胆道がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

肺がん・大腸がんなどと比べると、胆道がんという言葉には聞き覚えが無い方が多いのではないかと思います。そもそも、「胆道」がどこにあって、どのような働きがあるのかについても、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。

少し前になりますが、2015年に大手ゲーム会社の社長や女優の方が胆道がんのために、50歳台で亡くなったことがニュースになりました。また、2012年には大阪の印刷会社で有機溶剤を取り扱っていた方に発生した「職業性胆管がん」が社会問題になりました。

こういったニュース以外では、日常の会話では聞き慣れない胆道がんですが、実は決して少ないわけではありません。2018年の統計では、この年に新たに胆道がんになった人は約22,700人で、がんの中では第13位でした。また、亡くなってしまった方は約18,600人で、がんの中では第6位でした。このように胆道がんは知名度が低い割に、亡くなる方が意外と多くなっています。

ここでは、胆道がんについて、どのような病気なのか、発生する原因やなりやすい人の特徴について最新の研究報告なども交えて、紹介していきます。ぜひ予防や早期発見のための参考にして下さい。

目次

胆道がんとは

一口に胆道がんと言ってもいくつかの種類があります。どのような種類があるかを説明する前に、まず「胆道」がどこにあり、どのような役割があるのかを説明します。

そもそも、「胆道」とは何か

胆道とは、肝臓で作られる胆汁を十二指腸まで運ぶための通り道(管)のことです。

この通り道のうち、肝臓の中を走り、肝臓の外に出るまでの管を肝内胆管と呼び、肝臓を出て十二指腸までの管を肝外胆管と呼びます。十二指腸への出口付近の部分を乳頭部と呼びます。そして、胆汁を一時的にためておく袋が胆嚢です。胆管(肝内・肝外)、胆嚢、乳頭部を合わせて胆道と呼びます。

胆道がんの種類

胆道がんは、胆道の内側の表面をおおっている細胞(胆管細胞と言います)から発生します。発生する場所によって呼び名が異なり、それぞれ「肝内胆管がん」、「肝外胆管がん」、「胆嚢がん」、「乳頭部がん」と呼ばれます(肝内胆管がんと肝外胆管がんの2つを合わせて呼ぶときには単に「胆管がん」と呼びます)。発生場所によって、詳しい検査の方法や治療方法などが異なるため、違う名前がつけられています。

胆道がんの主な原因とリスクファクター

胆道がんの原因やリスクファクターには不明な点も多いのですが、いくつかの候補について研究報告がなされています。ここでは、研究報告の内容から胆道がんのリスクファクターを紹介します。

胆道がんのリスクファクターになっている他の病気

胆管がんのリスクファクターには、「膵・胆管合流異常」という先天性の異常があります。この異常があると、膵臓が作っている膵液と胆汁が逆流を起こし、胆管がダメージを受け続けるために、胆管がんの発生が多いと考えられています。

難病の1つに指定されている「原発性硬化性胆管炎」も胆管がんのリスクファクターとして明らかになっています。この病気でも胆管の炎症が継続するために、胆管へのダメージの蓄積があり、胆管がんの発生が多くなると考えられています。

また、肝炎ウイルスやアフラトキシン(カビ毒の一種)は肝臓がんリスクファクターですが、胆管がんや胆嚢がんにも影響があると考えられています。さらに、肝臓の病気、例えばアルコール性肝疾患、肝硬変なども胆管がんと関係があることが研究の結果としてわかっています。

他にも、メタボリックシンドローム、特に糖尿病・肥満・高脂血症があると胆管がんや胆嚢がんのリスクが高いという報告があります。

胆道がんの原因になりえる生活習慣

喫煙や飲酒は、胆管がんの発生については、関連しているという報告と関連はないという研究の両方が有り、影響ははっきりとしていません。ただし、胆嚢がんへの影響については、喫煙・飲酒のいずれもリスクファクターであると考えられています。

食生活では、唐辛子をたくさん食べたり、甘い飲物をよく飲んだりする方の方が胆管がんや胆嚢がんになりやすいことも分かっています。逆に、果物や豆類を食べることでリスクを下げることが研究報告されています。

