大腸がんはがんで死亡した人の原因で最も多い病気です(2017年)。大腸がんになれば、何かしらの症状が出てくると考えがちですが、実際には無症状で見つかる場合もとても多いのです。幸い、大腸がんの初期は進行がゆっくりであることが多いので、きちんと検診を受けて見つければ早期治療が可能ですが、大腸がんが大きくなると進行も早くなるので注意が必要です。
一般的には40歳過ぎから年齢が上がるにつれ大腸がんの発生は上がります。また、アルコールや肉の摂取が多い人、タバコを吸う人、運動不足や肥満がある人は大腸がんになる危険性が上がるといわれているので要注意です。一部の大腸がんは遺伝が原因の場合もあります。家族に若いうちに大腸がんと診断されたことがいる人は早めに検診や大腸検査を受けるようにしましょう。
目次
大腸がんとは
大腸とは
大腸は栄養素を吸収した後の食べ物のカスから水分を吸収して便を作る臓器です。自分から見てお腹の右下から時計回りにほぼ1周お腹をぐるっと取り囲むように存在しています。右下には虫垂と呼ばれる細長い臓器がぶら下がり、その上に盲腸があります。
腸の内容物はお腹の右下の位置で小腸から大腸にうつり、その後右下から右上に上がります。この部分を上行結腸とよびます。その後右上の肝臓の下で直角に折れ曲がり、お腹の上の部分を右から左に進む部分が横行結腸です。その後、脾臓の近くで直角に曲がりお腹の左側を上から下に進みます。この部分を下行結腸と呼びます。その後大腸はお腹の左下でSの字のカーブを描くため、この部位をS状結腸と呼び、おへその下あたりで直腸につながって、肛門につながります。
大腸がんの分類
部位
大腸がんはがんができた場所によって盲腸がん、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がんに分類されます(大腸がんの部位に虫垂と肛門は含まれません。虫垂がんと肛門がんは大腸がんと性質が異なり、治療方針が違うためです)。
さらに盲腸からS状結腸までをひとまとめにして結腸と呼ぶこともあり、大きく結腸がん(盲腸からS状結腸までのがん)と直腸がんに分けることもあります。
肉眼的分類
肉眼的分類とは、がんを見た目で分類したものです。大腸がんには大きく0~5までの6つの型に分類されています。
0型は表在型ともよばれ、がんが大腸の粘膜層、もしくは粘膜下層までにとどまったものです。0型はさらに盛り上がっている隆起型(Ⅰ型)と平らに近い表面型(Ⅱ型)に分類され、さらに隆起型は茎がある有茎型(Ⅰp型)、茎のない無茎型(Ⅰs型)、その中間型の亜有茎型(Ⅰsp型)があります。
表面型もわずかに盛り上がった表面隆起型(Ⅱa型)、正常部分と同じ高さの表面平坦型(Ⅱb型)、わずかにへこんだ表面陥凹型(Ⅱc型)があります。0型は深くても病変が粘膜下層までなので、早期がんに分類されます。
1~5型は進行がんに分類されるタイプで、大きな塊を作る隆起型(1型)、正常とがんの境目がはっきりしていて塊の真ん中に潰瘍(かいよう)と呼ばれるへこみができている潰瘍限局型(2型)、2型とは異なり正常部分とがんの境界がはっきりしていない潰瘍浸潤(しんじゅん)型(3型)、不規則に壁に沿ってひろがり境界のはっきりしないびまん浸潤型(4型)、そして分類不能の5型となっています。
組織学的分類
病変を顕微鏡で見たときの分類です。大腸がんのほとんどは腺がんであり、腺がんはさらに乳頭がん、高分化型管状腺がん、中分化型管状腺がん、低分化腺がん、粘液がん、印環細胞がんに分類されます。腺がん以外にも扁平上皮がん、腺扁平上皮がんなどがあります。
がんはその細胞の並び方が正常の大腸の組織にとても似ているものを高分化型とよび、だんだん大腸の組織と違いが大きくなるにつれて中分化型、低分化型、未分化型と呼びます。一般的に高分化型は進行が遅く、正常の大腸の組織と違いが大きくなるにつれて悪性度が高く進行が速くなります。
進行度
進行度は大腸がんの病気のひろがり具合を表します。一般的には以下の3つを評価して病期(ステージ)として表現します。ステージは1から4までがあり、一般的に数字が大きくなるにつれ病気のひろがり具合が広いことを表しています。
病変の深さ
大腸の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層が重なっています。
大腸がんは最も内側の粘膜からがんが発生し、進行するとどんどん深いほうへ進みます。ひろがり具合が粘膜下層までのものを早期がん、それ以上ひろがっているものを進行がんといいます。この分類は大腸の壁のどの深さまで病気が及んでいるかを表現したものであり、早期がんであってもリンパ節に転移している可能性はあります。
リンパ節転移
