アブラキサンは、一般名がパクリタキセルという名前の抗がん剤です。
実はアブラキサンが誕生する前より既にパクリタキセルに属する抗がん剤は発売されていましたが、従来品の安全性と有効性を改善し、より患者さんに寄り添った抗がん剤として開発されたのがアブラキサンなのです。
アブラキサンは、世界に先駆け米国で発売がスタートした抗がん剤で、2005年に承認されました。日本では2010年に乳がんの患者さんに使用する事が可能となり、その後も様々ながんにおいて試験が実施され、承認されています。
このページでは、抗がん剤「アブラキサン」に注目して、治療ができるがんの種類やそれぞれの治療効果、また副作用についても詳しく解説していきます。
目次
アブラキサン(一般名:パクリタキセル)とは
商品名アブラキサンは一般名がパクリタキセルという名前で、大鵬薬品というメーカーから販売されている抗がん剤です。
パクリタキセルは水に溶けにくい化合物のため従来品は投与する際に溶剤が必要でしたが、アブラキサンは人血清アルブミンに結合させることにより生理食塩液で懸濁(けんだく:生理食塩液と薬剤を混ぜ合わせ、均一の状態にすること)して投与する事が可能となりました。
水に溶けにくい従来品においては、ポリオキシエチレンヒマシ油や無水エタノールといった添加物を使用して製剤化する必要があり、この添加物に関連する過敏症対策が必須となっていました。つまり過敏症対策としてステロイドやヒスタミンの前投薬が必須であり、またこれらの添加物はアルコールが含まれるため、アルコールにアレルギーをお持ちの患者さんに使用する事ができなかったのです。
アブラキサンは、このような前投薬の処置が不要ですので、薬剤投与時間が30分程度短縮する事が出来るようになりました。また添加物にアルコールが含有されていませんので、アルコールにアレルギーをお持ちの患者さんへの投与も可能となりました。
これらの特徴を持つアブラキサンは、従来品と比べより多くの患者さんに使用する事が出来るようになりました。
アブラキサンが適応となるがんの種類
アブラキサンは、日本においては「乳がん」、「胃がん」、「非小細胞肺がん」、「膵がん」の患者さんの治療に使用する事が出来る抗がん剤です。
乳がん
1日1回体表面積当たり260mgを30分かけて点滴静注されます。その後少なくとも20日休薬し、これを1コースとして投与が繰り返されます。
胃がん
- 1日1回体表面積当たり260mgを30分かけて点滴静注されます。
その後少なくても20日休薬し、これを1コースとして投与が繰り返されます。 - 1日1回体表面積当たり100mgを30分かけて点滴静注されます。
その後少なくても6日休薬し、これを3週間連続して4週目は休薬します。
これを1コースとして投与が繰り返されます。
非小細胞肺がん
1日1回体表面積当たり100mgを.30分かけて点滴静注されます。
その後少なくても6日間休薬し、これを3週間連続します。
これを1コースとして投与が繰り返されます。
膵がん
ゲムシタビンと併用されます。
1日1回体表面積当たり125mgを30分かけて点滴静注されます。
その後少なくても6日間休薬し、3週連続して4週目は休薬します。
これを1コースとして投与が繰り返されます。
使用上の注意
アブラキサンの使用上の注意として、「補助化学療法」としての有効性と安全性は確立していませんので、使用する事が出来ません。
※「補助化学療法」とは、手術治療を行った患者さんにおいて、体内に残っているかもしれない微小ながん細胞を排除する為、また再発してしまう確率を低くするために、手術後一定期間抗がん剤を投与する治療方法です。
アブラキサンに期待される治療効果
がん細胞は、1つの細胞が分裂を繰りかえすことで増殖、進行していきます。アブラキサンはこのがん細胞の分裂を防ぎ、がんの増殖を抑制する効果が期待できる抗がん剤です。そのような作用を持つアブラキサンで、実際に患者さんに対して実施された各がんの臨床試験のデータをご紹介します。
「奏効率」という、標的となるがんが小さくなった患者さんの割合を示した数値や、「生存期間中央値」という対象となった患者さんが生存した期間について解説していきます。
- 乳がん
- 奏効率:55%(比較対象は他のパクリタキセル製剤:25%)
※海外第3相試験 - 胃がん
- 生存期間中央値:11.1ヶ月(比較対象は他のパクリタキセル製剤:10.9ヶ月)
※海外第3相試験 - 非小細胞肺がん
- 奏効率:33%(比較対象は他のパクリタキセル製剤:25%)
※海外第3相試験(カルボプラチンと併用療法) - 膵がん
- 生存期間中央値:8.5ヶ月(比較対象はゲムシタビン単独療法:6.7ヶ月)
※海外第3相試験(ゲムシタビンと併用療法)
主な副作用と発現時期
抗がん剤はがん細胞だけではなく正常細胞にも作用してしまうため、治療を受けるとほとんどの方で副作用があらわれてしまいます。
アブラキサン治療においてもほとんどの方で副作用が確認されていますので、事前にどんな副作用があらわれるのかを知っておくことが重要になります。
主な副作用(胃がんの国内第3相試験244例)
- 末梢神経障害:84.8%
- 好中球減少:81.6%
- 脱毛症:80.7%
- 白血球減少:63.9%
- 食欲減退:38.5%
- 関節通:38.5%
- 筋肉痛:38.5%
これら副作用の発現時期は、投与数日から1ヶ月程度の初期に集中していますが、患者さんによっては遅い時期にあらわれる方、1日目からあらわれる方とさまざまです。アブラキサンを治療中にいつもと違う異変を感じたら、我慢せずに早期に病院に報告する事が重要です。副作用対策を早期に行うことで治療を長く続けることが可能となります。
アブラキサンの安全性と使用上の注意
アブラキサンを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
重要な基本的注意
- アブラキサンは、添加物にヒト血液由来の成分を含んでいますので、感染症伝播を防止する安全対策を行っていますが、伝播のリスクを完全に排除する事ができません。
- アブラキサンは、添加物にヒト血液由来の成分を含んでおり、原料である血漿について各ウィルスが陰性であることが確認されていますが、感染症が発生する可能性は完全に否定できません。
- 骨髄抑制など、重い副作用があらわれる事がありますので、頻繁に血液検査や肝機能検査、腎機能検査を行うことが必要となります。
- 末梢神経障害の副作用が高頻度に確認されていますので、しびれなどの症状があらわれた場合は減量や休薬などの対応が必要になる場合があります。
- 呼吸困難や胸痛、低血圧などの重い過敏反応があらわれる事がありますので、アブラキサン投与中は血圧や脈拍などを観察する事が重要になります。
使用上の注意
- 骨髄抑制がある患者さん:骨髄抑制が増強する可能性があります。
- 肝障害がある患者さん:代謝機能が低下していますので、副作用が強くあらわれてしまう可能性があります。
- 腎障害がある患者さん:腎機能が低下していますので、副作用が強くあらわれてしまう可能性があります。
- 高齢の患者さん:一般的に高齢の方は代謝機能が低下していますので、重い副作用があらわれてしまうことがあります。
- 間質性肺疾患をお持ちの患者さん:間質性肺疾患の症状をさらに悪化させてしまう可能性があります。
抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。これから治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとっても参考になれば幸いです。
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参照日:2019年7月