胆道がんの治療と副作用について

検査結果や診断について、担当医の先生から説明を受けた後に、どのような治療法を選択するのかを考えて行くことになります。胆道がんではどのような治療法があるのでしょうか。ここでは、治療の内容に加えて、メリットとデメリットを紹介します。

胆道がんに限らず、がんの治療は、がんや体の状態に合わせて治療方針を立てる必要があります。医療機関では、担当医の先生が治療方針の大まかな流れを説明されることが多いかと思います。その時に、その選択肢・方針で良いかどうかを一人で悩まずに、担当医の先生に質問したり、家族や周りの方と話し合ったりして下さい。ここでは、その一助になるような情報の紹介をします。また、十分な研究データが集まっていないものの、有効というデータが揃いつつある治療や先進医療など最新の治療についても説明します。

治療が一段落して、病院から自宅に戻った後に注意すべきこともあります。胆道がんでは食事が特に重要ですが、その他の点についても気をつけておくべきことがあります。よく確認していただければと思います。

目次

胆道がんの主な治療法

胆道がんの治療には大きく分けて、切除可能な場合と切除不可能な場合に分かれます。切除可能であれば、手術前処置(胆道ドレナージや門脈塞栓術など)を行い、手術を行います。切除不可能な場合には、抗がん剤(化学療法)や放射線治療を行う方針になります。

治療方針は、がんと体の状態に応じて、担当医の先生が提案をしてくれることが多いですが、最近では、自分の希望を伝えて治療方針を決めたいという方もいらっしゃいます。どのような決め方であれ、患者さん自身が納得し、満足できる方法にすることが重要です。

手術のメリットとデメリット

手術の最大のメリットは、がんの全てを取り切ることで完治が期待できる点です。

胆管がんその広がり具合に応じて、手術で切除する部分が決められます。胆管は肝臓内外で複雑に枝分かれしていることから、手術規模が大きく複雑になってしまいます。胆嚢がんでもがんが近くの臓器に広がっていると、手術で切除する範囲を広くせざるを得ません。更に、近くには肝臓・膵臓といった重要な臓器があるため、(他の手術よりも)手術合併症などのリスクが高いこともデメリットです。

当然、このようなデメリットがあることは医療者には知られています。そのため、医療者は日々、「完治を目指しつつも、合併症などのリスクをいかに減らすか」という課題に取り組み、手術の方法を工夫しています。例えば、肝臓も切除しなければならない場合には、手術前に門脈閉塞術という手技を行い、切除しなくても良い肝臓を大きくしておきます。これによって、手術後に肝不全となってしまうリスクを減らしています。

胆道がん手術後の生活について

胆道がんに限らず、手術後には痛みが続くことがあります。痛みを我慢することは、良いことではありません。痛みを我慢するあまりに、ストレスを増してしまい、治療に悪い影響が出てくることが考えられます。痛みについては、担当医の先生などに伝え、痛みに対する治療の開始も検討して下さい

手術を終えて、退院したとしても、体力は十分に戻っていません。自宅で無理をしない範囲で徐々に活動量や内容を広げていくことが必要です。つらい気持ちを引きずらないように、やりたいことをできる範囲で行うことが良いと考えられています。

但し、食生活には注意が必要です。食べ物の消化・吸収で重要な役割を担っていた胆汁や膵液の量が少なくなっています。消化不良による症状(下痢など)が起りやすい状態ですので、消化に良い物を食べるようにしましょう。可能であれば、退院前に栄養士の方からの栄養指導・栄養相談を受け、どのような食事・食品・調理方法が良いのか確認しておくと良いでしょう。

職場を休んで、がん治療をしている場合、がんの治療が一段落したら、治療を続けながら職場に復帰するという選択肢があります。もちろん、働く意欲や能力があっても、職場の側に治療と仕事の両立を支援する環境が十分に整っていなければ、復帰することは難しいです。しかし、最近は、厚生労働省が「治療を受けながら安心して働ける職場づくり」を推進していますので、以前よりは、環境が整いつつあると言えます。

抗がん剤のメリットとデメリット

手術治療が不可能な胆道がんに対してでも、抗がん剤による治療(化学療法)を行えるというメリットがあります。特に広い範囲であっても効果を発揮することができます。また、これまでの多くの確かな研究データの蓄積から抗がん剤治療によって、(十分な期間では無いかも知れませんが)延命効果があることが分かっています。

しかし、デメリットとしては、副作用があることが挙げられます。また、手術で切除ができない胆道がんの全てで治療可能という訳では無く、全身状態が良く無ければ、抗がん剤治療を行なうことが出来ません。

胆道がんに使用される抗がん剤の種類と主な副作用

ゲムシタビンとシスプラチンを併用するという治療が確立しています。この併用療法においては、強い副作用は余りないと報告されています。そのような中でも比較的多いものとしては、吐きけ、倦怠感、食欲不振、骨髄抑制があります。骨髄抑制はあまり聞き慣れない言葉ですが、骨髄の中で行われている血を作る働きが抑制されるということです。血液検査では必要な細胞の数(白血球の数など)が少なくなりますので、貧血になったりかぜやインフルエンザなどの感染症に罹りやすくなったり、血小板の減少により出血傾向を呈したりします。

放射線のメリットとデメリット

手術が不可能と判断されたけれど、遠隔への転移が無い場合には、がんの進行を抑えたり、痛みを抑えたり、黄疸への治療といった目的で放射線治療が選択される場合があります。

胆管がんでの放射線治療は、放射線のあて方により大きく2つに分かれます。外部照射と腔内照射です。外部照射では、体の外から色々な方向から少しずつ放射線をあて、がんにダメージを与える方法で、腔内照射はチューブを使って放射線が出る針(小線源といいます)をがんの近くに置き、がんにダメージを与える方法です。