リンパ管は血管と同様に体中に張りめぐらされています。大腸の壁の中でリンパ管にがん細胞が入り込むと、大腸に近いリンパ節から順番に転移していきます。
3.ほかの臓器の転移の有無
肝臓や肺、腹膜などに転移している場合は大腸から遠く離れた部位への転移ということで遠隔(えんかく)転移あり、と表現します。
大腸がんの頻度
2014年にがんと診断された人の中で大腸がんは男性の第3位、女性の第1位、全体では第2位と、とても頻度の高い病気です。また2017年がんで死亡した人の中で大腸がんは男性の第3位(10万人あたり45.0人)、女性の第2位(10万人あたり36.5人)であり、男女合計では1番多い疾患でした。
大腸がんの発生しやすい部位は日本人では最も多いのが直腸で29.6%、次いでS状結腸で29.3%、上行結腸14.9%の順であり、その他の部位は10%未満となっています。
大腸がんの主な原因とリスクファクター
飲酒
アルコールと大腸がんの関連性については複数の調査が行われていますが、それぞれの結果をまとめて再検討した報告では、飲酒により大腸がんになる危険性は上昇する可能性が高いと報告されています。さらに飲酒と大腸がんの関連性が強いと報告されている研究では、アルコールの摂取量が増えれば増えるほど大腸がんになる危険性が増加すると報告されています。
特に日本人は欧米人と比較してアルコールの代謝が遅い人種です。そのため、欧米人では日本酒2合未満の飲酒では結腸がんの発症リスクは増加しないのに対して、日本人では2合未満でも1.4~1.8倍の発症リスクがあると報告されています。日本酒2合以上になると欧米人でも結腸がんの発症リスクは1.2倍になりますが、日本人では2倍以上のリスクになると報告されています。
他の報告では日本人の場合、アルコールが15g増えるごとに大腸がんになる危険性が10%上がると報告されています(アルコール15gは日本酒で2/3合、25度の焼酎で0.4合、ビールで中瓶弱です)。この報告では禁酒をすることにより男性の大腸がんの1/4が予防できると推測されています。
アルコールが大腸がんを引き起こす理由としては推測ですが、アルコールやアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドが葉酸の働きを妨害することで大腸がんが発現しやすくなっていると考えられています。
肥満
肥満かどうかの目安にBMIがあります。BMIは体重(kg)を身長(m)で割り算し、その答えをさらに身長(m)で割ったものであり、日本肥満学会の基準では18.5~25までが正常とされています。
例えば身長が165㎝、体重が82㎏の場合のBMIは82÷1.65÷1.65≒30となり、BMIは約30ということになります。
日本人における大腸がんと肥満を検討した調査では、男性はBMIが27以上で結腸がんの発生リスクが増加しており、BMIが1増えることに危険性が1.03倍になると報告されています。女性でもBMIが増えると結腸がんになる危険性が増加し、BMIが1増えるごとに1.02倍危険性が増えていました。BMIと直腸がんには関係性がみられず、この関係は結腸がんだけであることに注意が必要です。
運動不足
体を動かすことが大腸がんの危険性を減らすことは海外でも多くの報告があり、日本人を対象にした調査でも同様の報告がなされています。運動が大腸がんを予防する理由としては、肥満の予防、炎症の減少、免疫反応の調整などが考えられています。
喫煙
日本人を対象にしたいくつかの調査で、喫煙により20~40%程度大腸がんになる危険性が上がっていたと報告されています。また直腸がんに限ればもっと危険性が高いという報告もあります。大腸がんの前がん病変である大腸腺腫の発生はタバコとの関係性が明らかになっています。
肉
日本人を対象とした複数の調査を統合して解析したところ、赤肉と加工肉の摂取により大腸がん発症の危険性が上がることが報告されました。この関係性は海外でも同じ結果が報告されています。理由として、肉を高温調理したときに作り出される発がん物質、ヘテロサイクリックアミンの関与が考えられています。
大腸がんになりやすい人の特徴
大腸がんになりやすい年齢・性別
大腸がんの患者は40歳代から増え、高齢になるほど発症率が上がります。例えば40-44歳での発症率を1とした場合、65-69歳では発症率はその10倍、男性に限れば75-79歳で発症率は20倍にもなっています。男女比は約4:3で男性に若干多い病気です。
一生涯で大腸がんになる確率は男性で10人に1人、女性で13人に1人といわれ、がんの中ではかなり頻度の高い病気です。
リンチ症候群
リンチ症候群は大腸がんになる人の2~3%を占める遺伝疾患で、この遺伝子を持つ人は1生涯のうち大腸がんを発症する確率が70~80%ととても高いのが特徴です。さらに女性の場合は子宮がんや卵巣がんにもなりやすい遺伝子と言われています。
