大腸がんは10人に1人がかかる病気で、さらにはがんで亡くなる人で最も多い原因でもあります。しかし初期の大腸がんは症状がないことがほとんどで、重要なのは大腸がん検診を受けることです。実際大腸がん検診を対象者全員がきちんと受診すれば、大腸がんによって亡くなる確率は今より60-80%減らせるといわれています。ところが、実際に大腸がん検診を受けている人は対象者の40%程度なのです。
ここでは大腸がん検診はどのような検査なのか、大腸がんが疑われたらどんな検査を受けるのか、その費用はどのくらいなのかを紹介します。
目次
大腸がんの主な初期症状
大腸がん固有の症状はない
初期の大腸がんはほとんどが無症状です。がんができれば痛みがでるのではないかと思われるかもしれませんが、大腸で痛みを感じとる神経は最も外側である漿膜にしかないので、もし大腸がんで痛みを感じるとすれば、それはがんが大腸の最も外側である漿膜まで及んでいるということになります。
大腸がんの症状の1つに排便異常があります。これは普通便だった人が下痢になったり、下痢気味だった人が便秘気味になったりするものです。通常便は盲腸から上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸の順に進んでいきますが、最初の盲腸の時点では便は水気が多くシャビシャビですが、大腸を進むうちに水分が吸収されて、下行結腸あたりではドロドロに、S状結腸でやっと固形になります。そのため、どの部位にがんができるかによって症状の出る時期や出やすい症状は異なります。
大腸がんの部位別症状
- 盲腸
- 便の通過にあまり影響を与えないため症状が出にくい。進行すれば右下腹部痛。
- 上行結腸~下行結腸
- 腸がかなり狭くなるまで自覚症状は出にくい。
- S状結腸
- 便が固形になることやS字カーブになっているため、他の部位に比べて早めに症状がでやすい。左下腹部痛のほかに、がんによって便の通りが悪くなれば便秘に、さらに狭くなって固形の便が通過できなくなれば下痢になることもある。
- 直腸
- 肛門に近いので出血すればそのままお尻から血が出てくることがある。直腸は便を貯めておく部位なので、うまく便が貯めれないと下痢になったり、便がつかえると便秘になったりする。また、がんの塊を便と勘違いして便がないにもかかわらず、残便感(便が残っている感じ)がして何度もトイレに行く。
大腸がんの自己診断チェック
自己診断のみで大腸がんかどうかを判断することはできませんが、大腸がんを疑う症状は以下の通りです。当てはまる項目が多い場合は、病院受診をお勧めします。
- 50歳以上である
- 飲酒量が多い
- タバコを吸う
- 肥満がある
- 血縁者に大腸がんになった人がいる
- 時々腹痛がある
- 便に血が混じったことがある
- 最近便の状態が変わった(下痢になった、便秘になった、便が細くなった)
- 残便感がある
- 1年以内に大腸がん検診を受けていない
検診と検査項目
大腸がん検診について
専用容器に異なった2日の便を採取する方法です。この検査は科学的に大腸がんの死亡率を低下させることが証明された方法です。男女ともに40歳以上の方が対象者となっており、1年に1回検診を受けることが推奨されています。
採取された便は血液が混じっているかどうかを検査し、1回でも血液の混入が認められた場合には陽性(異常あり)と判断されます。便を採る際の注意点としては、便の中ではなく表面を採取する必要があります。大腸がんがある場合、便とこすれて出血するため、逆に便の中を採取すると陰性(異常なし)に誤って判断されてしまいます。便の表面をこするように採取しましょう。
できれば検査提出日を含め3日以内の便を採取することが望ましいのですが、普段から便秘がちで毎日便が出ない場合はもう少し前の日に採取しても構いません。ただしその場合は採取した便を冷蔵庫で保管しておきます。採取した便が高温になると血液が変化してしまい、本来陽性(血液が混じっている)であっても、誤って陰性(異常なし)と判断されてしまう可能性があります。
女性の場合、生理中は生理の血液が混じってしまうため生理期間を外して検査を行う必要があります。人間ドックなどではあらかじめ生理と重なりそうだと相談しておけば、別の日に便の検査を行うことが可能です。
人間ドックで行われる大腸がん検診
大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)
人間ドックで行なわれる検査です。大腸カメラは肛門から盲腸の位置まで内視鏡を挿入し、実際に大腸の壁の内側をカメラで見ながらがんやポリープ、炎症などがないかを見ることができます。事前承諾があれば、場合によってはがんの可能性がある部分の組織を一部つまみとって病理検査に提出したり、小さなポリープは切り取る治療まで可能な場合もあります。
検査を行う際には、大腸に便が残っていると観察できない部分が出てきて不十分な検査になってしまうので、しっかりと下剤を服用して大腸の中を空っぽにすることが重要です。そのために数日前からは消化の良いものを食べ、指定された通りに下剤を服用しましょう。検査当日も完全に腸をきれいにするために2リットル近い液体の下剤を飲み、飲んだ液体がそのままお尻から出てくるくらいきれいになったら検査が始まります。
準備には時間がかかりますが、大腸カメラで観察する時間は異常がなければ20分程度です。腸に空気を入れて膨らませて観察するためお腹が張りますが、検査中会話は可能なので、どうしてもつらいときにはそのように申し出ましょう。病院によっては注射を使って半分寝たような状態で検査を受けることもできます。