いずれの方法でも放射線による副作用が出ないように良く計算して放射線をあてますので、手術ほど身体への影響が少ないというメリットがあります。

デメリットとしては、周囲臓器への影響が挙げられます。放射線は、体の皮膚から近いところ(浅い場所)でエネルギーが強くなり、深い場所に行くほど弱くなっていきます。そのため、深い場所にあるがんを治療するには、色々な方向から放射線を当てる必要があります。結果として、がんの周りの正常な部分の広い範囲にも放射線があたることになってしまい、副作用の原因となります。特に胆管の周囲には、肝臓などの重要な臓器がありますので、十分な量の放射線をあてにくくなっています。

具体的な副作用の症状としては、全身的な症状(倦怠感・食欲不振など)や消化管や血管が放射線によってダメージを受けたため生じる症状(消化管潰瘍や出血など)があります。

胆道がんに対する術前放射線治療の有用性

直腸がんなどでは、手術の前に放射線治療を行う術前放射線治療や、放射線治療に加えて抗がん剤も用いた術前化学放射線治療が行われるようになってきています。しかし、胆道がんでは、このような術前放射線治療が有用かどうかについて、十分な情報の蓄積がなく、有用性の判断ができないような状況です。

その他の治療法

集学的治療

手術、放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)という治療方法をうまくミックスさせる治療方法です。前述のように、直腸がんでは手術の前に化学療法(抗がん剤)、放射線治療を行うという術前化学放射線治療が行われるようになっています。胆道がんでも、手術中または手術後の放射線治療、術後の化学療法、化学放射線療法などの集学的治療が有効ではないかと考えられています。しかしながら、現時点では確かに有効といえるだけの情報が揃っていません。そのため、胆道がんにおいては、標準的な治療方法ではなく、研究的な意味合いがある治療方法となっています。

手術中または手術後の放射線治療(=手術+放射線治療)

胆道がんでは、手術後に調べた検査で、非治癒切除(がんの全ては切除できず、一部残ってしまった状態)という結果になることが多くあります。そのため、手術中または手術後に放射線治療を行って、治療をより完全にするという方法が試みられることがあります。この方法についての調査報告では、その多くが「良くなっている」という結果でしたが、情報の量が少なく、標準的な治療となるには至っていません。

術後補助化学療法(=手術+抗がん剤)

胆道がんでは、手術をうまく行ったあとであっても、比較的早期に再発することが多いのが問題となっています。そのため、手術後に行う補助化学療法に期待が持たれています。しかし、現時点では「確かに術後補助化学療法によって良くなっている(再発しにくくなっている)」とまで言えるほどの状況にはありません。この検証は、現在も行われていますので、将来的には、有用な治療として確立するかもしれません。

化学放射線治療(=抗がん剤+放射線治療)

抗がん剤によってダメージをうけたがん細胞は通常のがん細胞よりも放射線の影響を受けやすいため、抗がん剤と放射線治療の両方を行う「化学放射線治療」が行われることがあります。他のがん(食道がんや膵臓がん等)では、放射線だけの治療よりも抗がん剤を併用した方が良い結果になっています。胆管がんでは、研究データ上は併用した方が有効という報告が多いですが、まだはっきりとはしていません。

陽子線治療

手術での切除ができず、化学療法による治療もできないような肝内胆管がんに対して、陽子線治療という治療方法があります。陽子線は一般の放射線とは異なって、体の深い場所でエネルギーが強くなるという性質が有りますので、一方向から陽子線をあてるだけで済みます。そのため、がんの周辺の正常な部分への影響を最小限に抑えることができます。ただし、医療保険の適応にはなっていませんし、治療ができる医療機関は全国でも限られています。

胆道ドレナージ

胆道ドレナージは胆道がん自体に対する治療ではありませんが、重篤な症状を避けるためには必要な治療です。胆道がんでは、胆汁の通り道である胆道が詰まることによって、黄疸という症状が出てきます。この黄疸は、軽度であれば「結膜(白目)や皮膚が黄色くなる」という症状ですが、重度になると腹水、凝固障害(出血しても止まりにくくなる)、肝性脳症(肝臓の機能低下によって有害物質が血液に溜まってしまい、脳の働きが低下する)などの症状が出てしまいます。こういった症状を避けるために、胆道ドレナージ(体内に貯まってしまった胆汁を体外へ排出する治療)を行います。

胆道がんの再発や転移について(胆道がんが再発・転移した場合の治療方法)

胆道がんでは、治療後に再発することが多くあります。そのため、治療後は血液検査やCTなどの画像検査を受け、再発がないかどうかを良く確認する必要があります。また、がんが元の場所とは違うところから発生する転移も多くあります。転移の場所としては、切除していない胆管・胆のう、近くの臓器(膵臓・肝臓)、リンパ節などです。このような再発・転移に対しては状況に応じた治療方法が選択されます。多くの場合は、手術はできませんし、広い範囲に広がっているため、抗がん剤による治療が選択されます。

エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第2版. 医学図書出版株式会社
臨床・病理 胆道癌取扱い規約. 第6版. 金原出版
厚生労働省 | 先進医療の各技術の概要
Mindsガイドラインライブラリ | 切除不能胆道癌に放射線治療は有用か?
国立がん研究センター がん情報サービス
厚生労働省 | 疾患を抱える従業員(がん患者など)の就業継続
がん研有明病院 | 胆道がん
国立がん研究センター がん情報サービス | 胆道がん(胆管がん[肝内胆管がんを含む]・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん)
参照日:2019年8月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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