トレアキシンは、1960年代に旧東ドイツで合成に成功し、血液がんや乳がんの治療に用いられていた歴史ある薬剤です。ドイツ統一後に薬剤の再評価が行われたこともあり日本での承認は遅く、対象となる患者さんやご家族からその発売が待ち望まれていた抗がん剤でした。
このページでは、抗がん剤「トレアキシン」について、治療ができるがんや副作用、使用上の注意点などについて詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
トレアキシン(一般名:ベンダムスチン)とは
トレアキシンはドイツが統一されたタイミングで効能・効果を再評価するとともに、欧州諸国での承認拡大を目的として臨床試験が行われ、希少疾病に該当する低悪性度非ホジキンリンパ腫など一部の血液がんにおいて高い効果を示すことが分かりました。ドイツで2005年に再承認された後、現在に至るまで約90か国において承認されており、日本人に対しても高い効果と安全性が確認され2005年に承認となっています。
トレアキシンが適応となるがんなどの種類
トレアキシンが日本において適応を持つがんは、「低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫」、「マントル細胞リンパ腫」、「慢性リンパ性白血病」で、その他2019年3月に承認された「腫瘍特異的T細胞輸注療法の前処置」として、キムリア(一般名:チサゲンレクルユーセル)という抗がん剤の前処置として過剰な免疫反応を抑制する事を目的として使用されています。
いずれの適応疾患も静脈内注射による治療となり、投与方法は以下となります。
低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫
- 抗CD20抗体薬併用の場合
- 体表面積当たり90mgのトレアキシンを、1日1回1時間かけて点滴により静脈内へ投与します。
2日連続して投与が行われた後26日間休薬し、これを1サイクルとして投与が繰り返されます。 - 単独投与の場合
- 体表面積当たり120mgのトレアキシンを、1日1回1時間かけて点滴により静脈内へ投与します。
2日連続して投与が行われた後19日間休薬し、これを1サイクルとして投与が繰り返されます。
マントル細胞リンパ腫
- 未治療の場合
- リツキシマブ(販売名:リツキサン)と併用して投与されます。
体表面積当たり90mgのトレアキシンを、1日1回1時間かけて点滴により静脈内に投与されます。
2日連続して投与が行われた後26日間休薬し、これを1サイクルとして投与が繰り返されます。 - 再発又は難治性の場合
- 体表面積当たり120mgのトレアキシンを、1日1回1時間かけて点滴により静脈内へ投与されます。
2日連続して投与が行われた後19日間休薬し、これを1サイクルとして投与が繰り返されます。
慢性リンパ性白血病
体表面積当たり100mgのトレアキシンを、1日1回1時間かけて点滴により静脈内へ投与されます。2日連続して投与が行われた後26日間休薬し、これを1サイクルとして投与が繰り返されます。
腫瘍特異的T細胞輸注療法の前処置
キムリアの使用方法に基づき投与されます。
トレアキシンに期待される治療効果
トレアキシンは「アルキル化剤」というグループに属する抗がん剤で、がん細胞のDNAに作用し細胞死に導く効果と、がん細胞が分裂するポイントに作用して増殖を妨げる2つの効果を持っています。
トレアキシンが適応を持つ各がんの効果について、がんに侵されている血液細胞がある程度抑えられている患者さんの割合を示す「完全寛解率」について、国内で実施された臨床試験の各データをご紹介します。
- 未治療の低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫:67.8%
- 未治療のマントル細胞リンパ腫:70.0%
- 再発又は難治性の低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫:65.5%
- 再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫:72.7%
- 慢性リンパ性白血病:20.0%
主な副作用と発現時期
トレアキシンなどの抗がん剤は、がん細胞だけではなく正常細胞にも作用する為副作用が現れます。副作用は抗がん剤治療においてほとんどの方で起こるとされていますので、事前にどのような副作用が現れるかを把握し、ご自身の些細な変化を見逃すことなく直ぐに主治医の先生に相談し適切な処置を受ける事で、治療をより長く続ける事に繋がります。
再発又は難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫の患者さん全78例を対象としたトレアキシンの国内臨床試験において、副作用が報告されたのは78例で100%でした。
主な副作用は以下となります。
主な副作用
- 悪心:85.9%(67/78例)
- 食欲不振:65.4%(51/78例)
- 便秘:47.4%(37/78例)
- 嘔吐:41.0%(32/78例)
- 疲労:39.7%(31/78例)
- 発疹:37.2%(29/78例)
- 発熱:34.6%(27/78例)
- 体重減少:33.3%(26/78例)
- 静脈炎:30.8%(24/78例)
これら副作用の発現時期は、投与当日から投与初期にかけて多く報告されていますが、患者さんによっては投与開始から半年以上経過してから現れる方も確認されています。
患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながらご自身の変化を見逃さないように生活することをおすすめします。
トレアキシンの安全性と使用上の注意
トレアキシンの治療について、注意すべき点をまとめましたので参考にしてください。
治療できない患者さん
- トレアキシンの成分に対して重い過敏症の既往歴がある患者さん
- 妊婦の方、または妊娠の可能性がある患者さん
重要な基本的注意
- トレアキシンを投与する事で骨髄機能が抑制され感染症等の重い副作用が現れる事がありますので、頻回に血液検査が実施されます。
- トレアキシンを投与する事でリンパ球の減少により重い免疫不全が現れる場合がありますので、血液検査など免疫不全の兆候について綿密な検査が行われます。また、B型肝炎ウィルスの再活性化が報告されていますので、肝機能検査や肝炎ウィルスマーカーなどのモニタリングも実施されます。
- トレアキシンの治療が終了した後、別の部位に二次発がんが発生したと報告がありますので、治療終了後であっても経過の観察には十分注意が必要です。
使用上の注意
- 骨髄抑制がある患者さん:骨髄抑制が重くなる可能性があります。
- 感染症を合併している患者さん:骨髄抑制により感染症が重くなる可能性があります。
- 心筋梗塞や重度の不整脈などの心疾患をお持ちの患者さん:心疾患が悪化する可能性があります。
- 肝障害をお持ちの患者さん:副作用が強く現れる可能性があります。
- 腎障害をお持ちの患者さん:副作用が強く現れる可能性があります。
- 高齢の患者さん:一般的に生理機能が低下しているので、状態の観察が必要となります。
- 授乳中の患者さん:授乳中の方への投与は避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止する必要があります。
- 小児の患者さん:使用経験がないため安全性が確立していません。
抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。
トレアキシンは希少疾病である低悪性度非ホジキンリンパ腫などの血液がんに適応を持ち、直近では他の抗がん剤の前処置としての適応が追加され、血液がんの患者さんに今後も貢献していくことが期待されている薬剤です。
一方で副作用の発現率が高く、治療中はご自身の体調の変化などに敏感になるなど、十分な注意が必要な薬剤でもあります。主な副作用として報告が多い悪心や嘔吐、食欲不振などは食事の1回量を減らし1日の回数を増やすこと、匂いなどが気にならない食事内容にする、歯磨きの回数を増やし口腔内を清潔に保つなどの工夫で克服できる場合もありますので、トレアキシンの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとっても参考になれば幸いです。
トレアキシン添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4219405D1021_1_13/
トレアキシンインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/4219405