手術数で分かる子宮体がんの名医がいる病院ランキングトップ10

「子宮体がんの治療をどこの医療機関で受けるか?」ということは、とても重要な疑問です。どのような病院・医療機関で質の高い医療が提供されているのでしょうか。わが国では、残念ながら医療の質について、網羅的に日本全国津々浦々の病院を比較するためのデータベースはありません。しかし、その代わりになるデータベースがあります。

それは、DPCデータと呼ばれるデータベースです。これは、2003年から導入された「診療群分類包括評価」という制度に関するデータベースで、日本に存在する病院(全体の約30%)で行なわれた治療について集計されています。この集計データから子宮体がんについての手術件数を見ることで、その病院での治療の質がある程度わかります。

そこで、このページでは、DPCデータを元に手術数・治療数が多い病院ついて紹介します。また、ここでは手術件数・治療件数以外にも役立つ指標・ポイントについても説明します。

目次

子宮体がんの手術が適応となる症例

子宮体がん診療ガイドライン2018によると、子宮体がんはその他のがんと比べて、放射線治療や抗がん剤治療が効きにくいという特徴が有ります。そのため、可能な限り手術を行い子宮や付属器(卵巣や卵管)を取り除くことが基本となっています。

子宮体がんと診断されたら、CTやMRIなどの画像検査を行なって、がんがどの程度広がっているのか、遠隔転移やリンパ節転移があるのかを調べます。手術前にがんの進行度がⅢ期(がんが子宮外にあるが骨盤内である場合)やⅣ期(がんが骨盤外に広がる、膀胱や直腸に浸潤する、肺や肝臓などに遠隔転移がある)である場合には、全身症状が悪くなっていると判断され、手術が行えない場合もあります。また、遠隔転移が多い場合にも手術を見合わせることもあります。そのような場合には手術を行なわずに、放射線治療や抗がん剤治療を行ないますが、このような症例は多くはなく、Ⅳ期であっても、手術をおこなうことが多くなっています。

2015年の日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会の報告では、Ⅰ・Ⅱ期の98%、Ⅲ・Ⅳ期の89%に対して手術治療が行なわれていたとのことです。

また、妊孕性を温存した治療(手術治療後にも妊娠可能な状態に止める治療)を希望する場合には、手術治療を選択する前に主治医の先生とよく相談する必要があります。子宮体がんの手術では、子宮や付属器(卵管や卵巣)を取り除くことで再発のリスクを低減しています。

妊孕性を温存するためには、子宮や卵巣・卵管を全切除するわけにはいきませんので、再発のリスクが高まることも意味しています。このため、妊孕性の温存には条件が必要になります。例えば、年齢が若く、子宮体がんの型が類内膜がん(つまり、悪性度が低い)であること、筋肉の層への広がりが浅いこと、黄体ホルモン(卵巣から分泌される女性ホルモン)によって成長が抑制される性質があること等です。このような条件に当てはまっているかどうか、そして再発のリスクが高まることについて十分に説明を受け、納得できているかを確認して下さい。

子宮体がん手術数トップ10

DPCデータとは何か

子宮体がんの手術数を、日本全国津々浦々の病院について網羅的に知るためには、病院毎の手術数がわかる系統だったデータベースが必要ですが、日本にはそのようなデータベースが現状ではありません。すでに医療の現状をしるためのデータベースが有料・無料で利用可能なものはいくつかあります。例えば、厚生労働省ではNDBオープンデータとして、日本における医療全体を俯瞰することが出来るデータベースを公開しています。しかし、このデータベースでは、病院ごとのデータとして見ることが出来ません。有料のものであっても、一部病院のみのデータベースですし、病院名が匿名化されているなど、一般の患者さんが受診する病院を選択するために、医療の質をしるための助けにはなりません。

そのような中で、一番助けになるのが、DPCデータです。

日本では、医療費の支払は「出来高払い」という方式が取られています。この方式では、実際に行なわれた医療行為それぞれについて医療費を加算していくような方式です。例えば、診察・検査・処方箋・薬品のそれぞれに診療報酬という金額が設定されていて、その金額の合計が医療費として算出されます。これに対して、2003年から一部の病院を対象に「診療群分類包括評価」という支払制度が導入されています。この方式では、傷病名と診療行為(検査や治療など)の組み合わせで約2700の診療群分類を設定し、その区分のいずれに該当するのかによって、医療費が1日あたりの定額支払として計算されます。この制度に参加している医療機関は2019年4月には1700病院以上となっています。つまり、日本全国の病院(5835病院、2019年4月1日現在)の約30%が診療群分類包括評価を採用していることになります。

