ゾラデックスが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

ゾラデックスは、がんの増殖や転移などに性ホルモンの影響を受ける「前立腺がん」や「乳がん」に適応を持つ、注射で投与される抗がん剤です。

1回の投与で4週間の効果が持続できる、日本で初めてのドラックデリバリーシステム(※)と呼ばれる製剤で、注射回数を減らすことができるため患者さんに大きなメリットをもたらしてくれる薬剤です。

※ドラックデリバリーシステム:体内のお薬の量を一定に保つようにコントロールされた薬剤です。服用回数を減らすことができるだけではなく薬剤の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑える事も可能です。

このページでは、抗がん剤「ゾラデックス」に注目して、治療ができるがんの種類やそれぞれの治療効果、また副作用についても詳しく解説していきます。

目次

ゾラデックス(商品名:ゴセレリン)とは

商品名ゾラデックスは一般名ゴセレリンという抗がん剤で、イギリスのICI PLC社(現アストラゼネカ社)により開発されました。男性ホルモンや女性ホルモンなどの性ホルモンによる影響を受けるがんに着目し、男性特有の前立腺がんでの開発がスタートし、1986年に英国で承認を受けて販売が開始された薬剤となります。

日本では1991年より輸入承認を受け、1994年に閉経前乳がんでの適応が追加承認されています。

ゾラデックスが適応となるがんの種類

ゾラデックスは、「前立腺がん」や「閉経前乳がん」の患者さんに効果を持つ、お腹の前部分に皮下注射を行い投与される抗がん剤です。

患者さんの状態により投与量は1回1.8mg、3.6mg、10.8mgの何れかより選択され、4週間間隔で投与されます。

用法・用量の注意点

ゾラデックスは無菌製剤(※)となっており、専用の注射器具を用いて投与されます。

※無菌製剤:感染の予防のため、薬剤や器具が滅菌包装されています。使用の直前まで開封することができません。

ゾラデックスに期待される治療効果

ゾラデックスは、抗がん剤の中でもホルモン剤に分類される薬剤です。

前述したとおり、前立腺がんや乳がんに適応を持つ抗がん剤となりますが、前立腺がんや乳がんは男性ホルモンや女性ホルモンの影響を受けて増殖していくことが分かっています。

これらのホルモンは、脳にある下垂体から分泌されているホルモンで、ゾラデックスはこの下垂体に作用して性ホルモンの分泌を抑える薬剤となります。

各適応のがんでの効果を、「病巣改善率」または「奏効率」という標的となるがんが小さくなった患者さんの割合を示した数値で解説していきます。

前立腺がん 病巣改善率:87.9%
4週に1回、12週間投与を行った、82例を対象とした比較臨床試験
閉経前乳がん 奏効率:30.5%
(59例を対象とした国内臨床試験)

なお、各転移巣における奏効率は、軟部組織転移31.3%(10/32例)、骨転移37.0%(10/27例)、内臓転移29.4%(5/17例)です。

主な副作用と発現時期

ゾラデックスはホルモン剤であるため、化学療法剤であらわれるような骨髄障害や脱毛などの重い副作用が少ないことが特徴です。

※骨髄障害とは、白血球や血小板などが新しく体内で作られにくくなってしまうことを言います。特に白血球数が低下すると免疫力が落ちてしまい、感染症を合併しやすくなり命にかかわる場合もありますので、血液検査を行い数値や状態などをしっかり確認する事が重要です

主な副作用

前立腺がん

承認までの調査、及び市販後の使用成績調査を集計した総症例3,872例の解析データです。
3,872例中、副作用が報告されたのは391例(10.10%)でした。

  • 肝臓・胆管系障害2.56%(99/3,872例)

〇閉経前乳がん

承認までの調査、及び市販後の使用成績調査を集計した総症例2,574例の解析データです。
2,574例中、副作用が報告されたのは713例(27.7%)でした。

  • ほてり13.6%(350/2,574例)
  • 肝臓・胆管系障害5.2%(133/2,574例)
  • 代謝・栄養障害5.4%(139/2,574例)

これら副作用の発現時期は、服用期間中にわたって現れる事が確認されており、患者さんによっては遅い時期にあらわれる方、1日目からあらわれる方とさまざまです。

また、注射剤となりますので注射部位が痛む場合がありますが、意識がなくなるなどのショックに至った患者さんも報告がありますので、注射部位に違和感を感じる場合は報告するようにしてください。

これらの主な副作用の他に、ゾラデックスを使用後一時的に骨の痛みが現れる事があります。また、前立腺がんの患者さんでは背中の痛みや尿が出にくくなるなどの症状が現れる事がありますので、使用開始後特に1ヶ月は十分に注意し、これらの症状が現れた場合はすぐに主治医の先生に相談する事が重要です。

ゾラデックスの安全性と使用上の注意

ゾラデックスを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

禁忌(使用できない患者さん)

  • 妊婦の患者さん、または妊娠している可能性のある患者さん
  • 授乳中の患者さん
  • ゾラデックスの成分や類似薬に過敏症を引き起こした経験のある患者さん

重要な基本的注意

  • 脊髄圧迫や尿路閉塞による腎障害を引き起こしている患者さんは、症状が更に悪化する可能性がありますので注意が必要です。
  • ゾラデックスの投与部位周辺から出血し、出血性ショックとなった患者さんが報告されていますので、投与する際は血管損傷の影響が少ない部位を選択するようにします。

また、ワーファリンなどの抗凝固剤などを投与している患者さんは特に出血傾向が高くなる可能性があるため、慎重に投与を検討しなければなりません。

使用上の注意

  • 妊婦、妊娠の可能性のある患者さん:妊婦や妊娠の可能性のある患者さんには投与ができません。動物実験において分娩異常や流産などが報告されています。
  • 授乳中の患者さん:動物実験において乳汁の移行が報告されています。授乳中の患者さんには投与ができませんので、投与を延期するか授乳を中止する必要があります。
  • 小児等の患者さん:安全性が確立していません。

抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。

今回ご紹介したゾラデックスは、抗がん剤の中でも副作用が比較的少なく、何より投与回数が少ない事が特徴である薬剤です。患者さんの立場を考えて工夫された製剤は今後様々な抗がん剤に応用されることが望まれていますが、ゾラデックスはその皮切りとなった製剤で、臨床の現場においても評価を受けています。

これからゾラデックスの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

ゾラデックス添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2499406G3028_1_16/
ゾラデックスインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

ma2

薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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