子宮体がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

子宮頸がんほど、報道などはされていませんが、子宮体がんも女性のがんでは多くなっています。日本人女性の約60人に1人が生涯のうちに、子宮体がんになっています。

このように増えてきている子宮体がんをどのように防げば良いのでしょうか。実は、子宮体がんは、女性ホルモンの影響が大きいということが分かってきています。そのため、初経が早く閉経が遅い場合やホルモンに影響がある薬を服用している場合にリスクが高くなっています。

このページでは、最近の研究成果を踏まえながら、子宮体がんの原因と予防方法について紹介していきます。是非、子宮頸がん予防に役立てて下さい。

目次

子宮体がんとは

そもそも子宮体部とは何か

子宮は、よく知られているように妊娠時に胎児を育てる臓器です。構造は大きく2つに分かれています。1つは、上部にある子宮体部で、左右から卵管につながっています。もう一つは、下部にある子宮頸部で、下で膣につながっています。

子宮体部は多くの部分が筋肉組織で出来ていますが、内側は子宮内膜という粘膜で出来ています。子宮内膜は月経周期に合わせて、増殖と剥離を繰り返します。剥離した粘膜は月経血として腟から排出されます。

子宮体がんの特徴

子宮体がんは子宮内膜から発生します。子宮内膜は月経と関連している細胞・組織で構成されています。そのため、多くの患者さん(約90%)の初期症状は月経ではないときの出血、つまり不正出血でした。このため、初期の自覚症状としては比較的、気づきやすいがんの種類と言えます。子宮体がんは初期のものであれば、予後がとても良好です。しかし、進行してしまったがんでは予後は極めて不良です。がん発生のリスク要因をできるだけ避けるともに、不正出血などの症状などがあれば、婦人科を受診し、確認することが重要です。

子宮体がんの種類

子宮体がんは、大きく2つの種類に分けることができます。これらは、同じ子宮内膜から発生していますが、女性ホルモンに関連して発生するI型子宮体がんと、女性ホルモンとは関係無く発生するⅡ型子宮体がんです。多くの場合、Ⅰ型子宮体がんが発生しています。

子宮体がんの主な原因とリスクファクター

子宮体がんのリスクファクターには、大きく分けて、ホルモン関連、ライフスタイル関連、遺伝性の3種類に分けることができます。ここでは、それらについて説明します。

ホルモン関連のリスクファクター

子宮体がんの多く(約80%)は、Ⅰ型子宮体がんですので、エストロゲンという女性ホルモンが多すぎると発生しやすいことが分かっています。エストロゲンは月経周期をコントロールするホルモンの1つですので、初経が早く閉経が遅い場合にはこのリスクが高くなります。2019年に発表された研究によると、閉経年齢が46.5歳を超える女性では、子宮内膜がんのリスクは閉経年齢とともに増加していることが示されました。

不妊や出産経験がないこともリスクファクターとして挙げられることがあります。この影響は出産経験が無いこと自体ではなく、出産経験が無いことによって女性ホルモンの分泌サイクルが一定であることの影響だと考えられています。

また、タモキシフェンという薬もリスクファクターであろうと考えられています。これは抗エストロゲン薬というカテゴリーで乳がんの治療に用いられる薬です。この治療薬を用いることで子宮体がんのリスクがあがることがわかっています。2005年の報告では、タモキシフェンを5年間使用していると、子宮体がんになるリスクが約3.28倍になっていました。ただし、この影響は主に52歳以上の方で見られていて、若い方においては、あまり影響がなかったようです。乳がん治療の際には、主治医の先生と子宮の検査についてもよく相談することは必要です。

ライフスタイル関連のリスクファクター

ライフスタイルに関連した要因も重要です。子宮体がんのリスクになっていると考えられるのは、メタボリックシンドロームに関連して状態(肥満・糖尿病・高血圧など)がリスクファクターとして挙げられます。

また、食生活に関連して植物性のエストロゲン様物質(大豆イソフラボンなど)の影響も研究されています。しかし、現時点では、明確に子宮体がんを発生させやすい(あるいは、発生させにくい)という関係は明らかになっていません。

遺伝的要因

子宮体がんと関連した病気として、リンチ症候群という遺伝性の病気があります。一般女性では生涯に子宮体がんになる方は約2.7%ですが、リンチ症候群の女性では約60%ととても高率になっています。

子宮体がんになりやすい人の特徴

子宮体がんのリスクファクターは上に記載したとおり、ホルモンの影響を受けています。そのため、発生率は60〜70歳の間にピークに達しますが、少数例では40歳以下でも発生します。特に、リスクファクターを多く持っている場合には、若い場合でも発症がありますので注意が必要です。

子宮体がんになりやすい体質・遺伝性としては、リンチ症候群という遺伝性の病気があると子宮体がんのリスクも高くなっています。多くの場合、家族・親族にリンチ症候群の方がいらっしゃる場合は、ご本人もリンチ症候群に関する検査を受けていることが多いですが、注意が必要です。

肥満と子宮体がんの関連性

肥満と子宮体がんの関係は、明らかになっています。海外の研究では、肥満の影響は大きく、通常の方(BMIが25未満)の場合に比べると、太り気味(BMIが25以上30未満)では約1.5倍、肥満(BMIが30以上)では約2.5倍のリスクがあると報告されています。

日本人を対象とした調査でも、BMIが5増加すると、子宮体がんになるリスクが約1.35倍であるという結果になりました。身長による違いはありませんでしたので、やはり、このような結果を踏まえると、いわゆるメタボリックシンドローム対策が重要です。

予防と早期発見のコツ

予防のために出来ること

初経や閉経のタイミングがいつになるかは、自分自身の意志で変えられるものではありませんので、ホルモン関連のリスクファクターを避けることは、容易ではありません。一方で、ライフスタイル関連のリスクファクターは、避ける事が可能です。肥満・糖尿病・高血圧などのメタボリックシンドロームにならないように生活習慣に気をつけることは、子宮体がん予防になるだけで無く、心臓・血管系の病気の予防にもなります。健やかな生活を送るために、ぜひ小まめに体を動かすなどのメタボリックシンドローム対策を行なってみて下さい。

早期の症状を見逃さない

子宮頸がんと違い、子宮体がんの検診は、検診方法が厚生労働省の指針として定められていません。そのため、一部の市区町村や医療機関でのみ、子宮体部の細胞診という検査を行なっています。子宮体がんには初期の症状として、不正性器出血があります。このような症状がある場合には、婦人科の専門の先生に早めに相談することをお勧めします。

また、家族・親族にリンチ症候群と診断された方がいる場合や乳がん治療としてタモキシフェンを使用している場合にはリスクが高いと考えられています。特に注意が必要です。

公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 | 子宮体がん治療ガイドライン2018年版
国立がん研究センター がん情報サービス | 子宮体がん(子宮内膜がん)
Evidence-Based Clinical Decision Support System| UpToDate | Wolters Kluwer
Age at Menopause and Risk of Developing Endometrial Cancer: A Meta-Analysis – PubMed
Tamoxifen for the prevention of breast cancer: current status of the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project P-1 study – PubMed
乳癌診療ガイドライン2018年版 | BQ15.タモキシフェンは子宮内膜癌(子宮体癌)発症のリスクを増加させるか?
国立研究開発法人 国立がん研究センター | 成人期の体格と子宮体がん罹患との関連について
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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