胆道がんの原因になりえる業務

2012年にニュースになったように、塗料などの有機溶剤を十分に換気せずに大量に使用し、吸い込んでしまったことによって胆管がん生じたことが明らかになっています。他にも石油、製紙、化学、繊維といった業種で働く方に胆管がんや胆嚢がんが多く見つかっているという調査結果もあります。

乳頭部がんのリスクファクター

ここまで、胆道がんリスクファクターを紹介しましたが、そのひとつである、乳頭部がんのリスクファクターについては十分に信頼できる報告がありません。

胆道がんになりやすい人の特徴

胆道がんは他のがんと同じく、年齢が上がると胆道がんになりやすくなります。特に多い年代は50歳台~70歳台です。男女差を見てみると、胆道がんのうち、胆嚢がんは女性に多く、胆管がんは男性に多いという差があります。

胆嚢がんと関連がある女性の特徴

女性では、どのような方に多く胆嚢がんが発生しているのか、について調べられています。研究によると、生理周期が不規則または長い(29日以上)女性では、そうでない女性と比べて、胆嚢がんのリスクがやや高いようです。また、妊娠時の年齢が低い女性(22歳以下)と比べると、高い女性(27歳以上)では、胆嚢がんのリスクが高いことが調査の結果として報告されています。女性ホルモンが何らかの関与があると考えられていますが、詳細はまだわかっていません。

胆石と胆道がんの関連性

胆石と胆嚢がんの発生について、直接的な因果関係は証明されていません。現時点では、がん予防の目的で特に症状のない胆石を取り出す手術の意義はないと考えられています。

ただし、胆石ができてから期間が長い場合や、胆石が大きい場合、胆石がたくさんある場合については、いくつかの研究の結果から胆嚢がん発生との関係があるのではないかと考えられています。このような場合は、医師から十分な説明を受けた上で取り出すことも検討して下さい。また、胆石が肝臓の中にできてしまう場合(肝内結石症)は、肝内胆管がんのリスクが高いと考えられています。

予防と早期発見のコツ

予防のために日常生活で気を付けること

食生活や運動習慣に気をつけて、メタボリックシンドロームにならないように(または、メタボリックシンドロームの状態から抜け出せるように)すると良いでしょう。特に、唐辛子や甘い飲み物ばかりをとることは避けることが必要です。

タバコやお酒の影響については、胆管がんでは明らかになっていない部分もありますが、胆嚢がんへの影響があるとわかっていますので、喫煙・節酒によってがん発生を予防することが出来ます。特に、他のがんの予防にもなりますので、禁煙・節酒を心がけることをお勧めします。

仕事や趣味で塗料などの有機溶剤を使う場合には、しっかりと換気をすることが必要です。特に仕事で使用する場合には、使用量が多くなりますので防毒マスクをキチンと着用しましょう。

早期発見のコツ

胆道がんは他のがんと比べて、原因やリスクファクターの解明が充分に進んでいないため、早期発見が難しいがんの1つです。胆道がんのはじめの症状は、発熱・腹痛・黄疸(目や皮膚が黄色く染まる状態)、白色便、かゆみ、体重減少などですが、何も症状がないこともあります。

そのため、最初は気づきにくいのですが、血液検査でわかることもあります。胆道がんと関連して異常値になる血液検査の項目に「肝胆道系酵素」があります。具体的には、ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP、ALPという項目です。これらは、職場や地域の健康診断でも測りますが、異常値になるのは色々な原因がありますので、すぐにがんの心配をする必要はありません。ただし、これらの値が高かった時には、放置するのではなく、原因を調べるようにしましょう。

また、胆道がんのリスクファクターと考えられている「膵・胆管合流異常」や「原発性硬化性胆管炎」でも、腹痛・発熱・黄疸・白色便や肝胆道系酵素の異常値などをはじめとした症状や異常がありますので、何か心当たりがあったときに放置するのではなく、原因を調べるようにすることが必要です。

Evidence-Based Clinical Decision Support System| UpToDate | Wolters Kluwer
Epidemiology, pathogenesis, and classification of cholangiocarcinoma
Gallbladder cancer: Epidemiology, risk factors, clinical features, and diagnosis
立研究開発法人 国立がん研究センター | 女性関連因子と胆嚢・胆管がんリスクとの関連について
労働安全衛生総合研究所 | 職業性胆管がんの発生と産業化学物質の管理について
国立がん研究センター 東病院 | 十二指腸乳頭部がん
参照日:2019年8月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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