大腸カメラはそのほかの検査で大腸がんが疑われたときに行う精密検査に該当しており、準備には時間と手間がかかりますが、一番確実な検査方法です。
大腸3DCT(スリーディーシーティー)
比較的最近導入された大腸検査です。大腸カメラと同じように腸の中を下剤できれいにしたあと、肛門に管を入れ、その管から腸を膨らませるためのガスを入れます。大腸全体が膨らんだところで、1回もしくは2回CTを撮って終了です。
撮影した画像を加工して大腸の中のガスの部分の形を取り出して腸の凸凹を再現します。あくまで腸の形を見る検査なので、平らな病変や色が変わるだけの病気は見つけることができません。もし大腸に便が残っていた場合でもこの検査では何か塊がある、ということしかわかりません。
この検査でがんやポリープが疑われた場合は精密検査である大腸カメラを行うことになりますが、異常がなければこの検査で大腸がんはないと判断できるので、お腹の手術をして腸が変形し大腸カメラでは辛い人はひとまず先に大腸3DCTを先に受けてみるのもいいかもしれません。
注腸検査
大腸3DCTでは大腸にガスを入れますが、昔から行われている注腸検査ではバリウムを入れます。レントゲンを見ながら大腸の隅々にバリウムをいきわたらせて大腸の形を見ます。大腸3DCTはCTを使った検査ですが、注腸検査はレントゲンを使った検査で、検査中指示に従って体の向きを変えるなど、動きが必要な検査です。
直腸診
大腸がんの中でも頻度の高い直腸がんの有無を見る検査です。肛門にゼリーを塗って、医師が手袋をつけた指を挿入し、直腸の壁に凸凹がないかを診察します。直腸の奥の方や結腸がんをみることはできません。
大腸がんの疑いから確定診断まで
ファーストステップ(大腸がんの可能性があるかどうかを見る検査)
- 便潜血検査
- 大腸3DCT
- 注腸
- 大腸カメラ
ファーストステップの検診の大腸カメラでは基本観察のみですが、人間ドックや病院で大腸カメラを受けた場合、事前に同意してあれば、病変を見つけたらそのままセカンドステップである生検を行うこともあります。
セカンドステップ(大腸がんかどうか確定診断する検査)
生検(病理検査)
大腸カメラで病変の一部を切り取って(生検)、顕微鏡でがん細胞の有無を判断する検査(病理検査)を行います。ここでがん細胞が認められれば大腸がんと確定します。
サードステップ(大腸がんのひろがり具合を見る検査)
遠隔転移の有無を判断する目的で行われる検査です。
腹部超音波検査(エコー検査)
お腹にゼリーを塗り、機械を当てて検査を行います。
単純/造影CT検査
放射線を用いた検査です。検査部位は状況により頭部、胸部、腹部などに対して行います。場合によっては血管を見やすくするために造影剤を用いた造影CTが行われることもあります。
単純/造影MRI検査
磁気を用いた検査です。検査部位は状況により頭部、胸部、腹部などに対して行います。場合によっては血管を見やすくするために造影剤を用いた造影MRIが行われることもあります。
CTとMRIは見やすい臓器が異なるので、同じ部位にCTとMRI両方の検査を行うこともあります。
PET検査
がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。全身を一度に調べることができます。
大腸3DCT/注腸検査
お腹のどのあたりにがんがあるのかを確認するために、確定診断がついた後から大腸3DCTや注腸検査を行うことがあります。
検診にかかる平均費用
基本ファーストステップの検査は検診で、セカンドステップからは保険診療で検査を受けることができます。
健康診断・人間ドックで受ける検査(目安)
- 便潜血検査 検診 無料~1000円
- 人間ドック 1000円
- 大腸カメラ 人間ドック 20000~30000円
- 大腸3DCT 人間ドック 4000~13000円
- 注腸人間ドック 15000円
*市町村で行われる検診は便潜血検査のみです。
保険適応で受ける検査(目安)
- 生検(病理検査)3割負担 5000~8000円、1割負担 1500~3000円
- 大腸カメラ 3割負担 6000~9000円、1割負担 2000~3000円
- 注腸検査 3割負担 5000円、1割負担 1500円
- 腹部超音波検査(エコー検査)3割負担 4000円、1割負担 1500円
- 単純CT検査(1部位) 3割負担 4000円、1割負担 1500円
- 造影CT検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 単純MRI検査(1部位) 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 造影MRI検査(1部位) 3割負担 16000円、1割負担 5000円
- PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円
大腸がん情報サイト | 大腸がん検診
厚生労働省大臣官房統計情報部 | 市町村のがん検診について
知っておきたいがん検診 | 大腸がん検診の検査方法
大腸がん検診について:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
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参照日:2020年2月