このような診療群分類包括評価におけるデータ(DPCデータ)は、厚生労働省での審議資料としても用いられますので、厚生労働省のホームページからダウンロード可能となっています。また、DPCデータの集計データを確認出来るウェブサイトもいくつか作成されています。このデータベースを整理・検索することで、ある疾病に対する診療行為が、どの病院で何件くらい行なわれているのかを知ることができます。ここでは、このDPCデータを用いて、病院ごとの手術件数を確認します。

ただし、DPCデータでは病気が大まかに分類されています。子宮体がんについて公開されているDPCデータは「子宮頸・体部の悪性腫瘍」(コード12002x)として、1つのカテゴリにまとめられています。

2017年のDPCデータでは、「子宮頸・体部の悪性腫瘍」の治療について105,843件のデータがあります。そのうち、19,140件(およそ18.1%)が「子宮悪性腫瘍手術等」の治療で、8,947件(およそ8.5%)が「その他の手術」となっています。一方で、46,652件(およそ44.1%)が「手術無し」の治療でした。DPCデータ上では、子宮頸がんと子宮体がんを区別できませんので、ここに列挙した件数の一部には、子宮頸がんの数値も混在しています。一般に公開されているデータからは子宮頸がんと子宮体がんの数値を切りわけることは出来ません。ただし、子宮頸がんと子宮体がんの手術術式には一致点や類似点が多いため、2つを合わせた手術数を確認することは意味があります。また、残りの約30%は「子宮筋腫摘出(核出)術 腟式等」ですので、子宮筋腫などに対する治療のデータと考えられます。

DPCデータから見た手術数トップ10

2017年のDPCデータを元にした集計結果を示します。結果としては都市部の病院が多くなっていますが、これは、都市部では人口が多いため、病気になる人の割合が地方と同じであっても、患者さんの数が多くなることも影響しています。また、カッコ内は件数を示しています。

「子宮悪性腫瘍手術等」と「その他の手術」を合計した場合のトップ10は下記の通りです。

  1. 兵庫県立がんセンター(295)
  2. 公益財団法人 がん研究会 有明病院(294)
  3. 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター(238)
  4. 大阪医科大学附属病院(226)
  5. 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター(204)
  6. 県立宮崎病院(190)
  7. 久留米大学病院(178)
  8. 東京慈恵会医科大学附属柏病院(172)
  9. 武蔵野赤十字病院(165)
  10. 福岡県済生会福岡総合病院(157)

手術数以外にも注目したいポイント

専門医在院数

子宮体がんの治療に関連する専門医資格として、「婦人科腫瘍専門医」があります。専門医制度のあり方には議論がありますが、手術数や経験年数、研究実績などを元に専門医として認定されますので、治療について十分な信頼性があることには違いありません。そのような専門医の人数は、病院の治療の質を計る上で重要な指標となると考えられます。専門医の所在については、日本婦人科腫瘍学会のホームページで確認する事ができます。

妊孕性を温存した後の出産

妊孕性を温存する治療を選択した場合、その後の妊娠・出産が想定されます。そのような場合には、同じ病院で受診し、妊婦健診などを受けることが多くなると思います。もちろん、別の病院や産院で妊婦健診を受けることも可能ですが、同じ病院であれば子宮体がんの手術履歴の情報共有がしやすいというメリットがあります。

公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん治療ガイドライン2018年版
国立がん研究センター がん情報サービス | 子宮体がん(子宮内膜がん)
Evidence-Based Clinical Decision Support System| UpToDate | Wolters Kluwer
公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん
NTTデータ | 「患者の主体性と医療への満足度についての調査」結果について
厚生労働省 | 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(DPC評価分科会))
京都府立医科大学大学院医学研究科女性生涯医科学 | 子宮頸がんにおける妊孕性温存治療
病院情報局
婦人科腫瘍委員会報告
厚生労働省 | 【NDB】NDBオープンデータ
公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 専門医制度
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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