ベクティビックスは、がん細胞が増殖する原因となる特定の因子を標的とする「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤です。分子標的薬は標的が明確であるため非常に治療効率の良い薬剤であるとされ、がん細胞への効果の高さと副作用の低さが期待できる薬剤です。
ベクティビックスは特に大腸がんにおけるがん細胞に多く現れる抗原(因子)に結合し、がんを縮小させる抗体薬となります。大腸がんの因子に作用する分子標的薬としては、先に発売が開始されているアービタックスという薬剤があり、治療効果はベクティビックスと同等であるとされていますが、この2剤では用法用量が異なります。
ベクティビックスは2週間毎、アービタックスは1週間毎の注射による投与が行われますので、患者さんの状態やライフスタイルによって主治医と相談のもと、より良い治療薬を選択することが可能です。
このページでは「ベクティビックス」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)とは
ベクティビックスは、米国のアムジェン社が開発した薬剤で、日本においては武田薬品社が販売を行っています。米国で2006年に承認されて以降世界78国(2018年9月30日現在)で承認されており、日本においては2010年に承認され発売が開始されています。
ベクティビックスが適応となるがんの種類
ベクティビックスが適応を持つがんは、「KRAS遺伝子野生型の大腸がん」です。
投与方法は、2週間に1回体重あたり6㎎を60分以上かけて点滴にて静脈投与を行い、患者さんの状態に応じて適宜減量されます。ただし、1回投与量として1000㎎を超える場合は90分以上かけて点滴にて静脈投与を行います。
ベクティビックスなどの抗体薬は、注射の際の有害反応である「インフュージョンリアクション」という副作用が報告されています。
軽度のインフュージョンリアクションである場合は投与速度を減速して慎重に投与されますが、重度のインフュージョンリアクションが現れた場合はベクティビックスの投与は中止され、以降の再投与も禁止となります。
ベクティビックスに期待される治療効果
ベクティビックスが標的とする因子は、「EGFR(ヒト上皮細胞増殖因子受容体)」で、がん細胞上にあるEGFRにベクティビックスが結合する事でがん細胞の増殖を抑えるというメカニズムを持っています。
一方で、分子標的治療薬は治療効果が期待できる遺伝子が明確になっていることが多く、ベクティビックスの場合は「RAS遺伝子野生型(遺伝子に変異がないタイプのこと)」に治療効果が高いとされています。そのため、ベクティビックスの投与開始前にRAS遺伝子変異の有無を調べる必要があります。
抗がん剤は、適応となるがん患者さんを対象に臨床試験を実施し、効果が確認されたがんの種類のみが承認されています。
ベクティビックスにおいても日本人の患者さんを対象に臨床試験を実施しており、標的となるがんが治療前と比較して小さくなった患者さんの割合を示した「奏効率」のデータが公表されています。
大腸がんの一次治療を検討した試験において、ベクティビックスと化学療法を併用したRAS遺伝子野生型の患者さん259例の生存期間の中央値は26.0か月という結果が得られています。この試験で比較対象として設定された化学療法単独群では20.2か月で、ベクティビックス併用群で有意な生存期間の延長が証明されています。
主な副作用と発現時期
ベクティビックスなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。
従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。
特にアービタックスが標的とする「EGFR」は皮膚にも多く存在している事が分かっており、「ざ瘡様皮膚炎」という皮膚障害の副作用が多く報告されています。
主な副作用(ベクティビックス販売後、投与された患者さん全員の国内使用成績調査の集計結果です。)
・ざ瘡様皮膚炎:52%(1591/3085例)
・爪囲炎:24%(731/3085例)
・皮膚乾燥:20%(605/3085例)
・低マグネシウム血症:17%(520/3085例)
・口内炎:16%(506/3085例)
これら副作用の発現時期は、投与当日から投与初期にかけて多く報告されていますが、患者さんによっては半年以上経過してから現れる方も確認されています。
患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながらご自身の変化を見逃さないように生活することをおすすめします。
ベクティビックスの安全性と使用上の注意
ベクティビックスを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
重要な基本的注意
・インフュージョンリアクションとして、アナフィラキシー様症状、血管浮腫、気管支痙攣、発熱、悪寒、呼吸困難、低血糖が現れることがありますので、ベクティビックスの投与の際には重度のインフュージョンリアクションに備えて、緊急時に十分な対応が出来るよう準備が必要です。インフュージョンリアクションが現れた場合は、すべての徴候と症状が完全に回復するまで十分な観察が必要となります。
・低マグネシウム血症や低カリウム血症、低カルシウム血症が現れることがありますので、治療開始前や治療中、治療終了後まで電解質検査が行われます。電解質異常が認められた場合は、必要に応じて電解質の補給などがおこなわれます。
使用上の注意
・間質性肺疾患の既往がある患者さん:間質性肺疾患が悪化する可能性がありますので、慎重に投与が行われます。
・妊婦や妊娠している可能性のある患者さん:動物実験において、流産や胎児死亡の頻度が上昇したとの報告がありますので、治療の有益性が危険性を上回る場合のみ、ベクティビックスによる治療が選択されます。
・妊娠する可能性のある患者さん:動物実験において、妊娠率の低下が確認されていますので、ベクティビックス投与中、また投与終了後も最低6か月は適切な避妊を行う必要があります。
・授乳中の患者さん:ベクティビックスの乳汁中移行は検討されていませんが、IgG抗体は乳汁中に移行しますので、ベクティビックスも移行する可能性があります。
・小児の患者さん:小児の患者さんに対する使用経験がないため、安全性が確立していません。
抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。また、主な副作用を理解し事前に対策をすることで重症化を防ぐことにもつながりますので、ご家族や周りの方の協力を仰ぎながらしっかり対策していきましょう。
ベクティビックスの副作用で多い「ざ瘡様皮膚炎」は、患者さんご自身が対策を行うことで、重症度を低くすることが期待できます。皮膚を清潔に保つ事や直射日光を避け外出時には長袖長ズボン、帽子を着用し紫外線の刺激を避ける事が有効です。
これからベクティビックスの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。
患者向医薬品ガイド | ベクティビックス点滴静注100mg
参照日:2019年12月