リンチ症候群は常染色体優性遺伝の疾患です。常染色体とはすべての人間がもつ遺伝子のことで、そこにこの遺伝子異常がおきると優先的に発症するのが優性遺伝の特徴です。そのため、リンチ症候群の人はその親や兄弟、子供にも同じ遺伝子の人がいます(ちなみに、親の1人がリンチ症候群の遺伝子を持っている場合、子供がその遺伝子を引き継ぐ確率は50%です)。
リンチ症候群の診断基準の1つAmsterdamⅡ診断基準では以下の3つのすべてを満たすときにリンチ症候群を疑うとしています。
- 大腸がんまたはリンチ症候群関連がんを有する近親者が3人以上
- 少なくとも2世代にわたる大腸がん
- 50歳未満で診断された大腸がん症例が1例以上
リンチ症候群の確定診断は遺伝子検査です。リンチ症候群と診断された場合は、がんの早期発見のために20歳代から大腸がんの検査を受けるよう勧められています。
家族性大腸ポリポーシス(家族性大腸腺腫症)
家族性大腸ポリポーシスもリンチ症候群と同じく常染色体優性遺伝の疾患です。頻度は8,000~14,000人に1人と言われています。大腸に100個以上のポリープを認めるのが特徴で、半数の患者は15歳までに大腸ポリープを認め、定期的な検査や治療が行われないと40歳までにほとんどの人が大腸がんを発症します。
便秘と大腸がんの関連性
便には様々な化学物質が含まれており、便秘により大腸の中に便がとどまる時間が長ければ長いほど腸の壁に悪影響を与えて大腸がんになりやすいのではないかと考えられていました。このように便秘は大腸がんの原因であると長く疑われていましたが、今のところ、便秘自体が大腸がんの原因であるという確信は得られていません。
もともと大腸がんの症状の1つに便秘があり、進行の遅い大腸がんは発生から診断まで何年もかかることから、便秘の人が大腸がんになったとしても、それが便秘が原因で大腸がんになったのか、大腸がんができたから便秘になったのか区別できなかったからです。
その後日本で約6万人を対象にした調査を行い、最長9年追跡調査をして後に大腸がんと判明した人の排便状態を調査したところ排便の間隔が6日以上空いている人は結腸がんになる危険性は男性で1.9倍、女性で2.5倍という報告もありますが、現時点では便秘が大腸がんの原因であるとは言えません。
予防と早期発見のコツ
食物繊維
海外の調査では、アフリカ人は便の量が多いにもかかわらず、便が腸を通る時間が短く、大腸がんの発生が少ない事に注目し、その理由として摂取する食物繊維の量が多いからだと考えられました。その後日本人を対象とした調査では、食物繊維を多く摂ることは大腸がんの予防にはならないが、食物繊維の摂取が少ないと大腸がんになる危険性が増える可能性があると報告されています。
その他の飲食物
大腸がんの予防になるのではないかと注目され、研究されているのは野菜・魚・コーヒーですが、これまでの調査では明らかに大腸がんの発症を抑える効果は認められていません。
早期発見のコツ
大腸がんの検査としては便潜血検査、大腸画像検査(注腸・大腸3DCT・大腸カメラ)、血液検査などがあります。
便潜血検査は2回便を提出するだけで、身体への負担もなく簡易な検査ですが、検査の正確性は低いのが欠点です。便潜血が陽性であっても大腸がんではない人もたくさんいますし、大腸がんで進行がんであっても便潜血検査では異常なしという人もいます。それでも便潜血検査で1回でも陽性であった人は、陰性(問題なし)であった人と比べると大腸がんが見つかる確率は10倍と報告されており、大腸がんの危険性が高い人を見つける手段としては有用な検査と考えられます。
大腸画像検査は、肛門から造影剤を入れて腸の形態を見る注腸検査、CTを使って腸の形を見る大腸3DCT、カメラで観察する大腸カメラがあります。大腸カメラでは、がんを疑う病変を見つけたときには病変の一部を採取して顕微鏡でがん細胞を探す検査まで行うことが可能です。
血液検査では、腫瘍マーカーや貧血検査などが行われますが、腫瘍マーカーは大腸がんになっても必ず増加するものではなく、またほかの病気でも増えることがあるので、参考にしかなりません。貧血があり、ほかの貧血になる病気が否定的な場合は大腸がんを疑い大腸検査をすることもありますが、こちらも大腸がんに特異的な検査とは言えません。
今のところ大腸がん早期発見のコツとしては、腹痛や排便状態の変化があれば病院で検査を受けること、また無症状であっても定期的に便潜血検査を受けることが勧められます。
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参照日:2020年2月