった薬剤は、ある一定量以上を使用することで、心臓に対しての悪影響が強まることがあります。その結果、息切れをしやすい、身体がむくむ、少し動くだけで疲れるなどの症状が生じることもあります。

アスパラギナーゼの代表的な副作用

アスパラギナーゼでは、副作用としてアレルギー反応や膵炎などが生じる可能性があります。アレルギー反応では、時にアナフィラキシーショックと呼ばれる重篤な病態に陥ることもあります。こうした反応は治療してから数分で生じることもあるため、病状変化がないかを慎重に見極めながら、投薬を受けることが求められます。

チオプリンの代表的な副作用

チオプリンは、急性リンパ性白血病の治療において、数年に渡って使用されることがあります。この間、脱毛が強く起きたり、骨髄抑制からの感染症が生じたりすることがあります。一定の遺伝子が副作用の出現リスクを高めることが知られているため、治療開始前にそうした遺伝子異常がないかどうかを検査することもあります。

造血幹細胞移植のメリットとデメリット

造血幹細胞移植とは

複数の抗がん剤を組み合わせることで治療される白血病ですが、難治性の白血病ではより治療強度の高い造血幹細胞移植が行われることもあります。病気の経過によっては、通常の化学療法では手におえない状況において、切り札的な治療方法として選択されることもあります。

造血幹細胞移植では、骨髄を移植するに先立って、患者さんの中に存在する白血病細胞を根絶させることを目的とした、非常に強度の強い化学療法が行われます。ただし、造血幹細胞移植で行われる化学療法はとても強いため、白血病細胞のみならず、患者さんの正常な血液細胞まで死滅してしまいます。

この状況を放置すると、患者さんは感染症や貧血、出血などのリスクから免れることが出来ず、最終的に亡くなってしまいます。そのため、他人から供給される正常な血液細胞を移植することで、こうしたリスクを避ける治療方法です。

造血幹細胞に伴うリスク

造血幹細胞移植では、非常に強度の強い化学療法が必要とされますし、他人の血液細胞が体内に入り込みます。こうした関係から、皮膚や消化管、肺、肝臓など、全身各所に短期的かつ長期的な障害が残存することも懸念されます。さらに、不妊症に至ることも懸念される治療方法です。

そのため、移植前には入念に全身検索を行い、治療に耐えうるかの評価が必要不可欠であると同時に、移植後も長期間に渡ってフォローアップが必要とされます。

造血幹細胞移植の成功率について

一般的には、造血幹細胞移植の成功率は、病勢、患者さんの全身状態、ドナーの種類(家族、非血縁者、臍帯血)、移植される細胞数などによって大きく異なることが知られています。例えば、造血幹細胞移植前の病勢がコントロールできている方が、治療成績はいい傾向があります。ご自身の成功率がどの程度であるかを正確に判断するためには、こうした要因をもとに担当医と相談することが必要です。

なお、日本においては骨髄バンクに登録された提供希望者は、2019年現在50万人強と報告されています。ただし、さらに多くの患者さんが適合する骨髄ドナーを見つけることが出来るよう、骨髄提供の協力が呼びかけられています。

造血幹細胞移植の費用について

造血幹細胞移植に関わる治療費としては、数十万円程度の請求が月に発生することがあります。これらの医療費は高額医療費としてサポートを受けることが出来るため、担当部署に相談することが求められます。また、移植に際しては、提供骨髄や臍帯血の輸送費、血液型判定などを含めて、別途10万円前後の費用が必要とされることがあります。

実際にどの程度の費用がかかるかは、ケースバイケースであるため、事前に相談することが肝要であると言えます。

放射線治療のメリットとデメリットについて

放射線治療は、白血病治療において、局所病変のコントロールを目的として行われることがあります。例えば、白血病細胞は頭蓋内に病変を形成することもありますが、こうした病変を縮小させるために放射線療法が選択されることがあります。

その一方、放射線治療による副作用も看過することが出来ません。例えば、脳に多くの放射線が照射されると、知的レベルの低下や認知力の低下などが引き起こされることがあります。その結果、本人並びにご家族の負担が増強することもあります。

白血病の中には、化学療法のみで高い根治率を期待出来るタイプが存在することも知られています。こうしたことを受け、昔であれば放射線療法が必須であったものも、副作用を懸念して撤廃への動きが見られる状況もあります。

その他の治療法

白血病では、先に挙げた治療方法以外にも、いくつかの特徴的な治療方法が存在します。

分子標的薬

例えば、慢性骨髄性白血病では、BCR-ABL遺伝子と呼ばれる特徴的な遺伝子が存在します。この遺伝子を特異的にターゲットとする薬剤として、イマチニブと呼ばれる薬剤が使用されることがあります。このように、病気に特異的な遺伝子を標的とした治療薬を、「分子標的薬」と呼びます。

分化誘導療法

アンディフグ選手が命を落としたことで知られる急性前骨髄急性白血病では、レチノイン酸と呼ばれる薬剤が使用されます。この薬剤は抗がん剤ではないにも関わらず、白血病細胞を死に追いやることが期待できます。事実、急性前骨髄性白血病ではこの薬剤を併用することで、高い治癒率が達成されています。

免疫療法

白血病の治療上、免疫療法の立ち位置はここ数年で大きく変動しています。直近では、CAR-T療法と呼ばれる治療方法が保険適用をされていますが、その治療効果に並び数千万円にも及ぶその治療費用にも大きな注目が集まっています。

白血病が再発した時の治療方法

白血病の再発時には、どういったタイプの白血病細胞が再発したのか(B細胞であるのか、T細胞であるのか)、身体の中でもどこで再発をしたのか(骨髄なのか、頭蓋内なのか、精巣なのか)、治療中に再発をしたのか、それとも治療が終了してから数年以上経過して再発したのか、などの情報を加味することが重要です。

これらの情報を加味した上で、抗がん剤や病変の摘出術などで根治が期待出来ることがある一方、造血幹細胞や免疫療法などの別の視点が必要とされることもあります。

再発時の治療方針については、担当医や医療機関によっても大きく判断が異なる場合もあります。「再発=治療方法がない」という訳でもないため、場合によってはセカンドオピニオンを求めることを考慮することも大切です。

がんを学ぶ【ファイザー】 | 急性骨髄性白血病の治療方法-薬物療法
がんを学ぶ【ファイザー】 | 慢性骨髄性白血病の治療法の種類は?
JALSG | 治療理念|白血病
一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター | 日本における造血幹細胞移植の実績
JMDP 日本骨髄バンク | 骨髄バンク事業の現状(2023 年 4 月末現在)
国立がん研究センター がん情報サービス | 急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫
JALSG | 急性前骨髄球性白血病のレチノイン酸療法
参照日:2019年12月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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